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2019年7月3日水曜日

アリと共生するアブラムシは20-30%?

牛久沼のほとりで白くて大きなキスゲフクレアブラムシを見て、その大きさに驚きましたが、調べて見たところナミテントウの幼虫はこのアブラムシを餌として利用することが出来るようです1)。でも、このアブラムシだけで飼育すると成虫になりにくいようなので、あまり良い餌とは言えず天敵であるテントウムシによる防除は無理なようです。餌が異なると成虫になりにくくなる現象があることをを初めて知りました。
キスゲフクレアブラムシ
 このキスゲフクレアブラムシの秋から春にかけての二次寄生植物は木性のミツバウツギやゴンズイとのことです。キスゲ類が秋に枯れた後は、これらの樹木に寄生して冬を乗り切る訳です。従ってキスゲ類の被害を軽減するためには、これらの樹木を遠ざけておけば良いということになります。
 もっとも、キスゲフクレアブラムシにも羽が生えますし、またもしアリと共生関係にあれば、二次寄生植物からの拡散は容易なのかもしれません。
 アリとアブラムシの共生は有名で誰でも知っていることですが、調べてみるとアリと共生するアブラムシの種類は全体の20-30%程度とのことでした。日本産好蟻性動物仮目録2)には72種類のアブラムシが掲載されていますが、その中にキスゲフクレアブラムシはありませんでした。これまで、ほとんどのアブラムシはアリと共生しているものと思っていましたので意外です。


 もっとも、一般的に「アブラムシ類の90%程度は単一食性(monophagous)である」と言われているものの、実際はアリと共生関係にあるモモアカアブラムシやワタアブラムシ等が親しみのある多くの作物や花卉類、果樹類に寄生できる広食性であるため、目にふれるチャンスが多く、「アブラムシはアリと共生する生物(アリマキ)」として認知されやすいのだと感じました。
 これまで撮ったアブラムシの写真を探したところ、ヨモギに寄生しているアブラムシ(ヨモギヒゲナガアブラムシ)の写真には、2種類のアリが写っていました。日本産好蟻性動物仮目録に記載された情報によれば、小さいほうがトビイロケアリで大きい方はクロヤマアリということになります。
ヨモギヒゲナガアブラムシと共生アリ
 イタドリに寄生したアブラムシの写真にもアリが写っていました。但し、イタドリに寄生する最も一般的なアブラムシであるイタドリオマルアブラムシの目印になっている黒い斑点が背中にありませんので、その容姿から判断するとギシギシアブラムシかも知れません。
イタドリに寄生したアブラムシとその共生アリ

 この他に、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの写真も撮っていましたが、これにはアリは写っていませんでした。日本好蟻性動物仮目録にも掲載されていません。
セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ
 アブラムシの写真はピントが合いにくいのであまり撮っていませんでしたが、これから頑張って撮ろうと思いました。アリとアブラムシの関係は相利共生系だと言われていますが、その中身はなかなか面白そうです。

参考)
1)Tsunashi Kano et al. : Influence of aphid-host plant pairs on the survivorship and development of the multicolored Asian ladybird beetle: implications for the management of vegetation in rural landscapes. Ecol. Res., published online 21 July 2010.
2)寺山 守、丸山 宗利:日本好蟻性動物仮目録、ARINo.30、1~532007

2019年5月24日金曜日

ヤブガラシの巻きヒゲは相手を選ぶ             -植物の自己認識システムの発見ー

つくばで桜の花を見学した際に草花の写真も撮りましたが、その中で、特に気になったのは、どこにでもある逞しいヤブガラシ(Cayratia japonica)です。 

ヤブガラシを見つけるとなぜか反射的に引っこ抜きたくなるからです。ヤブガラシはビンボウカズラ(貧乏葛)とも呼ばれているそうで、生命力が強いのでほったらかしておくと家の周りがビンボウカズラだらけになってしまうそうです。「雑草が好きです」といいながらも、真逆の反応をしてしまう相手がヤブガラシです。なお、ヤブガラシには2倍体と3倍体があるようで、葉が5葉の鳥足状複葉のみのものは2倍体、5葉に加えて7葉の葉が混在するものが3倍体であると言われているようなので、今回遭遇したヤブガラシは3倍体のようです。
でも最近このヤブガラシが注目されています。ヤブガラシ(藪枯らし)はその名前のとおり、草木に「巻きヒゲ」でとりついて繁茂し、陽ざしを遮ってしまうので、覆われた藪が枯れることからこの名前が付けられたそうですが、この覆うという作業を効率的に行うための自己(他)認識システムが備わっていることが明らかになったようです1)。自分の茎や葉には、巻きヒゲが絡みにくいとのことです。
 動物のみならず植物にも様々な相互作用が存在することが明らかになり、加害された害虫の天敵を誘引する香りを放出する「助けを呼ぶ植物」2)や、隣の植物が害虫に加害された際に放出される香りをキャッチして防御物質のファイトアレキシンを蓄積し始める「立ち聞きをする植物」3)などが有名になっていますが、今度は植物の自己(他)認識システムの発見です。人間のMHCMajor Histocompatibility Complex)のような仕組みにはかなわないにしても、すごいことだと思います。


このヤブガラシの自他認識システムの発見を契機に蔓性植物を研究素材とした植物の自他認識システムに関する研究が活発に行われ始めたようでそのメカニズムの解明を楽しみにしています。

人間が長い間育種して作成したキュウリや、最近注目され始めたニガウリ(ごうや)と野草に近いトケイソウを用いた研究では、自他認識はトケイソウで強く、次いでニガウリでも優位差が認められたものの、キュウリではそのシステムが失われていることが明らかにされています4)

この仕組みが植物に存在することを知らなかったため、長い育種の過程を経たキュウリではその能力が除去されてしまったものと予想されていますが、今後は新たな形質として活用できるようになるのかも知れません。最近では、ハダニに感染した植物の茎葉には巻きひげがからまないことや、サツマイモでは他の品種と混植するよりも自株同士のペアで栽培する方が収穫量が多くなることなども報告され始めています。
 それにしても、ヤブガラシが植物の基本的な能力の解明に貢献するとは思っていませんでしたのでヤブガラシに謝りたい気分です。それでもやっぱり見つけたら引っこ抜くことになると思いますが。

 もっとも、ヤブガラシの若芽はあく抜きをすれば食べることができるそうで、「ウレンボ(烏苺)」と呼ばれて中国では民間薬的に利用され、消炎や解毒作用が期待できるとのことで、昔から活用されていたようです。特に地下に張り巡らされた根茎は有望で、虫刺されの際には患部に生の根の汁をつけると良いとの記述が大学の薬学部における紹介にも記載されていました。

 ただ、有効成分に関する研究がほとんど行われていないようです。最近の報告では長寿遺伝子(サーチュイン)活性化作用を持つとされるレスベラトロールやその二量体、四量体が存在する5)とされていますので、今後は茎葉も注目されるかもしれません。

 どんな植物であっても「あなどれない」ということを身に染みて感じました。

参考)

1)Fukano Y., Yamawo A.*(equal contribution) (2015) Self-discrimination in the tendrils of the vine Cayratia japonica is mediated by physiological connection. Proceedings of the Royal Society B. 282: 20151379.
2)K.Shiojiri, et al.:Herbivore-Specific, Density-Dependent Induction of Plant Volatiles: Honest or “Cry Wolf” Signals?, Plos One, August 17, 2010, 5(8).
)松井健二ら:みどりの香りを介した生物間相互作用、におい・かおり環境学会誌、40(3)1662009
4)M. Sato, et al.:Self-discrimination in vine tendrils of different plant families. Plant signal Behav., 13(4), e1451710, (2018)
5)Boa L. et al.: Chem. Biodivers, Two new resveratrol tetramers isolated from Cayratia Japonica (Thunb.)Gagn. With strong inhibitory activity on fatty acid synthase and antioxidant activity.


2017年6月27日火曜日

テントウムシの足跡物質とアブラムシ寄生蜂


テントウムシの足跡があると、アブラムシに卵を産み付ける寄生蜂が寄り付かなくなるそうです。足跡物質(footprint)が残るからです。

昆虫は重力に耐え、垂直に立った窓や天井の板などの平滑面を自由に歩くことができます。なぜなのだろうか。この疑問を解明する研究は1970年頃から始まっています。テントウムシについても、1988年にオオニジュウヤホシテントウを用いた研究が行われ、他の昆虫と同様、足の付節に密集する毛に分泌される黄色の液が重要な役割を果たしていることが明らかなっています。実際に、オオニジュウヤホシテントウがガラス面を歩くと、微細な油滴が千鳥格子状に並んで残されるそうです。

もっとも、昆虫が草の上で滑らずいられるそのメカニズムについては、足跡物質のみならず、強く付着できる足の構造に対する関心も高く、電子顕微鏡を用いた詳細な観察が行われ、米国に生息するあるカメノコハムシ(palmetto tortoise beetle )は、その特徴的な足の構造によって体重の60倍の重さにも耐えられることが分かっています。この領域では、壁を駆け登るスパイダーマンが有名ですが、既に壁をよじ登るロボットも試作されており、昆虫の機能を活用した実用機ももうすぐ登場するものと期待しています。

テントウムシの足跡物質については、ナナホシテントウ、ニジュウヤホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウなど3種のテントウムシについて、明らかになっています1)。面白いことに、テントウムシの足跡物質は炭素数が30前後の炭化水素が主要成分であり、テントウムシの種類ごとに含有する成分組成がかなり異なっているようです。さらに、肉食性であるナナホシテントウだけは他の2種と異なり、足跡物質に蝋(ワックス)が含まれていないとのことです。足跡物質を分析するとテントウムシの種類が分りそうです。でも、何故そこまで違う必要があるのだろうか。

30個の炭素が連なった炭化水素の融点は65.8です。その温度以下では個体状なので、それらはワセリンや潤滑油などとして用いられるそうです。テントウムシがガラス面を歩くと、ワセリン状の足跡物質がガラス面に付着し、テントウムシは落下を免れる訳です。足跡物質は、体表にも僅かに存在し、体表からの水の蒸発を防ぐ役割もしているものと考えられています。 

 最初に述べたとおり、この足跡物質をアブラムシの寄生蜂であるアブラバチの雌が認識し、アブラムシへの無駄な産卵を避ける訳です。賢いです。既に生物農薬として市販されているチャバラアブラコバチ(住友テクノサービス)、エルビアブラバチ(コパート社製)ともう一種を加えた3種のアブラバチ類と、ナナホシテントウ、フタホシテントウの2種のテントウムシを用いた実験では、チャバラアブラコバチとエルビアブラバチがナナホシテントウの足跡物質(C27C25の炭化水素)を強く避け、もう一種はナナホシテントウの足跡物質に加えて、フタホシテントウの足跡物質であるトリコサン(C23の炭化水素)にも反応したということです2)

テントウムシは、その種類によって足元に分泌する足跡物質が明瞭に異なります。またアブラムシ寄生蜂も、種によって足跡物質への反応が異なります。このようなきめ細かな違いが、自然の中で何故必要なのかが気になります。限りなく多様化が進むのでしょうか。

参考
1)尾崎 晶子:日本応動昆誌、40(1)47(1996)
2)Nakashima Y., et al. : J. Chem. Ecol., 32(2), 1989(2006)

2017年6月16日金曜日

飛ばないテントウムシと飛べないテントウムシ

「飛ばないテントウムシ」がアブラムシやカイガラムシの生物農薬として日本で開発されていまし 1)。テントウムシ集団の中には飛ぶことの出来ない個体がわずかに存在し、その性質を持つ個体を30代から35代選抜し続け、飛翔不能な系統を選抜・育成できたということです。私は知りませんでしたが、このニュ-スは2012年の天世人後でも取り上げられているようです。

飛翔不能にした種類はハーレクインテントウすなわちナミテントウで、20139月に施設野菜類用の天敵製剤として登録されています。翌年6月から販売が始まり、効果的な利用法をまとめた技術マニュアルも公開されています。この飛ばないテントウムシは幼虫として販売されていますが、飛べないので成虫になった後も定着し、次世代以降も防除効果が期待できるとのことです。飛ばないテントウムシの開発は、世界初のことだと思います。世界的各地で農薬減に貢献するのではないかと期待しています。
 
一方「飛べないテントウムシ」は、名古屋大学で開発2)され、その後岡崎基礎生物学基礎研究所に引き継がれています。テントウムシの生殖細胞にある羽の形成に関わる遺伝子の働きをRNA干渉法という技術で妨げ、羽のないテントウムシになる卵(成功率87%)の産卵に成功したということです。遺伝子を組換えた訳ではないので、世代を超えた環境影響には問題がないのですが、量産化にはまだコスト面での課題があるものと予想されます。この「飛べない」という視点からの発想で、テントウムシの羽に後で剝がすことのできる接着剤を塗る方法を考案した千葉県の高校生の活動には感心しました。おもしろいです。

「飛ばない」と「飛べない」というほぼ同じ意味をもつ言葉の使い分けが気に入りました。「飛ばない」は、籠の中に棒を立てておいても飛んでいかないテントウムシのことで、「飛べない」は羽が無かったり、接着剤で羽を開けないようにしたテントウムシ達で、それぞれ奇麗に言葉が使い分けされていました。
納得!

参考
 1)瀬古 智一:化学と生物、53(8)5422015
 2)新美 輝幸:Insect Mol. Biol., 15(4), 507 (2007)



2017年6月15日木曜日

生物農薬としてのテントウムシ

ハーレクインテントウ(ナミテントウ)は越冬が可能で繁殖力が強く、世界各国で優占種になりそうだということで恐れられていますが、テントウムシの天敵農薬としての導入は、ヨーロッパでは1875年頃から行われていたようで、かなり長い歴史があります。当時はオーストラリアからコナカイガラムシに対する天敵として導入し、グリーンハウスで利用したのですが、導入した種類は16℃から33℃で活動し、寒さに弱く越冬できなかったため、問題にならなかったようです。このような穏やかな性質のため、このテントウムシはまだ販売が継続されています。

農薬の使用量低減は世界的な課題で、病害虫の総合的管理技術(IPMIntegrated Pest Management)の確立が期待されています。これを支える技術として生物農薬(天敵など)が注目されている訳ですが、ハーレクインテントウ(Harlequin ladybird)の導入は、生態系の攪乱をもたらす恐れのある事例として監視されることになりました。例えば、2004年にハーレクインテントウが確認されたイギリスでは「Ladybird Survey」を、またニュージ―ランドでは「Ladybird watch」の取り組みを行っており、住民の協力を得ることによって、国内のテントウムシの種類別分布やその増減に関するデータ収集が行われています。

  ニュージーランドに生息するテントウムシの写真を示しましたが、警戒されているテントウムシは赤枠で囲ったハーレクインテントウです。面白いことにニュージーランドにはテントウムシダマシ類として日本と同じ28ホシテントウがいるようで、イギリスやアイルランドの24ホシテントウではありませんでした。