幼虫の形態がこのベッコウハゴロモと良く似て区別しにくいアミガサハゴロモの蝋物質について、浜松日体高校の生徒が研究を行い、細い糸状の蝋物質は1本1本がそれぞれストロー状の中空構造になっていることを明らかにしています。尻付近にある蝋放出組織を電子顕微鏡で観察し、1本の蝋糸を放出する孔には14個の小さな放出細孔(5 x 2.5μm)がストローのような中空をつくるように、円状にきちんと並んだ構造になっているとのことです。素晴らしい研究だと思いました。
体長6mm程度の小さな虫が、自分の体をすっぽり覆うほどの蝋物質を背負う訳ですから、もし中空構造でなかったらその重さに耐えられないのかも知れません。中空構造であるが故に、風に乗り遠くに移動できるメリットもあるのではないかと、発表者も考察しています。
ケラチンタンパク質からなる毛髪や体毛は、毛母細胞で合成され順次成長して表皮に出る仕組みのようですが、ハゴロモ幼虫の蝋糸は、14個の細孔から分泌された後に結合して環構造を形成する仕組みのように思えます。だとすると、細孔を出た瞬間は液体なのだろうか。
チョコレートは、歯でパリッと割れ、口の中ではとろけます。チョコレートは、室温より温度の高い口の中、約33℃で油脂の結晶構造が崩壊して液状になる仕組みになっています。ハゴロモの幼虫の場合は、逆に、蝋物質は体中では液状で存在し、放出されることによって個体に変化するものと想像されます。でも幼虫の体温はたぶん環境の温度とあまり変わらないように思われるので、蝋物質が固まるメカニズムがとても興味深いです。
体内ではアルコールのような蝋溶解物質と一緒になっているのでしょうか。もし、そうであれば糸状物質は2.5μmの薄膜による環構造ですので、揮発性物質は瞬時に蒸発して14本の微蝋糸が結合することになります。あるいは、14本の微蝋糸の結合には空中の酸素による酸化が関与しているのでしょうか。
類縁のビワハゴロモ科の蝋物質の同定を行った論文によると、蝋糸の融点は106℃~112℃で、主成分の蝋物質以外に、微量のタンパク質と30%以上のミネラルが混ざっているとのことですので、ハゴロモの蝋糸形成メカニズムには未解明な仕組みが隠されているのかも知れません。
高校生の発表論文を契機に、蝋物質を分泌する昆虫について興味を持つようになりました。
今回は、米国では日本からの侵入害虫として有名なマメコガネについても写真を撮ることができました。これからも、昆虫の写真撮影を行おうと思っています。
1)藤田 誠(浜松日体高等学校):化学と生物、53(11)、802(2015)
2)Robert T. et al. : Insect. Biochem., 19(8), 737(1989)
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