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2020年1月27日月曜日

自己増殖するコンクリートの開発(ストロマトライト)


冬の散歩では草花や昆虫に出会うことが少なくなるので、昨年から普段はあまり注目することのない地衣類にも目を向けることにしています。岩にべったりと付着して成長する地衣類の生命力にはいつも感心させられます。すごいです。
岩に張り付いて成長する地衣類
子嚢菌とシアノバクテリアの共生体
地衣類は菌類(主に子嚢菌)とシアノバクテリアなど光合成ができる緑藻類との共生体ですが、シアノバクテリアは大気の二酸化炭素を有機物に変換し地球に酸素を供給した生命体として、特に地球温暖化が叫ばれる昨今は注目されるようになりました。

シアノバクテリアは二酸化炭素を有機物に変換すると同時に炭酸カルシウムとしても固定する能力も持っているとのことなのでさらに期待が高まっています。
シアノバクテリアによる有機物合成と炭酸カルシウムの形成
炭酸カルシウムはセメントでもあることから、シアノバクテリアは長い年月を経て自ら分泌した粘液で砂などを囲い込みストロマトライトと呼ばれる岩石を形成できるとのことです1)。シアノバクテリアによって形成されたストロマトライトは、成長増殖できる「生きている岩」とも呼ばれ、その成長速度は年に0.3mm程度と言われています。
生きている岩(ストロマトライト)とその岩石

 このシアノバクテリアの能力を生かした「生きているコンクリート」、「増殖するコンクリート」の開発が最近話題になっています。米国の研究者が成長の早いシアノバクテリア(synechococcus strain PCC 7002)を培養しそれに砂を混ぜて光合成を行わせ、生じた炭酸カルシウムをセメント代わりにして成形し、レンガ状のコンクリートを造ることに成功したようです2)。
砂と培地およびシアノバクテリア混合物から形成された「生きているコンクリート」
このコンクリートは自己増殖できるとのことですので、人間が開発した成長の早いストロマトライトということが出来るのかも知れません。今後さらに研究が発展することによって、建築資材等としての利用が可能になる見込みのようです。

ここで使用しているsynechococcus strain PCC 7002は、増殖が速いので遺伝子組み換えによるイソプレンやテルペノイド等の「有機合成のスターター」の生産を目指した研究もおこなわれているようです3)。

光合成のできる微生物は、光エネルギーを蓄積できる存在でもある訳なので、今後の利活用に期待が膨らみます。



参考)

1)山本 純之、磯崎 行雄:ストロマトライト研究の歴史と今後の展望、地学雑誌、122(5)、791-806(2013)

2)Chelsea M. et al.: Biomineralization and Successive Regeneration of Engineered Living Building Materials., Matter 2, 1-14(2020)

3)Fiona K. Davies et al.: Engineering limonene and bisabolene production in wild type and glycogen-deficient mutant Synechococcus sp. PCC 7002., Bioengineering and Biotechnology, 2, 1-11(2014)

2019年9月18日水曜日

岩手山焼走りの地衣類(環境指標生物)と宮沢賢治


9月7日の午後岩手山の焼走りに行って来ました。見渡す限りの溶岩流でした。
岩手山(9月7日)
「焼走り」と言う地名は岩手山が噴火した際に流れ出た溶岩により、あたり一面が焼き尽くされて形成された広大な岩だらけの原野(溶岩流)に因んで名付けられたようです。原因となった噴火は、サツマイモ栽培が奨励される要因にもなった「享保の飢饉」で有名な江戸時代の1732年に発生したとのことです。
岩手山焼走りの溶岩流
岩に付いた白い植物は地衣類
溶岩流の規模はその長さが最大4kmにも及び幅は約1kmあり、見学コースはその1kmの溶岩流を横断できるように配置され、終点には宮沢賢治の歌碑と展望台が設置されていました。宮沢賢治は溶岩流の風化の様子を観察するために度々この地を訪れていたようです。

賢治が焼走りに通っていた頃には、岩手山の噴火が1688年(貞享4年)に発生したとされ、その後235年を経ていると記載していますので、この歌碑の詩は賢治が27歳の時に書かれたものということになります。
岩手山焼走りに設置されている宮沢賢治の歌碑
賢治は、寂莫として一羽の鳥さえも見えない岩原は235年を経ても風化が進まず、2種類の苔のみが岩に張り付き乾燥しパサバサしているだけだと書き残しています。

賢治が溶岩流を眺めていた頃から100年の月日が流れていますが、噴火から287年を経た今でも風化はあまり進んでいないように見えました。アカマツやオオイタドリも所々に生えていますが、圧倒的に多く生えている植物は白い地衣類の「ハイイロキゴケ(stereocaulon vesuvianum)」のようです。ハイイロキゴケが生えた岩石には蘚苔類のシモフリゴケも時折見受けられました。
岩に生えたハイイロキゴケ(地衣類)とシモフリゴケ(蘚苔類)
地衣類は菌類と藻類の共生体ですが、人工的に設定した火星環境での生存試験も行われるなど、その生命力は圧倒的でありながら、大気が汚染された場所には生えないので環境指標生物としての側面も併せ持つ優れものでもあります。

 岩手山焼走り溶岩流の風化に地衣類がどのように関わるかについて興味を持ちました。たぶんハイイロキゴケ以外の地衣類も生えていることでしょう。地衣類は寿命が長いので、3.11東日本大震災に伴い生じた汚染物質の蓄積状況の把握にも役立つ可能性があり1)、今後焼走りの地衣類に関する研究が行われることも期待したいと思っています。

 賢治は苔に囲まれた石を見てパンを連想したようですが、ハイイロキゴケに取り囲まれた岩は、そういわれて見れば確かにパンに見えないこともないように感じました。
岩を覆ったハイイロキゴケ
残念ながら赤いリンゴは持参しませんでしたので、賢治のように岩原に座り強大な自然の力を感じ「うるうるしながら」食べることはできませんでした。

参考)
1)Savino F. et al.: Thirty years after Chernobyl: Long-term determination of 132Cs effective half-life in the lichen Stereocaulon vesuvianum (ハイイロキゴケ). J. Environ. Radioact. 172, 201-206(2017)

2019年6月28日金曜日

常願寺コースでの宝篋山登山             ーこならと桜の合体木ー


6月28日に筑波連山の宝篋山(461m)に登りました。前回は極楽寺コースを選択しましたので、今回は常願寺コースにしようと思い、10時30分に駐車場からスタートしました。

15分程度で田んぼ道を通り抜け山道に入りました。山道は木が覆い茂っていて僅かに木漏れ日がある程度で少し薄暗い印象でした。登山道ではイトトンボ等が飛んでいましたが写真は撮れませんでした。このコースにも極楽寺コースと同様に沢があり、沢沿いの山道は結構涼しかったのですが、沢を抜けると急な坂道になっていて汗だくになりました。尖浅間(とがりせんげん)の頂上(315m)には11時30分頃に到着しました。丁度1時間です。
常願寺コースの状況と尖浅間
沢道にはサワアジサイが咲いていました。またオオバギボウシ(山菜のウルイ)もそろそろ花を咲かせそうな気配でした。尖浅間の山頂付近にはキイチゴの実が赤く色づいていました。
サワアジサイ

オオバギボウシとキイチゴ

また、山頂の滑らかな木肌の樹木にはモジゴケが、岩にはヘリトリゴケが張り付いていました。
地衣類のモジゴケとヘリトリゴケ

尖浅間からの登山道が極楽寺コースと交差する地点までは約30分かかりました。尖浅間を出て少し歩いたところに2種類の樹木が合体したような形で伸びている「合体木」がありました。「こなら」と「さくら」の木がどういうわけかくっつきねじれた姿でそれぞれ対等に成長した樹木のようです。初めて見ました。どちらも元気なのでとても不思議です。夫婦円満のシンボルにようです。
こならと桜の合体木

合体木からしばらく歩くと草を刈りはらった広い林地がありました。山桜の森と呼ばれているようです。簡易なテーブルと椅子が設置されていたので休憩していたところヒカゲチョウが飛んできました。ここまで、ほとんど昆虫を見かけることはありませんでしたので、すこしほっとした瞬間でした。当たりを見渡すと大きな石がありました。その石には、ウメノキゴケがぽつんと付いているだけでした。
ヒカゲチョウと山桜の森

岩に着いたウメノキゴケ

その後、極楽寺コースにたどり着き、宝篋山の頂上には12時10分頃に到着しました。1時間40分で登頂できたことになります。頂上では3~4組の登山者が休憩をとっていました。結構女性の登山者が多いように感じました。健康維持のためのウォーキングコースとして人気なのかも知れません。頂上では、ツマグロヒョウモンとイチモンジチョウが飛んでいましたので写真を撮りました。
ツマグロヒョウモンとイチモンジチョウ

頂上からは小田城コースで下山しましたが、車を小田駐車場に止めていたため、途中から純平歩道を経て極楽寺コースに戻りました。この間、ホタルガに2度遭遇しました。また、純平歩道ではイボテングダケが道の真ん中にポツンと頭を出していました。キノコといえば秋が旬ですが何故こんなにも早く生えているのか少し不思議でした。
小田城コースの山道と見晴らし台

ホタルガ

イボテングダケ

その後、順調に下山し、田んぼ道に出たところでたくさんのシジミチョウに出会いました。道端に雑草がたくさん繁茂しているからのようです。下山では横道にそれたりしましたが、正味3時間の登山でした。
シジミチョウ類

宝篋山は下草がきちんと刈られており登山者にはとても良い環境になっており、健康のためのハイキングコースとしては手頃な山のように感じました。

次回は、北条の池からの登山コースにチャレンジしたいと思っています。

2019年3月16日土曜日

三神峯公園の梅の花



梅の花が咲いているかも知れないということで、3月10日午前中に三神峯公園に行ってきました。春のような陽気の中で、若者が数人トランペットやクラリネット、チューバ等の練習をしていました。家族連れも多く、子供達が賑やかにボールで遊んでいました。犬の散歩もあちこちに見られました。

三神峯公園には梅の木はそれほど多くありませんし、まだまだ小さい木ばかりなので、梅の花を見に来る人は希なのかも知れません。しかも、時期的に少し早かったのでなおさらです。運よく、二本の梅ノ木にそれぞれ一輪ずつ花が咲いていました。空振りをまぬがれホットしました。


名物の桜は4月にならないと咲きませんが、三神峯公園の桜の木はどれも大きくて風格があります。でも長い歴史があるので、枯れた枝を切断された桜も目立ってきました。古い桜の木にはどれにも地衣類のウメノキゴケとキウメノキゴケが付いています。


 公園内をしばらく散歩していたところ、足元から飛び立った虫が大きな木の根元に止まりました。ヤガ科の蛾でしょうか。緑のナミガタ模様がとてもきれいです。


この時期はやはり杉の花粉が気になります。三神峯公園の杉にも雄花が目立っていました。おそらく花粉は既に飛び始めているのでしょう。小学生のころ細い竹を使って、杉鉄砲を作った思い出があります。杉の雄花がようやく入るような穴の竹を切ってきて、紙鉄砲と同じように道具を作り、杉の雄花を唾で濡らして竹の筒に詰め、勢いよく押すとポーンと雄花が飛び出します。その音がいさぎ良く清々しく感じ今でも心に残っています。杉の雄花は皆ほぼ同じサイズなので、紙鉄砲より簡単で失敗することはほとんどありませんでした。


小さいころの思い出があるので、杉に対してかなり親近感を持っていたのですが、残念ながら私は30歳ころにスギ花粉症になってしまいました。小さい頃に杉花粉を舐めていた私は、経口免疫寛容によりスギ花粉症になりにくいはずなのですが、30歳頃に寛容の仕組みが強いストレス等によって破綻したのでしょうか。不思議ですね。


帰り路ではドングリの発芽とフキノトウに出会い、その上オオイヌノフグリの花がきれいに咲いていました。オオイヌノフグリの根本には越冬したアブラムシがいるのでしょうか。仙台でもそろそろ昆虫が活動し始める気配がしました。

2019年3月10日日曜日

イシクラゲ(藍藻)と火星農業



晴天だったので2月25日の午前中に太白山(標高320m)に登りました。平日でしかも冬なので登山者はいないのではないかと思っていましたが、年長者が結構散歩したり登山したりしていました。今回は長男も加わり3人での登山になりました。

 冬ということで、草花や昆虫は見つけることはできませんでしたが、木々から葉が落ち見晴らしの良い登山道の岩場にはたくさんの地衣類が付いていました。以前、自然観察の森で緑藻が共生した地衣類の写真をとりましたので今回は藍藻(シアノバクテリア)が共生した地衣類の写真を撮りたいとおもっていたところ、麓の神社付近の岩場で黒色の葉状地衣類を見つけました。後で調べたところ、シアノバクテリアが共生光合成生物(photobiont)になっているコウヤクゴケのようです。苔の生えた岩場に結構たくさん生えていました。
そのコウヤクゴケから少し離れたところに、黒い海苔状の物体を見つけました。後で調べた結果、乾いていてぶよぶよ感に乏しかったもののイシクラゲではないかと思っています。イシクラゲのぶよぶよしたジェリー状物質はシアノバクテリアのNostoc communeが生産した多糖類だということです。このジェリー状物質があるため、日照りによって藻体が乾燥し数か月たっても、雨が降れば再び水を吸収して生命活動を行うことができるとのことです。ちなみに、イシクラゲは日本でも食用にしていたようです。

イシクラゲの乾燥耐性に関する研究結果によると、乾燥耐性をもたらす要因としては乾燥物の6割~8割を占める細胞外多糖類に加えて、可溶性のトレハロースが乾燥に伴い増加すること、ゲル状物質中に抗酸化物質のスキトネミンさらには抗酸化酵素のSODが存在することなどが明らかになっています1)。イシクラゲは、乾燥した状態で100年間も生存可能だと記載されていましたので、驚きました。
以前、極限環境下での生育が可能な地衣類が宇宙生物学(アストロバイオロジー)で注目され、欧州宇宙機構が火星環境下での生存試験を実施していることについて記載しましたが、実はこのイシクラゲの構成菌であるシアノバクテリア(Nostoc commune)については、日本でも筑波大学を中心として火星環境下での生存試験などが行われていました2)。火星農業の初期導入生物として注目しているとのことです。

はやぶさ2号が2月22日7時48分リュウグウへの着陸に成功し、生命の起源の解明に関する研究の進展が期待されています。地球の人口は、今日3月10日19時00分現在75億3038万4700人を数えました。1年に7千万人(フランスやイギリスの人口より多い)増加しているとのことですので、未来の食料問題が大きな課題ですが、多くの可能性を求めて多様な方向への発展を期待しつつアストロバイオロジー研究を進めることも必要かな~と思っています。

今回の太白山登山の際に撮った地衣類の写真も以下に載せます。





参考)

1)Kaori Inoue-Sakamoto et al.: Characterization of extracellular matrix components from the desiccation-tolerant Cyanobacterium Nostoc commune. J.Gen.Appl.Microbiol., 64, 15-25(2018)

2)木村靖子ら:陸棲藍藻Nostoc. Sp. HK-01の食品としての機能と宇宙食素材としての利用の可能性. Eco-Engineering, 28(2), 43-51(2016)


2019年2月19日火曜日

地衣類は光ストレス・障害を受けにくい



地衣類は極地や高山、砂漠など他の光合成生物が生存できない低温環境、高度乾燥環境下で生育が可能だといわれています。そのため、宇宙生物学(アストロバイオロジー)の生物素材として注目されているようですが、地衣類が過酷な環境下で生き抜くことができるのは、エコシステムとも言える地衣体(子嚢菌類と緑藻類の共生体)を形成しているからなようです。地衣類の光合成を担う緑藻類は地衣化していない単独の状態では低温や乾燥下でその機能を失うとのことです。

地衣類が示す強い生命力の要因の一つは、地衣類が持つ光合成の仕組みにあるようです。でも、光合成についてはほとんど無知の状態なので少し勉強することにしました。

光合成を行う生物は、過酷な低温や乾燥に曝されると光合成が停止するそうです。でも、光合成が停止してもクロロフィルは青色や赤色を吸収して光エネルギーを獲得し続けるので、光ストレスによって光合成系が致命的なダメージ(光阻害)を受け回復不能に陥るとのことです。特に光化学系Ⅱ(PSⅡ)に対するダメージが大きいようです。また最近では、水から電子を引き抜き酸素を発生させる役割を担っている機能単位である「マンガンクラスター」が、強い紫外線によって障害を受けることが明らかになっているようです。

マンガンクラスターは、光エネルギーで活性化され電子を失ったクロロフィル2量体のP680に電子を供与するために、水から電子を引き抜く枠割を担っていますが、これに伴い水素イオンと酸素が生産されることになります。このマンガンクラスターは200nm~300nmの紫外線を吸収する性質を持っているので、紫外線による障害を受け易いことが分かったようです。この障害はクロロフィルによる光障害の前に生じるとのことで、光合成機能の保護の観点から重要なポイントになっていると考えられています。

地衣類では光合成の光阻害が起こりにくく、乾燥した地衣類に水を与えると速やかに光合成機能が回復するそうです1)。光阻害は、これまで強い過剰な光によって引き起こされる反応であるとされていたようですが、最近は弱い光であっても葉緑体でラジカルが形成されることが明らかになっています。このことから、光合成生物はそれらラジカルの消去システムを備えているという考え方が一般的になっているようです2)。例えば、ビオラキサンチンがアンテラキサンチンを経てゼアキサンチンにまで変化するキサントフィル経路は、過剰なエネルギーの放出系としての枠割を果たしていることが古くから明らかになっていますが、さらに新しい保護メカニズムに関する研究が盛んに行われています。

地衣類には光合成を停止させる作用を持つ化合物も存在しているようです3)。光合成を停止させる化合物は除草剤として利用できるとのことですが、もしかしたら乾燥や寒冷環境中で、それら光合成停止成分が光阻害から地衣類を保護しているのかも知れません。
まだまだ光合成に関する知識は十分ではありませんが、プラスチックより光劣化に対する耐性があり、光に曝され続けているにもかかわらず、100年から1000年も生育できる地衣類の不思議な力の源に興味を持ちました。


参考)
1)Kopecky, J., Azarkovich, M., Pfündel, E. E., Shuvalov, V. A., and Heber, U. (2005) Plant Biol. 7, 156. 
2)西山 佳孝:光化学系Ⅱの光阻害:光損傷と修復阻害メカニズム、光合成研究、23(2)、50(2913)
3)F.E.Dayan, et al.: Lichens as a Potential source of Pesticides., Natural Products,  Pesticide Outlood – December 2001, p229-232.


2019年2月13日水曜日

地衣類は火星で生存できるだろうか?



地衣類の中には、驚いたことに火星の環境でも生命を維持できる可能性の高い種類があるそうです。地衣類は少なくとも2種の生物体から構成される複合体(エコシステム)でもあり、「宇宙生物学(Astrobiology, Exobiology)」に適した生物素材として注目されているようです。

南極にも生える環境耐性に優れたアカサビゴケ(Xanthoria elegans)を欧州宇宙機関(ESA)がスペインの高山2000m付近で採取し、国際宇宙ステーションで18か月間火星の環境と類似した宇宙環境(地球低軌道高度)に曝した結果、地衣体を形成する緑藻では71%が、子嚢菌では84%が地球に帰還後にも生存していたとのことです1)。

宇宙空間は、真空、強紫外線、強放射線、強温度変化などの極限環境下にあるため、微生物はもちろんその胞子でさえもそれら障害要因を遮るバリアーとしての例えばバイオフィルム等を形成していなければDNAやタンパク質がダメージを受けるとのことです。

欧州宇宙機関が宇宙空間試験に用いたアカサビゴケは橙色ですが、その色素はパリエチンと呼ばれるアントラキノン類で、これまでに紫外線防護機能などが報告されていて、平地より高地に生育している個体でその含有量が高いとのことです。地衣類は一般的に表面の上皮層に紫外線吸収物質などを結晶が生成する程高濃度に蓄積しているため、紫外線や放射線の影響を防護する機能が高い生物であると言えるようです。火星や月における光合成や酸素の生産、有機物の生産などの研究に地衣類が役立つといいな~と思います。
宇宙における生命体の生存や伝搬に関する研究領域(アストロバイオロジー(宇宙生命学))は1997年10月にNASAアストロバイオロジー研究所の創設を機に始まったと言われているようですが、日本でも26機関が参画した「宇宙に漂う種をキャッチする「たんぽぽ計画」」が国際宇宙センターの日本実験棟「きぼう」で2015年5月から行われており、2016年から2018年までの3回、宇宙空間に曝した補集パネルや暴露パネルを回収する予定になっているようです2)。2016年に回収した一号機の補集パネルには0.1mm以上の超高速衝突痕が117個あり、それらの一部の解析結果が報告されていました。


いずれにしても、地衣類の生命力には興味を惹かれます。



参考)

1)Annette Brandt, et al.: Viability of lichen Xanthoria elegans and its symbiotants after 18months of space exposure and simulated Mars conditions on the ISS. Int. J. Astrobiology, 14(3), 4111-425(2015)

2)川岸明彦:生命の起源とパンスペルミア仮設の検証、国際宇宙ステーション暴露部たんぽぽ実験、日本地球化学会年会要旨集(2017年度)

2019年1月9日水曜日

地衣類の化学成分と地衣菌・藻類の共生



地衣類は菌類と藻類が共生関係をむすんでできた複合体とのことで、日本では1600種以上が確認されているそうです。昨年11月ごろから地衣類に興味をもって写真を撮っていますが、種の判別はとても難しいように思いました。でも、古くから化学成分を分類の手がかりとして利用している点がとてもユニークで好感を持ちました。
地衣類の化学成分の簡易検出法であるスポットテストはフィンランド生まれのWilliam Nylanderによって1866年に開発されたとされています。その後東京大学薬学部教授でノーベル化学賞候補としてノミネートされた経歴を持つ朝比奈博士によって、新たにパラフェニレンジアミンを用いるP-testやアセトン等の揮発性有機溶媒を用いる化学成分抽出と顕微鏡下での結晶観察法が導入され世界的に利用され現在に至っているようです。


地衣類の本体は黴や酵母に代表される子のう菌が98%を占め(子のう地衣類)、キノコでおなじみの担子菌が04%ある(担子地衣類)とのことですが、地衣菌は藻類と共生することで藻類が光合成によって生産する糖類を得ることができる訳で、藻類を働き手として囲い込んでいるようにも見えます。もっとも、藻類も地衣菌から水やミネラル、養分の提供を受けることができるので、お互い様ということになります。

 地衣類の働き手である藻類にとって、なぜ地衣菌の宿が居心地よいのかについては諸説あるようですが、光合成を行う生物の宿命である光酸化を地衣菌が様々な特殊成分合成を行うことによって緩和しているとする説が分かりやすいように感じています。地衣特有の成分が、日傘やラジカルスカベンジャーになり藻類を守ってあげるという考え方です。もっとも、地衣類に特有な成分の中には地衣菌と藻類がともに関わって合成されるものあるとのことなので、これもまたお互い様のようで、互いに依存性をしっかりと保っているとも言えます。

 地衣類が生産する化学成分の中で、これまでに最も注目された物質は朝比奈博士らが精力的に研究された黄色成分のウスニン酸のようです。ウスニン酸は多くの地衣類に含有されているとのことで、身近なキウメノキゴケでも結晶観察が可能なようです。ウスニン酸には抗ウイルス作用や殺菌作用の他に抗炎症作用や鎮痛作用が認められるとのことで、これまでに化粧品や口腔洗浄剤、歯磨き粉などに添加され役立ってきたようです。最近では痩身作用が話題になったようですが、急性肝炎の発症が疑われるなど経口摂取については安全性のさらなる確認が必要のようです1)。


 この他リトマス色素原料やオルセイン染料として、ウメノキゴケやナミウメノキゴケに含有されるレカノール酸が良く知られていますが、ウスニン酸と同様に多くの地衣類に含有されているアトラノリン(atranorin)にも抗炎症作用や抗菌作用、抗ウイルス作用があるとされて、その医薬利用等の活性化が期待されているようです2)。

 また、古くからオークモス香料としてツノマタゴケがヨーロッパを中心に利用されてきたようですが、ツノマタゴケにはエベルン酸やエベルニンが含有されており、これが分解されて香気成分になるとのことです。香気成分としては、オルシノールモノメチルエーテルなどが報告されていました。


  地衣類の成長は極めて遅いようで、ウメノキゴケでは年間3mm~8mm程度とのことです。これは細胞の半減期が長く、細胞の寿命が長いことを意味しているようにも思われます。細胞分裂に関するヘイフリック限界のテロメラーゼや長寿遺伝子サーチュイン(ヒストン脱アセチル化酵素)の話題が頭に浮かびます。菌類と藻類はかなり異なった生物ですので、共生することによって互いに細胞分裂を抑制しあっているのでしょうか。しかも、環境汚染に弱いにも関わらす、寒冷地という過酷な環境で苔類にも勝る生命力を維持できる鍵は何なのだろうと考えてしまいます。

 地衣類は不思議です。最近は試験管培養も行われ始めているので、化学物質の生産メカニズムとともに、「石の上にも3年」をはるかに超える生命力が生まれる仕組みを解き明かして欲しいと思っています。
 
参考)
1)Ingolfsdottir K.: Usnic acid., Phytochemistry, 61(7), 723-736(2002).
2)Studzinska-Sroka E.: Atranorin-An Interesting Lichen Secondary Metabolite., Mini Rev Med Chem., 17(7), 1633-1645(2017) 

太白山自然観察の森の地衣類観察



地衣類に興味を持ったので太白山自然観察の森に出かけ、それらしいものを手当たり次第に写真に撮り後で調べました。三神峯公園や笊川散歩道と異なり多様な種類が、枯れ枝や岩などに生えていました。苔類や地衣類がこれほど生えているとは思っていませんでした。採集やスポットテストは行っていないので種類の判別は困難でしたが、外見のみで分かりそうなものを選び推測してみました。

太白自然観察の森の入り口に「仙台市太白山自然観察の森」と刻まれた石柱がありますが、その石柱や周辺の岩に苔類や地衣類がたくさん生えていました。しかも、これまで見つけることの出来なかった樹状地衣類が生えていたのです。地衣類は外形すなわち生育形から樹状(fruticose)地衣類、葉状(foliose)地衣類、痂状(crustose)地衣類あるいは固着(crustose)地衣類などに分けられている場合が多いようですが、市街地の散歩コースには葉状地衣類や痂状地衣類・固着地衣類が多く、これまで樹状地衣類には出会っていませんでしたので感激しました。


石柱にはハナゴケ科のヒメジョウゴゴケが蘚苔類のホウオウゴケを押しのけるようにたくさん生えていました。また周りの岩にはヤリノホゴケやササクレマタゴケと推定される地衣類が生えていました。固着地衣類のイワクニイボゴケやヒメトリハダゴケと思われるものもありました。


さらに、地面に倒れて枯れた樹木にはセンシゴケやマツゲゴケと思われる葉状地衣類も生えていて、朽ちかけた樹木片にはモジゴケが少し剥がれながらもくっきりとした姿でくっついていました。入り口付近だけでたくさんの写真を撮ることができました。

その後太白山神社に向かいましたが、道沿いの広葉樹には固着地衣類が結構数多く生えていたもののモジゴケ以外は判別不能でした。またほとんど全部の杉の根本付近には同じような地衣類が生えていましたが、これも判別できませんでした。

太白山神社への参道には岩がたくさんありますが、そのほどんとに地衣類が生えており、その多くはヘリトリゴケやクロイボゴケのようでした。


太白山自然観察の森には多くの地衣類があるので、春にはまた写真を撮りに行きたいと思っています。苔類も豊富なので楽しみです。