2017年10月31日火曜日

サツマイモ収穫と小菊の花に集まったハナアブとヤドリバエ

  岩手の畑に行ってきました。1027日に出かけ、かなり遅くなりましたがサツマイモを収穫しました。水はけの悪い畑なのでサツマイモ栽培に良い条件とは言えず、収量はあまり良くありませんでした。特に、期待して植えた品種のベニアズマの芋はとても細くて本数も少なかったです。まだまだ修行が足りません。

ついでに、畑で咲いていた小菊の花を覗いてみたところ、蜂のような昆虫が群がっていました。その中で、腹が赤く異常に膨れ上がったハエを発見しました。病気で膨れたのかなと思いつつ写真を撮り、後で調べたところ「シナヒラタヤドリバエ」1)という種類でした。


ヤドリバエ(宿り蠅)という名前は「寄生蠅」に因んでいるようです。シナヒラタヤドリバエは、スコットカメムシやエビイロカメムシに寄生するとのことです。スコットカメムシは、ミズナラやブナ、シラカンバなどに付き、エビイロカメムシはススキなどのイネ科植物に付いて樹液を吸い生活し家にも侵入する種類のようですので、ヤドリバエに頑張ってもらいたいと思いました。

この他に小菊の花に付いていた蜂のような昆虫はハナアブでした。黄色の縞模様が少しずつ異なる数種類のハナアブが群れていました。ハナアブには模様の似た種類が多くいて、その同定がかなり難しいようです。良く分かったのはオオハナアブ(Megaspis zonata)だけでした。残念ながらマルハナバチではありません。マルハナバチは、「クマンバチの飛行」で有名になった蜂なので、ぜひ見たいと思っています。これまでに数回遭遇したクマバチに似てモフモフしたハナバチなようです。



なお、マルハナバチについては「マルハナバチ国政調査研究」が2015年から行われていて目撃情報が集められています。外来種のセイヨウオオマルハナバチが1990年初めからトマト等の受粉に利用され、在来種が減少しているためのようです。これをうけ、環境省は在来種のマルハナバチを活用するための「セイヨウオオマルハナバチの代替種の利用方針」を公開しています。

岩手の畑の小菊に群れていたハナアブは、ナミハナアブやシマハナアブのようです。小菊の他に、シュウメイギクにもハナアブがたくさん止まっていました。





小さい頃、尻尾の長い大きなウジ虫がとても苦手でしたが、ハナアブの幼虫だということが分かりました。そう分かっても、花に止まっている奇麗なハナアブとウジ虫が心の中でつながりません。寄生蠅が蝶々の蛹などから生まれ出る写真もグロテスクだと思ってしまいます。昆虫はとても奥が深いです。

食料難時代に向け昆虫食も研究され始めていますので、乗り越えなければと思っています。岩手訪問の目的だったサツマイモの写真も載せます。

参考
1)岐阜大学教育学部理科教育講座地学教室:理科教材データベース、
  昆虫図鑑、ハエ目、ヤドリバエ科。

2017年10月25日水曜日

ジャガイモのソラニンの低減化育種と芽止め

  健康相談サイトなどを見ると、青くなったジャガイモや芽の出たジャガイモを食べてしまったのだけれども、ソラニンによる健康影響はないでしょうかとの相談がよせられています。妊婦さんからの相談もあるので、他人事とは思えません。

青くなったジャガイモの皮は厚くむきとり、芽は少し深くえぐり取って調理すれば問題ない訳ですが、そのことが伝承されないことに不安を感じます。

本来なら安全に食べることができるものなのですが、今の時代に沿って誰でも心配せず安心して食べられる品種(グリコアルカロイドが少なくかつ増加しない)の開発を期待します。

幸いにも、ジャガイモのソラニンなどナス科のグリコアルカロイドの合成経路がどんどん明らかになっています1、2)。理化学研究所を始めとして多くの大学が研究に関与し協力しているからです。ユリ科やツゲ科にもグリコアルカロイドが存在することから、海外ではユリ科植物を研究材料にした合成系の解明が行われています3)。米国では、このユリ科植物が家畜に重大な問題を引き起こした例があり、食用ではありませんが研究材料になったようです。この研究は、最近ではがん抑制成分などの薬理作用に焦点を当てた研究へと発展しています。

ナス科のアルカロイド合成では、これまでジャガイモのソラニンやトマトのトマチンの前駆体が4つの環構造(A~D環)を持つコレステロールであることは分かっていましたが、コレステロールが6個の環構造(A~F環)を持つソラニジンやトマチジンになる仕組みが分らなかったのです。コレステロールの4環構造がいっきに6環構造になる反応ですので、かなり魅力的です。

 このような環構造の形成では、ベンゼンの構造を考えたケクーレの逸話が有名になっていますが、ポリフェノールの一種で3つの環構造(A,B,C環)を持つフラボノイドの合成でも同じように感動的な反応が関与しています。フラボノイドの環構造は、3分子のマロン酸と1分子のp-クマル酸がいっきに合体して生じることが分かったのです。この反応を担っていたのはフラバノン合成酵素で1975年にドイツの研究者が発見しました(F. Kreuzaler, et al. Eur.J.Biochem,56, 205(1975))

 ナス科ステロイドアルカロイドの合成研究では、現在のところコレステロールに2個の環構造が加わるために必要な側鎖の修飾に関与する3個の酵素が解明されており、あとは窒素の供給源の解明と環形成酵素の発見が残されています。ユリ科の研究では窒素供給源はGABAのようですが、ナス科も同じなのだろうか。それにしても、環を形成する酵素の名称はどのようになるのか楽しみです。



 面白いことに、コレステロールの側鎖に水酸基を形成する酵素の発現を抑えると、ジャガイモ塊茎の芽や植物体の花芽の形成ができなくなるとのことです。

しかし、塊茎を土に埋めると芽は形成されるとのことなので、芽止め処理が不要なジャガイモができたことになります。一挙両得です。ただし、トマトの場合は花が形成されないと果実ができませんので、工夫が必要のようです。

 これらの研究によってグリコアルカロイド低減ジャガイモの育種ターゲットが明確になりました。最近、ジャガイモの品種は多様化して楽しみが増えましたが、消費者にやさしいジャガイモの出現によって、より一層身近な農産物になるものと思いました。

参考)
1)Naoyuki Umemoto, et al. : Plant Physiol., 171, 2458(2016)
2)Masaru Nakayasu, et al. : Plant Physiol., 175, 120 (2017)
3)Megan M. Augustin, et al. : The Plant J., 82, 991(2015)

2017年10月24日火曜日

ジャガイモのソラニンなどグリコアルカロイド

   ジャガイモのソラニンは苦味物質で毒性もあるので少ない方が良いのですが、普段食べている程度の量なら毒性とは逆に、意外にも人間にとって良い作用もあるのではないかと言われ始めています。米国の農務省の研究者が中心になってこの有用作用につて研究しているようです。

ただし、薬と同じで多く摂ると危険です。その上、子供(摂取上限:20~40mg/)と大人(摂取上限:200~400mg/日、(2~5mg/kg体重))では毒性に対する感受性が異なるので、毒性を示す物質の良い面を強調することは、子供に対する危害リスクを増すことにもなりますので、注意が必要です。

良い面があると言っても、人間に対して毒性を示すことは明らかですので、以前のブログに記載したとおり、欧米ではジャガイモの商取引に当たってはグリコアルカロイドがジャガイモ100g当たり20mgを超えないように制限されているようです1)。実際に流通しているジャガイモのグリコアルカロイド含量は20~130mg/kgということですので心配はありません。

ジャガイモのソラニンとチャコニン、それにトマトのトマチンもグリコアルカロイド(アルカロイド配糖体)ですが、サポニンでもあるので溶血作用を示すことが知られています。サポニンの名称は石鹸のソープに因んだもので、界面活性剤の一つであるとも言えます。ソラニンなどは、水に溶解する糖鎖の部分と油に溶解するステロイド骨格から成り立っていますので、水と油の界面に移動し、石鹸のような性質を示す訳です。



ソラニンなどのグリコアルカロイドが赤血球に出会うと、そのステロイド性アルカロイド骨格が赤血球の細胞膜(脂質二重膜)に潜り込み、糖鎖は膜の外側の水溶液に留まります。その結果、ソラニンが赤血球膜に集まり凝集すると、膜の外側で糖鎖同士が対になった構造をとり(油の中で水が集まるような現象)、細胞膜が分断されて穴が出来てしまい、いわゆる溶血現象が生じる訳です。



溶血作用にはステロイド骨格と糖鎖が関与しますので、糖鎖が離脱したソラニジンやトマチジンは溶血作用が弱くなります。すなわち、ソラニンやチャコニンから糖鎖を除けば、その毒性はかなり減少するものと予想されますが、通常の調理加熱程度の処理では変化しません。ソラニンにはβ-ガラクトシダーゼ、チャコニンにはβ-グルコシダーゼを作用させれば、それぞれ糖鎖が除去できるかも知れません。ソラニンなどグリコアルカロイドには神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素を阻害する作用も確認されていますが、この阻害作用も、糖鎖が除かれると弱まるようです2)

α-ソラニンには3個繋がった糖鎖が結合していますが、糖が2個繋がった構造のβ-ソラニンや一個になってしまったγ-ソラニンの苦味の程度や様々な生理作用はほとんど調べられていなので、とても興味があります。そもそも、ソラニンが人間の舌上の苦味レセプターに結合するのかどうかも不明のように思います。

ジャガイモにはソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドと呼ばれる化合物が90種も存在するそうです。その中でもソラニンとチャコニンは、グリコアルカロイド全体の約90%を占め、ソラニンとチャコニンの比率は、品種によってかなり異なることも分っていて、中にはソラニンよりチャコニンの多い品種もあるようです。



ジャガイモのグリコアルカロイドの害虫に対する抵抗性について調べた結果では、ソラニンやチャコニンよりもレプチンが有効であったとの報告もあり3)、このアルカロイドについては茎葉で増加するような育種が検討されています。塊茎では合成が少なく、茎葉で合成が高まるような育種です。ジャガイモ塊茎におけるソラニン合成は茶色の皮(コルク層)を剥いた部位(コルク皮層)で主に行われてるとのことで、鍵酵素が見つかるなどかなり進展しており、それらの制御についても今後の成果が期待されています。


 ジャガイモのグリコアルカロイドについて調べて見て、その多様性に驚きました。それらの中に私たちの生活に役立つ物質があってもいいのではないかと思いました。

参考)
1)Valkonen JTP, et al.: Critical reviews in Plant Science 15, 1-20(1996)
2)Idit Ginzberg, et al. : Potato Research 52,1-152009
3)Anusua Rangarajan et al.:J.Amer.Soc.Hort.Sci., 125(6), 689(2000)



2017年10月23日月曜日

テントウムシダマシはなぜナス科植物の葉を食べるのか

  今日は超大型の台風21号が仙台を通り過ぎました。朝早くから10時ころまで雨と風が激しくてどうなることかと心配しましたが、11時ころには台風一過、風雨が止み被害もほとんどなかったようでホットしました。でも、昨日から各地で大きな被害をもたらしたようで、被災者には本当に同情します。最近の天候異変は激しすぎて心配です。

時間があったので、オオニジュウヤホシテントウがどうしてナス科のジャガイモやトマト、ナス、イヌホウズキなどの葉を選択的に食べるのかについて調べてみました。

ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウ等の草食性テントウムシはアフリカを起源として他の地域に分散し、アジアではウリ科を宿主として食性変異を遂げてきたようです。そのため、ナス科を食害するニジュウヤホシテントウとオオニジュウヤホシテントウは、今でもウリ科を象徴する苦味物質であるククルビタシン類に強く反応する特性を維持しているそうです(M. Abe, 2000)。
   最近、オオニジュウヤホシテントウが何故ジャガイモやトマト、ナスなどのナス科を好んで食べるのかについての研究が行われていました。それによるとジャガイモやトマト、ナスの葉には、人間の必須脂肪酸でもあるリノール酸とリノレン酸のメチルエステルがあるからだということです1)。但し、ショ糖などの糖が共存することが必須とのことです。リノレン酸を摂食刺激因子とする昆虫などは結構存在するようで、アオスジアゲハやオニヒトデなどもそのようです。

ジャガイモに寄生して葉を食害するコロラドハムシの場合は、ポリフェノールの仲間でコーヒーの主要成分として良く知られているクロロゲン酸が摂食刺激物質になっているそうですので、同じジャガイモの葉を食べる昆虫でも、種類によって宿主の目印物質が異なることが分かります。

ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウの場合は、ホオズキのフラボノイドであるルテオリン-7-グルコシドが摂食刺激因子になるようですので、フラボノイドに着目して見ると、ジャガイモの葉にはケルセチン配糖体が多く、ナスの葉にはケンフェロール配糖体が多いなどナス科横断的なフラボノイドは見当たりません。

そこで、ジャガイモやトマト、ナスにはグリコアルカロイドが特異的に存在しますので、やはりそれらが摂食刺激因子であるものと予測されますが、それらのグリコアルカロイドには反応しないそうです。グリコアルカロイドは、一般的にはウイルスやカビ、軟体動物等に毒性を示す物質として知られており、昆虫にも忌避作用等を示すとも言われています。オオニジュウヤホシテントウは、ナス科のグリコアルカロイドには反応しないとのことなので、それらの影響を受けないように進化し適応したものと予測されます。


    ジャガイモのソラニンとチャコニン、トマトのトマチン、ナスのソラソニンがナス科の代表的なグリコアルカロイドで、これらはコレステロールから合成されるそうです。ジャガイモの芽を切り取り、その茎からコレステロールを与えるとソラニンに変わることが明らかになっています2)。収穫したジャガイモに光をあてると緑色になり、同時にソラニンが急増しますが、緑色のクロロフィルの合成とソラニンの合成は別経路の光刺激で促進されることも分かっているようです。

コレステロールをソラニンやトマチンなどのグリコアルカロイドに変える鍵酵素は、コレステロールの側鎖の部分の二重結合を単結合に還元するSSR2Sterol Side Chain Reductase 2)であることも最近明らかにされています3)ので、今後はグリコアルカロイドの含有量を制御することにも可能性が見えてきました。

参考)
1)M. Hori et al.: J. Appl.Entmol., 135, 121(2011)
2)Erik V. Petersson, et al.: PLos One, 8(12), 1(2013)
3)S. Sawai et al.: The Plant Cell, 28, 3763(2014)

2017年10月15日日曜日

紅葉とアントシアニンとヘリカメムシ

   真っ赤に紅葉した岩手の庭のニシキギにキバラヘリカメムシが大量発生していました。真っ赤になった一枚の葉の上に3匹の成虫が集まり、その一匹の背中に幼虫がおんぶしていました。腹部がサシガメと同じように見えるので、最初はぞっとしましたが、良く見ると頭の部分がカメムシの形なのでホットしました。キバラヘリカメムシは、ニシキギの他にツルウメモドキやマユミなどの木の実を餌として食べるとのことです。



庭のニシキギは見事に紅葉していましたが、ヌマミヅキ、スズランの木とともに世界三大紅葉木と呼ばれることもあるようです。夏のニシキギの葉は当然緑ですが、7月に一枚の葉が真っ赤になっているのを見つけました。真っ赤になった葉の付け根の部分が虫に食べられています。それが原因なのでしょうか。



多くの木々の葉の紅葉は、落葉前に葉柄と茎の間に離層が形成され始め、維管束の機能が低下するため、光合成によって葉で合成されたグルコースが根に移動することができなくなり、エネルギー源としてのグルコースが赤い色素であるアントシアニン合成に使われるためであると説明されています。


7月に赤くなったニシキギの葉では、葉の中央を通る維管束の一部が虫に食べられているように見えるので、落葉寸前の状態が作り出されていたのだろうか。実際の紅葉よりさらに著しくかつ均一な赤色になっているのは、秋よりも葉の光合成能力が高いためグルコースがたくさん合成されたことによるのだろうか。いずれにしても、特異的な虫食いあるいは障害によってアントシアニン合成が著しく促進されたことは事実であり、そのメカニズムに興味を持ちました。



今年の紅葉は例年より少し早かったようです。おかげで、今日は八幡平樹海ラインの紅葉を見に行くことができました。日曜日でしかも天気も良かったので、結構観光客も多く訪れ写真を撮っていました。私も、下手を承知で写真を撮ってみました。久しぶりの紅葉見学に感動しました。

2017年10月11日水曜日

草食性テントウムシの同定は難しい

  私の畑でジャガイモの葉に取りつき食べていたテントウムシは、オオニジュウヤホシテントウだろうと決めつけていましたが、違っていたのかも知れません。そもそもナナホシテントウとニジュウヤホシテントウの名前しか知らず、キイロテントウが存在することに驚いたぐらい無知でしたので、実はジャガイモの葉を食い荒らしたテントウムシとその幼虫(蛹)の写真は一度しか撮っていませんでした。しかもかなりボケています。


ネットには奇麗な写真がアップされていますが、私の写真はかなりボケているので黒い斑点模様のみから種を判断するのは難しいようです。岩手のジャガイモ畑には草食性テントウムシとして、ニジュウヤホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウ、ルイヨウマダラテントウ、ヤマトアザミテントウなどがいた可能性がありますので、たくさんの写真を撮って比較検討するべきでした。

青森県で行ったルイヨウマダラテントウに関する試験1)では、生育地域によって食性が少し違っているとのデータも出ていますので、餌としての嗜好性だけから判断することもできないようです。これらの同定には、翅の斑紋の他に、前胸の背板の紋や小盾板の状態、脚節の黒い紋なども参考にするそうなので、多方面からたくさんの写真を撮っておけばよかったと反省しています。成虫も幼虫も卵もたくさんあったのに残念です。


草食性テントウムシの分類については、世界的レベルで見直しが行われているようです。日本では、草食性テントウ虫が所属するテントウムシ科マダラテントウ虫亜科エピラクナ属にちなみ「エピラクナ問題」として、特集を組んでいました(昆虫と自然20141月号)。

ここでは、ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウ、ルイヨウマダラテントウなどの名を取り上げましたが、これらの草食性テントウムシの属名は前述のとおり「Epilachna」でした。でも、2003年頃からこれらを「Henosepilachna」属として記載するようになったようです2)



エピラクナの前に付記された接頭語の「Henos」の意味は良くわかりませんが、1961年に台湾の研究者が命名提案し(Li & Cook: Pac. Insects 3(1): 31-91)、今では日本の草食性テントウムシのほとんどは「Epilachna」から「Henosepilachna」に変えているようです3)

 アジア諸国に多く分布する草食性テントウムシの食性変異は、あちこちで観察されているようで、種の分化の良いモデルになっているようです。また、各国で侵入害虫として、それまでにいなかった種が発見されることも多いようです。日本では、1997年に草食性テントウムシのインゲンテントウ(生息地グアテマラ)が北海道大学の大学院生によって初めて確認されたとのことなので、今後もそのような発見が続くものと思われます。

 岩手では、オオニジュウヤホシテントウの数が最も多くなる7月頃の卵数を基準にして、翌年の越冬後の成虫数をカウントすると0.35%ぐらいになるということです。場所によって変動はあるものと思いますが一つの例として納得できます。


かなり厳しい数字ですが、私の畑では来年も間違いなくオオニジュウヤホシテントウなどが大発生するものと思っています。今度は、こまめに写真を撮ろうと思っています。

参考)
1)山内 智:日応動昆誌、38(3)1911994
2)松本和馬ら:日応動昆誌、7(3)91(2004)
3)Toru Katoh et al.: Zoological Science, 31, 820(2014)

2017年10月9日月曜日

ニジュウヤホシテントウの食性の不思議

 今年私が植えたジャガイモの葉は、オオニジュウヤホシテントウムシに散々食べられてしまいましたが、オオニジュウヤホシテントウはナスやトマトの葉も同様にどんどん食べることで知られていて、ナス科(Solanaceae)の天敵になっています。

今年は、ジャガイモの近くにナス科でトウガラシ属のシシトウも1本植えてみました。シシトウの葉や実もオオニジュウヤホシテントウはかじっているのですが、ジャガイモの葉のようにどんどん食べ進むことはありませんでした。おかげでシシトウは、茶色になったジャガイモ群の隣でほぼ健全に育ち、ジャガイモの姿が消えた畑で、今でも収穫しています。

ニジュウヤホシテントウの餌となる宿主について調べた報告1)を見ると、これらのテントウムシはトウガラシ属の植物を餌として認識してかじるものの、トウガラシ属の植物が含有している何らかの物質の影響で食べ進めることができなくなるとのことです。どんな物質なのだろうか。
  逆に、餌と認識し飛んで行って食べることのない白菜(アブラナ科アブラナ属)にニジュウヤホシテントウをのせてかじらせると、どんどん食べて正常に生育できるとのことで、ハクサイには宿主として認識させる何か(誘引する匂い?)が存在しないものの、摂食を拒否させる物質も存在せず栄養補給が可能になるということです。白菜は、八百屋さんで購入できるので、ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウの簡便な人工飼料として使用できる訳です。

ところが、ジャスモン酸メチルという香り物質を白菜に与えると、ニジュウヤホシテントウはその白菜を食べなくなるとのことです。一方、トマトにジャスモン酸メチルを与えても影響はでないので、ジャスモン酸メチルによって白菜に特殊な物質が誘導生成され、それが摂食を阻害させるものと推定されているようです。


ジャスモン酸やそのメチル化体は、多くの植物に特殊な防御物質(resistance)を誘導させる鍵物質として有名で、植物ホルモンと呼ぶ研究グループもいます2)。ジャスモン酸はジャスミン茶で有名なジャスミンの香り成分で、私も好きな香りの一つですが、この香気成分は植物が昆虫による摂食傷害や病原菌の感染による障害を受けると合成され、防御機構関連遺伝子の発現を活性化するとのことです。


さらに、このジャスモン酸が植物体内でジャスモン酸メチルに変化すると揮発性が増し、植物の気孔から飛散される結果、周囲の植物もその影響を受け抵抗性物質を生産するようになるそうです。このように、ジャスモン酸やジャスモン酸メチルが回りまわって農薬の削減に貢献する可能性も考えられるとのことですので、興味深いです。
 
参考)
1)Shinogi T. et al.: Plant  Science 168, 1477-1485(2005
2)理化学研究所プレスリリース(2007319日)

2017年10月8日日曜日

孫娘の運動会

 今日は東京に住む孫娘の小学校の運動会でした。明治11年設立でビルディングに囲まれ、結構歴史のある学校だと言われているようです。島崎藤村もこの小学校卒だったようです。でも、私が通った岩手の田舎寒村の小学校は明治9年8月設立(実は校歌の歌詞)でしたので、孫娘の学校より古いので、不思議に思っていました。

日本の小学校開設は明治5年から行われたようです。3年後の明治8年には全国になんと2万4千303校が設立され、現在の2万6千校と大差がなかったとのことですので、当時の行政の仕事の速さに驚かされます。

ということで、私の母校は全国の小学校から見れば1年遅れだったようです。

孫娘は練習を一生懸命やりすぎたせいなのか、運動会の2日前に熱を出し運動会の前の日まで2日間学校を休みました。でも運動会には絶対出たいので運動会を休むはずはありません。

学年二クラスの学校ですので出番が4回もありました。さらに校庭がせまいので生徒がグランドに出ている間は父兄が生徒の椅子に座って応援してもいいようです。生徒と父兄が一体になった運動会だなと思いました。校庭は一周100m4コースなので、高学年はスピードがつきすぎてカーブの枠に沿って走るのが大変のようでした。コースを外れる違反をすると「もう一回」走ることになっていましたが、でも次も一生けん命走るのでそのことにも感動しました。

本当に楽しい運動会でした。子供達が家族と一緒になって運動会を楽しめるように工夫し運営されているのが良くわかりました。

校庭には、柑橘の樹木が数本あり、その葉にアゲハ蝶の幼虫が止まっていました。もう寒くなるのに大丈夫なのかなと心配になりましたが、試しに突っつくと赤い角を2本出しました。

アゲハの幼虫の写真を撮ればよかったのですが、孫娘の写真に気をとられていたのか、不覚にも撮っていませんでした。残念です。このブログではテントウムシに注目してきましたので、最初に出合ったナナホシテントウと、初めて出会った黄色テントウムシのイラストを載せます



2017年10月7日土曜日

カズオ・イシグロとプルースト現象(香りによる記憶想起)

 イシグロさんは英国籍ですが、5歳まで長崎で過ごしたということなので、ノーベル文学賞の受賞は他人事ながらとても嬉しく思いました。日本に戻れると思って幼少期を過ごし、日本でのわずかな限られた思い出と両親が話す日本の話題などから、イシグロさんの心の中の日本が形成され、それが大事な記憶になっているそうです。

イシグロさんの作品を私はまだ読んだことはありませんが、その作品の特徴としては、「記憶の中の感情や夢など、私たちが『現実』だとは思っていないものを組み合わせて、幻想的な小説の世界を築き上げている」(早稲田大学文学学術院の都甲幸治教授)などと言われています。

スウェーデンアカデミーの事務局長は、ジェーン・オースティンとフランツ・カフカを混ぜるとイシグロになり、それにマルセル・プルーストを少し混ぜるとイシグロの作品になると言っているようです(朝日新聞106日朝刊)。いずれの作家も20世紀の文学を代表する方々なので、イシグロさんもこれから語り継がれる21世紀の代表的な作家の一人になるものとして期待されているということになります。作品をぜひ読んでみたいと思いました。

私には文学のことは良くわかりませんが、マルセル・プルーストは別の分野で「プルースト現象(Proust phenomenon)」として有名になっています。

プルースト現象は、「ニオイとの遭遇によって、過去に経験した出来事を追体験のようにありありと思い出す現象」です。「記憶」をキーワードとして考えるとイシグロと通ずることになります。

 プルーストは長編小説「失われた時を求めて」の中で、紅茶に浸ったマドレーヌの匂いが不意に少女時代の鮮やかな記憶を蘇らせるという不思議な現象を描写しており、それが話題となり今に続いています。

 勿論私はその大作を読んだことはありませんが、プルースト現象には大変興味があります。その現象は事実なのかどうか、現在でも諸説が交錯しています。でも、なんとなく自分の体験としてありそうな気がします。餡子の匂いは、小さい頃、彼岸に母が朝早くから団子をつくっていた姿を呼び起こします。

 プルースト現象について、大学生111名を対象として調査した結果によると86名が体験していると回答しているようです1)。その体験から感じる感情・気分については、懐かしさが最も多く(73.3%)、嫌な感情を想起する例は少ない(7%)ようです。
 


 産業的には、多くの商品開発において匂いと記憶の関係が注目され始めています。匂いを嗅ぎながら言語学習をすると高い正解率が得られるとするデータもあります。チョコレートの匂いが記憶力を高めるというデータもあります。

 イシグロさんのノーベル賞受賞を契機に文学も科学も「記憶」に注目し、物騒な方向はやめて、各分野が人間らしい発展をして欲しいと思いました。


参考)
1)森田健一:日本味と匂学会誌、15(1), 53-60(2008)

2017年10月6日金曜日

草食性テントウムシへの進化

  今年のジャガイモ栽培は収穫時期に長雨があり、ジャガイモ畑が長い間湿地状態だったため軟腐病が発生し、失敗に終わりました。大発生したオオニジュウヤホシテントウによる食害は想定内で、むしろジャガイモ栽培中に、畑の周囲に居る様々なテントウムシを観察しようと思っていたのですが、こちらも残念ながらオオニジュウヤホシテントウ以外のテントウムシに出会うことはできませんでした。

そこで、公園などに出かけテントウムシ探しをした結果、ナナホシテントウと黄色テントウ、ナミテントウをそれぞれ一匹ずつ写真に撮ることができました。たったの一匹ずつです。簡単に見つかるだろうと思っていましたが、当て外れでした。探し方が悪いのだと思いますが、それにしても残念な結果です。でも、このジャガイモ栽培をきっかけにしてテントウムシやアブラムシに興味を持つことができました。

テントウムシは本来肉食性だったようです。進化の過程で草食性テントウムシが誕生したのです。その進化を支えた身体的変化は大顎(Mandble)の発達のようです1)。スプーンのように滑らかだった大顎がフォークのような葉を削り取る構造に変わり、その顎を前後左右に動かすことによって葉を削り取ることが可能になったのです。

オオニジュウヤホシテントウなど草食性テントウムシの食行動の痕跡は明瞭で、私はこれまでオオニジュウヤホシテントウは硬い維管束を食べることができないので、食べ跡が編み目構造になっているものと想像していましたが、違いました。葉から転落するのを防ぐため、葉の強度を弱めないように、棚田の畔のような食べ残し部分をつくっているのかも知れません。





 
私はテントウムシの解剖はできませんが、種の分類には欠かせないようです。最近は、特に草食性テントウムシの分類に関する研究が活気づいています2)

以前黄色テントウムシを見つけ、初めてだったので嬉しくてビニール袋に入れて持ち帰り、後でじっくりと写真を撮ろうと思っていたのですが、油断したスキにビニール袋から飛んでどこかにいってしまいました。部屋のどこかにいるはずですが、もう死骸になっているものと思っています。死骸なら、私でも解剖できるかも知れません。でも、見つけられるかな、無理かもしれません。

参考)
1)Xingmin Wang et al. : ZooKeys 448: 37–45 (2014)
2) Karol Szawaryn et al.: Systematic Entomology (2015), DOI: 10.1111/syen.12121