2017年10月24日火曜日

ジャガイモのソラニンなどグリコアルカロイド

   ジャガイモのソラニンは苦味物質で毒性もあるので少ない方が良いのですが、普段食べている程度の量なら毒性とは逆に、意外にも人間にとって良い作用もあるのではないかと言われ始めています。米国の農務省の研究者が中心になってこの有用作用につて研究しているようです。

ただし、薬と同じで多く摂ると危険です。その上、子供(摂取上限:20~40mg/)と大人(摂取上限:200~400mg/日、(2~5mg/kg体重))では毒性に対する感受性が異なるので、毒性を示す物質の良い面を強調することは、子供に対する危害リスクを増すことにもなりますので、注意が必要です。

良い面があると言っても、人間に対して毒性を示すことは明らかですので、以前のブログに記載したとおり、欧米ではジャガイモの商取引に当たってはグリコアルカロイドがジャガイモ100g当たり20mgを超えないように制限されているようです1)。実際に流通しているジャガイモのグリコアルカロイド含量は20~130mg/kgということですので心配はありません。

ジャガイモのソラニンとチャコニン、それにトマトのトマチンもグリコアルカロイド(アルカロイド配糖体)ですが、サポニンでもあるので溶血作用を示すことが知られています。サポニンの名称は石鹸のソープに因んだもので、界面活性剤の一つであるとも言えます。ソラニンなどは、水に溶解する糖鎖の部分と油に溶解するステロイド骨格から成り立っていますので、水と油の界面に移動し、石鹸のような性質を示す訳です。



ソラニンなどのグリコアルカロイドが赤血球に出会うと、そのステロイド性アルカロイド骨格が赤血球の細胞膜(脂質二重膜)に潜り込み、糖鎖は膜の外側の水溶液に留まります。その結果、ソラニンが赤血球膜に集まり凝集すると、膜の外側で糖鎖同士が対になった構造をとり(油の中で水が集まるような現象)、細胞膜が分断されて穴が出来てしまい、いわゆる溶血現象が生じる訳です。



溶血作用にはステロイド骨格と糖鎖が関与しますので、糖鎖が離脱したソラニジンやトマチジンは溶血作用が弱くなります。すなわち、ソラニンやチャコニンから糖鎖を除けば、その毒性はかなり減少するものと予想されますが、通常の調理加熱程度の処理では変化しません。ソラニンにはβ-ガラクトシダーゼ、チャコニンにはβ-グルコシダーゼを作用させれば、それぞれ糖鎖が除去できるかも知れません。ソラニンなどグリコアルカロイドには神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素を阻害する作用も確認されていますが、この阻害作用も、糖鎖が除かれると弱まるようです2)

α-ソラニンには3個繋がった糖鎖が結合していますが、糖が2個繋がった構造のβ-ソラニンや一個になってしまったγ-ソラニンの苦味の程度や様々な生理作用はほとんど調べられていなので、とても興味があります。そもそも、ソラニンが人間の舌上の苦味レセプターに結合するのかどうかも不明のように思います。

ジャガイモにはソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドと呼ばれる化合物が90種も存在するそうです。その中でもソラニンとチャコニンは、グリコアルカロイド全体の約90%を占め、ソラニンとチャコニンの比率は、品種によってかなり異なることも分っていて、中にはソラニンよりチャコニンの多い品種もあるようです。



ジャガイモのグリコアルカロイドの害虫に対する抵抗性について調べた結果では、ソラニンやチャコニンよりもレプチンが有効であったとの報告もあり3)、このアルカロイドについては茎葉で増加するような育種が検討されています。塊茎では合成が少なく、茎葉で合成が高まるような育種です。ジャガイモ塊茎におけるソラニン合成は茶色の皮(コルク層)を剥いた部位(コルク皮層)で主に行われてるとのことで、鍵酵素が見つかるなどかなり進展しており、それらの制御についても今後の成果が期待されています。


 ジャガイモのグリコアルカロイドについて調べて見て、その多様性に驚きました。それらの中に私たちの生活に役立つ物質があってもいいのではないかと思いました。

参考)
1)Valkonen JTP, et al.: Critical reviews in Plant Science 15, 1-20(1996)
2)Idit Ginzberg, et al. : Potato Research 52,1-152009
3)Anusua Rangarajan et al.:J.Amer.Soc.Hort.Sci., 125(6), 689(2000)



0 件のコメント:

コメントを投稿