このように、アブラムシは農業に大きな損失を与えることから、その防除は必須です。しかし、生態系における基幹産業者として、多くの野生動物の餌となり生物の多様性を支えているのも事実であり、生態系を維持する上で重要な位置を占めているともいえます。この相反する二面的な課題を、どのように解決すればよいのだろうか。
ミネソタ大学の研究によると、大豆の生産に対するアブラムシの食害は、大豆1本あたりアブラムシが250匹を超えると経済損失が大きくなるので、これを超えないレベルに維持するのが望ましいとされていますす1) 。これは、総合的病害虫管理(IPM)の視点も考慮した農業経営者のためのコストとベネフィット計算による数値だと思われますが、生産性向上と生態系保全の両立を目指す考え方でもあると思っています。
農地におけるアブラムシの密度を減らすためには、アブラムシの習性を良く知る必要があります。アブラムシは、①寄主を探し、②たどり着いた植物が寄主かどうかの判断を行い、③師管に口針を刺し、④師管液の味見をし、⑤適性であれば摂取行動を行い、子孫を増やします。従って、この5段階のどこかに不都合があれば、増殖できないことになります。
これまでの研究によると、寄主を探す手段がアブラムシの食性によって異なることが分かっているようです。すなわち、狭い範囲の植物のみを餌とする狭食性アブラムシは、寄主から放出される特異な香りを手掛かりにし、また色や形、サイズなども確認して定着すると言われています。一方、広い範囲の植物をアタックする広食性アブラムシのモモアカアブラムシやワタアブラムシなどは、寄主の香りに反応せず、むしろ色に強く反応するとの結果が得られているようです2)。広食性アブラムシは、寄主の色に惹かれ、形状やサイズなど視覚に頼った探索をするが、本来の寄主でない植物にたどり着いた場合でも、子孫を生み短い期間留まることもあるようです。
このことから、狭食性アブラムシの場合は香りによる撹乱が有効で、広食性アブラムシでは、光を反射するマルチやテープなどの視覚を攪乱する方法が有効のようで、こちらは既にグリーンハウスでの利用が進められています。また、広食性であってもローズマリーオイルに対する忌避作用が認められるなどの結果も得られていることから、各種アブラムシの寄主への定着メカニズムの解明が、さらに詳しく検討されることでしょう。
化学農薬を極力減らしながら、経済的な打撃があまりない程度のアブラムシと共存することを模索して欲しいと思っていますが、ウイルス伝搬は脅威かも知れません。
参考
1) https://www.extension.umn.edu/agriculture/soybean/pest/soybean-aphid/2) M. Hori:Appl. Entomol. Zool.、 34、293 (1999).
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