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2022年11月16日水曜日

ナデシコ目の赤ビートなどのベタレイン色素について

   秋の牛久沼周辺を散歩すると、コキアやヨウシュヤマゴボウ、マツバギク、シロザなど赤く色づいた植物や花に出会います。これらはナデシコ目に属しベタレイン色素を含有する植物のようです。

秋の散歩で出会うナデシコ目の植物

タデ科に属するイヌタデもたくさん見かけます。タデ科もナデシコ目ですがその赤い花にはベタレインが無くてアントシアニンが存在しているとのことです。

ベタレインはナデシコ目に含有される色素と言われていますが、タデ科やナデシコ科(例:カーネーション)などのようにナデシコ目に属するものの、ベタレインを含まずアントシアニンを含有するグループも少しあるようです。

ベタレイン含有植物として最も有名なものは、ウクライナ料理として有名なボルシチの素材である赤ビートのように思います。

そこで、赤ビート根のベタレイン組成に関する研究報告1)を調べたところ、赤色色素のベタシアニンとしては、主要成分であるベタニンの他に立体異性体のイソベタニンと酸化型のネオベタニンが検出されるとのことです。また、ベタニンやイソベタニンは加熱により著しく減少するものの、その一部はネオベタニンに変化することも分かっているようです1)

加熱処理では、ベタシアニジンを構成するベタラミン酸部位のカルボン酸の離脱も生じるとのことで、多様な成分が生成されるようです2)

赤ビート根の主要なベタキサンチンはブルガキサンチンⅠで、やはり加熱により著しく分解されるとのことです。

ベタキサンチンはベタラミン酸にアミノ酸やアミンが結合した化合物ですが、その慣用名は化合物が検出された植物に因んで名づけられていたようです。 

その後2013年度までに、31種類のベタキサンチンが同定・報告されているようです3)

ベタレインを含有する花としては、前回記載したオシロイバナとともにマツバボタン(ポーチュラカ)に関する研究が数多く行われているようです。

マツバボタンには黄色、橙色、赤色、紫色の花がありますが、ベタシアニンは紫色の花に多く、ベタキサンチンは黄色の花に多く含有されているようです4)

また、ベタキサンチンについては花色に関わらずベタラミン酸にプロリンが結合したインディカキサンチンが、次いでチロシンが結合したポーチュラカキサンチンⅡが多く存在し、合わせて19種類のベタキサンチン含量が報告4)されていました。

ベタレインに関する研究はアントシアニンやカロテノイドに比べてかなり遅れ、最近ようやく生合成の基本部分が解明され、さらに抗酸化性を始め生態調節機能も次々に見出されたことから急激に注目され始め、学術誌も「La Vie en RoseMol. Plant. 11, 7-22(2018)」(cf. Édith Piaf) やThe down of betalains: New Phytologist, 227, 914-929(2020)」と題して総説を掲載しています。興味を持ちました。

 


参考)

1)Lucia Aztatzi-Rugerio et al.: Analysis of the degradation of betanin obtained from beetroot using Fourier transform infrared spectroscopy., J. Food Sci. Tchnol. 2019, 5(8), 3677-3686.

2)Katarzyane Sutor-Swiezy et al: Dehydrogenation of Betacyanins in Heated Betalain-Rich Extracts of Red Beet (Beta vulgaris L.)., International Journal of Molecular Science, 2022, 23, 1245.

3) Fernando gandia-Herrero et al.: Biosynthesis of betalains: Yellow and violet plant pigments., Trend in Plant Science, 2013, 18(6), 334-343.

4Aneta Sporna-Kucab et al.: Metabolite Profiling Analysis and the Correlation with Biological Activity of Betalain-Rich Portulaca grandiflora Hook. Extracts., Antioxidants, 2022, 11, 1654.

2022年11月13日日曜日

オシロイバナのベタレイン色素の不思議

  秋が深まり朝の気温が10℃以下の日もあり寒くなりました。庭では遅く芽を出したオシロイバナ(Milabilis Jalapa)がまだ花を咲かせていますが、花を開く時間が短くなり、そろそろ終わりになりそうです。

オシロイバナ(11月13日)

桃色と黄色、キメラ咲のオシロイバナ

 オシロイバナの花の色素は良く知られているアントシアニンではなくてベタレインと呼ばれるグループで、化学構造の違いからベタシアニンとベタキサンチンに分類されています。

ベタレインはオシロイバナの他にコキアやアカザ、アマランサス、ポーチュラカ、サボテンなどが属するナデシコ目の植物に含有される色素で、不思議なことに、ベタレインを含有する植物にはアントシアニンは見つからず共存しないとのことですが、最近そのメカニズムに関する報告が出ていました1)

ベタレインの生合成についてはまだ不明な部分もあるようですが、合成に関わる基本的な遺伝子は解明されていて上海市農業科学院で「ベタニンライス(Betanin Rice)」が2)、トイツでは赤ビートよりベタレイン含量の多いトマトが作出されているようで3)

ベタレイン合成に関与する酵素遺伝子をアントシアニン含有植物に導入した場合は、アントシアニン含量がかなり減少するものの、ベタニンとアントシアニンは共存し、リンドウ目のトルコギキョウの場合は、両色素を含有する濃いワインレッドの花ができたとのことです4)

クリスパーCas9等によるゲノム編集作物が今後注目されることでしょう。

ベタレインのベタシアニンとベタキサンチンに共通する基本構造はベタラミン酸(Betalamic acid)で、この化合物はチロシンの水酸化によって生じたL-ドーパ(L-4,5-Dopa)からジオキシゲナーゼによるベンゼン環の解列反応に伴い生成するようです。


ベンゼン環を切断する反応は面白いです。土壌汚染物質の分解などに応用できるといいなと思ってしまいます。

ベタラミン酸の尻尾部分はカルボニル基なので、アミノカルボニル反応でシクロドーパ(cyclo-DOPA)やそのグルコシドと自発的に反応するとベタニジンやベタニンが生成し、アミノ酸やアミンと反応するとベタキサンチンが生じる仕組みのようです。


今回とりあげたオシロイバナの場合はベタシアニン類のベタニンに加えて、インディカキサンチンIやブルガキサンチンⅠ、ミラキサンチンⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅴなど8種類のベタキサンチンが確認されているようです5)。ベタラミン酸の立体異性体が存在。

 オシロイバナの花色についてはメンデルの法則に合わない例として良く取り上げられているようですが、その他に花びらがキメラ模様になることも話題になっており、キメラをもたらす遺伝子としてトランスポゾン(動く遺伝子)が関与しているとのことです。

 トランスポゾンはアントシアニン遺伝子等の発現に関する研究によって発見されたもので、1983年のノーベル生理学・医学賞になっていますが、同じ花色素の一つであるベタレインの発現にも関与しているとのことで興味深いです。

 

参考)

1)Masaaki Sakuta et al.:Anthocyanin synthesis potential in betalain-producing Caryopyllales plant., J.Plant Research (2021), 134:1335-1349.

2)Yong-Sheng Tian, et al. : Metabolic engineering of rice endosperm for betanin biosynthesis., New Phytologist, 225, 1915-1922(2020).

3)Ramone Grutzner et al.: Engineering Betalain Biosynthesis in Tomato for High Level Betanin Production in Fruits, Frontiers in Plant Science, 12: 682443(2021)

4)Eri Tomizawa et al.: Additional betalain accumulation by genetic engineering leads to a novel flower color in lisianthus (Eustoma grandiflorum)., Plant Biotechnology, 38,323-330(2021).

5)M.Piattelli, et al.: Pigments of centrospermae V:Betaxanthins from Mirabilis Jalapa L,. Phytochemistry, 4(6), 817-823(1965).