テントウムシなどで、種間の交雑が頻繁に生じると種の消滅が起こるように思います。それを回避する要因として、先ず食性の違いがあります。その他に、素人的な視点ですが、物理的な隔離による生息域の違い、活動時期・時間の違い、生殖器の違いや交雑種のふ化率の違いなども考えられます。
かなり前に栃木県内のアルファルファ圃場で実施したテントウムシ調査1)によると、ナナホシテントウは4月初旬から中旬にかけて枯れ葉や石ころに産卵し、ナミテントウは5月初旬にアルファルファやその他雑草上に産卵をしていたと報告されています。両種の産卵時期と産卵場所が異なっていたようですので、このケースでは、雑種の誕生は活動時期の違いによって回避されていたのかも知れません。
ナナホシテントウの産卵はアブラムシの少ない時期だったので、その産卵数は、アブラムシの多い時期に産卵するナミテントウの産卵数よりはるかに多く、たぶん幼虫の餌であるアブラムシの不足に伴う卵の共食いが起こっていると予想されています2)。実際、テントウムシの卵の中には孵化せず、幼虫の栄養卵としての役割を果たすものも存在するそうで、餌が少ないと幼虫間での共食いも発生するとのことです。残酷な現象だと思いますが、必ず子孫を生き残す手段の一つととらえられています。
ナナホシテントウが枯れ葉や石に産卵するというのは驚きですが、一般的には、親は子が安全に生き延びることのできる植物を選びそれに産卵するものと思われます。多くの昆虫の産卵に関する調査結果によると、成虫の食性に比べ産卵する植物の範囲はかなり狭いようです。その理由は、幼虫が生き延びるために有利な植物を選ぶからだと思ってしまいますが、現実的にはそうでもないようです。
同じエリアに棲息する種同士の繁殖行動を2種のテントウムシ(ナミテントウとクリサキテントウ)に焦点をあて解析した結果では、同種との交尾が他種の存在によって強く阻害される種(クリサキテントウ)は、自分たちの種を維持するために、たとえ栄養的に不利な条件であっても、他種と異なる植物に付くアブラムシ(マツオオアバブラムシ)を餌として選択し、その植物に産卵することによって、生殖隔離を確保するようになるとのことです。この現象を「繁殖干渉」と呼ぶそうですが、この視点からの研究が盛んになっています3)。
さらに最近は、食性を支配する遺伝子や産卵する植物の選択に関わる遺伝子の存在も推定されており、交雑による種の崩壊を防ぐメカニズム4)など種分化や種の固定に関する仕組みの解明が遺伝子レベルで解析されているようです。
地球上に存在する多様な種が、それぞれ独自に存続できる仕組みに興味が湧いてきました。
参考
1)高橋 敬一:日本応用動物昆虫学会誌31(3)、253(1987)2)高橋 敬一:日本応用動物昆虫学会誌31(3)、201(1987)
3)鈴木紀之:すごい進化「一見すると不合理」の謎を解く、中公新書(2017)
4)Ohsima I.:Sci. Rep. 2012年7月12日 オンライン発行
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