フィロキセラは、北米土着の害虫でブドウの葉や根に瘤を形成して寄生し、耐性種以外のブドウを枯死させるとのことです。北米のブドウにはこの害虫に対して耐性を持つ種があったようですが、ヨーロッパには耐性種がなく、北米から持ち込まれたブドウ苗に付着したフィロキセラは、1863年に南イングランドで初めて確認されたのを皮切りにして各地に広がり、10年後にはフランスのワイン産業に壊滅的な打撃を与えたとのことです。その後、耐性種の台木に接ぎ木をすることで被害を防止できることが判明し、ヨーロッパのブドウ産業は壊滅の危機を免れたとのことですが、そのため、現在はほとんどがこの耐性種に接ぎ木されたブドウに置き換わっているとのことです。難を逃れたブドウ園は極めて少なく、貴重な品種が残存していることから、フランスではそれらの園を国家遺産に登録しているとのことです。
日本でも、1882年に米国から輸入したブドウ苗にこのブドウネアブラムシ(フィロキセラ)が付着していたことが分かっており、その後、甲州ブドウへの被害が発生し大きな問題になりましたが、緑茶の害虫である「カンザワハダニ」の研究者として有名な山梨県農事試験場の神沢恒夫らの努力によって、最終的には1935年に「デラウエア」などに適する耐性台木が完成し現在に至っているということです1)。
このフィロキセラがヨーロッパで蔓延した原因の一つとして、ヨーロッパにおけるテントウムシ優占種のナナホシテントウが、フィロキセラを餌としてあまり食べないことが取り上げられています2)。実験室でフィロキセラの卵を食べさせるとライフサイクルを完結できずに死んでしまうとのことです。一方、アジア在来のナミテントウは、このフィロキセラが好きというほどではないにしても良く食べ、ライフサイクルを完結させ生存できるとのことです。具体的には、ナナホシテントウ成虫に10個のフィロキセラの卵を与えるとその捕食率は、10回の繰り返し試験で52±9%、一方ナミテントウの成虫では、フィロキセラの卵1000個の捕食率が94±15%になるということなので、その違いは明瞭です。
ナミテントウは野外のブドウ園でもフィロキセラによる瘤が形成された葉に集まることが確認されているので、ブドウ園の益虫としてその役割が期待されています。でも、以前ブログに書いたとおり「ワインのテントウムシ汚染(Ladybird taint)」の問題もあることから、ブドウの収穫時期にブドウ園からテントウムシがいなくなるような対策の確立が期待されています。
ブドウの収穫時期には、ナミテントウがフィロキセラよりはるかに好むアブラムシ類が、多くの植物で繁殖しているので、そちらに目を向けさせる方法も考えられるかも知れません。
参考
1)西尾 俊彦:農業共済新聞、2003年1月2週号(2003).2)Susanne Kogel et al.: Eur. J. Entmol., 110(1), 123 (2013)
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