2017年9月5日火曜日

複眼カメラと光による害虫防除

 トンボの写真を撮りました。仙台市の天沼公園の小さな沼には鴨が数羽陣取り、その周りをコシアキトンボや珍しいイトトンボがたくさん飛んでいました。719日のことですので大分前になります。


 “トンボのメガネは水色メガネ”と良く歌われますが、どのトンボもメガネをかけていると勘違いするほど大きな目玉をしています。この目玉は小さな目玉(個眼)がたくさん集まった複眼と呼ばれる構造になっていて、トンボでは個眼が2万個前後集まっているようです。イエバエでは6,000個、ミツバチでは4,0005,000個、アリでは100600個の個眼がそれぞれの複眼を構成しているようで、トンボの目玉の固眼の数がダントツに多いようです。

 トンボなど空を飛ぶ多くの昆虫はこの複眼で獲物を探し捕まえています。人間の単眼に比べ、昆虫の複眼は全方位をカバーし、かつ個眼が捉えた映像への素早い対応が可能であるため動体視力に優れていると言えるようです。個眼の視力はモンシロチョウで0.02、ミツバチで0.01程度と人間には遠く及ばないようですが、全方位を感知して素早く対応するこの能力は魅力的であり、昆虫の能力に触発された複眼カメラ(artificial compound eyes)の開発が行われています。


 複眼カメラ(センサー)の開発は、日本では大阪大学が“TOMBO”の愛称で実施しています1)。一方、ヨーロッパでは200万ユーロの予算で2009年から2013年度まで“CURVACE”という名称で集中的に取り組んだようです。また、米国でも2006年頃から研究成果の発表が行われ、最近はイリノイ大学が開発したシステムが話題になっています2)

 開発された数センチ程度の複眼カメラは、昆虫のように広い視野を持ちかつ素早い対物反応が可能になることから、交通システムにおける自動運転安全装置への取り付け、各種ロボットの眼や監視用のカメラとして活躍するものと思われます。

 一方、農業分野でも昆虫の視覚機能の詳細を理解することは重要であり、その特性を考慮した病害虫防除への取り組みが行われてきました。歴史的に見ると水田における430nm単色光を用いた青色誘蛾灯の普及、果樹栽培における580nmの黄色蛍光ランプの普及、ホウレンソウ栽培における緑色光の導入などが行われ成果を上げてきましたが、最近では、昆虫の紫外線感知能力に着目した防除も可能になりつつあるようです。消費電力の少ないLEDの利用も可能になったので、光を利用した病害虫防除技術は、農薬への依存を低減する技術として、さらに進展するものと期待されています。


 参考)

1)谷田 純:光学、39(7)313(2010)
2)Young Min Song et al.: Nature 497,  9599 (2013)
3)農研機構:光を利用した害虫防除のための手引(2014年)

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