2017年7月11日火曜日

アブラムシの逆襲と色の不思議

 肉食性のカメムシであるサシガメ科の中には、死骸を体にまとうゾンビ虫がいることを知ってびっくりしました1)が、「一寸の虫にも五分の魂」という気概に溢れ、天敵に一撃を加える虫もいるようです。それは、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシで、ここでは名前が長すぎるのでアブラムシSSolidago)と呼びます。

アブラムシSの成虫は、ナナホシテントウの幼虫に攻撃されると、お尻の左右にはえている角のような器官である角状管から赤色の液体を分泌し、この液体が第4齢になる前のテントウムシの小さな幼虫頭部に付着すると、脱皮障害が生じ、約2/3が蛹になる前に死んでしまうそうです2)。もっとも4齢で成虫直前の幼虫は、このアブラムシを食べた後にすぐに吐き出し難を逃れとのことです。

アブラムシSは見事な赤色で、皆揃って頭を地面に向けがっしりとセイタカアワダチソウの茎にしがみついています。そこに、カメラを近づけると一斉に尻を振り威嚇します。差別するつもりはないのですが、大和撫子にはとても見えません。


アブラムシに存在する脂溶性色素類はアフィン(aphins)というグループ名で呼ばれており、キノンAを基本構造として持っています。その内、アブラムシSを彩る赤色色素は、キノンA2分子結合したタイプで、ウロ・ロイコナピンA1uroleuconaphin A1)と命名されています。この化合物はアブラムシ体内で合成され、体重の0.35%に達するとのことです3)。驚くことに、この赤色色素は昆虫病原菌に対する抗菌剤としての役割も果たしているようで、多様な生理活性が検討されています。

アブラムシの体色に興味を持っている科学者は、世界的に少なからずおられ、これまでに、体色を変える共生菌も発見されています4)。エンドウヒゲナガアブラムシでは、ある共生菌が体内に住むと、体色が赤色から緑色に代わるとのことです。緑色に変わると外敵に見つけられる確率が減り、例えばテントウムシによる捕食率が下がるとの報告があります。共生菌によって、アブラムシ体内のカロテノイド代謝が変わることが体色変化のメカニズムのようで、アブラムシの体色には、キノンA系のポリフェノールと、カロテノイドが関与しているようです。ちなみに、どちらも抗酸化性色素です。

テントウムシの幼虫に赤色の液体を吹きかけるアブラムシの角状管は、警報フェロモンを分泌する器官としても知られ、モモアカアブラムシの場合はテルペノイドに属する揮発性化合物のβ-ファルネセンが分泌されます。これにより、仲間に危険を知らせるわけです。アブラムシの世界を覗き、食べる側と食べられる側が互いに進化を続ける生態系の不思議な側面を、ほんの少しだけですが知ることができました。

参考)
1)http://www.dailymail.co.uk/news/article-2138325/Assassin-bug-
     carries-dead-ants-ward-enemies.html
2)Barry Adema, et al. : Entomological Science, 19(4), 410(2016)
3)Horikawa M. et al. : Tetrahedron, 62 (38), 9072(2006)
4)Tsuchida T. et al. : Science, 330, 1102(2010)

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