2017年12月25日月曜日

スベリンの高生産植物による炭酸ガス低減


クリスマスの今朝は太陽が出ていたものの風がとても強く、午後には雲が出てかなり寒くなりました。空港では欠航便が、各地には大雪警報が出ているようです。

本年度の米国科学技術ブレークスルー賞に京都大学の森教授が「小胞体ストレス」に関する研究成果を評価されて選ばれたとのニュースが123日に流れました。この賞はグーグル創業者やアップル会長、ツイッター創業者などの著名人が創設したもので、その即時性とともに受賞者一人一人がノーベル賞の2倍以上の賞金をもらえるとのことで話題になっています。

森教授はノーベル賞候補として、ここ数年名前が良く出ていましたので順当な受章のように思いましたが、同時にカリフォルニア州サンディエゴにあるソーク研究所の植物学者ジョアン・チョリー(Joanne Chory)も受賞されており、初めてその業績を知りました。

彼女の受賞は「光による成長を制御するステロイドホルモンのブラシノライドに関する研究」によるもののようです。彼女の研究成果は、光エネルギーを効率的に化学エネルギーとして蓄積する仕組みとしての植物の細胞構造や生育・成長の最適化を可能にするものであるとして評価されたようです。

Chory博士はこれまでの研究成果を活用して地球上の炭酸ガスの低減に役立つ植物の開発にも尽力されており、地球環境中で分解しにくい植物成分のスベリン(Suberin)生産植物の開発を行っているようです1)。「環境にやさしい生分解性プラスチック」の対極にある「環境を改善する植物由来の非分解性炭素固定物質」の高効率生産植物の開発です。


スベリンは植物が生産する蝋(ワックス)で、コルクの主要な構成成分の一つのようです。スベリンは水をはじく性質を持ち、植物の表皮付近に存在し水分の組織への侵入を防ぐ役割や病原菌に対する物理的な障壁としての役割を持っていると言われています。スベリンの化学構造はかなり複雑で、芳香族化合物の重合体部分と脂肪族化合物の重合体部分が結合した高分子構造になっています。


Choryらは、樹木でのコルク生産に関する研究に加え根にスベリンを高度に蓄積するひよこ豆を開発しており、「世界の農地の約5%にスベリン高生産性植物を栽培すれば、地球上に放出される炭酸ガスの50%を排除することが可能になる」との試算結果を得ているそうです。

スベリンと言えば「ジャガイモ」が頭に浮かびます。ジャガイモ塊茎の表皮にはスベリンが多いことで有名です2)。特に表皮が病原菌に攻撃されると防御物質であるスベリン合成が盛んになるようです。ジャガイモそうか病によって陥没した穴の周りは硬いスベリンで盛り上がっています。

大豆など豆類の根もスベリンを蓄積するとのことで、Chory博士は「ひよこ豆」の根に注目したというわけです。それにしても、地球温暖化の元凶であると言われている炭酸ガスを、植物を利用して分解しにくい物質として固定するというアイディアは、斬新な発想だと感じました。

以前に「イボタ蝋」についてブログを書きましたが、幹が真っ白になるほどの蝋をイボタロウムシ(Ericerus pela)は生産する能力を持っている訳なので、今の技術を駆使して広食性昆虫にしてその養殖技術を開発すれば、Chory博士のアイディアと並ぶ地球環境改善策になるのではないかと思いました。

参考)
1)http://www.businessinsider.com/joanne-chory-breakthrough-prize 
     -suberin-cork-plants-carbon-dioxide-climate-change-2017-12
2)Bernards M.A., et al.: Phytochemistry, 57(7), 1115(2001)

2017年12月24日日曜日

サボテンの花とフロリゲン


 今日はクリスマスイブです。かなり寒くなりましたが家の窓辺にあるサボテン、マミラリア・ハーニアナ(玉翁殿)の花が一輪きれに咲いています。また、マミラリア・エロンガータ(黄金丸)からはかわいい小さな芽が出ています。野外で昆虫を見かけることはほとんどなくなり野草も少なくなったので、屋外での写真撮影ができず寂しい思いでしたが、長いつきあいのサボテンが話題を提供してくれました。

 20年ほど前から一緒にいて、3段重ねで30cm弱になった我が家のサボテン玉翁殿の開花は今年2回目です。いつもは丸いサボテンの輪郭に沿って円を描くようにたくさんの花を咲かせるのですが、花芽は円状に出ているものの、今回は一輪だけ抜け駆けしてしまったようです。

黄金丸
 
玉翁殿
 

 同じ環境にあっても開花が不揃いになるのは不思議です。そもそも、花やわき芽が出来る基本的な仕組みや、どこの部位に花芽が出てくるのかなど、誰もが思い浮かべるような質問に答えられるようになっているのだろうかと思い少し調べて見ました。

花については、チャライヒャン(Chailakhyan)というロシアの研究者がいまからちょうど80年前(1937年)に、接ぎ木の実験から植物の葉が日長を感知し花の形成に関わっていることを発見したようです。彼は葉で花の形成を促す「花成ホルモン(フロリゲン)」が合成され茎頂に移動すると予言したため、それがフロリゲン仮説となり植物最大の謎の一つとして世界に広まったようです。

 それ以来、多くの研究者がフロリゲン探しにしのぎを削りましたが、提唱から70年を経た2005~2007年に候補物質(FTタンパク質)が日本の研究者によって発見され、このタンパク質が葉から維管束を通って茎頂に輸送され花を形成させることが日本やドイツ、イギリス、米国などで証明され、フロリゲンであることが確認されたとのことです。

その後、このフロリゲンは葉で日中に増加するフォスファチジルコリンと特異的に結合し茎頂に移動することが解明されるなど、そのメカニズムの詳細が明らかにされ始めているようです。さらに、フロリゲンFTタンパク質は、花の形成のほか、ジャガイモの塊茎形成、玉ねぎの鱗茎形成にも関与する多機能性を示すことも明らかになってきており、植物ホルモンとしても認められるまでになっているようです。

オーキシンやジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシジン酸、ブラシノステロイドなどの植物ホルモンは数十年前の高校の教科書にも掲載されていましたが、その後植物遺伝子の解明とその発現メカニズムの解析技術が格段に進歩したため、上記古典的植物ホルモンの他に、ここで取り上げた花成ホルモン-フロリゲンに加え、植物の抵抗性(植物免疫)に関わるシステミンやジャスモン酸、サリチル酸など新しい植物ホルモン(様物質)が次々に提唱され始めているようです。

科学の進歩が速すぎて追いつけませんが、花成ホルモンの他にも植物の抵抗性に関与する植物ホルモンには興味があります。学んだ知識は何とかして農業に生かしたいと思っています。 

参考)
1)辻 徳之ら:化学と生物、54(5)3582016

2017年12月9日土曜日

瑞鳳殿とお茶


経ヶ峰の参道を上ると鮮やかな紅葉に包まれた瑞鳳殿の入り口が見えました。きらびやかに装飾を施された瑞鳳殿(霊廟)とともに、隣接した資料館を見学することができました。122日(土)のことです。


資料館には戦災消失後の再建に伴う遺骨の調査データをもとにして作製された政宗の実物大の全身像があり、その顔立ちに興味を持ち見入りましたが、身長は158cmだったと記載されていました。偉大な人物なのですがとても親しみを感じ、心に残り、これからもその印象を忘れることはないと思います。


伊達家第2代、第3代の霊廟にも参拝しましたが、その帰り道、いかにも堂々とした樹木の古木の根元のくぼみに、なんと、お茶の幼苗が30cm程度に伸びひょっこりと顔を出していました。残念ながら樹木には疎いので種類は分かりません。この経ヶ峰にも茶畑があるのだろうか。茶の実をリスが運んでこの樹木のくぼみに隠したのでは。と様々想いが頭をよぎりましたが、見渡す周囲には茶畑はありませんでした。でも、数年前には茶の木がこの付近にあったのだと思います。

政宗は京と江戸の文化を敏感に捉え、それに勝る文化を伊達藩から発信する想いと自信を持っていた人物だと思っています。例えば、京で盛んだった茶の生産を伊達藩で奨励したことも分かっています。茶は南国の農産物です。当時、伊達藩でその生産を行うことには多くの困難があったのだと思います。政宗はどのような工夫をしたのだろうか。京都の雪降る寒い地域で育つ苗を選抜して伊達藩に運んだのだろうか。

政宗が奨励し、今に続く宮城産のお茶には桃生茶・河北茶があります。石巻市の北に位置する桃生町には、面積が少ないながらも静岡の茶畑を想わせるような名茶園があるようです。その畑では、5月の初摘み行事が行われ、宮城県の時節のニュースとして紹介されています。

茶は、椿や山茶花とおなじカメリア属の直物で、中国由来であることからCamellia sinensisと名付けられています。一方、椿はCamellia Japonicaであり、日本(Japan)の名が与えられています。実は、その北限は青森県の椿山だと言われており、椿山の椿神社付近には17haの椿の群生があるとのことです。まだ見たことはありませんが、茶もそこが北限なのかなと思います。でも、経済的な北限も当然考えられます。それは、秋田県の檜山茶だと言われてきました。檜山では伝統の檜山茶を絶やしたくないとしての活動も行われていますが、宮城県の桃生茶・河北茶に比べると生産量は少ないようです。東北での茶の生産は大変ですが、応援したいと思っています。

 自分好みの食品を24時間いつでも購入できる環境の中にいる私たちと異なり、欲しいものは流通に頼らず自分達で生産せざるを得なかった時代、生と死があまりにも近く、明日を待つ余裕を持つことができない時代にどのような工夫が行われていたのかを勉強し、今に生かすことが重要だな~と思っています。




2017年12月1日金曜日

秋の笊川の草花とマルハナバチ調査情報


 仙台は最近かなり寒くなり、笊川の土手のイタドリは茶色に枯れていました。秋の草刈り後に頑張って伸びた30cm程度の若芽が、揃って茶色になっている風景に、晩秋のうら悲しさを感じます。


でも、川原ではハクセキレイのツガイが仲良く声を掛け合ってそこかしこ飛んでいました。突然、眼の前を小さな影がスーと通り過ぎたので、まさかと思い目で追ったところ、やっぱりシジミチョウでした。こんなに寒いのにまだベニシジミの成虫が飛んでいることに驚きました。

この時期の草花は不思議です。セイタカアワダチソウは、芽が出て間もない状態から、黄色い花を付けたもの、完全に枯れて白い綿毛になったものまであり、その一生の姿を全部見ることができます。ノコンギクも花が咲いているものと白い綿毛になったものが同じ場所に生えていました。ノコンギクの種と綿毛をしっかりと確認できたのは今回が初めてです。


ヒメジョオンやノゲシ類の花は、季節を問わず相変わらず咲いていました。イヌノフグリの花も咲いています。イヌノフグリの根元にはニジュウヤホシテントウが越冬用の卵を産んでいるのかも知れません。仙台でも初雪がもうそろそろ降るのでしょうか。


 1118日の朝日新聞朝刊にマルハナバチ類の生息図に関する記事が掲載されていました1)。東北大学と山形大学が共同で実施した「マルハナバチ国勢調査」の成果の紹介です。この成果は市民参加型調査によって達成されたもので、2006年から2015年の間に4,100件以上の協力があり、その内3,143件がマルハナバチと特定できたそうです2)

日本には、16種のマルハナバチが棲息すると言われているそうで、今回の調査ではそのうち15種についての報告が寄せられ、トラマルハナバチ(902件)、コマルハナバチ(821)、オオマルハナバチ(369)、クロマルハナバチ(288)、ミヤママルハナバチ(207)、ヒメマルハナバチ(145)など6種の分布密度を日本地図上に示すことができたとのことです。

 私は以前のブログに書いたように、この国勢調査に興味を持ち花に集まる蜂やアブの写真を撮り始めました。幸い、マルハナバチによく似た大きなクマバチについては2回写真を撮ることができましたが、残念ながら背面、側面、正面と狙って撮ることはできませんでした。本命のマルハナバチについては一度だけチャンスがあったものの「オオボケ」で終わってしまいました。茨城県牛久市での遭遇でしたが、花にとどまる時間が短くかつ動きが速すぎるので、ピントを合わせて写真を撮ることすらできませんでした。でも、黄色の縞模様がありかつ足に黄色の花粉が付いているように見えるので、国勢調査で最も多く写真が提供されたトラマルハナバチのように思われます。


 このような調査は世界各地で様々な昆虫等について行われているようですので、役立つレベルの写真やデータを提供できるようになりたいと思いました。

 参考
1)朝日新聞1118日号、24面(2017年)
2)Y. Suzuki-Ohno, et al.: Scientific Report, Online, 911日、2017