エライオソームはアリの幼虫を育てる役割を担っていることから、15種のエライオソーム付着種子のエライオソームと種子そのものの栄養素に関する比較研究1)が行われていました。それによると、エライオソームはエライオソーム付着種子と同様に脂質を多く含み、フルクトース等の可溶性の糖質(炭水化物)とともにヒスチジン等の遊離アミノ酸も豊富に含有する特徴を持っているとのことです。さらに、脂質中の脂肪酸組成を調べた結果によると、オリーブオイルの主要な構成脂肪酸として知られているオレイン酸が多く含まれているとのことです。別の論文2)ではオレイン酸の結合した油脂(ジグリセリド)がアリに対する誘引物質であるとしていますので、どうやらオレイン酸がエライオソームの鍵物質の一つになっているようです。
アリによる種子の散布様式は、アリ散布(ミルメココリー:myrmecochory)と呼ばれ、80科800種の植物で確認されているようです(Beattie and Hughes, 2002)。驚いたことに、この仕組みを卵の安全な孵化のために利用しているチャッカリ動物もいるようです。擬態で有名なナナフシの仲間は、自分の卵に帽子状の餌を被せ、アリの巣まで運ばせるとのことです。餌が食べられたあと、卵は巣の外に捨てられそこで間もなく孵化するのですが、アリの巣の中でナナフシの卵が安全に守られていたということになります。
アリは地球上最も繁栄した最優先生物で、その数は地球上の1mm以上の生物の1%にものぼるとのことです。アリの先祖はハチですが、進化の過程で翅を失い、また目もあまり見えない代りに触覚が化学物質センサーとして高度に発達し、この触覚によるケミカルコミュニケーションを駆使した様々な生活様式(農業アリ、収穫アリ、サムライアリ、寄生アリなど)が可能になっているということです。
地球上で最も数の多いこのアリを巧みに利用している植物が「アリ散布植物」で、春の散歩で良く目につき、これまで写真を撮ったことのあるイヌノフグリやフクジュソウ、ニリンソウ、カタクリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、スミレ、クサノオウ、ムラサキケマン、カタバミなどは皆これに該当します。アリは、人間の生活圏においては河原などの石垣に巣をつくる場合が多いので、環境庁の植物レッドリスト絶滅危惧種Ⅱ類に分類されているにも関わらずイヌノフグリは、アリによる散布によって石垣には良く生えているとも言われています。
ホトケノザの開放花種子のエライオソームは、閉鎖花種子のエライオソームより大きく、アリは開放花種子を好んで巣に運ぶので、ヒメオドリコソウが侵入したホトケノザ群落は生育場所を広げることができなくなります。帰化植物のヒメオドリコソウだけでなく、在来種のオドリコソウにも同様の作用があるようですが、何が(どんな物質が)そのような作用をするのかについてはまだ分かっていないものの、大変興味深い現象だと思いました。
参考)
1)Renate C. Fischer
et al.:Oecologia,155,539(2008)2)Senay Kusmenoglu et al.:Phytochemistry, 28(10),2601-2602(1989)
3) 高倉 耕一:日本生態学会大会講演要旨、第62回大会PA2-089(2015)
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