2019年1月16日水曜日

青大豆に期待される保健機能


昨年は豆類を栽培したので、それらを正月定番の黒豆煮や紅花豆甘煮、虎豆甘煮、鞍掛豆の塩ゆでにしました。各300g程度を調理したのですが紅花豆甘煮と虎豆甘煮は家族によって順調に消費されたものの、黒豆煮と鞍掛の塩ゆでが三が日を過ぎても大分残ってしまいました。でもその後仙台に持ち帰り、夫婦二人の努力により製造日から二週間を経てようやくなくなりました。捨てられることなく全量消費されホットしました。今は、懲りずに次回の調理についてあれこれ考えを巡らせています。

 今年は、青大豆の収穫量がトップで2.27㎏でした。次いで紅花豆が1.64kg、虎豆が1.54㎏、鞍掛豆が1.44㎏です。品質があまり良くないので、今のところ全て自家消費に回すつもりです。
 青大豆が多いので少し調べて見たところ、当たり前ですが、黄大豆にないクロロフィルが含まれているとのことです。また、クロロフィルによる光合成に伴う光酸化を防護するためのカロテノイド、さらにビタミンEの中で最も抗酸化力の強いγ-トコフェロールが黄大豆に比べてかなり多いことが分かりました。

 さらに最近、青大豆抽出液には免疫系や認知機能に良い影響を与える作用がありそうだということが分かり、具体的には抗アレルギー作用1)や神経突起の進展作用2)などが報告されていました。まだ、関与成分は特定されていないようですが、なぜ青大豆でそのような作用が特に強くでるのか不思議で、興味津々です。大豆加工食品が好きで頻繁に食べている一人として応援したいと思いました。

 大豆の保健的な効果については、これまで多くの研究報告があって世界的に認められているのですが、一昨年(201710月)、米国のFDAが自国のヘルスクレームとして認めていた「大豆タンパク質の心疾患予防作用:Soy Protein and Risk of Coronary Heart Disease」について、取り下げたいので国民からコメントを求めるとの声明を出しました3)。驚きました。まだ、結果報告が出ていないようですが少し心配です。

 さらに米国のFDAは昨年(20189月)、乳製品ではないにも関わらず乳製品コーナーで販売されている植物由来のミルクやヨーグルト、チーズ、例えば豆乳(soy milk)、ココナッツミルクなどの名称を刷新(modernizing)したいので、意見募集(request for information(RFI))をすると発表しました4)。ミルクやヨーグルト、チーズなどの言葉は乳製品のみに使用するとの方向のように思われますが、日本では豆乳などの用語はかなり浸透しほとんど違和感がないので、この発表に違和感を持ちました。どうなるのでしょうか。

 ヨーロッパの欧州食品安全機関(EFSA)の動きにも注目したいと思いました。

参考)
1)今井 伸二郎:青大豆抽出液の機能性について., 日食化誌、61(12)625-6312014)
2)Pervin M., et al. : Improvement in Cognitive Function with Green Soy bean Extract May Be Caused by Increased Neuritogenesis and BDNF Expression., J. Food Proc. Tech., 8(10), 1-5(2017).
3)https://www.regulations.gov/docket?D=FDA-2017-N-0763
4)https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/
PressAnnouncements/ucm621824.htm


2019年1月9日水曜日

地衣類の化学成分と地衣菌・藻類の共生



地衣類は菌類と藻類が共生関係をむすんでできた複合体とのことで、日本では1600種以上が確認されているそうです。昨年11月ごろから地衣類に興味をもって写真を撮っていますが、種の判別はとても難しいように思いました。でも、古くから化学成分を分類の手がかりとして利用している点がとてもユニークで好感を持ちました。
地衣類の化学成分の簡易検出法であるスポットテストはフィンランド生まれのWilliam Nylanderによって1866年に開発されたとされています。その後東京大学薬学部教授でノーベル化学賞候補としてノミネートされた経歴を持つ朝比奈博士によって、新たにパラフェニレンジアミンを用いるP-testやアセトン等の揮発性有機溶媒を用いる化学成分抽出と顕微鏡下での結晶観察法が導入され世界的に利用され現在に至っているようです。


地衣類の本体は黴や酵母に代表される子のう菌が98%を占め(子のう地衣類)、キノコでおなじみの担子菌が04%ある(担子地衣類)とのことですが、地衣菌は藻類と共生することで藻類が光合成によって生産する糖類を得ることができる訳で、藻類を働き手として囲い込んでいるようにも見えます。もっとも、藻類も地衣菌から水やミネラル、養分の提供を受けることができるので、お互い様ということになります。

 地衣類の働き手である藻類にとって、なぜ地衣菌の宿が居心地よいのかについては諸説あるようですが、光合成を行う生物の宿命である光酸化を地衣菌が様々な特殊成分合成を行うことによって緩和しているとする説が分かりやすいように感じています。地衣特有の成分が、日傘やラジカルスカベンジャーになり藻類を守ってあげるという考え方です。もっとも、地衣類に特有な成分の中には地衣菌と藻類がともに関わって合成されるものあるとのことなので、これもまたお互い様のようで、互いに依存性をしっかりと保っているとも言えます。

 地衣類が生産する化学成分の中で、これまでに最も注目された物質は朝比奈博士らが精力的に研究された黄色成分のウスニン酸のようです。ウスニン酸は多くの地衣類に含有されているとのことで、身近なキウメノキゴケでも結晶観察が可能なようです。ウスニン酸には抗ウイルス作用や殺菌作用の他に抗炎症作用や鎮痛作用が認められるとのことで、これまでに化粧品や口腔洗浄剤、歯磨き粉などに添加され役立ってきたようです。最近では痩身作用が話題になったようですが、急性肝炎の発症が疑われるなど経口摂取については安全性のさらなる確認が必要のようです1)


 この他リトマス色素原料やオルセイン染料として、ウメノキゴケやナミウメノキゴケに含有されるレカノール酸が良く知られていますが、ウスニン酸と同様に多くの地衣類に含有されているアトラノリン(atranorin)にも抗炎症作用や抗菌作用、抗ウイルス作用があるとされて、その医薬利用等の活性化が期待されているようです2)

 また、古くからオークモス香料としてツノマタゴケがヨーロッパを中心に利用されてきたようですが、ツノマタゴケにはエベルン酸やエベルニンが含有されており、これが分解されて香気成分になるとのことです。香気成分としては、オルシノールモノメチルエーテルなどが報告されていました。


  地衣類の成長は極めて遅いようで、ウメノキゴケでは年間3mm~8mm程度とのことです。これは細胞の半減期が長く、細胞の寿命が長いことを意味しているようにも思われます。細胞分裂に関するヘイフリック限界のテロメラーゼや長寿遺伝子サーチュイン(ヒストン脱アセチル化酵素)の話題が頭に浮かびます。菌類と藻類はかなり異なった生物ですので、共生することによって互いに細胞分裂を抑制しあっているのでしょうか。しかも、環境汚染に弱いにも関わらす、寒冷地という過酷な環境で苔類にも勝る生命力を維持できる鍵は何なのだろうと考えてしまいます。

 地衣類は不思議です。最近は試験管培養も行われ始めているので、化学物質の生産メカニズムとともに、「石の上にも3年」をはるかに超える生命力が生まれる仕組みを解き明かして欲しいと思っています。
 
参考)
1)Ingolfsdottir K.: Usnic acid., Phytochemistry, 61(7), 723-736(2002).
2)Studzinska-Sroka E.: Atranorin-An Interesting Lichen Secondary Metabolite., Mini Rev Med Chem., 17(7), 1633-1645(2017) 

太白山自然観察の森の地衣類観察



地衣類に興味を持ったので太白山自然観察の森に出かけ、それらしいものを手当たり次第に写真に撮り後で調べました。三神峯公園や笊川散歩道と異なり多様な種類が、枯れ枝や岩などに生えていました。苔類や地衣類がこれほど生えているとは思っていませんでした。採集やスポットテストは行っていないので種類の判別は困難でしたが、外見のみで分かりそうなものを選び推測してみました。

太白自然観察の森の入り口に「仙台市太白山自然観察の森」と刻まれた石柱がありますが、その石柱や周辺の岩に苔類や地衣類がたくさん生えていました。しかも、これまで見つけることの出来なかった樹状地衣類が生えていたのです。地衣類は外形すなわち生育形から樹状(fruticose)地衣類、葉状(foliose)地衣類、痂状(crustose)地衣類あるいは固着(crustose)地衣類などに分けられている場合が多いようですが、市街地の散歩コースには葉状地衣類や痂状地衣類・固着地衣類が多く、これまで樹状地衣類には出会っていませんでしたので感激しました。


石柱にはハナゴケ科のヒメジョウゴゴケが蘚苔類のホウオウゴケを押しのけるようにたくさん生えていました。また周りの岩にはヤリノホゴケやササクレマタゴケと推定される地衣類が生えていました。固着地衣類のイワクニイボゴケやヒメトリハダゴケと思われるものもありました。


さらに、地面に倒れて枯れた樹木にはセンシゴケやマツゲゴケと思われる葉状地衣類も生えていて、朽ちかけた樹木片にはモジゴケが少し剥がれながらもくっきりとした姿でくっついていました。入り口付近だけでたくさんの写真を撮ることができました。

その後太白山神社に向かいましたが、道沿いの広葉樹には固着地衣類が結構数多く生えていたもののモジゴケ以外は判別不能でした。またほとんど全部の杉の根本付近には同じような地衣類が生えていましたが、これも判別できませんでした。

太白山神社への参道には岩がたくさんありますが、そのほどんとに地衣類が生えており、その多くはヘリトリゴケやクロイボゴケのようでした。


太白山自然観察の森には多くの地衣類があるので、春にはまた写真を撮りに行きたいと思っています。苔類も豊富なので楽しみです。

2019年1月8日火曜日

収穫した豆類の正月料理と越冬テントウムシ


今年は岩手で長男家族とともに無事正月を迎えることができました。正月には黒豆の煮物が定番だと思いますが、昨年は様々な豆類を収穫したので、独断でそれらを煮豆にして食べてもらうことにしました。

紅花豆や虎豆、黒豆、鞍掛豆などは他の豆類ともども品質に問題はあるものの、収量が2㎏を超えていたので、とりあえずインターネットの情報をたよりにして300gずつ煮豆にしてみました。

もっとも評判の良かったものは虎豆の甘煮で、これは来年も栽培にチャレンジする価値があるなと思いました。花豆の甘煮は当たり外れが大きかったものの、肉厚なものは美味しかったので、来年は状態の良い豆の収穫を目指したいと思っています。


 鞍掛豆の塩ゆでは枝豆と同じような食感で、他の豆に比べると虫による食害などはほとんどなく栽培も楽なように思いました。黒豆は購入した「おせち」の煮豆とは大分異なり、しわだらけで硬い食感になり調理の難しさを実感しました。残念です。


 ともあれ家族の意見は聞くこともなく、今年も趣味と実益を兼ねて豆栽培に挑戦することにしたいと思っています。昨年は予定通りたくさんの失敗を経験しましたので、今年は様々作戦を練って楽しみたいと思っています。

 昆虫については、いつも気にかけて探しているのですが、例によってクサギカメムシが家の中に侵入していました。困ったものです。年末に親戚のログハウスで、室温を高くするとテントウムシがたくさん出るというので、それを採集してもらいました。

 1日の暖房により採集されたテントウムシは34匹で、そのほとんどがナミテントウでした。その中に1匹だけカメノコテントウが混じっていました。ナミテントウの3倍の大きさです。初めてみたので驚きました。

 ナミテントウは、その斑紋から二紋型と四紋型、紅型、斑型の基本形に分類できるとのことでしたので、それに従って分けてみました。その結果、二紋型が25匹で73.5%、紅型が6匹で17.6%、四紋型が2匹、斑型が1匹の結果でした。


 ナミテントウは地球温暖化に伴い黒地の多い二紋型の比率が増加しているとのことですが、これまでの調査では二紋型と紅型がほぼ同程度であるとの報告1)が多いので、それらとは異なる結果になっていました。チャンスがあれば、何度か再調査したいと思っています。



参考

1)野村ら:テントウムシ集団の遺伝学的研究、京都産業大学総合学術研究所所報、3131-148(2005)