地衣類の中には、驚いたことに火星の環境でも生命を維持できる可能性の高い種類があるそうです。地衣類は少なくとも2種の生物体から構成される複合体(エコシステム)でもあり、「宇宙生物学(Astrobiology,
Exobiology)」に適した生物素材として注目されているようです。
南極にも生える環境耐性に優れたアカサビゴケ(Xanthoria elegans)を欧州宇宙機関(ESA)がスペインの高山2000m付近で採取し、国際宇宙ステーションで18か月間火星の環境と類似した宇宙環境(地球低軌道高度)に曝した結果、地衣体を形成する緑藻では71%が、子嚢菌では84%が地球に帰還後にも生存していたとのことです1)。
宇宙空間は、真空、強紫外線、強放射線、強温度変化などの極限環境下にあるため、微生物はもちろんその胞子でさえもそれら障害要因を遮るバリアーとしての例えばバイオフィルム等を形成していなければDNAやタンパク質がダメージを受けるとのことです。
欧州宇宙機関が宇宙空間試験に用いたアカサビゴケは橙色ですが、その色素はパリエチンと呼ばれるアントラキノン類で、これまでに紫外線防護機能などが報告されていて、平地より高地に生育している個体でその含有量が高いとのことです。地衣類は一般的に表面の上皮層に紫外線吸収物質などを結晶が生成する程高濃度に蓄積しているため、紫外線や放射線の影響を防護する機能が高い生物であると言えるようです。火星や月における光合成や酸素の生産、有機物の生産などの研究に地衣類が役立つといいな~と思います。
宇宙における生命体の生存や伝搬に関する研究領域(アストロバイオロジー(宇宙生命学))は1997年10月にNASAアストロバイオロジー研究所の創設を機に始まったと言われているようですが、日本でも26機関が参画した「宇宙に漂う種をキャッチする「たんぽぽ計画」」が国際宇宙センターの日本実験棟「きぼう」で2015年5月から行われており、2016年から2018年までの3回、宇宙空間に曝した補集パネルや暴露パネルを回収する予定になっているようです2)。2016年に回収した一号機の補集パネルには0.1mm以上の超高速衝突痕が117個あり、それらの一部の解析結果が報告されていました。
いずれにしても、地衣類の生命力には興味を惹かれます。
参考)
1)Annette Brandt, et
al.: Viability of lichen Xanthoria elegans and its symbiotants after 18months
of space exposure and simulated Mars conditions on the ISS. Int. J.
Astrobiology, 14(3), 4111-425(2015)
2)川岸明彦:生命の起源とパンスペルミア仮設の検証、国際宇宙ステーション暴露部たんぽぽ実験、日本地球化学会年会要旨集(2017年度)
0 件のコメント:
コメントを投稿