昨年(2019年)は黒大豆とアズキ(小豆)を多めに栽培し、それぞれ約11.5㎏と6㎏収穫しました。両者とも抗酸化物質のポリフェノール色素に富むということで注目されていますが、黒大豆についてはその色素がシアニジン3-グルコシド(クリサンテミン、クロマニン)であることが既に分かっているものの、アズキ(小豆)の色素については曖昧でその解明が待たれていました。
実は幸いにも昨年(2019年)、アズキ種皮の色素に関する研究報告が出され、曖昧であった色素が新規物質であることが判明しました1)。発見者らによって、その新規物質は「カテキノピラノシアニジン」と命名されました。
各種豆類種皮の色素成分
(アズキの色素が2019年に解明された)
|
名前から類推されるとおり、茶の苦味成分(抗酸化成分)として良く知られているカテキンとアントシアニンに属するシアニジンが1分子ずつ結合した物質のようです。カテキンには立体異性体が存在しますが、カテキノピラノシアニジンを構成するカテキンには、(+)-カテキンと(-)-エピカテキンの2種類が存在し、(+)-カテキンの場合はカテキノピラノシアニジンA、(-)-エピカテキンの場合はカテキノピラノシアニジンBと命名されています。含有量は、Aの方がかなり多いことも分かっています1)。
この化合物は、水に難溶性であるためアズキの漉し餡に残存し、漉し餡が紫色に染まる原因物質になっているとのことです。アズキの漉し餡の綺麗な紫色はカテキノピラノシアニジンA,Bによることが分かった訳です。一方、このカテキノピラノシアニジンは光酸化により容易に無色の物質に変化することも明らかになっていますので、餡の製造や保存方法についても重要な指針が得られたことになります。
アズキ漉し餡の紫色素カテキノピラノシアニジンの光酸化 |
一方、アズキ種子の色は漉し餡の色と異なり赤味が強くなっていますが、これはアズキ種皮に存在する縮合型タンニンのプロアントシアニジンが少し酸化されることによって形成された赤褐色色素が影響しているためと思われます。多くの有色豆類の種皮にプロアントシアニジンが存在することは良く知られています2)。
各種有色豆類のプロアントシアニジン含有量 |
有色豆類の表皮の色を決定する色素類 |
有色豆類との類似例として有色玄米について調べてみたところ、赤米糠層にはプロアントシアニジンが多く含有され3)アントシアニンは極めて微量存在する程度のようで、長期保存等のようなプロアントシアニジンが酸化され易い条件で赤味が増すことも確認されています。また、紫黒米には黒大豆と同じようにアントシアニンのシアニジン3-グルコシドが多く含有されプロアントシアニジンはほとんど無いことも分かっています。
有色玄米の色素形成要因の品種別含有量
(赤米にはアントシアニンがほとんど無い)
(紫黒米のプロアントシアニジン含量は極微量)
|
有色玄米の表皮色素の組成 |
赤味を呈するプロアントシアニジン酸化物は、たぶん多成分でありかつ重合反応が生じているため単離と構造決定はかなり困難であると予想されます。
色が重要な紅茶に例えれば、カテキノピラノシアニジンはテアフラビンで、タンニン色素は水溶性赤色色素のテアルビジンに相当することになるのかも知れません。
参考)
1)Kumi Yoshida et al.: Structure of two purple pigment
catechinopyranocyanidins A and B from the seed-coat of the small bean , Vigna angularis., Sci. Rep.,
9:1484(2019)
2)沖 智之ら:DMAC法による豆類中の総プロアントシアニジンの定量法、日食科工誌、60(6)301-309(2013)
3)Kenji Hosoda et al.: Anthocyanin and proanthocyanin contents,
antioxidant activity, and in situ degradability of black and red rice grains.
Asian-Australasian J. Anim.Sci., 31(8), 1213-1220 (2018)
0 件のコメント:
コメントを投稿