クリスマスの今朝は太陽が出ていたものの風がとても強く、午後には雲が出てかなり寒くなりました。空港では欠航便が、各地には大雪警報が出ているようです。
本年度の米国科学技術ブレークスルー賞に京都大学の森教授が「小胞体ストレス」に関する研究成果を評価されて選ばれたとのニュースが12月3日に流れました。この賞はグーグル創業者やアップル会長、ツイッター創業者などの著名人が創設したもので、その即時性とともに受賞者一人一人がノーベル賞の2倍以上の賞金をもらえるとのことで話題になっています。
森教授はノーベル賞候補として、ここ数年名前が良く出ていましたので順当な受章のように思いましたが、同時にカリフォルニア州サンディエゴにあるソーク研究所の植物学者ジョアン・チョリー(Joanne Chory)も受賞されており、初めてその業績を知りました。
彼女の受賞は「光による成長を制御するステロイドホルモンのブラシノライドに関する研究」によるもののようです。彼女の研究成果は、光エネルギーを効率的に化学エネルギーとして蓄積する仕組みとしての植物の細胞構造や生育・成長の最適化を可能にするものであるとして評価されたようです。
Chory博士はこれまでの研究成果を活用して地球上の炭酸ガスの低減に役立つ植物の開発にも尽力されており、地球環境中で分解しにくい植物成分のスベリン(Suberin)生産植物の開発を行っているようです1)。「環境にやさしい生分解性プラスチック」の対極にある「環境を改善する植物由来の非分解性炭素固定物質」の高効率生産植物の開発です。
スベリンは植物が生産する蝋(ワックス)で、コルクの主要な構成成分の一つのようです。スベリンは水をはじく性質を持ち、植物の表皮付近に存在し水分の組織への侵入を防ぐ役割や病原菌に対する物理的な障壁としての役割を持っていると言われています。スベリンの化学構造はかなり複雑で、芳香族化合物の重合体部分と脂肪族化合物の重合体部分が結合した高分子構造になっています。
Choryらは、樹木でのコルク生産に関する研究に加え根にスベリンを高度に蓄積するひよこ豆を開発しており、「世界の農地の約5%にスベリン高生産性植物を栽培すれば、地球上に放出される炭酸ガスの50%を排除することが可能になる」との試算結果を得ているそうです。
スベリンと言えば「ジャガイモ」が頭に浮かびます。ジャガイモ塊茎の表皮にはスベリンが多いことで有名です2)。特に表皮が病原菌に攻撃されると防御物質であるスベリン合成が盛んになるようです。ジャガイモそうか病によって陥没した穴の周りは硬いスベリンで盛り上がっています。
大豆など豆類の根もスベリンを蓄積するとのことで、Chory博士は「ひよこ豆」の根に注目したというわけです。それにしても、地球温暖化の元凶であると言われている炭酸ガスを、植物を利用して分解しにくい物質として固定するというアイディアは、斬新な発想だと感じました。
以前に「イボタ蝋」についてブログを書きましたが、幹が真っ白になるほどの蝋をイボタロウムシ(Ericerus pela)は生産する能力を持っている訳なので、今の技術を駆使して広食性昆虫にしてその養殖技術を開発すれば、Chory博士のアイディアと並ぶ地球環境改善策になるのではないかと思いました。
参考)
1)http://www.businessinsider.com/joanne-chory-breakthrough-prize
-suberin-cork-plants-carbon-dioxide-climate-change-2017-12
2)Bernards M.A., et al.: Phytochemistry, 57(7), 1115(2001)
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