秋が深まり朝の気温が10℃以下の日もあり寒くなりました。庭では遅く芽を出したオシロイバナ(Milabilis Jalapa)がまだ花を咲かせていますが、花を開く時間が短くなり、そろそろ終わりになりそうです。
オシロイバナ(11月13日) |
桃色と黄色、キメラ咲のオシロイバナ |
オシロイバナの花の色素は良く知られているアントシアニンではなくてベタレインと呼ばれるグループで、化学構造の違いからベタシアニンとベタキサンチンに分類されています。
ベタレインはオシロイバナの他にコキアやアカザ、アマランサス、ポーチュラカ、サボテンなどが属するナデシコ目の植物に含有される色素で、不思議なことに、ベタレインを含有する植物にはアントシアニンは見つからず共存しないとのことですが、最近そのメカニズムに関する報告が出ていました1)。
ベタレインの生合成についてはまだ不明な部分もあるようですが、合成に関わる基本的な遺伝子は解明されていて上海市農業科学院で「ベタニンライス(Betanin Rice)」が2)、トイツでは赤ビートよりベタレイン含量の多いトマトが作出されているようです3)。
ベタレイン合成に関与する酵素遺伝子をアントシアニン含有植物に導入した場合は、アントシアニン含量がかなり減少するものの、ベタニンとアントシアニンは共存し、リンドウ目のトルコギキョウの場合は、両色素を含有する濃いワインレッドの花ができたとのことです4)。
クリスパーCas9等によるゲノム編集作物が今後注目されることでしょう。
ベタレインのベタシアニンとベタキサンチンに共通する基本構造はベタラミン酸(Betalamic acid)で、この化合物はチロシンの水酸化によって生じたL-ドーパ(L-4,5-Dopa)からジオキシゲナーゼによるベンゼン環の解列反応に伴い生成するようです。
ベンゼン環を切断する反応は面白いです。土壌汚染物質の分解などに応用できるといいなと思ってしまいます。
ベタラミン酸の尻尾部分はカルボニル基なので、アミノカルボニル反応でシクロドーパ(cyclo-DOPA)やそのグルコシドと自発的に反応するとベタニジンやベタニンが生成し、アミノ酸やアミンと反応するとベタキサンチンが生じる仕組みのようです。
オシロイバナの花色についてはメンデルの法則に合わない例として良く取り上げられているようですが、その他に花びらがキメラ模様になることも話題になっており、キメラをもたらす遺伝子としてトランスポゾン(動く遺伝子)が関与しているとのことです。
トランスポゾンはアントシアニン遺伝子等の発現に関する研究によって発見されたもので、1983年のノーベル生理学・医学賞になっていますが、同じ花色素の一つであるベタレインの発現にも関与しているとのことで興味深いです。
参考)
1)Masaaki Sakuta et al.:Anthocyanin synthesis potential in betalain-producing Caryopyllales plant., J.Plant Research (2021), 134:1335-1349.
2)Yong-Sheng Tian, et al. : Metabolic engineering of rice endosperm
for betanin biosynthesis., New Phytologist, 225, 1915-1922(2020).
3)Ramone Grutzner et al.: Engineering Betalain Biosynthesis in Tomato for High Level Betanin Production in Fruits, Frontiers in Plant Science, 12: 682443(2021)
4)Eri Tomizawa et al.: Additional betalain accumulation by genetic
engineering leads to a novel flower color in lisianthus (Eustoma
grandiflorum)., Plant Biotechnology, 38,323-330(2021).
5)M.Piattelli, et al.: Pigments of centrospermae V:Betaxanthins from
Mirabilis Jalapa L,. Phytochemistry, 4(6), 817-823(1965).
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