2018年5月14日月曜日

笊川のスミレとフランスのスミレ産業

  春一番に咲く花の一つにスミレがあります。笊川のほとりには比較的大きな白いスミレの花がたくさん咲いていました。また中心部が紫色に染まった花も見つかりました。後で、調べてみるとアメリカスミレサイシンのようです。どちらも茎が見当たらず葉も花も地面から直接出ているように見え、花の側弁の基部にたくさんの毛状の突起が確認できます。5月中旬には草に隠れてしまい全く見えませんが、草をかき分けて探すと20cm以上の草丈になっていました。




また、タチツボスミレと思われる花も見つかりました。その他、ところどころにスミレの群落がありましたが、区別がつきません。日本には60種程のスミレがあるとのことで、その識別はかなり難しいようです。




形態だけからでは種の分別が難しいので、化学成分による分類を検討した例がありました。花弁の紫色を形成する色素のアントシアニンの組成や、葉のフラボノイド類を詳細に分析すると、種類の同定に役立つようです1)。もちろん遺伝子(DNA)の分析の方がむしろ簡便で威力を発揮するものと思いますが、論文を見つけることはできませんでした。

 スミレは、種をネズミに運んでもらって広がる特徴があるということで有名になっています。種にエライオソーム(Elaiosome)と呼ばれる白い炭水化物の塊がしっかりと付いていているので、これを蟻が幼虫の餌として利用するために巣の中に運び、食べ滓の種は巣から外に放り出すとのことです。アケビやカタクリ、ヒメオドリコソウなどの種にもエライオソームがくっついているとのことで、植物のしたたかな生存戦略を垣間見ることができます。

 残念ながらスミレの種ではないのですが、エンレイソウ等のエライオソームに関する最近の研究報告がありました。それによると、蟻はエライオソームの品質や栄養的メリットについては識別ができず、オレイン酸をエライオソームのシグナルとして認識しているようだとの結論になっていました。使用した4種の中で蟻のコロニーの繁殖効果が最も少ないものの、オレイン酸を多く含むエライオソームを持つ種を選んで巣に運んだということでした2)

 スミレは日本でとても人気があります。でも、産業利用はされていません。最近は、スミレの栄養学的な価値や人間の健康に対する機能についての報告が各国から出されるようになっています。産業的な利用を目指した取り組みを最も活発に行っている国はフランスのようです。フランスの第四の都市といわれるトゥールーズは紋章にスミレを用いており、毎年2月の第一日曜日には「スミレフェスティバル」を開催する都市として知られています。そこにあるフランス国立農学研究所のトゥールーズ研究センターでは「The Viola Tolosa(トゥールーズ) project」を2016年度まで実施し、①120種のスミレを用いた化学分類学の指標としての香気成分に関する研究、②産業的利用を目指したスミレの化学成分の機能性に関する研究などを行っていたようです。



 ヨーロッパには、紀元前4世紀のギリシャでスミレが販売されアテネの紋章になっていたとか、ナポレオン ボナパルトが1814年に亡くなった妻ジョセフィンの墓をスミレで覆って飾り、自分のしるし(目印)となる花(Signature of Flower)にしていたなどの言い伝えがあります3)。ヨーロッパでは、昔からスミレがバラの花に次ぐ地位にあったようです。

 スミレは見て楽しむ花だと思っていましたが、様々な利用価値があることが分かりました。日本でも産業的な利用が行われるようになり、春一番に咲くスミレの町や市があってもいいかなと思いました。既にあるのかな。後で調べます。

参考)
) Ken Iinuma, et al.: Eco-Engineering 24(4), 105(2012)
2)Kyle M. et al.: PLOS One, 8(8), e71871(2013)
) Byron Rhona Wells, Soap Perfum. Cosmet., 79(7),28(2006)   

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