2020年3月11日水曜日

コロナウイルスの感染防止にはプロテアーゼ(TMPRSS2)活性阻害が有効?


新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るっています。特にイタリアやスペイン、フランスなどヨーロッパでの感染者数が急激に増加しています。

中国での増加数は確実に減少しており、新型コロナに対する有効な対策が見つかっているのであれば、学術情報に加えて、逸早く世界に向けて発信して欲しいと思っています。特に、既存医薬品の投与試験が中国で多数実施されたとのことですので、(Nature biotechnology news, https://www.nature.com/articles/d41587-020-00003-1)その結果に関する情報は貴重です1)。

インターネットの文献検索サイトでコロナウイルスに関する研究を検索したところ、2月以降に研究報告がたくさん出されており、しかもそのほとんどが全文公開されていました。非常時に情報を公開して難局に立ち向かう「ワンチーム」の体制が阿吽の呼吸で学術分野に出来ているように感じました。

 ウイルスに関する知識はあまりありませんので、コロナウイルスの感染機構について調べてみました。その結果、これまでのSARSMERSに関する研究から、新型コロナもそれらのウイルスと同様に、宿主(ヒト)細胞にウイルスが結合するレセプター(ACE2)と共にタンパク質分解酵素(TMPRSS2)が存在する必要があるとのことです2~4)
SARS-CoVの感染機構(TMPRSS2が必要)



 コロナウイルスの受容体になる宿主のACE2の近くにTMPRESS2が存在しないと感染が成立せず、TMPPSS2の発現量が多いと感染しやすいとも言われているようです。TMPRSS2はアンドロゲンの影響を受け、前立腺がん細胞で増加しているとの報告がありますので、杞憂かもしれませんが欧米での感染率と重篤化が気になります。

 コロナウイルスの感染防止にはTMPRSS2の活性阻害が有効であるとする論文がドイツの研究者によってCell誌に掲載されました。嬉しいことに、日本でプロテアーゼ阻害薬として認可されている医薬品「カモスタットメシル酸塩」が感染防止に有効であるとの報告でした5)。日本で開発認可されているインフルエンザ薬の「ファビビラビル(アビガン)」(RNAポリメラーゼ活性阻害物質)にも期待が集まっているので早急な治験が待たれます。
カモスタットメシル酸塩
 TMPRSS2は宿主側のプロテアーゼですが、コロナウイルスの遺伝子から生じるプロテアーゼ(3CLpro)は宿主細胞内でのウイルス増殖の際に必要な酵素であるため、この酵素の阻害剤についてはSARSの酵素を用いた研究がたくさん行われ、フラボノイドなど天然成分も注目されていました6)。例えば、アマニ油の原料となるアマニ種子に存在するヘルバセチンなどが試験管レベルでの研究報告ですが阻害作用が強かったとのことです。
ヘルバセチン
 これらの研究は、ヒトでの有効性が証明されるまで時間がかかると思いますが、注目してみていきたいと思っています。
 
後日追加記載(4月10日)
 東京大学医科学研究所がカモスタットの1/10濃度で有効性を示すナファモスタットを用いて臨床試験を実施するようです



参考)
1)Guangdi Li. et al.: The cerapeutic option for the 2019 novel coronavirus(2019 nCoV), Nature review, Drugsidcovery, Suppplementary information.
)田口 文広ら:コロナウイルスの細胞侵入機構、ウイルス、59(2)215-2222009
)竹田 誠:プロテアーゼ依存性ウイルスは病原性発現機構とTMPRSS2, ウイルス、69(1)61-722019
Graham Simmons, et al.: Proteolytic activation of the SARS-coronavirus spike protein: Cutting enzymes at the cutting edge of antiviral research. Antiviral Res., 100(3), 605-614(2013)
Markus Hoffmann, et al.: SARS-CoV-2 Cell Entry Depends ACE2 and TMPRESS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor., Cell, 181, 1-10(2020)
Seri Jo, et al.: Inhibition of SARS-CoV 3CL protease by flavonoids. J. Enz. Inhibi. Med. Chem., 35(1), 145-151(2020)

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