2019年9月21日土曜日

シジミチョウとアリの不思議な共生関係


918日に牛久沼付近を散歩しました。牛久駅からスタートし民家の塀沿いを歩いていたところ、白い小さな蛾のような虫が飛んできて差し伸べた手に止まりました。アオバハゴロモでした。幸先がいいぞと思いました。

牛久沼沿いの遊歩道を一通り歩き、小川芋銭が晩年に暮らしたと言われている雲魚亭から再び牛久沼に戻る林沿いの道を歩いていたところ、裏面はヒカゲチョウのように目立たない色彩なのに、表面が鮮やかな青色に見える蝶が元気に飛びまわっていました。時々見える青色が美しく、初めて出会った蝶だったので追いかけて写真を撮りました。
ムラサキシジミ(9月18日)


後で調べたところムラサキシジミのようです。ムラサキシジミの幼虫はアラカシやイチイガシ、スダジイなどのブナ科の常緑樹を食草としているとのことでした。スダジイは牛久沼周辺の林にたくさん生えていて、小川芋銭の河童の碑の側にある大木は「市民の木」に指定されていました。今回の散歩ではムラサキシジミと3回遭遇しました。いまま気づかなかったのが不思議なくらいです。
牛久市の市民の木スダジイ
その後、カタバミ(Oxalis corniculata)が群生する道を歩いていたところ、小さな蝶が足元を飛び交っていたので写真を撮りました。ヤマトシジミのようです。ヤマトシジミは、唯一カタバミだけを食草とする昆虫のようです。カタバミはいわゆる野菜等のアクの一種であるシュウ酸(Oxalic acid)を多く含有する植物として有名ですが、シュウ酸濃度が高いため他の昆虫は食草にできないのかも知れません。ヤマトシジミはシュウ酸を解毒することができるのでしょう。
ヤマトシジミ(9月18日)
カタバミ(Oxalis corniculata
今回の散歩で出会ったムラサキシジミとヤマトシジミの幼虫は、体表から蜜を分泌することによって特定のアリと共生し、他のアリや蜂などから身を守ってもらうとのことです。

最近の研究によるとムラサキシジミの幼虫から分泌される蜜には、アリの活動を活発にする作用を持つ脳内ドーパミンの働きを抑制する作用があることが分かったようです1)。その作用によってムラサキシジミは身の回りにアリを引き付けておくことが可能なようです。他の虫に目移りさせないすごい戦略です。

また、ヤマトシジミも蜜を与えることによってアリとの共生関係を結んでいるようです。でも、こちらの関係はそれほど濃密ではなく時々アリが訪れる程度とのことです。一方、毎回出会うベニシジミは蜜を放出する機能がないので、幼虫の形態をヤマトシジミと似せてアリの訪問を促す作戦をとっているようです。シジミチョウとアリとの共生関係は多様でとても興味深いです。

 アリと共生する虫としてはアブラムシが有名ですが、実はシジミチョウ類ではその約75%の種類がアリと共生し2)、一方アブラムシの共生率は20~30%のようなので驚いてしまいます。でも、シジミチョウの幼虫や蛹に出会う機会はめったにないので、シジミチョウとアリの共生関係はあまり知られていないのだと思います。

 シジミチョウの中には、アリの巣の中で保護してもらう種類や、中には保護されつつアリの卵や幼虫を餌として食べるものもいるとのことなので不思議です。不思議な関係です。アリの巣の中で育ったベニシジミは、巣の入り口で蛹から成虫になると、アリに攻撃されないようすぐさまそこを飛び立つとのことでした。不義理の最たるものですが生きるための行動のようで、少し悲しいシジミチョウです。
 でも、シジミチョウの成虫に出会ってもアリは攻撃しないとする報告もあるので、今後それぞれの種別にライフスタイルに応じたアリとの関係が明らかにされることでしょう。
これまでに出会ったシジミチョウ
左上からムラサキシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ルリシジミ、ツバメシジミ
これまでに撮ったシジミチョウの写真を探したところ、ルリシジミやツバメシジの写真も見つかりました。これら2種もアリとの共生関係にあるようです。

参考)
1)Masaru k. Hojo et al.: Lycaenid Caterpillar Secretions Manipulate Attendant Ant Behavior., Curr. Biol., 25(17), 2260-2264 (2015)
2) 大村 尚:数種のアリと任意共生を行うシジミチョウ幼虫の化学的適応様式の解明、科学研究費助成事業成果報告書(平成28年)


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