これまで見たことのないユニークな姿の“キノコ”が眼にとまりましたので、思わずシャッターを切りました。あとで調べてみたところテングダケのようです。残念ながら毒キノコのようですが、小さなものから枯れかかったものまで、家族全員が揃っている感じでした。テングダケの他にも、初めて遭遇したキノコがたくさん生えていたので写真を撮りあとで調べてみましたが、サルノコシカケやキタマゴタケ以外は良くわかりませんでした。キノコを見分けるには相当の経験が必要なようです。テングダケとイボテングダケを見分けるのも難しいです。
面白いことに、このイボテン酸はハエ取りにも使用できるとのことです。実は、昔から東北地方の農家などではハエを誘って死なせる“ハエトリタケ・ハエトリキノコ”が使われていたそうで、中でも“ハエトリシメジ”が有名だったようです。テングダケ類にもおなじ作用があることは知られていたものの、こちらは毒キノコということで、食用にしていたハエトリシメジが人気だった訳です。
このハエトリシメジの有効成分に関する研究は1954年から開始されています2)。ハエトリシメジをハエがなめると直ぐに飛べなくなり、30分ぐらいで死んでしまうということですから、極めて速効性のある殺虫成分であると言えます。ハエトリシメジの殺虫成分は、イボテン酸とともに学会誌に掲載され1)、ハエトリシメジの属名のTricholomaに因んでトリコロミン酸(Tricholomic acid)と命名されています。トリコロミン酸はグルタミン酸から生じ、次いでトリコロミン酸からイボテン酸が合成されますので、両者の化学構造は類似しており、トリコロミン酸もうま味を示すということです。でも、人間に対する毒性はイボテン酸より低いため、ハエトリシメジを食べることができた訳です。但し、現在はハエトリシメジに対しても、一度にたくさん食べないようにとの注意が行われています。
イボテン酸とトリコロミン酸は、生体ではグルタミン酸と同じ働きをし、脳では交換神経の受容体と結合して活性化し、舌ではうま味レセプターと結合してうま味を示すということになります。これら両成分の毒性が不明であるため、まだ利用することはできませんが、キノコの不思議の一端に触れたような気がします。
参考)
1)竹本常松ら : 薬学雑誌、84、1230 (1964)
2)大矢富二郎:日応動昆誌、3(1)、43(1954)
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