2017年12月25日月曜日

スベリンの高生産植物による炭酸ガス低減


クリスマスの今朝は太陽が出ていたものの風がとても強く、午後には雲が出てかなり寒くなりました。空港では欠航便が、各地には大雪警報が出ているようです。

本年度の米国科学技術ブレークスルー賞に京都大学の森教授が「小胞体ストレス」に関する研究成果を評価されて選ばれたとのニュースが123日に流れました。この賞はグーグル創業者やアップル会長、ツイッター創業者などの著名人が創設したもので、その即時性とともに受賞者一人一人がノーベル賞の2倍以上の賞金をもらえるとのことで話題になっています。

森教授はノーベル賞候補として、ここ数年名前が良く出ていましたので順当な受章のように思いましたが、同時にカリフォルニア州サンディエゴにあるソーク研究所の植物学者ジョアン・チョリー(Joanne Chory)も受賞されており、初めてその業績を知りました。

彼女の受賞は「光による成長を制御するステロイドホルモンのブラシノライドに関する研究」によるもののようです。彼女の研究成果は、光エネルギーを効率的に化学エネルギーとして蓄積する仕組みとしての植物の細胞構造や生育・成長の最適化を可能にするものであるとして評価されたようです。

Chory博士はこれまでの研究成果を活用して地球上の炭酸ガスの低減に役立つ植物の開発にも尽力されており、地球環境中で分解しにくい植物成分のスベリン(Suberin)生産植物の開発を行っているようです1)。「環境にやさしい生分解性プラスチック」の対極にある「環境を改善する植物由来の非分解性炭素固定物質」の高効率生産植物の開発です。


スベリンは植物が生産する蝋(ワックス)で、コルクの主要な構成成分の一つのようです。スベリンは水をはじく性質を持ち、植物の表皮付近に存在し水分の組織への侵入を防ぐ役割や病原菌に対する物理的な障壁としての役割を持っていると言われています。スベリンの化学構造はかなり複雑で、芳香族化合物の重合体部分と脂肪族化合物の重合体部分が結合した高分子構造になっています。


Choryらは、樹木でのコルク生産に関する研究に加え根にスベリンを高度に蓄積するひよこ豆を開発しており、「世界の農地の約5%にスベリン高生産性植物を栽培すれば、地球上に放出される炭酸ガスの50%を排除することが可能になる」との試算結果を得ているそうです。

スベリンと言えば「ジャガイモ」が頭に浮かびます。ジャガイモ塊茎の表皮にはスベリンが多いことで有名です2)。特に表皮が病原菌に攻撃されると防御物質であるスベリン合成が盛んになるようです。ジャガイモそうか病によって陥没した穴の周りは硬いスベリンで盛り上がっています。

大豆など豆類の根もスベリンを蓄積するとのことで、Chory博士は「ひよこ豆」の根に注目したというわけです。それにしても、地球温暖化の元凶であると言われている炭酸ガスを、植物を利用して分解しにくい物質として固定するというアイディアは、斬新な発想だと感じました。

以前に「イボタ蝋」についてブログを書きましたが、幹が真っ白になるほどの蝋をイボタロウムシ(Ericerus pela)は生産する能力を持っている訳なので、今の技術を駆使して広食性昆虫にしてその養殖技術を開発すれば、Chory博士のアイディアと並ぶ地球環境改善策になるのではないかと思いました。

参考)
1)http://www.businessinsider.com/joanne-chory-breakthrough-prize 
     -suberin-cork-plants-carbon-dioxide-climate-change-2017-12
2)Bernards M.A., et al.: Phytochemistry, 57(7), 1115(2001)

2017年12月24日日曜日

サボテンの花とフロリゲン


 今日はクリスマスイブです。かなり寒くなりましたが家の窓辺にあるサボテン、マミラリア・ハーニアナ(玉翁殿)の花が一輪きれに咲いています。また、マミラリア・エロンガータ(黄金丸)からはかわいい小さな芽が出ています。野外で昆虫を見かけることはほとんどなくなり野草も少なくなったので、屋外での写真撮影ができず寂しい思いでしたが、長いつきあいのサボテンが話題を提供してくれました。

 20年ほど前から一緒にいて、3段重ねで30cm弱になった我が家のサボテン玉翁殿の開花は今年2回目です。いつもは丸いサボテンの輪郭に沿って円を描くようにたくさんの花を咲かせるのですが、花芽は円状に出ているものの、今回は一輪だけ抜け駆けしてしまったようです。

黄金丸
 
玉翁殿
 

 同じ環境にあっても開花が不揃いになるのは不思議です。そもそも、花やわき芽が出来る基本的な仕組みや、どこの部位に花芽が出てくるのかなど、誰もが思い浮かべるような質問に答えられるようになっているのだろうかと思い少し調べて見ました。

花については、チャライヒャン(Chailakhyan)というロシアの研究者がいまからちょうど80年前(1937年)に、接ぎ木の実験から植物の葉が日長を感知し花の形成に関わっていることを発見したようです。彼は葉で花の形成を促す「花成ホルモン(フロリゲン)」が合成され茎頂に移動すると予言したため、それがフロリゲン仮説となり植物最大の謎の一つとして世界に広まったようです。

 それ以来、多くの研究者がフロリゲン探しにしのぎを削りましたが、提唱から70年を経た2005~2007年に候補物質(FTタンパク質)が日本の研究者によって発見され、このタンパク質が葉から維管束を通って茎頂に輸送され花を形成させることが日本やドイツ、イギリス、米国などで証明され、フロリゲンであることが確認されたとのことです。

その後、このフロリゲンは葉で日中に増加するフォスファチジルコリンと特異的に結合し茎頂に移動することが解明されるなど、そのメカニズムの詳細が明らかにされ始めているようです。さらに、フロリゲンFTタンパク質は、花の形成のほか、ジャガイモの塊茎形成、玉ねぎの鱗茎形成にも関与する多機能性を示すことも明らかになってきており、植物ホルモンとしても認められるまでになっているようです。

オーキシンやジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシジン酸、ブラシノステロイドなどの植物ホルモンは数十年前の高校の教科書にも掲載されていましたが、その後植物遺伝子の解明とその発現メカニズムの解析技術が格段に進歩したため、上記古典的植物ホルモンの他に、ここで取り上げた花成ホルモン-フロリゲンに加え、植物の抵抗性(植物免疫)に関わるシステミンやジャスモン酸、サリチル酸など新しい植物ホルモン(様物質)が次々に提唱され始めているようです。

科学の進歩が速すぎて追いつけませんが、花成ホルモンの他にも植物の抵抗性に関与する植物ホルモンには興味があります。学んだ知識は何とかして農業に生かしたいと思っています。 

参考)
1)辻 徳之ら:化学と生物、54(5)3582016

2017年12月9日土曜日

瑞鳳殿とお茶


経ヶ峰の参道を上ると鮮やかな紅葉に包まれた瑞鳳殿の入り口が見えました。きらびやかに装飾を施された瑞鳳殿(霊廟)とともに、隣接した資料館を見学することができました。122日(土)のことです。


資料館には戦災消失後の再建に伴う遺骨の調査データをもとにして作製された政宗の実物大の全身像があり、その顔立ちに興味を持ち見入りましたが、身長は158cmだったと記載されていました。偉大な人物なのですがとても親しみを感じ、心に残り、これからもその印象を忘れることはないと思います。


伊達家第2代、第3代の霊廟にも参拝しましたが、その帰り道、いかにも堂々とした樹木の古木の根元のくぼみに、なんと、お茶の幼苗が30cm程度に伸びひょっこりと顔を出していました。残念ながら樹木には疎いので種類は分かりません。この経ヶ峰にも茶畑があるのだろうか。茶の実をリスが運んでこの樹木のくぼみに隠したのでは。と様々想いが頭をよぎりましたが、見渡す周囲には茶畑はありませんでした。でも、数年前には茶の木がこの付近にあったのだと思います。

政宗は京と江戸の文化を敏感に捉え、それに勝る文化を伊達藩から発信する想いと自信を持っていた人物だと思っています。例えば、京で盛んだった茶の生産を伊達藩で奨励したことも分かっています。茶は南国の農産物です。当時、伊達藩でその生産を行うことには多くの困難があったのだと思います。政宗はどのような工夫をしたのだろうか。京都の雪降る寒い地域で育つ苗を選抜して伊達藩に運んだのだろうか。

政宗が奨励し、今に続く宮城産のお茶には桃生茶・河北茶があります。石巻市の北に位置する桃生町には、面積が少ないながらも静岡の茶畑を想わせるような名茶園があるようです。その畑では、5月の初摘み行事が行われ、宮城県の時節のニュースとして紹介されています。

茶は、椿や山茶花とおなじカメリア属の直物で、中国由来であることからCamellia sinensisと名付けられています。一方、椿はCamellia Japonicaであり、日本(Japan)の名が与えられています。実は、その北限は青森県の椿山だと言われており、椿山の椿神社付近には17haの椿の群生があるとのことです。まだ見たことはありませんが、茶もそこが北限なのかなと思います。でも、経済的な北限も当然考えられます。それは、秋田県の檜山茶だと言われてきました。檜山では伝統の檜山茶を絶やしたくないとしての活動も行われていますが、宮城県の桃生茶・河北茶に比べると生産量は少ないようです。東北での茶の生産は大変ですが、応援したいと思っています。

 自分好みの食品を24時間いつでも購入できる環境の中にいる私たちと異なり、欲しいものは流通に頼らず自分達で生産せざるを得なかった時代、生と死があまりにも近く、明日を待つ余裕を持つことができない時代にどのような工夫が行われていたのかを勉強し、今に生かすことが重要だな~と思っています。




2017年12月1日金曜日

秋の笊川の草花とマルハナバチ調査情報


 仙台は最近かなり寒くなり、笊川の土手のイタドリは茶色に枯れていました。秋の草刈り後に頑張って伸びた30cm程度の若芽が、揃って茶色になっている風景に、晩秋のうら悲しさを感じます。


でも、川原ではハクセキレイのツガイが仲良く声を掛け合ってそこかしこ飛んでいました。突然、眼の前を小さな影がスーと通り過ぎたので、まさかと思い目で追ったところ、やっぱりシジミチョウでした。こんなに寒いのにまだベニシジミの成虫が飛んでいることに驚きました。

この時期の草花は不思議です。セイタカアワダチソウは、芽が出て間もない状態から、黄色い花を付けたもの、完全に枯れて白い綿毛になったものまであり、その一生の姿を全部見ることができます。ノコンギクも花が咲いているものと白い綿毛になったものが同じ場所に生えていました。ノコンギクの種と綿毛をしっかりと確認できたのは今回が初めてです。


ヒメジョオンやノゲシ類の花は、季節を問わず相変わらず咲いていました。イヌノフグリの花も咲いています。イヌノフグリの根元にはニジュウヤホシテントウが越冬用の卵を産んでいるのかも知れません。仙台でも初雪がもうそろそろ降るのでしょうか。


 1118日の朝日新聞朝刊にマルハナバチ類の生息図に関する記事が掲載されていました1)。東北大学と山形大学が共同で実施した「マルハナバチ国勢調査」の成果の紹介です。この成果は市民参加型調査によって達成されたもので、2006年から2015年の間に4,100件以上の協力があり、その内3,143件がマルハナバチと特定できたそうです2)

日本には、16種のマルハナバチが棲息すると言われているそうで、今回の調査ではそのうち15種についての報告が寄せられ、トラマルハナバチ(902件)、コマルハナバチ(821)、オオマルハナバチ(369)、クロマルハナバチ(288)、ミヤママルハナバチ(207)、ヒメマルハナバチ(145)など6種の分布密度を日本地図上に示すことができたとのことです。

 私は以前のブログに書いたように、この国勢調査に興味を持ち花に集まる蜂やアブの写真を撮り始めました。幸い、マルハナバチによく似た大きなクマバチについては2回写真を撮ることができましたが、残念ながら背面、側面、正面と狙って撮ることはできませんでした。本命のマルハナバチについては一度だけチャンスがあったものの「オオボケ」で終わってしまいました。茨城県牛久市での遭遇でしたが、花にとどまる時間が短くかつ動きが速すぎるので、ピントを合わせて写真を撮ることすらできませんでした。でも、黄色の縞模様がありかつ足に黄色の花粉が付いているように見えるので、国勢調査で最も多く写真が提供されたトラマルハナバチのように思われます。


 このような調査は世界各地で様々な昆虫等について行われているようですので、役立つレベルの写真やデータを提供できるようになりたいと思いました。

 参考
1)朝日新聞1118日号、24面(2017年)
2)Y. Suzuki-Ohno, et al.: Scientific Report, Online, 911日、2017

2017年11月28日火曜日

秋の日の仙台散歩とジャガイモ常在菌


散歩に出てみると、定禅寺通りのケヤキの葉がかなり落ち、そろそろ光のページェントの準備が始まりそうな気配です。西公園の紅葉はまだまだ奇麗に色づいたままですが、人影はまばらでした。


でも久しぶりの晴天の中、地下鉄入り口の屋根に鳩が集まり日光浴をしていました。西公園の猫も日向ぼっこです。広瀬川の白鷺は枯れた雑草をしり目に透き通った水の流れに鋭い目を向けています。いつの間にか、仙台もだいぶ寒くなりました。


もう今年の畑仕事は終わってしまいましたが、ジャガイモの病気についてほとんど無知であったことを反省しています。私が収穫したジャガイモの中にはそうか病になっているものが結構ありましたし、収穫時に腐敗していたものもありました。今年の種芋には、昨年同じ畑で栽培・収穫して食べ残した小さなサイズの芋をそのまま切断せずに使用したのですが、そもそも、そうか病などの病気の有無を点検せず、無選別のまま植えてしまったことが収量減を招いた原因の一つのように思っています。私のような初心者は購入した種芋を植えるのが一番かも知れません。

ジャガイモにも多くの病気があることを知りましたが、無農薬栽培をしていますので、ジャガイモの抵抗力を高める方法について知りたいと思い、葉や根にいる常在菌について調べてみたいと思いました。人間でも納豆菌や乳酸菌を食べると腸内細菌叢が改善し体調が良くなると言われているからです。

人間の腸内細菌に関する研究が、次世代シーケンサーによる遺伝子配列解読の高速化に伴い急速に進展しました。その結果の一つとして、ヒトの腸内細菌叢は、ファーミキューテス門、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門に分類され、その内全体の80~90%を占めると言われているファーミキューテス門とバクテロイデス門の比率が肥満と痩身に関与するとの報告が行われ注目を集めているようです。でも、肥満に関与すると推定され恐れられているファーミキューテス門には、これまで善玉菌とされてきた納豆菌や乳酸菌が属するので、さらに詳しい検討が行われているようです。結果が楽しみです。


この細菌分布の解析技術は、土壌や植物などあらゆる環境微生物の解明に貢献し始めており、ジャガイモでもその葉面と内部、根圏と根の内部に存在する細菌の分布に関する研究が行われていました。


ジャガイモの葉面にはバシラス属菌が多く付着し葉内部にも最も有名なバシラスサブチルスがエンドファイト(体内細菌)として存在するようです。この菌は、野菜の灰色カビ病やうどんこ病への微生物農薬として既に利用されている種類であり、ジャガイモ葉での耐病性にも関与しているのでしょう。

また、根の周りの土壌(根圏)や根の内部にはシュードモナス属の菌が常在菌として分布しており、これらのうちP. fluorescensは日本においてレタスの腐敗病やキャベツ黒腐病に対する微生物農薬として登録されているようです。また根の内部に多く生息するP. putidaは有機物の分解能力が高くタンカー事故などで流出した原油の分解に有効であることから、1981年には米国特許微生物第1号として正式に許諾されたことで良く知られているグループのようです。この細菌がジャガイモの根の内部でどのような役割を担っているのか知りたいと思いました。

参考)
1)三好真琴ら:静脈経腸栄養,28(4),92013)
2)Cabriele B. et al. : FEMS Microbiology Ecology, 51, 215(2005)

2017年11月15日水曜日

ジャガイモのソラニン情報


今日の仙台は快晴です。近くの笊川を散歩したところナス科の「ワルナスビ」が花をつけていました。水がよどんで少し深くなっているところで、尾びれが白くなった鮭が2匹泳いでいました。良く見ると川底に2匹の死骸が沈んでいました。笊川にも鮭が上ってくるんですね。でも、少し悲しい気分になります。泳いでいる鮭も、ここでまもなく一生を終えるからです。

ジャガイモのソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドに関する信頼できる情報は農水省消費安全局が提供していました1)

この情報をもとにして、小学1年生(男子平均体重23kg)が苦味のあるジャガイモをどの程度食べると中毒症状がでるのかを計算してみました。但し、グリコアルカロイドに対する年齢による感受性の差異は不明なので、症状のでる量を1mg/kgFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA))にしています。

苦味のあるジャガイモのグリコアルカロイド含有量は2580mg/100gで、かなり幅があります。そのため、中毒症状のでる苦いジャガイモの摂取量も2992gとなり、小ぶりの苦いジャガイモだと1/3から1個ということになります。かなり苦い場合は1/3程度を食べても症状がでる可能性があることになる訳です。でも、芽をえぐり取り、皮を少し厚く剥けば事故は防げるものと思いますが、学校などでは苦いジャガイモは廃棄が一番ということになります。同じようにジャガイモの葉で計算すると、小学1年生では2399gの葉を食べると症状の出る可能性があることになります。

でも、当然のことですがジャガイモは世界の主要な食料であり基本的には安全なものです。私たちが毎日食べている食塩でも、いっきにたくさん食べると大変なことになります。食べる量がその食品の安全性を左右しているということになります。

人間にとっては、ジャガイモのソラニンなどグリコアルカロイドはあまりない方が安全である訳ですが、ジャガイモにとっては生存戦略物質の一つのようです。米国では、コロラドハムシという昆虫がジャガイモの害虫として恐れられていますが、グリコアルカロイドはこの昆虫に対する防御物質で含有量の高い品種は被害が少ないとのことです。

またジャガイモの表面に茶色のスポットができる「そうか病」に対してもグリコアルカロイドが抵抗性を示すとのことで、グリコアルカロイドの多い品種であるメークインは、グリコアルカロイドの少ない男爵やキタアカリよりもそうか病になりにくいとのことです。私の畑でもメークイン以外のジャガイモがそうか病になってしまいました。


しかし、こうしたジャガイモの生存戦略を打ち破る病原菌もいるようです。ジャガイモ腐敗病菌(Erwinia afrosepfica)とジャガイモ疫病菌(Phytophthora infesfans)は、グリコアルカロイドから糖を遊離させる酵素を生産することができるので、ジャガイモの葉に容易に感染することができるようです2)。生物それぞれの生きるための戦略には興味がつきません。

 参考)
1)食品中のソラニンやチャコニンに関する詳細情報:http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/solanine/
2)Robert M. Zacharius, et al. : Phys. Plant Path., 6, 301(1975)


 

2017年11月7日火曜日

ジャガイモソラニンの苦味とカフェインの苦味


今は、もう何十年も苦いジャガイモに出合ったことはありません。子供の頃、皮が青くなっているのを知らずに食べた茹でジャガイモの苦さに驚いたことを覚えています。苦い味というより、むしろえぐい味で飲み込む時に強い不快感があったように思います。ずーと前のことなので、その感覚は不明瞭ですが、もう一度体験してもいいと思うような味ではありませんでした。

苦味の原因物質はソラニンやチャコニンなどのグリコアルカロイドであると言われているので、どの程度の苦さなのかを知りたいと思い調べてみました。

カナダの研究者が調べた少し古い(1985年)文献1)によると、ソラニンやチャコニンは「カフェイン様の苦味」と「収れん性の痛み感覚(astringent pain sensation)」を示すと記載されています。ソラニンの苦味の強さはカフェインの4倍だったようです。意外にも、苦味や収れん味は名前が良く知られているソラニンよりもチャコニンの方が強くて、チャコニンを4倍に薄めるとソラニンと同等の苦味になるようです。つまり、チャコニンはカフェインの16倍の苦味強度ということになります。



また、チャコニンにチャコニナーゼという酵素が作用して、糖が1分子離脱したβ2-チャコニンが生じると、収れん味はもとのチャコニンより2倍強くなるということなので、β2-チャコニンの収れん味が最も強いことになります。

一方、ソラニンとチャコニンから糖鎖が完全にとれたものはソラニジンと呼ばれていますが、このソラニジンの苦味はソラニンとほぼ同等のようです。しかし、収れん味はなくなるとのことですので興味深いです。収れん味の方が苦味よりも嫌な感覚なので、ソラニンやチャコニンから糖鎖を完全に除く処理が味質の改善に役立つように思いました。糖鎖を離脱させる酵素に興味を持ちました。

ところで食品の味について調べて見ると、甘味や旨味、酸味には甘味度や旨味度、酸味度などのようにそれぞれ味の強さを示す単位があるようです。でも、苦味にはその単位がありません。

かなり古い時代にさかのぼって調べて見ると、1949年にハーバード大学の心理物理学者であるBeebe-Center J.G.Sが甘、塩、酸、苦の四基本味の強さの単位に関する論文を出しています2)Gust(ガスト)という単位で四基本味の強さをそれぞれ計測して総合点で評価する方式で、当時はそれなりに注目されていたようです。日本でも慶応大学のK. Indow先生が味の素()との共同で四基本味の強度をタウ(τ)スケールを用いて測定する方法を報告(Psychophysics, 56,347(1969))していますが、このような複数の基本味を共通の単位で示す方法の開発は興味深いのですが、その後途絶えているようです。

 Beebe-Centerが「ガスト(gust)」の単位を提案したのは、同じハーバード大学の実験心理学者として著名なEdwin G. Boringが学術本(Sensation and Perception in the History of Experimental Psychology)を出版(1942年)して間もない時期で、これに掲載された表が下敷きになって「味の舌マップ」がどこかで提案され世界中で認知され始めるなど、食品の味に対する関心がかなり高まっていた時代だったのだろうと想像しています。

 その後「味の舌マップ」は分子遺伝学の発展による舌上の味覚受容体の発見とその分布様式の解明などにより否定され3)、四基本味には旨味が追加されて、基本的な味は五種類になるなど味覚や嗅覚に関する科学的な知見は急速に深まっています。しかしながら、これら五つの基本味全部について、その強度を示す単位はまだ定まっていません。

甘味度については、人工甘味料の開発が活発に行われましたので、ショ糖の甘味度を1として比較する方法が世界的に使用されることになり、舌上の甘味受容体も一種類であることから矛盾はほとんど生じていないようですが、26種類の受容体が対応する苦味に共通する単位を決めるのは大変だろうと思います。


辛味も、トウガラシのカプサイシンとワサビのアリルイソチオシアネートでは舌上の受容体が違うため、激辛ブームへの対応としてスコヴィル辛味単位が唐辛子専用として使用されている状況になっているようです。

最近は、味覚センサーが多用されるようになってきていますので、このセンサーが受容する刺激の強さで五つの基本味や総合的な味の強度・単位が表現されることになる可能性もあります。むしろ、こちらが現実的なのかも知れません。

皮が青くなったジャガイモの味が本題ですので、実際に生のままかじってみました。年のせいか苦味はあまり感じません。ただ、舌先がヒリヒリしています。舌の細胞膜にサポニンとしての特性を持つソラニンとチャコニンが侵入したのでしょうか。飲み込むのは遠慮しました。

参考)
1)A. Zitnak et al.: Can. Inst. Food Sci. Technol., 184, 3371985
2)Beebe-Center, J. G. S. et al.: J. Psychology, 28, 411(1949)
3)J. Chandrashekar, et al.: Nature, 444(16)288(2006)



2017年11月1日水曜日

テントウムシとカメムシの越冬準備

   10月末の岩手の朝夕はかなり冷えます。でも日光が当たる場所は明るく暖かく感じます。27日は台風22号の影響で沖縄は暴風雨のようでしたが、岩手は晴れ、昼頃には家の壁をたくさんのカメムシとともに小さなテントウムシがよじ登っていました。今回は、29日の夕方新幹線で仙台に戻りました。

晴天で「日向ぼっこ」をしたくなるような天候の中、白い壁に張り付いた風変わりなカメムシが2匹いたので写真を撮り、後で調べたところ「ヨツモンカメムシ」であることが分りました。体の中央付近にも黒点があるので、もしかして五つ紋カメムシというのもあるのではないか、と思い調べましたが、良く見ると角ばった肩の下にある三角形の体表には3個の黒い点があるものの、名付けの原因になっている4個の黒点より明らかに淡いものでした。この3個の淡い点は、地域特有のもの(エコタイプ?)かもしれません。ネットで公開されている他の写真を見ると淡い点が無いものもありました。


ヨツモンカメムシは夏季にはニレの木などで樹上生活をしているので見かけることは少なく、晩秋に樹木から降り越冬の準備をする際に良く見つかる種だと言われているようです。

山から下り、壁の白いモルタルにつかまっていた2匹は「つがい」なのだろうか、どこで越冬するのだろうか。夕方にはもういませんでした。人間に例えれば老夫婦には見えませんでしたが、待っている過酷な越冬生活を想像してしまいます。命をつなぐ営みに感動を覚えます。

今まで相当気にかけて探したにも関わらず、あまり出会うことのなかったテントウムシが数十匹の集団となり壁をよじ登っていました。ジャガイモ畑にいたオオニジュウヤホシテントウより小ぶりで、二つ星、四つ星、赤星、黒星など様々な外見をしています。どれもナミテントウのようです。ナミテントウはイギリスを中心に、ハーレクインテントウ(Harlequin ladybird:道化師テントウ)と呼ばれ、日本から来た地上最強の侵入テントウムシ(the most invasive ladybird on Earth)であると言われています。発見報告を集めている大学があるぐらい恐れられているようです1)。日本では益虫なのに、かわいそうな気がします。


ハーレクインテントウとイギリスで名付けられた理由の一つは、その外見の模様がイギリス伝統のチェック(市松模様)になっているからだそうです2)。しかもそのパターンは100種以上あり極めて多様です。日本から侵入したハーレクインテントウ(道化師テントウ)はデビル(悪魔)扱いで、イギリス在来のナナホシテントウは天使扱いなのでその落差が際立ちます。天使を悪魔が駆逐するのではないかという恐れからなのでしょうか。

でもイギリス人は、バッキンガムチェックで知られているように市松模様が好きなようですので、ハーレクインレディーバードという響きには、愛情が込められているように感じてしまいます。イギリス人はたぶんテントウムシそのものが好きなんだろうと思います。ちなみに、2020年の東京オリンピックのエンブレムは市松模様で、市松模様は日本でも伝統的な模様なのでややこしいです。



これらのテントウムシは越冬のため、日の当たることのない温度変化の少ない樹木や壁の北側の隙間に集まるとのことなので、今年は是非テントウムシ越冬隊も探してみたいと思っています。

晩秋の岩手の畑の花に集まる「ハナアブ類」は動きが比較的鈍かったので、私でも写真は撮り易いと感じましたが、蝶々はジッとしていませんでした。数羽に遭遇したので、慌ててシャッターを切りました。それぞれ一羽のキチョウとベニシジミ、キタテハ、それにキタテハより少し小ぶりで、キタテハとヒョウモンチョウとベニシジミが混ざったような感じの蝶々の写真を撮りました。かなり翅が傷ついているので、見分けがつきません。少しかわいそうですが、自然はとどまることなく移り変わります。もう蝶々には寒すぎると思います。


いよいよ本格的に寒くなるのでブルーベリーの木に冬囲いをしたいと思っています。

 参考)
1)http://www.harlequin-survey.org/:(2015220日更新)
2)http://www.arkive.org/harlequin-ladybird/harmonia-axyridis/

2017年10月31日火曜日

サツマイモ収穫と小菊の花に集まったハナアブとヤドリバエ

  岩手の畑に行ってきました。1027日に出かけ、かなり遅くなりましたがサツマイモを収穫しました。水はけの悪い畑なのでサツマイモ栽培に良い条件とは言えず、収量はあまり良くありませんでした。特に、期待して植えた品種のベニアズマの芋はとても細くて本数も少なかったです。まだまだ修行が足りません。

ついでに、畑で咲いていた小菊の花を覗いてみたところ、蜂のような昆虫が群がっていました。その中で、腹が赤く異常に膨れ上がったハエを発見しました。病気で膨れたのかなと思いつつ写真を撮り、後で調べたところ「シナヒラタヤドリバエ」1)という種類でした。


ヤドリバエ(宿り蠅)という名前は「寄生蠅」に因んでいるようです。シナヒラタヤドリバエは、スコットカメムシやエビイロカメムシに寄生するとのことです。スコットカメムシは、ミズナラやブナ、シラカンバなどに付き、エビイロカメムシはススキなどのイネ科植物に付いて樹液を吸い生活し家にも侵入する種類のようですので、ヤドリバエに頑張ってもらいたいと思いました。

この他に小菊の花に付いていた蜂のような昆虫はハナアブでした。黄色の縞模様が少しずつ異なる数種類のハナアブが群れていました。ハナアブには模様の似た種類が多くいて、その同定がかなり難しいようです。良く分かったのはオオハナアブ(Megaspis zonata)だけでした。残念ながらマルハナバチではありません。マルハナバチは、「クマンバチの飛行」で有名になった蜂なので、ぜひ見たいと思っています。これまでに数回遭遇したクマバチに似てモフモフしたハナバチなようです。



なお、マルハナバチについては「マルハナバチ国政調査研究」が2015年から行われていて目撃情報が集められています。外来種のセイヨウオオマルハナバチが1990年初めからトマト等の受粉に利用され、在来種が減少しているためのようです。これをうけ、環境省は在来種のマルハナバチを活用するための「セイヨウオオマルハナバチの代替種の利用方針」を公開しています。

岩手の畑の小菊に群れていたハナアブは、ナミハナアブやシマハナアブのようです。小菊の他に、シュウメイギクにもハナアブがたくさん止まっていました。





小さい頃、尻尾の長い大きなウジ虫がとても苦手でしたが、ハナアブの幼虫だということが分かりました。そう分かっても、花に止まっている奇麗なハナアブとウジ虫が心の中でつながりません。寄生蠅が蝶々の蛹などから生まれ出る写真もグロテスクだと思ってしまいます。昆虫はとても奥が深いです。

食料難時代に向け昆虫食も研究され始めていますので、乗り越えなければと思っています。岩手訪問の目的だったサツマイモの写真も載せます。

参考
1)岐阜大学教育学部理科教育講座地学教室:理科教材データベース、
  昆虫図鑑、ハエ目、ヤドリバエ科。

2017年10月25日水曜日

ジャガイモのソラニンの低減化育種と芽止め

  健康相談サイトなどを見ると、青くなったジャガイモや芽の出たジャガイモを食べてしまったのだけれども、ソラニンによる健康影響はないでしょうかとの相談がよせられています。妊婦さんからの相談もあるので、他人事とは思えません。

青くなったジャガイモの皮は厚くむきとり、芽は少し深くえぐり取って調理すれば問題ない訳ですが、そのことが伝承されないことに不安を感じます。

本来なら安全に食べることができるものなのですが、今の時代に沿って誰でも心配せず安心して食べられる品種(グリコアルカロイドが少なくかつ増加しない)の開発を期待します。

幸いにも、ジャガイモのソラニンなどナス科のグリコアルカロイドの合成経路がどんどん明らかになっています1、2)。理化学研究所を始めとして多くの大学が研究に関与し協力しているからです。ユリ科やツゲ科にもグリコアルカロイドが存在することから、海外ではユリ科植物を研究材料にした合成系の解明が行われています3)。米国では、このユリ科植物が家畜に重大な問題を引き起こした例があり、食用ではありませんが研究材料になったようです。この研究は、最近ではがん抑制成分などの薬理作用に焦点を当てた研究へと発展しています。

ナス科のアルカロイド合成では、これまでジャガイモのソラニンやトマトのトマチンの前駆体が4つの環構造(A~D環)を持つコレステロールであることは分かっていましたが、コレステロールが6個の環構造(A~F環)を持つソラニジンやトマチジンになる仕組みが分らなかったのです。コレステロールの4環構造がいっきに6環構造になる反応ですので、かなり魅力的です。

 このような環構造の形成では、ベンゼンの構造を考えたケクーレの逸話が有名になっていますが、ポリフェノールの一種で3つの環構造(A,B,C環)を持つフラボノイドの合成でも同じように感動的な反応が関与しています。フラボノイドの環構造は、3分子のマロン酸と1分子のp-クマル酸がいっきに合体して生じることが分かったのです。この反応を担っていたのはフラバノン合成酵素で1975年にドイツの研究者が発見しました(F. Kreuzaler, et al. Eur.J.Biochem,56, 205(1975))

 ナス科ステロイドアルカロイドの合成研究では、現在のところコレステロールに2個の環構造が加わるために必要な側鎖の修飾に関与する3個の酵素が解明されており、あとは窒素の供給源の解明と環形成酵素の発見が残されています。ユリ科の研究では窒素供給源はGABAのようですが、ナス科も同じなのだろうか。それにしても、環を形成する酵素の名称はどのようになるのか楽しみです。



 面白いことに、コレステロールの側鎖に水酸基を形成する酵素の発現を抑えると、ジャガイモ塊茎の芽や植物体の花芽の形成ができなくなるとのことです。

しかし、塊茎を土に埋めると芽は形成されるとのことなので、芽止め処理が不要なジャガイモができたことになります。一挙両得です。ただし、トマトの場合は花が形成されないと果実ができませんので、工夫が必要のようです。

 これらの研究によってグリコアルカロイド低減ジャガイモの育種ターゲットが明確になりました。最近、ジャガイモの品種は多様化して楽しみが増えましたが、消費者にやさしいジャガイモの出現によって、より一層身近な農産物になるものと思いました。

参考)
1)Naoyuki Umemoto, et al. : Plant Physiol., 171, 2458(2016)
2)Masaru Nakayasu, et al. : Plant Physiol., 175, 120 (2017)
3)Megan M. Augustin, et al. : The Plant J., 82, 991(2015)

2017年10月24日火曜日

ジャガイモのソラニンなどグリコアルカロイド

   ジャガイモのソラニンは苦味物質で毒性もあるので少ない方が良いのですが、普段食べている程度の量なら毒性とは逆に、意外にも人間にとって良い作用もあるのではないかと言われ始めています。米国の農務省の研究者が中心になってこの有用作用につて研究しているようです。

ただし、薬と同じで多く摂ると危険です。その上、子供(摂取上限:20~40mg/)と大人(摂取上限:200~400mg/日、(2~5mg/kg体重))では毒性に対する感受性が異なるので、毒性を示す物質の良い面を強調することは、子供に対する危害リスクを増すことにもなりますので、注意が必要です。

良い面があると言っても、人間に対して毒性を示すことは明らかですので、以前のブログに記載したとおり、欧米ではジャガイモの商取引に当たってはグリコアルカロイドがジャガイモ100g当たり20mgを超えないように制限されているようです1)。実際に流通しているジャガイモのグリコアルカロイド含量は20~130mg/kgということですので心配はありません。

ジャガイモのソラニンとチャコニン、それにトマトのトマチンもグリコアルカロイド(アルカロイド配糖体)ですが、サポニンでもあるので溶血作用を示すことが知られています。サポニンの名称は石鹸のソープに因んだもので、界面活性剤の一つであるとも言えます。ソラニンなどは、水に溶解する糖鎖の部分と油に溶解するステロイド骨格から成り立っていますので、水と油の界面に移動し、石鹸のような性質を示す訳です。



ソラニンなどのグリコアルカロイドが赤血球に出会うと、そのステロイド性アルカロイド骨格が赤血球の細胞膜(脂質二重膜)に潜り込み、糖鎖は膜の外側の水溶液に留まります。その結果、ソラニンが赤血球膜に集まり凝集すると、膜の外側で糖鎖同士が対になった構造をとり(油の中で水が集まるような現象)、細胞膜が分断されて穴が出来てしまい、いわゆる溶血現象が生じる訳です。



溶血作用にはステロイド骨格と糖鎖が関与しますので、糖鎖が離脱したソラニジンやトマチジンは溶血作用が弱くなります。すなわち、ソラニンやチャコニンから糖鎖を除けば、その毒性はかなり減少するものと予想されますが、通常の調理加熱程度の処理では変化しません。ソラニンにはβ-ガラクトシダーゼ、チャコニンにはβ-グルコシダーゼを作用させれば、それぞれ糖鎖が除去できるかも知れません。ソラニンなどグリコアルカロイドには神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素を阻害する作用も確認されていますが、この阻害作用も、糖鎖が除かれると弱まるようです2)

α-ソラニンには3個繋がった糖鎖が結合していますが、糖が2個繋がった構造のβ-ソラニンや一個になってしまったγ-ソラニンの苦味の程度や様々な生理作用はほとんど調べられていなので、とても興味があります。そもそも、ソラニンが人間の舌上の苦味レセプターに結合するのかどうかも不明のように思います。

ジャガイモにはソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドと呼ばれる化合物が90種も存在するそうです。その中でもソラニンとチャコニンは、グリコアルカロイド全体の約90%を占め、ソラニンとチャコニンの比率は、品種によってかなり異なることも分っていて、中にはソラニンよりチャコニンの多い品種もあるようです。



ジャガイモのグリコアルカロイドの害虫に対する抵抗性について調べた結果では、ソラニンやチャコニンよりもレプチンが有効であったとの報告もあり3)、このアルカロイドについては茎葉で増加するような育種が検討されています。塊茎では合成が少なく、茎葉で合成が高まるような育種です。ジャガイモ塊茎におけるソラニン合成は茶色の皮(コルク層)を剥いた部位(コルク皮層)で主に行われてるとのことで、鍵酵素が見つかるなどかなり進展しており、それらの制御についても今後の成果が期待されています。


 ジャガイモのグリコアルカロイドについて調べて見て、その多様性に驚きました。それらの中に私たちの生活に役立つ物質があってもいいのではないかと思いました。

参考)
1)Valkonen JTP, et al.: Critical reviews in Plant Science 15, 1-20(1996)
2)Idit Ginzberg, et al. : Potato Research 52,1-152009
3)Anusua Rangarajan et al.:J.Amer.Soc.Hort.Sci., 125(6), 689(2000)