イシグロさんの作品を私はまだ読んだことはありませんが、その作品の特徴としては、「記憶の中の感情や夢など、私たちが『現実』だとは思っていないものを組み合わせて、幻想的な小説の世界を築き上げている」(早稲田大学文学学術院の都甲幸治教授)などと言われています。
スウェーデンアカデミーの事務局長は、ジェーン・オースティンとフランツ・カフカを混ぜるとイシグロになり、それにマルセル・プルーストを少し混ぜるとイシグロの作品になると言っているようです(朝日新聞10月6日朝刊)。いずれの作家も20世紀の文学を代表する方々なので、イシグロさんもこれから語り継がれる21世紀の代表的な作家の一人になるものとして期待されているということになります。作品をぜひ読んでみたいと思いました。
私には文学のことは良くわかりませんが、マルセル・プルーストは別の分野で「プルースト現象(Proust phenomenon)」として有名になっています。
プルースト現象は、「ニオイとの遭遇によって、過去に経験した出来事を追体験のようにありありと思い出す現象」です。「記憶」をキーワードとして考えるとイシグロと通ずることになります。
プルーストは長編小説「失われた時を求めて」の中で、紅茶に浸ったマドレーヌの匂いが不意に少女時代の鮮やかな記憶を蘇らせるという不思議な現象を描写しており、それが話題となり今に続いています。
勿論私はその大作を読んだことはありませんが、プルースト現象には大変興味があります。その現象は事実なのかどうか、現在でも諸説が交錯しています。でも、なんとなく自分の体験としてありそうな気がします。餡子の匂いは、小さい頃、彼岸に母が朝早くから団子をつくっていた姿を呼び起こします。
プルースト現象について、大学生111名を対象として調査した結果によると86名が体験していると回答しているようです1)。その体験から感じる感情・気分については、懐かしさが最も多く(73.3%)、嫌な感情を想起する例は少ない(7%)ようです。
産業的には、多くの商品開発において匂いと記憶の関係が注目され始めています。匂いを嗅ぎながら言語学習をすると高い正解率が得られるとするデータもあります。チョコレートの匂いが記憶力を高めるというデータもあります。
イシグロさんのノーベル賞受賞を契機に文学も科学も「記憶」に注目し、物騒な方向はやめて、各分野が人間らしい発展をして欲しいと思いました。
参考)
1)森田健一:日本味と匂学会誌、15(1), 53-60(2008)
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