2020年3月28日土曜日

新型コロナウイルスの抗体保持者検査が可能     抗体保持者が今後の感染防止に活躍する

追記 
7月19日(日)
 新型コロナの抗体検査が一般化しましたが、数か月で有効性がなくなるとの研究報告が、中国、スペイン、イギリスから出されました。7月時点では、新型コロナの抗体があるので安全とは言い切れない状況のようです。再感染もあるようなので、感染しない、させないことが最も大事です。
 現在感染しているかどうかは、抗体検査ではなく、PCR検査あるいは抗原検査で行わなければならないので注意が必要です。抗体検査の誤用が問題になっています。

4月12日(日
 米国カリフォルニア1000人規模抗体検査が行われとのことです。日本での実施予定はまだのようです。


419日ニュースからの引用
カリフォルニアで抗体検査、予想より遥かに多い罹患率が判明
 「サンタクララ郡の人口は200万人ほどで、郡内の感染者は公式には1000人程度、と発表されていた。しかし抗体検査の結果から、実際には4万8000~8万1000人程度がすでに感染していた、という予測が成り立つ。PCR検査などで陽性が判明した人の5080倍、という驚くべき数字だ」


4月25日(土)  朝日新聞より


 WHOがパンデミックを宣言した伝染病の事例はどの程度あるのでしょうか。スペイン風邪は当然パンデミックだったと思います。今回のCOVID-19も既にパンデミックの宣言が出されましたが、スペイン風邪に匹敵するようなものにならないことを願っています。

新型コロナのことが気になるので、素人ながらネットで様々調べていますが、今回はWHOのデータを基にして36日から327日までの死亡者総数の推移をグラフにしてみました。縦軸を対数にしています。これを見ると日本は他国より死亡者数が少ない状態で推移しています。グラフの形状から類推すると、今後も急激に増加するようには見えません。
死亡者総数の推移
ドイツは見かけ上の死亡率が低いことで話題になっていますが、死亡者総数の推移をみるとグラフの立ち上がりが大きいように見えます。

Our World in Dataにも新型コロナウイルスによる死亡者総数の推移に関するデータが掲載されていました。死亡者総数が5人に達した日からその後60日までの死亡者総数をグラフにするよう工夫していますので、中国は既にグラフの曲線がプラトーに達しています。一方、日本の新型コロナウイルスによる死亡者総数のこれまでの推移は最も低い傾向にあります。
アジアとヨーロッパ諸国の死亡総数の推移
また、感染発症からの回復者のデータがhttps://www.worldometers.infoに掲載されていたので、見かけ上の回復率(回復者数÷感染者数)を計算したところ、中国の92%に次いで、韓国(49%)、イラン(34%)、日本(25%)の順でした。この数値が大きくなれば、感染が終息に近づいていると見ていいのかなと思います。
これまでの感染者総数に対する回復者総数の比率
ということで、日本は新型コロナウウイルスへの感染者と死亡者が低く推移しているので、このまま終息に向かって欲しいと願っています。

ネットでは「日本パラドックス」と呼び、なぜそんなに感染者と死亡者が少なく推移しているのかが話題になっています。
 検査件数が少ないからだろうという見方が大方で、今後急増するのかも知れませんが、それにしても国内で感染者が出てから他国と同様に日数を重ねていますので、何か他の原因があるのでしょうか。あって欲しいと思います。

かなり強引ですが、「もしかしたら新型コロナウイルスに対する抗体保持者数が他国よりも高いのではないか」という期待が浮かびます。

現在、新型コロナウイルスの抗体検査が可能になっているようです。まだ、研究用ですが、これを用いて北海道等の中国からの訪問者の多かった観光地から順に2,000名程度の(無作為検査にしたいところですが)関連交通・ホテル・サービス業等の対応者への依頼検査(予算1億円:検査キット2,000個の代金)を行うことができれば、かなり貴重なデータが得られることになります。
新型コロナウイルスに対する市販の抗体保持者検査試薬

その結果から、陽性者は新型コロナに罹患しないので、新型コロナ予防のための今後の様々な仕事で活躍することも可能になります。

(追記)
抗体保持者が感染しない保証はないとのことです。抗体は感染した履歴を示していることだけは確かで、その抗体が罹患を防ぐかどうかはまだ不明のようです。その説に従えば、全員何回も感染する可能性があるということになります。ワクチンは別で感染を防げるのでしょうか。


抗体陽性者の情報は、外出禁止や都市封鎖等の様々な政策を行う上で、かなり役立つと思います。

東日本大震災で流通が寸断された時、被災地のコンビニ店主が在庫の生活必需品を被災者に配布しました。地域を理解し、いま何が一番必要かを理解できたからです。

この抗体検査で陽性者はあまりいなかったということになるかも知れませんが、有用な情報なので、いま直ぐに実施する価値はあると思っています。

2020年3月26日木曜日

新型コロナウイルス患者のための人口呼吸器やECMOの配備


新型コロナウイルスが猛威を振るっています。イタリアやフランスなどで夜9時に医療関係者にエールを送るための拍手など感謝の表現を自発的に行う行動が広がっていることに胸を打たれます。

 WHOの感染情報(situation report)を毎日見ていて、死者の総数の増加に胸が痛みますが、死亡率をみると国別にだいぶ異なるので、何故違うのだろうかといつも思います。ヨーロッパではドイツの死亡率が特段に低いようです。

新型コロナウイルス感染による死亡率(死亡者数/感染者数)の推移
各国の新型コロナウイルス検査件数の比較
  もちろん無作為に検査すれば見かけの死亡率は減少する訳なので、検査基準や体制の違いも大きなファクターではありますが、もし、人工呼吸器やECMO等の医療設備数の差異が影響しているのであれば、日本も早急に対策をとる必要があると思います。
 日本呼吸療法医学会と日本臨床工学技士会が212日~20日に実施した調査では、全国医療機関における人工呼吸器台数が22,254台、ECMO5,943台ということのようです1)が充分なのでしょうか。ドイツに匹敵する状況でしょうか。

 豪華客船での新型コロナ感染を世界に先駆けて体験していることから、誰でも思いつく対策の一つである人口呼吸器やECMO等の増産と供給・配置が行われているものと信じています。

 新たな感染症への適切な対応策をとるためには「信頼できる発症者情報や症例データ」が不可欠です。国際的な協力体制はできているように思いますが、何故か正しい情報が1月から現在まできちんと積み重ねられているようには感じません。

  新型コロナウイルスとはタイプは異なりますが2009年に発生した新型インフルエンザAH1N1)では、幼児や児童グループと高齢者グループでの重症化率や死亡率が高かったようです2)。また、鳥インフルエンザには若年者が発症しやすいタイプと高齢者が発症しやすいタイプがあるようです。今回の新型コロナでは圧倒的に高齢者に重症患者や死亡者が多いように報道されてきました。でも最近、若い方々の死亡例も報告されるようになり、孫を持つ身として不安が強くなってきました。
2009年のインフルエンザによる年齢階級別重症化率と死亡率など
 さらに、インフルエンザ(例えば鳥インフルエンザAH5N1))3)による肺組織でのサイトカインストーム(自己免疫疾患)は、免疫活性の高く若い方々に生じやすいとのことでしたが、今回の新型コロナウイルスは胸腺が退縮し免疫機能の低下した高齢者にサイトカインストームを生じさせる4)とのことのようです。

免疫のことは良く理解してないのですが、少し調べてみたところ、胸腺を経由せずに増加する恒常性増殖型のCXCR3ナイーブ型キラー(CD8)T細胞が高齢者に多くなるとのことなので、このT細胞を刺激する因子を新型コロナウイルスが獲得しているかも知れないなどとの妄想を抱いていました。ランセットの論文や大阪大学による研究5)では、インターロイキン6阻害剤が有効かも知れないと記載していました。
 なお米国は、3月26日にIL6阻害薬のTocilizumabについてCOVID 19による肺炎へのフェーズⅢ臨床研究を許可したようです6)。


    ワクチンの開発の状況がCell誌で紹介7)されていますが、そのワクチンの利用が可能になるまでに1年以上を要するのであれば、それ以外の医薬品の利用の道を早急に開いて欲しいと願っています。

    また、ワクチンによって形成された免疫が長く保てるようだといいのですが、利権が開発の妨げにならないよう、将来に向けたWHO手腕を期待しています。

 インフルエンザウイルスでもコロナウイルスでも、発症後の致死率は圧倒的に高齢者が高い訳ですが、今回の新型コロナの感染力が毎年発生するインフルエンザウイルス以上であり、ワクチンの開発が困難である場合は、安全な集団免疫の獲得方法を模索する必要にせまられるのではないかと感じています。そうならないことを願いますが。

参考)
1)一般社団法人日本呼吸医療法学会など:人工呼吸器およびECMO装置の取り扱い台数等に関する緊急調査報告、202039
2)厚労省インフルエンザ対策推進本部:新型インフルエンザの発生動向 20091225
3)WHO: WHOが確認した鳥インフルエンザA(H5N1)人感染症例 Weekly Epidemiological Record 83,46(pp413-420)
) PuJa Mehta et al. : COVID-19consider cytokine storm syndromes and immunosuppression, The Lancet March 16 2020 (https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30628-0)
5)田中敏郎:サイトカインストームに対するIL-6阻害療法の可能性、日本臨床免疫学会誌、38(4)p291b(ワークショップWS4-2)、2015
6)Hannah Slater:FDA  Approves Phase Ⅲ Clinical Trial of Tocilizumab for COVID-19 Pneumonia, https://www.cancernetwork.com/news/fda-approves-phase-iii-clinical-trial-tocilizumab-covid-19-pneumonia
)Fatima Amanat et al.: SARS-CoV-2 vaccines:status report. DOI: 10.1016/j.immuni.2020.03.007

2020年3月20日金曜日

ホトケノザとヒメオドリコソウ(ヒメオドリコソウの生存戦略)


3月18日に牛久沼周辺を散歩しました。梅の花は終わりツバキの花が満開になり、あちこちに落下した花が絨毯のように広がっていました。


この時期に目立つ草花はオオイヌノフグリやホトケノザ、ヒメオドリコソウなどです。オオイヌノフグリについては「口内炎を予防するかも」ということで前回のブログ(3月14日)に書きました。

でも、やはりホトケノザとヒメオドリコソウをめぐる生存競争には興味があります。以前両者の生存競争についてもブログに書きました(2018年5月24日)が、今回の散歩で、本当に後から日本にやってきたヒメオドリコソウがドンドン増え、ホトケノザの生息範囲がせばめられているのではないかとの印象を持ちました。
開放花が多く咲いているホトケノザ
海外では両者とも食用植物に分類されていて、ホトケノザの花を引っこ抜いて花弁の根元を舐めると甘いとのことです。どちらかというとヒメオドリコソウの若芽の方が好まれサラダとして食べることもあるようですが、両者とも苦いとのことです。

今回散歩した牛久城跡の草原はヒメオドリコソウの独り舞台でした。群落に分け入ってホトケノザをしばらく探しましたが、見つけることができませんでした。
ヒメオドリコソウが優占種となったエリア
その後、牛久沼まで歩きながらヒメオドリコソウ群落の中に生えているホトケノザを探したとこり、ようやく何株か見つけましたが、ヒメオドリコソウ群落の中に生えたホトケノザはひ弱でした。明らかに開放花より閉鎖花のほうが多いように思いました。
ホトケノザの閉鎖花と開放花蕾の区別をしっかり行うには、経時的に観察する必要があるようですので、掲載した写真を修正しました。

ヒメオドリコソウ群落の中のホトケノザ
(開放花と閉鎖花)
修正後

 ヒメオドリコソウがホトケノザに対して、アリを魅了するエライオソームの小さな閉鎖花を咲かせるように仕向け、アリによるホトケノザの種の分散を妨げ、そのことにより、ヒメオドリコソウが優占種になることが科学的に証明できたらすごいです。ヒメオドリコソウが分泌する閉鎖花誘導物質が水溶性らしいとのことですので、解明を応援しています1,2)

花を咲かせる作用を持つフロリゲンが解明され農業分野などでその活用が期待されていますが、他家受粉の開放花と自家受粉の閉鎖花を決定づける要因が分かれば、種子生産への応用が期待できるかも知れません。

ホトケノザは英語にすると「Budda’s seat」のように思いますが、当然これは日本での呼び名で、英名は「henbit」ですが「hen’s bite」がその由来のようです。ニワトリがついばむ草という訳です。その他「deadnettle:棘のないイラクサ」とも呼ばれ、こちらがほとんどの国で使用されているようです。でも一方、イタリアでは「erba ruota: 車輪草」、スペインでは「conejitos:ウサギ草」と呼ばれているようなので、世界各国でどのような名前になっているのかが分かると、地域の雰囲気を知る手がかりになるのではないかと思っています。

誰もが目にしながら、ほぼ気に留めない雑草の呼び名には、その地域の人々の普段の生活感がにじみ出ているのかも知れません。また、過ぎ去った歴史の名残があるのかもしれないと思ったりします。雑草と人との関わりは面白いです。

参考)
1)      Yasuhiro Sato, et al.: Dominant Occurrence of Cleistogamous Flowers of Lamium amplexicaule in relation to the Nearby Presence of an Alien Congener I., purpureum (Lamiaceae). ISRN Ecology, 2013,
2)高倉 耕一:自家受粉依存を高める在来種:外来種からの繁殖干渉と遺伝子多様性低下検証、科研費研究成果報告書、平成29年7月31日

2020年3月19日木曜日

3月の宝篋山登山とスミレ、東城寺コース


3月16日(月)は快晴だったので筑波山系の宝篋山に一人で登りました。宝篋山小田駐車場はほぼ満車状態でしたが運よく駐車でき、10時38分に出発し昼前(11時30分)に頂上に着いてしまいました。頂上には女性グループや家族グループなどたくさんの登山者が休憩していて皆楽しそうでした。机や椅子の空きがない程でした。
宝篋山頂上付近の林道は表筑波スカイラインにつながる

もしかしてそろそろ蝶々など昆虫と出会えるかも知れないとの期待を持って登山しましたが、出会えませんでした。速足になったのはそのせいです。帰りは時間に余裕があったので、初めてのことですが車が通れる道(宝篋山頂上にある電波塔管理のための車道:林道)を歩いて下山してみようと思いました。

林道は常願寺コースにつながっているかも知れないとの勝手な憶測で進みましたが、全く別方面に伸びており表筑波スカイライン道路につながっていました。やむなく引き返したところ、標識はないものの下山用の登山道路が見つかりましたので、その道を通って下山しました。後で調べたところこの登山道路は「東城寺コース」と呼ぶようです。土浦側の登山コースとのことです。
宝篋山登山道「東城寺コース」で下山
下山してしまったので、東城寺付近から一路小田駐車場を目指し携帯のナビを頼りにテクテク歩きました。途中に東城寺の立派な門がありました。そこから、県道53号に出て塚田陶管工場の採石場を通過し、射撃場を経て、ようやく小田駐車場にたどり着きました。採石場にも少し興味はありましたので付近を通ることが出来、貴重な経験になりました。

登山を含めトータルで14㎞のウォーキングでした。よく調べてから動き回るようにしようと反省しました。

今回の登山では、スミレの花が目を和ませてくれました。きれいな花が道端に咲いていました。スミレの分類は難しいので間違っている可能性がありますが、一応名前を付けてみました。
マルバスミレ
マルバスミレ
タチツボスミレ
タチツボスミレ
 15時頃に牛久に戻りました。

2020年3月14日土曜日

オオイヌノフグリの意外な効能(口唇ヘルペス予防)


3月12日と9日は天気が良かったので、牛久沼周辺を散歩しました。三日月橋のあやめ苑では10名を超えるボランティアの方々が両日とも除草作業や花畑の畝造り、堆肥の鋤き込み作業などをしていました。ご苦労様です。

ラジオで、東京の桜の開花宣言がそろそろ行われそうだと言っています。
新型コロナが逸早く下火になることを願っています。フランス、デンマーク、スイス、アイルランド、ノルウェー、米国のオハイオ州など3州では16日から公立学校が休校になるとのことです。

散歩道にはオオイヌノフグリ(Veronica persica:ペルシャのベロニカ)がたくさん咲いていて目を引きます。
オオイヌノフグリの花(Veronica persica:ペルシャのベロニカ)
可憐な花ですが、その花弁の青色がとても鮮やかです。青色色素はアントシアニンのデルフィニジン誘導体であることが解明されており、デルフィニジンにグルコース2分子とそれらに結合したパラクマル酸が2分子、さらにマロン酸1分子が結合しているとのことです1)。面白いことに、オシベの葯の青色色素は花弁の青色色素からマロン酸が離脱した化合物だったとのことです。花弁や葯には、このデルフィニジン誘導体とともに、アピゲニン-7-グルクロニドが共存し、青色を一層強めて(バソクロミック効果:長波長側にシフトさせる作用)いるとのことです。
オオイヌノフグリの花と葯の青色色素
オオイヌノフグリなどクワガタソウ属に分類されるVeronica(ベロニカ:聖者の名前)類はトルコなどでは民間薬(folk medicine)として利用されている種類があるとのことで、イヌノフグリ(veronica polita)とオオイヌノフグリ(Veronica persica)もその仲間なようです2。初めて知りました。複数のフェニールプロパノイドやイリドイド化合物の化学構造の解析が行われ、その結果が報告されていました2)。食用にもなるとのことです。

また、驚いたことにオオイヌノフグリの80%メタノール抽出液には口唇ヘルペスなどの単純ヘルペス(HSV1,HSV2)に対する抗ウイルス作用がありそうだということが培養細胞を用いた試験によって明らかにされていました3)。抗ヘルペス薬であるアシクロビルとの相乗作用もあるようです。
オオイヌノフグリの口唇ヘルペス感染阻止作用
春一番に咲き最も身近に感じていたオオイヌノフグリが、他国では民間薬として利用され、さらに時々悩まされる口唇ヘルペスの予防に役立つ可能性があることが分かりました。これまで親近感は持っていましたが、雑草の一つとしてのみ眺めていました。苦いそうですが疲れた時、ヘルペスが出そうな時に茶として飲んで見たいと思いました。辞典等での確認はとれてませんが「フレンチ紅茶:French black tea」とも呼ばれていると記載している方もおられました。

参考)
1)M. Mori et al., Anthocyanin Components and Mechanism for Color Development in Blue Veronica Flowers., Biosci. Biotechnol. Biochem. 73(10), 2329-2331(2009)
2)U.Sebnem Harput et al.: Phenylpropanoid and Iridoid Glycoside from Veronica persica., Chem. Pharm. Bull., 50(6), 867-871(2002)
3)Javad Sharifi-Rad et al.: Antiviral activity of Veronica persica Poir. On herpes virus infection., Cell.Mol. Biol., 64(8), 11-17(2018)

2020年3月11日水曜日

コロナウイルスの感染防止にはプロテアーゼ(TMPRSS2)活性阻害が有効?


新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るっています。特にイタリアやスペイン、フランスなどヨーロッパでの感染者数が急激に増加しています。

中国での増加数は確実に減少しており、新型コロナに対する有効な対策が見つかっているのであれば、学術情報に加えて、逸早く世界に向けて発信して欲しいと思っています。特に、既存医薬品の投与試験が中国で多数実施されたとのことですので、(Nature biotechnology news, https://www.nature.com/articles/d41587-020-00003-1)その結果に関する情報は貴重です1)。

インターネットの文献検索サイトでコロナウイルスに関する研究を検索したところ、2月以降に研究報告がたくさん出されており、しかもそのほとんどが全文公開されていました。非常時に情報を公開して難局に立ち向かう「ワンチーム」の体制が阿吽の呼吸で学術分野に出来ているように感じました。

 ウイルスに関する知識はあまりありませんので、コロナウイルスの感染機構について調べてみました。その結果、これまでのSARSMERSに関する研究から、新型コロナもそれらのウイルスと同様に、宿主(ヒト)細胞にウイルスが結合するレセプター(ACE2)と共にタンパク質分解酵素(TMPRSS2)が存在する必要があるとのことです2~4)
SARS-CoVの感染機構(TMPRSS2が必要)



 コロナウイルスの受容体になる宿主のACE2の近くにTMPRESS2が存在しないと感染が成立せず、TMPPSS2の発現量が多いと感染しやすいとも言われているようです。TMPRSS2はアンドロゲンの影響を受け、前立腺がん細胞で増加しているとの報告がありますので、杞憂かもしれませんが欧米での感染率と重篤化が気になります。

 コロナウイルスの感染防止にはTMPRSS2の活性阻害が有効であるとする論文がドイツの研究者によってCell誌に掲載されました。嬉しいことに、日本でプロテアーゼ阻害薬として認可されている医薬品「カモスタットメシル酸塩」が感染防止に有効であるとの報告でした5)。日本で開発認可されているインフルエンザ薬の「ファビビラビル(アビガン)」(RNAポリメラーゼ活性阻害物質)にも期待が集まっているので早急な治験が待たれます。
カモスタットメシル酸塩
 TMPRSS2は宿主側のプロテアーゼですが、コロナウイルスの遺伝子から生じるプロテアーゼ(3CLpro)は宿主細胞内でのウイルス増殖の際に必要な酵素であるため、この酵素の阻害剤についてはSARSの酵素を用いた研究がたくさん行われ、フラボノイドなど天然成分も注目されていました6)。例えば、アマニ油の原料となるアマニ種子に存在するヘルバセチンなどが試験管レベルでの研究報告ですが阻害作用が強かったとのことです。
ヘルバセチン
 これらの研究は、ヒトでの有効性が証明されるまで時間がかかると思いますが、注目してみていきたいと思っています。
 
後日追加記載(4月10日)
 東京大学医科学研究所がカモスタットの1/10濃度で有効性を示すナファモスタットを用いて臨床試験を実施するようです



参考)
1)Guangdi Li. et al.: The cerapeutic option for the 2019 novel coronavirus(2019 nCoV), Nature review, Drugsidcovery, Suppplementary information.
)田口 文広ら:コロナウイルスの細胞侵入機構、ウイルス、59(2)215-2222009
)竹田 誠:プロテアーゼ依存性ウイルスは病原性発現機構とTMPRSS2, ウイルス、69(1)61-722019
Graham Simmons, et al.: Proteolytic activation of the SARS-coronavirus spike protein: Cutting enzymes at the cutting edge of antiviral research. Antiviral Res., 100(3), 605-614(2013)
Markus Hoffmann, et al.: SARS-CoV-2 Cell Entry Depends ACE2 and TMPRESS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor., Cell, 181, 1-10(2020)
Seri Jo, et al.: Inhibition of SARS-CoV 3CL protease by flavonoids. J. Enz. Inhibi. Med. Chem., 35(1), 145-151(2020)

2020年3月7日土曜日

新型コロナウイルスへの感染や症状の差異はなぜ生じるのか


3月7日10時付のWHO報告によると新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数は1日で3735人増え101927人になったとのことです。その大半は発生国である中国に負うところが大きいのですが、日本のみならず、韓国やイタリア、イラン、ドイツ、フランス、スペイン、英国、米国などの各国で増加し始めており世界的な脅威になっています。
3月6日と3月7日の主な国の患者数(WHO)
 COVID-19200211月に中国で発生が報告されたSARSCoVとかなり類似したウイルスのようなので、当時SARSのワクチンや治療薬が開発されていれば、今回それらが役に立っていたかもしれません。でも、SARS20037月に終息宣言が出され、感染期間が短かったこともあり、残念ながら有効性の高いワクチンや治療薬は開発されていなかったようです。

しかしながら、これらSARSMERSを契機としたコロナウイスルに関するこれまでの研究の進展によって、ヒト細胞側のリセプター(ACE2)に結合するSARS-CoVのスパイクタンパク質の構造に関する研究がかなり進んでいたこともあり、今回のCOVID-19(新型コロナ)のスパイクタンパク質の構造は逸早く解明され1)、ウイルスの侵入メカニズムも分かってきているようです。ワクチンや医薬品等の早急な開発が期待されます。


SARSと新型コロナを比較してみると新型コロナの方が致死率は1/3以下と低くなっていますが、でもやはり高齢者は22%と高いようです。また、女性より男性の致死率が高く、心疾患や糖尿病、高血圧などの疾患を持つ方々の致死率も高くなるなどの特徴があるようです。さらに、感染しても発病しない方々も多いとのことなので、何故そのような差異が現れるのかについて関心がもたれています。


こうした感染率や発症の有無等に関連する要因を解明するための研究も活発に行われていますが、これまでに肺組織でのACE2の発現量はアジア系とヨーロッパ系で差異が無いこと、あるいは年齢や性差にも差が無いとする報告2)や、アジア系の人々にはACE2の対立遺伝子数が欧米系の人々より多いなどとする報告3)が出されていて、錯綜感があり精査が必要になっています。唯一差があったのは喫煙者と非喫煙者で、喫煙者のACE2発現量が高くなり、新型コロナへの感染が高まるのではないかと言われているようです。

生活習慣としての食事等の影響も分かれば良いのですが、そのためには実験用のモデルとなる動物の開発が必要になると思われます。

参考)
1)Daniel Wrapp et al.: Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation. Science abb 2507 (2020)
2)Guoshuai Cai : Tabacco-use disparity in gene expression of ACE2,  the receptor of 2019-nCov., medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101 /2020.02.05.20020107
3)Yanan Cao et al.: Comparative genetic analysis of the novel coronavirus (2019-nCoV/SARS-CoV2)receptor ACE2 in different populations., Cell Discovery, 6:11(2020)


2020年3月5日木曜日

新型コロナウイルスとアンジオテンシン変換酵素阻害成分


 WHOによってCOVID-19と命名されたコロナウイルス(CoV)の感染拡大により日本では3月2日(月)から春休みまで小学校や中学校、高校の臨時休校が要請されています。自治体によって対応が異なるようですが牛久市では完全実施しています。

ちなみに、コロナウイルスの名称はウイルスの表面に王冠(コロナ)のような突起がたくさんついてことに因んでいるとのことです。この突起物はスパイクたんぱく質(Spike protein)とも呼ばれており、人の細胞の表面に結合するドメインを持っているようです。

新型コロナウイルス(COVID-19)

COVID-192003年に発生したサーズ(SARSCoV)と同様に野生のコウモリ起源であり、人の細胞表面に露出している膜酵素のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2:エース2)をリセプターとして細胞に感染することなど類似性が高いことからSARSCoV2SARSの兄弟)とも呼ばれているようです。ACE2に結合する両ウイルスのスパイクタンパク質の相同性は76.5%とのことですが、COVID-19の方が結合力は強いそうです1)

日本で許可されている特定保健用食品(トクホ)の中に「血圧が高めの方に適する食品」があります。これらトクホの多くはアンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害作用を持つ成分(主にぺプチド)を含有している食品ですが、今回話題になっているのはACEではなくてACE2の方です。

ACEACE2は共に血圧の調節に関与する膜酵素であり、ACEはアンジオテンシンⅠのC末端から2つのアミノ酸を切断してアンジオテンシンⅡを生成し、生じたアンジオテンシンⅡが血管を収縮させてことによって血圧を上昇させる訳ですが、ACE2はアンジオテンシンⅠとⅡのC末端から1つのアミノ酸を切断する作用を持つことから、むしろこのアンジオテンシンⅡの体内濃度を減少させることになります2)

アンジオテンシンⅡはそのレセプター(AT-1)を介して、マクロファージからの炎症性サイトカインの発現を高める作用を示すことも分かっているとのことですので2)SARS-CoVCOVID-19SARS-CoV2)の感染は、ACE2の活性低下や発現量の抑制を通じたアンジオテンシンⅡ濃度の上昇をもたらし、飛沫感染部位に近い肺組織やACE2が多く発現している腎臓や腸管などでの炎症増悪をもたらしているものと考えられているようです。

COVID-19の感染に伴う体内のアンジオテンシンⅡ濃度の上昇が炎症憎悪の要因であるとすれば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用を持つ食品成分や食品(トクホ)は炎症増悪を抑制する作用を持つのでしょうか。また、降圧剤のアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(バルサルタン等)も炎症憎悪抑制をもたらすように思えますので、研究3)の進展が待たれます。

COVD-19のスパイクタンパク質のヒトACE2への結合を阻害し、感染を成立させない物質が早く見つかればいいのですが。

追加:その後、COVID 19に対するACE阻害剤やACEレセプター阻害剤(ARB)の影響に関する論議が継続されています4)。3月21日

参考)
1)Zhang H. et al.: Angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) as a SARS-CoV2 receptor molecular mechanisms and potential therapeutic target., Intensive Care Med., https://doi.org/10.1007/s00134-020-05985-9
2)久場 敬司: アンジオテンシン変換酵素2の消化管アミノ酸吸収能とウイルス腸炎における病態生理学的意義の解析、三島海雲記念財団報告誌
3)Gurwitz D. : Angiotensin receptor blockers as tentative SARS-CoV2 therapeutics., Drug. Dev. Res., 2020 Mar4 Doi:10.1002/ddr. 21656.

4)G. Alexander:COVID 19:social distancing, ACE2 reeptors, protease inhibitors and beyond?    Int. J. Clini. Pract.,  Mar. 18 (2020).  doi: 10.1111/IJCP.13503