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2019年7月3日水曜日

アリと共生するアブラムシは20-30%?

牛久沼のほとりで白くて大きなキスゲフクレアブラムシを見て、その大きさに驚きましたが、調べて見たところナミテントウの幼虫はこのアブラムシを餌として利用することが出来るようです1)。でも、このアブラムシだけで飼育すると成虫になりにくいようなので、あまり良い餌とは言えず天敵であるテントウムシによる防除は無理なようです。餌が異なると成虫になりにくくなる現象があることをを初めて知りました。
キスゲフクレアブラムシ
 このキスゲフクレアブラムシの秋から春にかけての二次寄生植物は木性のミツバウツギやゴンズイとのことです。キスゲ類が秋に枯れた後は、これらの樹木に寄生して冬を乗り切る訳です。従ってキスゲ類の被害を軽減するためには、これらの樹木を遠ざけておけば良いということになります。
 もっとも、キスゲフクレアブラムシにも羽が生えますし、またもしアリと共生関係にあれば、二次寄生植物からの拡散は容易なのかもしれません。
 アリとアブラムシの共生は有名で誰でも知っていることですが、調べてみるとアリと共生するアブラムシの種類は全体の20-30%程度とのことでした。日本産好蟻性動物仮目録2)には72種類のアブラムシが掲載されていますが、その中にキスゲフクレアブラムシはありませんでした。これまで、ほとんどのアブラムシはアリと共生しているものと思っていましたので意外です。


 もっとも、一般的に「アブラムシ類の90%程度は単一食性(monophagous)である」と言われているものの、実際はアリと共生関係にあるモモアカアブラムシやワタアブラムシ等が親しみのある多くの作物や花卉類、果樹類に寄生できる広食性であるため、目にふれるチャンスが多く、「アブラムシはアリと共生する生物(アリマキ)」として認知されやすいのだと感じました。
 これまで撮ったアブラムシの写真を探したところ、ヨモギに寄生しているアブラムシ(ヨモギヒゲナガアブラムシ)の写真には、2種類のアリが写っていました。日本産好蟻性動物仮目録に記載された情報によれば、小さいほうがトビイロケアリで大きい方はクロヤマアリということになります。
ヨモギヒゲナガアブラムシと共生アリ
 イタドリに寄生したアブラムシの写真にもアリが写っていました。但し、イタドリに寄生する最も一般的なアブラムシであるイタドリオマルアブラムシの目印になっている黒い斑点が背中にありませんので、その容姿から判断するとギシギシアブラムシかも知れません。
イタドリに寄生したアブラムシとその共生アリ

 この他に、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの写真も撮っていましたが、これにはアリは写っていませんでした。日本好蟻性動物仮目録にも掲載されていません。
セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ
 アブラムシの写真はピントが合いにくいのであまり撮っていませんでしたが、これから頑張って撮ろうと思いました。アリとアブラムシの関係は相利共生系だと言われていますが、その中身はなかなか面白そうです。

参考)
1)Tsunashi Kano et al. : Influence of aphid-host plant pairs on the survivorship and development of the multicolored Asian ladybird beetle: implications for the management of vegetation in rural landscapes. Ecol. Res., published online 21 July 2010.
2)寺山 守、丸山 宗利:日本好蟻性動物仮目録、ARI、No.30、1~53(2007)

2017年7月15日土曜日

アブラムシはハーブの香が苦手

アブラムシにはスペシャリストとジェネラリストがあるようです。スペシャリストは、ネギアブラムシのように玉ねぎやニラなどネギ属の植物だけを餌として摂取するタイプで、ネギやニラなどの匂いに反応して集まる習性をもつようです。ジェネラリストは、モモアカアブラムシやワタアブラムシがその代表ですが広範囲の植物を餌として生活できます。

このうちスペシャリストのアブラムシは、香に反応するのでこれまで多くのことが分かっています。例えば、ハーブのローズマリーオイルはネギアブラムシに忌避効果を示し、その主成分は1,8-cineole(シネオール)という物質です。さらに、このシネオールに類似した香成分のα-ピネンやd,l-カンファーもネギアブラムシに対して忌避作用を持つことが明らかになりました。シネオールは、ヨモギやセージ、ローリエ、バジル等にも含まれているということなので、ネギのコンパニオンプラントとして、これらを植えるといいのかも知れません。


でも、ジェネラリストに対してはどのようにすれば良いのでしょうか。ジェネラリストも香りについては好き嫌いがあるようで、モモアカアブラムシの試験では、ハーブ類のロズマリーオイルやチモールオイル、ペパーミントオイル、ラベンダーオイル、オニオンオイルは、忌避効果を持つことが明らかになっています。特に、ショーガオイルの効果が強いようですが、ただ揮発性が弱いので圃場では揮発性の高いローズマリーオイルの方が高い効果を示しています。

一方、アブラムシの多くは冬の寒い時期に、樹木や永年性雑草などの一次寄主に越冬卵を生む必要があるため、秋にはそれらの植物への定着を目指し、ジェネラリストであっても、一次寄主のためのスペシャリストに変身するような仕組みも組み込まれているいるようです。あらゆる能力を駆使してそこにたどり着くのですが、さらに受精卵を生むため、雌は性フェロモンも放出するようになるとのことなので、あの小さな体に、実に多くの機能を持ち、それを全て発揮し世代を絶やさず生きているなだと実感します。すごいです。

2017年7月13日木曜日

アブラムシとの共存

アブラムシは、世界の作物生産量の2%に当たる被害をもたらしていると言われています。また、作物への昆虫によるウイルス媒介の50%以上がアブラムシによるものであるとされ、その被害は吸汁による直接的な被害よりも大きいとも言われています。例えば、ナス科やウリ科、アブラナ科、バラ科など100種あまりの植物を食害する広食性のモモアカアブラムシも多くの病原性ウイルスを伝搬するとのことです。

 このように、アブラムシは農業に大きな損失を与えることから、その防除は必須です。しかし、生態系における基幹産業者として、多くの野生動物の餌となり生物の多様性を支えているのも事実であり、生態系を維持する上で重要な位置を占めているともいえます。この相反する二面的な課題を、どのように解決すればよいのだろうか。

ミネソタ大学の研究によると、大豆の生産に対するアブラムシの食害は、大豆1本あたりアブラムシが250匹を超えると経済損失が大きくなるので、これを超えないレベルに維持するのが望ましいとされていますす1) 。これは、総合的病害虫管理(IPM)の視点も考慮した農業経営者のためのコストとベネフィット計算による数値だと思われますが、生産性向上と生態系保全の両立を目指す考え方でもあると思っています。

農地におけるアブラムシの密度を減らすためには、アブラムシの習性を良く知る必要があります。アブラムシは、①寄主を探し、②たどり着いた植物が寄主かどうかの判断を行い、③師管に口針を刺し、④師管液の味見をし、⑤適性であれば摂取行動を行い、子孫を増やします。従って、この5段階のどこかに不都合があれば、増殖できないことになります。

これまでの研究によると、寄主を探す手段がアブラムシの食性によって異なることが分かっているようです。すなわち、狭い範囲の植物のみを餌とする狭食性アブラムシは、寄主から放出される特異な香りを手掛かりにし、また色や形、サイズなども確認して定着すると言われています。一方、広い範囲の植物をアタックする広食性アブラムシのモモアカアブラムシやワタアブラムシなどは、寄主の香りに反応せず、むしろ色に強く反応するとの結果が得られているようです2)。広食性アブラムシは、寄主の色に惹かれ、形状やサイズなど視覚に頼った探索をするが、本来の寄主でない植物にたどり着いた場合でも、子孫を生み短い期間留まることもあるようです。


このことから、狭食性アブラムシの場合は香りによる撹乱が有効で、広食性アブラムシでは、光を反射するマルチやテープなどの視覚を攪乱する方法が有効のようで、こちらは既にグリーンハウスでの利用が進められています。また、広食性であってもローズマリーオイルに対する忌避作用が認められるなどの結果も得られていることから、各種アブラムシの寄主への定着メカニズムの解明が、さらに詳しく検討されることでしょう。

 化学農薬を極力減らしながら、経済的な打撃があまりない程度のアブラムシと共存することを模索して欲しいと思っていますが、ウイルス伝搬は脅威かも知れません。

参考
1) https://www.extension.umn.edu/agriculture/soybean/pest/soybean-aphid/
2) M. Hori:Appl. Entomol. Zool.、 34、293 (1999).

2017年7月11日火曜日

アブラムシの逆襲と色の不思議

 肉食性のカメムシであるサシガメ科の中には、死骸を体にまとうゾンビ虫がいることを知ってびっくりしました1)が、「一寸の虫にも五分の魂」という気概に溢れ、天敵に一撃を加える虫もいるようです。それは、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシで、ここでは名前が長すぎるのでアブラムシS(Solidago)と呼びます。

アブラムシSの成虫は、ナナホシテントウの幼虫に攻撃されると、お尻の左右にはえている角のような器官である角状管から赤色の液体を分泌し、この液体が第4齢になる前のテントウムシの小さな幼虫頭部に付着すると、脱皮障害が生じ、約2/3が蛹になる前に死んでしまうそうです2)。もっとも4齢で成虫直前の幼虫は、このアブラムシを食べた後にすぐに吐き出し難を逃れとのことです。

アブラムシSは見事な赤色で、皆揃って頭を地面に向けがっしりとセイタカアワダチソウの茎にしがみついています。そこに、カメラを近づけると一斉に尻を振り威嚇します。差別するつもりはないのですが、大和撫子にはとても見えません。


アブラムシに存在する脂溶性色素類はアフィン(aphins)というグループ名で呼ばれており、キノンAを基本構造として持っています。その内、アブラムシSを彩る赤色色素は、キノンAが2分子結合したタイプで、ウロ・ロイコナピンA1(uroleuconaphin A1)と命名されています。この化合物はアブラムシ体内で合成され、体重の0.35%に達するとのことです3)。驚くことに、この赤色色素は昆虫病原菌に対する抗菌剤としての役割も果たしているようで、多様な生理活性が検討されています。

アブラムシの体色に興味を持っている科学者は、世界的に少なからずおられ、これまでに、体色を変える共生菌も発見されています4)。エンドウヒゲナガアブラムシでは、ある共生菌が体内に住むと、体色が赤色から緑色に代わるとのことです。緑色に変わると外敵に見つけられる確率が減り、例えばテントウムシによる捕食率が下がるとの報告があります。共生菌によって、アブラムシ体内のカロテノイド代謝が変わることが体色変化のメカニズムのようで、アブラムシの体色には、キノンA系のポリフェノールと、カロテノイドが関与しているようです。ちなみに、どちらも抗酸化性色素です。

テントウムシの幼虫に赤色の液体を吹きかけるアブラムシの角状管は、警報フェロモンを分泌する器官としても知られ、モモアカアブラムシの場合はテルペノイドに属する揮発性化合物のβ-ファルネセンが分泌されます。これにより、仲間に危険を知らせるわけです。アブラムシの世界を覗き、食べる側と食べられる側が互いに進化を続ける生態系の不思議な側面を、ほんの少しだけですが知ることができました。

参考)
1)http://www.dailymail.co.uk/news/article-2138325/Assassin-bug-
     carries-dead-ants-ward-enemies.html
2)Barry Adema, et al. : Entomological Science, 19(4), 410(2016)
3)Horikawa M. et al. : Tetrahedron, 62 (38), 9072(2006)
4)Tsuchida T. et al. : Science, 330, 1102(2010)

2017年6月28日水曜日

オオイヌノフグリとジャガイモのアブラムシ


ジャガイモ畑でアブラムシを探すのを忘れていました。と言うより、ジャガイモの葉をくまなく見て昆虫を探しましたので、アブラムシによる被害があれば気づいたように思います。普通は、葉の裏などを注意深く見れば、ワタアブラムシやジャガイモヒゲナガアブラムシがすぐ見つかるようなので、注意力が足りなかったのかも知れません。

テントウムシは成虫が越冬することで有名ですが、アブラムシはどうでしょうか。調べてみると宇都宮周辺では受精卵での越冬と成虫での越冬が確認されているようです1)。岩手は宇都宮よりも寒いので、宇都宮周辺よりは受精卵での越冬が多いものと思います。

では、受精卵はどこで冬を越すのでしょうか。アブラムシの受精卵は、樹木や灌木の枝や多年生の雑草の葉、茎などで確認されていますが、受精卵が孵化して幼虫になった際には、餌となる師管液が必要になります。そこで、寄主の樹木や雑草の芽が出る時期に合わせて受精卵は孵化し、幼虫は新芽に移動するようです。もっとも、過酷な環境なので卵の孵化率は悪いようです。

ジャガイモを寄主とするワタアブラムシの場合は、ムクゲの枝や雑草のアカネの株本に受精卵があり、そこで孵化するようです。一方、雌成虫はイヌノフグリ類やオオバコ、ペンペン草など多年生雑草の古葉や基部に潜み冬を越し、3月新芽が出始めると増殖を開始し、4月には有翅虫が出現してヤブガラシやカラスノエンドウ、ボケ、ハキダメギクなどに移動し、畑では5月頃からジャガイモが植えられるので、そこに飛来し増殖することになります。

タバコ葉にもアブラムシによる被害があり、そのためタバコ畑へのアブラムシ飛来急増期の予測式が、2002年にJT葉タバコ研究所によって、岡山と盛岡を例として作成されています。実際は、アブラムシが運ぶキュウリモザイクウイルス病が恐れられていて、その多発の予防に向けた取り組みだったようです。盛岡では、厳寒期を過ぎたとき(3月1日)から日平均気温を足し、760℃に達する日がアブラムシの飛来急増期になるということです。でも2002年以降、気候変動が激しいので予測式は修正されているかも知れません。いずれにしても、平均気温と雨量が関係するそうです。

東北の春は、オオイヌノフグリの花とともに始まりますので、心待ちにしていましたが、イヌノフグリ類がワタアブラムシの寄主として利用され、そこを拠点としてワタアブラムシがジャガイモ畑などに広まっていくとは思ってもいませんでした。ヤブガラシは見かけるたびに除去したいと思い、オオバコやペンペン草は将に雑草そのものという意識で見ていましたが、それぞれが自然の中では様々な側面を持っているようで、驚かされます。 

アブラムシの害を防ぐには、春早くこれらの雑草を取り去ることが大事ということになります。でも、アブラムシや雑草は人間活動の妨げになることから、悪者扱いされているだけで、自然の中ではそれぞれ等しく尊い存在です。

 参考
1)稲泉 三丸:日本応動昆虫誌、14(1)、29(1970)

2017年6月27日火曜日

テントウムシの足跡物質とアブラムシ寄生蜂


テントウムシの足跡があると、アブラムシに卵を産み付ける寄生蜂が寄り付かなくなるそうです。足跡物質(footprint)が残るからです。

昆虫は重力に耐え、垂直に立った窓や天井の板などの平滑面を自由に歩くことができます。なぜなのだろうか。この疑問を解明する研究は1970年頃から始まっています。テントウムシについても、1988年にオオニジュウヤホシテントウを用いた研究が行われ、他の昆虫と同様、足の付節に密集する毛に分泌される黄色の液が重要な役割を果たしていることが明らかなっています。実際に、オオニジュウヤホシテントウがガラス面を歩くと、微細な油滴が千鳥格子状に並んで残されるそうです。

もっとも、昆虫が草の上で滑らずいられるそのメカニズムについては、足跡物質のみならず、強く付着できる足の構造に対する関心も高く、電子顕微鏡を用いた詳細な観察が行われ、米国に生息するあるカメノコハムシ(palmetto tortoise beetle )は、その特徴的な足の構造によって体重の60倍の重さにも耐えられることが分かっています。この領域では、壁を駆け登るスパイダーマンが有名ですが、既に壁をよじ登るロボットも試作されており、昆虫の機能を活用した実用機ももうすぐ登場するものと期待しています。

テントウムシの足跡物質については、ナナホシテントウ、ニジュウヤホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウなど3種のテントウムシについて、明らかになっています1)。面白いことに、テントウムシの足跡物質は炭素数が30前後の炭化水素が主要成分であり、テントウムシの種類ごとに含有する成分組成がかなり異なっているようです。さらに、肉食性であるナナホシテントウだけは他の2種と異なり、足跡物質に蝋(ワックス)が含まれていないとのことです。足跡物質を分析するとテントウムシの種類が分りそうです。でも、何故そこまで違う必要があるのだろうか。

30個の炭素が連なった炭化水素の融点は65.8℃です。その温度以下では個体状なので、それらはワセリンや潤滑油などとして用いられるそうです。テントウムシがガラス面を歩くと、ワセリン状の足跡物質がガラス面に付着し、テントウムシは落下を免れる訳です。足跡物質は、体表にも僅かに存在し、体表からの水の蒸発を防ぐ役割もしているものと考えられています。 

 最初に述べたとおり、この足跡物質をアブラムシの寄生蜂であるアブラバチの雌が認識し、アブラムシへの無駄な産卵を避ける訳です。賢いです。既に生物農薬として市販されているチャバラアブラコバチ(住友テクノサービス)、エルビアブラバチ(コパート社製)ともう一種を加えた3種のアブラバチ類と、ナナホシテントウ、フタホシテントウの2種のテントウムシを用いた実験では、チャバラアブラコバチとエルビアブラバチがナナホシテントウの足跡物質(C27とC25の炭化水素)を強く避け、もう一種はナナホシテントウの足跡物質に加えて、フタホシテントウの足跡物質であるトリコサン(C23の炭化水素)にも反応したということです2)。

テントウムシは、その種類によって足元に分泌する足跡物質が明瞭に異なります。またアブラムシ寄生蜂も、種によって足跡物質への反応が異なります。このようなきめ細かな違いが、自然の中で何故必要なのかが気になります。限りなく多様化が進むのでしょうか。

参考
1)尾崎 晶子:日本応動昆誌、40(1)、47(1996)
2)Nakashima Y., et al. : J. Chem. Ecol., 32(2), 1989(2006)

2017年6月22日木曜日

基幹産業者としてのアブラムシの秘密はブフネラ菌


  肉食性のテントウムシに加え、クサカゲロウ、オサムシ、アザミウマ、カマキリから鳥類のシジュウカラやキジまでアブラムシを餌としています。この他にも多くの動物の餌になることから、アブラムシは生態系における基幹産業者であると言われることもあります。基幹産業者とは、一次消費者すなわち植食性であって、特に大量に生息し、直接・間接に多くの動物の食料(餌)になり、生物群集の中で重要な位置を占めるものと認識されています。

すなわち、アブラムシは「生態系を支える重要な食料(餌)」であり、例えば1ヘクタールの小麦畑には約10億匹のアブラムシが生息でき、その重さは牛1頭に相当し、インゲン豆畑では約40億匹になり、象1頭に相当するそうです。アブラムシの増殖ポテンシャルはすさまじく、春早くからエンドウヒゲナガアブラムシ1匹の子孫が、もしも夏の終わりまですべて生き残ったと仮定すると、地球の表面50cmを覆うほどになると計算されるそうです。

アブラムシは、地球上のほとんどの植物に寄生し増殖する訳ですが、その栄養補給には秘密があるようです。アブラムシは、植物の葉や茎の師管液を餌として吸引します。ところが師管液には5-15%のスクロースと0.1-4.5%の限られた種類のアミノ酸があるだけで、生存のために必要な栄養素が足りないと言われています。不思議なことに、アブラムシの消化管と卵巣小管内には菌細胞があって、その中にブフネラ(Buchnera aphidicola)と呼ばれる共生菌が住み、その菌が必須アミノ酸などを合成し、アブラムシに提供しているとのことです。

ブフネラ菌が共生していないとアブラムシは生きていけないので、卵細胞にブフネラ菌を挿入するため卵巣にも菌細胞がある訳です。ブフネラ菌は1億5千万年~2億年前にアブラムシの体内に寄生し、今では独立して生きるために必要な多くの遺伝子を失ってしまっているとのことです。植物細胞の葉緑体や動物細胞のミトコンドリアなども、このような共生菌が宿主細胞と同化し、細胞顆粒へと進化を遂げたものであると言われています。


ブフネラ菌という名称は動物の共生に関する先駆的研究者であるドイツライプチッヒ大学のPaul Buchner教授に因んで名づけられたようです。ブフナー教授は1978年に92歳で他界されましたが、この分野の多くの若手研究者に影響を与えたことで知られ、動物の共生に関する彼の著書は今でもよく引用されています。天皇陛下もご臨席されて行われる国際生物学賞を2010年(第26回)を受章されたテキサス大学のナンシー・モラーン(Nancy Moran)教授 は、「昆虫の共生微生物」の研究者で、2017年のMolecular Ecology Prize (分子生態学賞)も受賞され、若いころにミシガン大学の図書館で、ブフナー教授の本に出合った思い出を国際生物学賞の受賞者講演で披露されています。

共生菌については、このアブラムシに関する研究成果を端緒として、アリやハエ、バッタ、コナカイガラムシなどで次々に見出されたようです。ブフナー教授の後を継いで、切磋琢磨に余念のない若手研究者にエールを送りたいと思いました。
 
参考

1)P. Buchner: "Endosymbiosis of Animals with Plant Microorganisms," Interscience, New York, 1965.
2)Munson, M.A., Baumann, P., and Kinsey M.G., Buchnera gen. nov. and Buchnera aphidicola sp. nov., a Taxon Consisting of the Mycetocyte-Associated, Primary Endosymbionts of Aphids. Int J Syst Bacteriol, 41(4): p. 566 (1991)

2017年6月17日土曜日

テントウムシを探しました

 ジャガイモを植えた郷里の畑でテントウムシダマシを発見したことから、テントウムシのことを知りたいとの想いで、「タイトルの記載場所も分からない」(後でタイトルを記入しました)、ワードで書いた文章をペーストすると「文字の大きさが不揃いに表示される」など、適正なアップの仕方を学習することもなく、ブログの練習という甘い気持ちで少し書いてきました。まだまだ色々解決できない状況ですが、勉強しながらブログを続けたいと思っています。

 ジャガイモを介してテントウムシに出会い、ネットで検索したところ、その人気の凄さに驚きました。多くの方が様々なテントウムシの奇麗な写真を公開し解説していますので、私も今日は近くの笊川を散歩しながら、テントウムシを探しました。笊川の両岸は散歩道になっているので6㎞ほど歩いてテントウムシを探しましたが、見つかったのはナナホシテントウ1匹でした。アブラムシが密集した花穂の葉にポツンととまっていました。餌となるアブラムシはノダイオウの他に、イタドリ、ギシギシ、セイタカアワダチソウなどの若芽に密集っしており、かなりの確率で見つかりました。アブラムシを見つける度にテントウムシを探しましたが、見つかりません。いつもは、速足で歩くと1時間程度で終わる散歩が1時間半を超えてしまいました。

 テントウムシの季節はこれからなのでしょうか。でも30℃を超えると夏季休眠もするとのことなので、町の中を流れる川のほとりではテントウムシを発見するのは大変なのかなと思っています。土曜日の散歩はこれからも続けるので、テントウムシ探しも続けます。

でも、残念ながら私のデジカメは近距離のピントを合わせるのが難しいので、やや不鮮明ですが今日撮ったナナホシテントウとアブラムシの写真をアップします。

 

2017年6月14日水曜日

テントウムシによるワイン汚染とその回避

米国ではいま、テントウムシによるワインの汚染(ladybug taint)が問題になっています。頭にMあるいはWの黒文字が見えるハーレクインテントウ(Harlequin Ladybug or Ladybird)が増え、これがワイン畑に集まりワイン汚染を引き起こすようです。このテントウムシはアジア在来種で、日本ではナミテントウと呼ばれており、以前は欧米には分布していなかったようです。ヨーロッパ在来種はナナホシテントウで、これも今は米国に渡っています。

米国は1916年にアブラムシの天敵としてナミテントウを日本と韓国から導入し、グリーンハウスのアブラムシ対策に使用したとされています。ヨーロッパでも1975年頃からこのテントウムシをグリーンハウスで使用し始めたようです。その後、米国では1960年から1990年にかけて、農務省がピーカンナッツやリンゴの生物農薬としてナミテントウの有用性を検討していたため、多くの地域での利用が行われようになったようです。これに伴い、現在ではナミテントウが米国全土で繁殖し、1990年頃からは民家室内への不快な侵入者として嫌われる存在になりました。ナミテントウの蔓延は農業利用が原因ではなく、日本からの貨物船に潜り込んだものが繁殖したという説を唱えている者もいるようですが、いずれにしても、最近はブドウ園への飛来によるワイン汚染が恐れられるようになっています。

不思議なことに、アジア在来種のナミテントウと欧州在来種のナナホシテントウの体液には4種の香り物質(メトキシピラジン類)が存在し、そのうちの3種はブドウの有用な香り物質でもあることが分かっています。それなら問題ないでしょうということになりますが、これらのテントウムシはブドウの収穫期に房に集まり、それが混入すると香りが強くなり過ぎて、異臭として感じるとのことです。このワインのテントウムシ汚染は、2001年に北部アメリカのワインメーカーから初めて報告され、ワイン畑にテントウムシが多くみられるようになった時期と重なっています。実際にテントウムシを添加して白ワインを製造すると、ピーナッツやアスパラガス、ピーマン様の香が感じられ、フルーツや花様の香りが薄くなるとのことです。

このLadybugs taintへの対策として、2015に異臭を除去できるプラスチックポリマーが見出されていますので、大きな被害が生じないことを願っています。

参考)

1)Pickering GJ, et al.: Am.J.Enol Vitic., 55(2), 153 (2004)

2)Pickering GJ, et al.: Int. J. Food Sci. Technol.41(1), 77 (2006)