2017年11月28日火曜日

秋の日の仙台散歩とジャガイモ常在菌


散歩に出てみると、定禅寺通りのケヤキの葉がかなり落ち、そろそろ光のページェントの準備が始まりそうな気配です。西公園の紅葉はまだまだ奇麗に色づいたままですが、人影はまばらでした。


でも久しぶりの晴天の中、地下鉄入り口の屋根に鳩が集まり日光浴をしていました。西公園の猫も日向ぼっこです。広瀬川の白鷺は枯れた雑草をしり目に透き通った水の流れに鋭い目を向けています。いつの間にか、仙台もだいぶ寒くなりました。


もう今年の畑仕事は終わってしまいましたが、ジャガイモの病気についてほとんど無知であったことを反省しています。私が収穫したジャガイモの中にはそうか病になっているものが結構ありましたし、収穫時に腐敗していたものもありました。今年の種芋には、昨年同じ畑で栽培・収穫して食べ残した小さなサイズの芋をそのまま切断せずに使用したのですが、そもそも、そうか病などの病気の有無を点検せず、無選別のまま植えてしまったことが収量減を招いた原因の一つのように思っています。私のような初心者は購入した種芋を植えるのが一番かも知れません。

ジャガイモにも多くの病気があることを知りましたが、無農薬栽培をしていますので、ジャガイモの抵抗力を高める方法について知りたいと思い、葉や根にいる常在菌について調べてみたいと思いました。人間でも納豆菌や乳酸菌を食べると腸内細菌叢が改善し体調が良くなると言われているからです。

人間の腸内細菌に関する研究が、次世代シーケンサーによる遺伝子配列解読の高速化に伴い急速に進展しました。その結果の一つとして、ヒトの腸内細菌叢は、ファーミキューテス門、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門に分類され、その内全体の80~90%を占めると言われているファーミキューテス門とバクテロイデス門の比率が肥満と痩身に関与するとの報告が行われ注目を集めているようです。でも、肥満に関与すると推定され恐れられているファーミキューテス門には、これまで善玉菌とされてきた納豆菌や乳酸菌が属するので、さらに詳しい検討が行われているようです。結果が楽しみです。


この細菌分布の解析技術は、土壌や植物などあらゆる環境微生物の解明に貢献し始めており、ジャガイモでもその葉面と内部、根圏と根の内部に存在する細菌の分布に関する研究が行われていました。


ジャガイモの葉面にはバシラス属菌が多く付着し葉内部にも最も有名なバシラスサブチルスがエンドファイト(体内細菌)として存在するようです。この菌は、野菜の灰色カビ病やうどんこ病への微生物農薬として既に利用されている種類であり、ジャガイモ葉での耐病性にも関与しているのでしょう。

また、根の周りの土壌(根圏)や根の内部にはシュードモナス属の菌が常在菌として分布しており、これらのうちP. fluorescensは日本においてレタスの腐敗病やキャベツ黒腐病に対する微生物農薬として登録されているようです。また根の内部に多く生息するP. putidaは有機物の分解能力が高くタンカー事故などで流出した原油の分解に有効であることから、1981年には米国特許微生物第1号として正式に許諾されたことで良く知られているグループのようです。この細菌がジャガイモの根の内部でどのような役割を担っているのか知りたいと思いました。

参考)
1)三好真琴ら:静脈経腸栄養,28(4),92013)
2)Cabriele B. et al. : FEMS Microbiology Ecology, 51, 215(2005)

2017年11月15日水曜日

ジャガイモのソラニン情報


今日の仙台は快晴です。近くの笊川を散歩したところナス科の「ワルナスビ」が花をつけていました。水がよどんで少し深くなっているところで、尾びれが白くなった鮭が2匹泳いでいました。良く見ると川底に2匹の死骸が沈んでいました。笊川にも鮭が上ってくるんですね。でも、少し悲しい気分になります。泳いでいる鮭も、ここでまもなく一生を終えるからです。

ジャガイモのソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドに関する信頼できる情報は農水省消費安全局が提供していました1)

この情報をもとにして、小学1年生(男子平均体重23kg)が苦味のあるジャガイモをどの程度食べると中毒症状がでるのかを計算してみました。但し、グリコアルカロイドに対する年齢による感受性の差異は不明なので、症状のでる量を1mg/kgFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA))にしています。

苦味のあるジャガイモのグリコアルカロイド含有量は2580mg/100gで、かなり幅があります。そのため、中毒症状のでる苦いジャガイモの摂取量も2992gとなり、小ぶりの苦いジャガイモだと1/3から1個ということになります。かなり苦い場合は1/3程度を食べても症状がでる可能性があることになる訳です。でも、芽をえぐり取り、皮を少し厚く剥けば事故は防げるものと思いますが、学校などでは苦いジャガイモは廃棄が一番ということになります。同じようにジャガイモの葉で計算すると、小学1年生では2399gの葉を食べると症状の出る可能性があることになります。

でも、当然のことですがジャガイモは世界の主要な食料であり基本的には安全なものです。私たちが毎日食べている食塩でも、いっきにたくさん食べると大変なことになります。食べる量がその食品の安全性を左右しているということになります。

人間にとっては、ジャガイモのソラニンなどグリコアルカロイドはあまりない方が安全である訳ですが、ジャガイモにとっては生存戦略物質の一つのようです。米国では、コロラドハムシという昆虫がジャガイモの害虫として恐れられていますが、グリコアルカロイドはこの昆虫に対する防御物質で含有量の高い品種は被害が少ないとのことです。

またジャガイモの表面に茶色のスポットができる「そうか病」に対してもグリコアルカロイドが抵抗性を示すとのことで、グリコアルカロイドの多い品種であるメークインは、グリコアルカロイドの少ない男爵やキタアカリよりもそうか病になりにくいとのことです。私の畑でもメークイン以外のジャガイモがそうか病になってしまいました。


しかし、こうしたジャガイモの生存戦略を打ち破る病原菌もいるようです。ジャガイモ腐敗病菌(Erwinia afrosepfica)とジャガイモ疫病菌(Phytophthora infesfans)は、グリコアルカロイドから糖を遊離させる酵素を生産することができるので、ジャガイモの葉に容易に感染することができるようです2)。生物それぞれの生きるための戦略には興味がつきません。

 参考)
1)食品中のソラニンやチャコニンに関する詳細情報:http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/solanine/
2)Robert M. Zacharius, et al. : Phys. Plant Path., 6, 301(1975)


 

2017年11月7日火曜日

ジャガイモソラニンの苦味とカフェインの苦味


今は、もう何十年も苦いジャガイモに出合ったことはありません。子供の頃、皮が青くなっているのを知らずに食べた茹でジャガイモの苦さに驚いたことを覚えています。苦い味というより、むしろえぐい味で飲み込む時に強い不快感があったように思います。ずーと前のことなので、その感覚は不明瞭ですが、もう一度体験してもいいと思うような味ではありませんでした。

苦味の原因物質はソラニンやチャコニンなどのグリコアルカロイドであると言われているので、どの程度の苦さなのかを知りたいと思い調べてみました。

カナダの研究者が調べた少し古い(1985年)文献1)によると、ソラニンやチャコニンは「カフェイン様の苦味」と「収れん性の痛み感覚(astringent pain sensation)」を示すと記載されています。ソラニンの苦味の強さはカフェインの4倍だったようです。意外にも、苦味や収れん味は名前が良く知られているソラニンよりもチャコニンの方が強くて、チャコニンを4倍に薄めるとソラニンと同等の苦味になるようです。つまり、チャコニンはカフェインの16倍の苦味強度ということになります。



また、チャコニンにチャコニナーゼという酵素が作用して、糖が1分子離脱したβ2-チャコニンが生じると、収れん味はもとのチャコニンより2倍強くなるということなので、β2-チャコニンの収れん味が最も強いことになります。

一方、ソラニンとチャコニンから糖鎖が完全にとれたものはソラニジンと呼ばれていますが、このソラニジンの苦味はソラニンとほぼ同等のようです。しかし、収れん味はなくなるとのことですので興味深いです。収れん味の方が苦味よりも嫌な感覚なので、ソラニンやチャコニンから糖鎖を完全に除く処理が味質の改善に役立つように思いました。糖鎖を離脱させる酵素に興味を持ちました。

ところで食品の味について調べて見ると、甘味や旨味、酸味には甘味度や旨味度、酸味度などのようにそれぞれ味の強さを示す単位があるようです。でも、苦味にはその単位がありません。

かなり古い時代にさかのぼって調べて見ると、1949年にハーバード大学の心理物理学者であるBeebe-Center J.G.Sが甘、塩、酸、苦の四基本味の強さの単位に関する論文を出しています2)Gust(ガスト)という単位で四基本味の強さをそれぞれ計測して総合点で評価する方式で、当時はそれなりに注目されていたようです。日本でも慶応大学のK. Indow先生が味の素()との共同で四基本味の強度をタウ(τ)スケールを用いて測定する方法を報告(Psychophysics, 56,347(1969))していますが、このような複数の基本味を共通の単位で示す方法の開発は興味深いのですが、その後途絶えているようです。

 Beebe-Centerが「ガスト(gust)」の単位を提案したのは、同じハーバード大学の実験心理学者として著名なEdwin G. Boringが学術本(Sensation and Perception in the History of Experimental Psychology)を出版(1942年)して間もない時期で、これに掲載された表が下敷きになって「味の舌マップ」がどこかで提案され世界中で認知され始めるなど、食品の味に対する関心がかなり高まっていた時代だったのだろうと想像しています。

 その後「味の舌マップ」は分子遺伝学の発展による舌上の味覚受容体の発見とその分布様式の解明などにより否定され3)、四基本味には旨味が追加されて、基本的な味は五種類になるなど味覚や嗅覚に関する科学的な知見は急速に深まっています。しかしながら、これら五つの基本味全部について、その強度を示す単位はまだ定まっていません。

甘味度については、人工甘味料の開発が活発に行われましたので、ショ糖の甘味度を1として比較する方法が世界的に使用されることになり、舌上の甘味受容体も一種類であることから矛盾はほとんど生じていないようですが、26種類の受容体が対応する苦味に共通する単位を決めるのは大変だろうと思います。


辛味も、トウガラシのカプサイシンとワサビのアリルイソチオシアネートでは舌上の受容体が違うため、激辛ブームへの対応としてスコヴィル辛味単位が唐辛子専用として使用されている状況になっているようです。

最近は、味覚センサーが多用されるようになってきていますので、このセンサーが受容する刺激の強さで五つの基本味や総合的な味の強度・単位が表現されることになる可能性もあります。むしろ、こちらが現実的なのかも知れません。

皮が青くなったジャガイモの味が本題ですので、実際に生のままかじってみました。年のせいか苦味はあまり感じません。ただ、舌先がヒリヒリしています。舌の細胞膜にサポニンとしての特性を持つソラニンとチャコニンが侵入したのでしょうか。飲み込むのは遠慮しました。

参考)
1)A. Zitnak et al.: Can. Inst. Food Sci. Technol., 184, 3371985
2)Beebe-Center, J. G. S. et al.: J. Psychology, 28, 411(1949)
3)J. Chandrashekar, et al.: Nature, 444(16)288(2006)



2017年11月1日水曜日

テントウムシとカメムシの越冬準備

   10月末の岩手の朝夕はかなり冷えます。でも日光が当たる場所は明るく暖かく感じます。27日は台風22号の影響で沖縄は暴風雨のようでしたが、岩手は晴れ、昼頃には家の壁をたくさんのカメムシとともに小さなテントウムシがよじ登っていました。今回は、29日の夕方新幹線で仙台に戻りました。

晴天で「日向ぼっこ」をしたくなるような天候の中、白い壁に張り付いた風変わりなカメムシが2匹いたので写真を撮り、後で調べたところ「ヨツモンカメムシ」であることが分りました。体の中央付近にも黒点があるので、もしかして五つ紋カメムシというのもあるのではないか、と思い調べましたが、良く見ると角ばった肩の下にある三角形の体表には3個の黒い点があるものの、名付けの原因になっている4個の黒点より明らかに淡いものでした。この3個の淡い点は、地域特有のもの(エコタイプ?)かもしれません。ネットで公開されている他の写真を見ると淡い点が無いものもありました。


ヨツモンカメムシは夏季にはニレの木などで樹上生活をしているので見かけることは少なく、晩秋に樹木から降り越冬の準備をする際に良く見つかる種だと言われているようです。

山から下り、壁の白いモルタルにつかまっていた2匹は「つがい」なのだろうか、どこで越冬するのだろうか。夕方にはもういませんでした。人間に例えれば老夫婦には見えませんでしたが、待っている過酷な越冬生活を想像してしまいます。命をつなぐ営みに感動を覚えます。

今まで相当気にかけて探したにも関わらず、あまり出会うことのなかったテントウムシが数十匹の集団となり壁をよじ登っていました。ジャガイモ畑にいたオオニジュウヤホシテントウより小ぶりで、二つ星、四つ星、赤星、黒星など様々な外見をしています。どれもナミテントウのようです。ナミテントウはイギリスを中心に、ハーレクインテントウ(Harlequin ladybird:道化師テントウ)と呼ばれ、日本から来た地上最強の侵入テントウムシ(the most invasive ladybird on Earth)であると言われています。発見報告を集めている大学があるぐらい恐れられているようです1)。日本では益虫なのに、かわいそうな気がします。


ハーレクインテントウとイギリスで名付けられた理由の一つは、その外見の模様がイギリス伝統のチェック(市松模様)になっているからだそうです2)。しかもそのパターンは100種以上あり極めて多様です。日本から侵入したハーレクインテントウ(道化師テントウ)はデビル(悪魔)扱いで、イギリス在来のナナホシテントウは天使扱いなのでその落差が際立ちます。天使を悪魔が駆逐するのではないかという恐れからなのでしょうか。

でもイギリス人は、バッキンガムチェックで知られているように市松模様が好きなようですので、ハーレクインレディーバードという響きには、愛情が込められているように感じてしまいます。イギリス人はたぶんテントウムシそのものが好きなんだろうと思います。ちなみに、2020年の東京オリンピックのエンブレムは市松模様で、市松模様は日本でも伝統的な模様なのでややこしいです。



これらのテントウムシは越冬のため、日の当たることのない温度変化の少ない樹木や壁の北側の隙間に集まるとのことなので、今年は是非テントウムシ越冬隊も探してみたいと思っています。

晩秋の岩手の畑の花に集まる「ハナアブ類」は動きが比較的鈍かったので、私でも写真は撮り易いと感じましたが、蝶々はジッとしていませんでした。数羽に遭遇したので、慌ててシャッターを切りました。それぞれ一羽のキチョウとベニシジミ、キタテハ、それにキタテハより少し小ぶりで、キタテハとヒョウモンチョウとベニシジミが混ざったような感じの蝶々の写真を撮りました。かなり翅が傷ついているので、見分けがつきません。少しかわいそうですが、自然はとどまることなく移り変わります。もう蝶々には寒すぎると思います。


いよいよ本格的に寒くなるのでブルーベリーの木に冬囲いをしたいと思っています。

 参考)
1)http://www.harlequin-survey.org/:(2015220日更新)
2)http://www.arkive.org/harlequin-ladybird/harmonia-axyridis/