肉食性のテントウムシに加え、クサカゲロウ、オサムシ、アザミウマ、カマキリから鳥類のシジュウカラやキジまでアブラムシを餌としています。この他にも多くの動物の餌になることから、アブラムシは生態系における基幹産業者であると言われることもあります。基幹産業者とは、一次消費者すなわち植食性であって、特に大量に生息し、直接・間接に多くの動物の食料(餌)になり、生物群集の中で重要な位置を占めるものと認識されています。
すなわち、アブラムシは「生態系を支える重要な食料(餌)」であり、例えば1ヘクタールの小麦畑には約10億匹のアブラムシが生息でき、その重さは牛1頭に相当し、インゲン豆畑では約40億匹になり、象1頭に相当するそうです。アブラムシの増殖ポテンシャルはすさまじく、春早くからエンドウヒゲナガアブラムシ1匹の子孫が、もしも夏の終わりまですべて生き残ったと仮定すると、地球の表面50cmを覆うほどになると計算されるそうです。
アブラムシは、地球上のほとんどの植物に寄生し増殖する訳ですが、その栄養補給には秘密があるようです。アブラムシは、植物の葉や茎の師管液を餌として吸引します。ところが師管液には5-15%のスクロースと0.1-4.5%の限られた種類のアミノ酸があるだけで、生存のために必要な栄養素が足りないと言われています。不思議なことに、アブラムシの消化管と卵巣小管内には菌細胞があって、その中にブフネラ(Buchnera aphidicola)と呼ばれる共生菌が住み、その菌が必須アミノ酸などを合成し、アブラムシに提供しているとのことです。
ブフネラ菌が共生していないとアブラムシは生きていけないので、卵細胞にブフネラ菌を挿入するため卵巣にも菌細胞がある訳です。ブフネラ菌は1億5千万年~2億年前にアブラムシの体内に寄生し、今では独立して生きるために必要な多くの遺伝子を失ってしまっているとのことです。植物細胞の葉緑体や動物細胞のミトコンドリアなども、このような共生菌が宿主細胞と同化し、細胞顆粒へと進化を遂げたものであると言われています。
ブフネラ菌という名称は動物の共生に関する先駆的研究者であるドイツライプチッヒ大学のPaul Buchner教授に因んで名づけられたようです。ブフナー教授は1978年に92歳で他界されましたが、この分野の多くの若手研究者に影響を与えたことで知られ、動物の共生に関する彼の著書は今でもよく引用されています。天皇陛下もご臨席されて行われる国際生物学賞を2010年(第26回)を受章されたテキサス大学のナンシー・モラーン(Nancy Moran)教授 は、「昆虫の共生微生物」の研究者で、2017年のMolecular Ecology Prize (分子生態学賞)も受賞され、若いころにミシガン大学の図書館で、ブフナー教授の本に出合った思い出を国際生物学賞の受賞者講演で披露されています。
共生菌については、このアブラムシに関する研究成果を端緒として、アリやハエ、バッタ、コナカイガラムシなどで次々に見出されたようです。ブフナー教授の後を継いで、切磋琢磨に余念のない若手研究者にエールを送りたいと思いました。
参考
1)P. Buchner:
"Endosymbiosis of Animals with Plant Microorganisms," Interscience, New
York, 1965.
2)Munson, M.A.,
Baumann, P., and Kinsey M.G., Buchnera gen. nov. and Buchnera
aphidicola sp. nov., a Taxon Consisting of the Mycetocyte-Associated,
Primary Endosymbionts of Aphids. Int J Syst Bacteriol, 41(4): p. 566 (1991)
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