2020年1月31日金曜日

電気エネルギーを水素として蓄える


前回書いた、シアノバクテリアを砂にまぶして固めて造った「生きて増殖するコンクリート(レンガ)」のアイディアは面白いと思いました。物理的な刺激(地震など)でコンクリートに亀裂ができてもコンクリートが自ら修復すると見込まれているので、地震の多い日本にうってつけの素材のような気がします。科学技術の進展はすごいと思いました。
生きて増殖するコンクリートの製造
加えて、最近特に気になっているのはエネルギー問題です。もしもの話ですが、「エネルギーがふんだんにあり、皆がエネルギーを自由に無料で使える社会になったら」どうなるか、卑近な話題に換言すれば「電気料金が無料になったら」どうなるのでしょうか。 

当然自動車は電気自動車になるものと予想されます。小型オスプレーのようなドローンタクシーが活躍することになるかも知れません。AIを搭載したロボットが働くようになるので、生活費は国が支給することになり人間は働く必要がなくなり、志願した人だけが仕事を得て働くことになるのかも知れません。

と言っても実際は人口問題が立ちはだかり、地球上で暮らせないほど人口が増加する可能性もあるので、実は未来は全く不透明です。

でも確かなことは、科学技術が限りなく発展することです。地球にふりそそぐ太陽エネルギーは莫大です。人間を始めとする動物や植物はその数パーセントを享受し生命を維持しているわけですが、太陽光発電が発展しそれを電気に変換してリチウムイオン電池等次世代の蓄電池(二次電池)が開発され普及することになれば、電気料金を可能な限り0円に近づける政策を実施する国が現れる可能性があるのではないかと思っています。

最近、水素を安定な有機化合物として蓄える技術が注目され始めています。有機化合物のトルエンに水素を添加してメチルシクロヘキサン(MCH)に変換し、これを水素貯蔵体として活用する技術が実用化されているようです1)
水素貯蔵体としてのメチルシクロヘキサン
水素は、水の電気分解によって得ることができます。太陽光発電で水から水素を発生させ、それをシクロヘキサンとして蓄えることが可能になった訳です2)

このメチルシクロヘキサンを水素電池の水素源として利用することも可能ですので、トルエンとメチルシクロヘキサンのループと太陽光発電・水素電池を組み合わせた二次電池パッケージの構築が可能のように見えます。
太陽光発電による電気の水素としての貯蔵とその利用システム
トルエンとMHCはガソリンと同じように扱うことが可能とのことですので、期待が膨らみます。

参考)
1)岡田佳巳:水素エネルギーの大規模貯蔵輸送技術、J.IEIE Jpn. 36(4), 238(2016)
2)http://www.todaishimbun.org/co2free20190405/ 水素の輸送に必要な物質を安価に製造.

2020年1月27日月曜日

自己増殖するコンクリートの開発(ストロマトライト)


冬の散歩では草花や昆虫に出会うことが少なくなるので、昨年から普段はあまり注目することのない地衣類にも目を向けることにしています。岩にべったりと付着して成長する地衣類の生命力にはいつも感心させられます。すごいです。
岩に張り付いて成長する地衣類
子嚢菌とシアノバクテリアの共生体
地衣類は菌類(主に子嚢菌)とシアノバクテリアなど光合成ができる緑藻類との共生体ですが、シアノバクテリアは大気の二酸化炭素を有機物に変換し地球に酸素を供給した生命体として、特に地球温暖化が叫ばれる昨今は注目されるようになりました。

シアノバクテリアは二酸化炭素を有機物に変換すると同時に炭酸カルシウムとしても固定する能力も持っているとのことなのでさらに期待が高まっています。
シアノバクテリアによる有機物合成と炭酸カルシウムの形成
炭酸カルシウムはセメントでもあることから、シアノバクテリアは長い年月を経て自ら分泌した粘液で砂などを囲い込みストロマトライトと呼ばれる岩石を形成できるとのことです1)。シアノバクテリアによって形成されたストロマトライトは、成長増殖できる「生きている岩」とも呼ばれ、その成長速度は年に0.3mm程度と言われています。
生きている岩(ストロマトライト)とその岩石

 このシアノバクテリアの能力を生かした「生きているコンクリート」、「増殖するコンクリート」の開発が最近話題になっています。米国の研究者が成長の早いシアノバクテリア(synechococcus strain PCC 7002)を培養しそれに砂を混ぜて光合成を行わせ、生じた炭酸カルシウムをセメント代わりにして成形し、レンガ状のコンクリートを造ることに成功したようです2
砂と培地およびシアノバクテリア混合物から形成された「生きているコンクリート」
このコンクリートは自己増殖できるとのことですので、人間が開発した成長の早いストロマトライトということが出来るのかも知れません。今後さらに研究が発展することによって、建築資材等としての利用が可能になる見込みのようです。

ここで使用しているsynechococcus strain PCC 7002は、増殖が速いので遺伝子組み換えによるイソプレンやテルペノイド等の「有機合成のスターター」の生産を目指した研究もおこなわれているようです3

光合成のできる微生物は、光エネルギーを蓄積できる存在でもある訳なので、今後の利活用に期待が膨らみます。



参考)

1)山本 純之、磯崎 行雄:ストロマトライト研究の歴史と今後の展望、地学雑誌、122(5)791-806(2013)

2)Chelsea M. et al.: Biomineralization and Successive Regeneration of Engineered Living Building Materials., Matter 2, 1-14(2020)

3)Fiona K. Davies et al.: Engineering limonene and bisabolene production in wild type and glycogen-deficient mutant Synechococcus sp. PCC 7002., Bioengineering and Biotechnology, 2, 1-11(2014)

2020年1月26日日曜日

牛久沼周辺の鳥類とツバキの色素について


 1月24日に牛久沼まで散歩しました。曇りでしたが牛久沼は風もなく穏やかで、三日月橋付近には2匹のアオサギがいました。いつも稲荷川にいる2匹のハクチョウは、川から抜け出し田んぼのあぜ道を歩いていました。よちよち歩きなので少し滑稽に見えます。
牛久沼のアオサギとハクチョウ(1月25日)
   また、いつものようにオオバンは数匹が群れになり、ゆったりと泳いでいました。
稲荷川のオオバン

 今回特に目立ったのは、河原にいた鈴なりのスズメでした。にぎやかに騒いでいました。
河原にいた鈴なりのスズメ

 のんびりとした散歩でしたが、河童の碑付近の林にはかなりの本数のヤブツバキがあり、花が地面に落ちていました。ヤブツバキの種類の中には、花弁が紫になる「千年藤紫(センネンフジムラサキ)」という種類があるそうなので、もしかしたらと思い、丁寧に見て歩きましたがありませんでした。特別な種類なのかも知れません。
牛久沼周辺のヤブツバキ
 この品種の花色は不安定で、継続的に綺麗な紫色に咲かせることが困難だったことから、花弁が紫色になるメカニズムに関する研究が行われたようです。

それによると「千年藤紫」の花の色素であるアントシアニンは普通のヤブツバキと同じで、シアニジン3-ガラクトシドが最も多く次いでシアニジン3-グルコシドとそのパラクマル酸エステルからなっており、紫色を発現するために唯一異なる点は花弁中のアルミニウム含量が高いことだったとのことです1)
ヤブツバキのアントシアニン
土が酸性でアルミニウムイオンが根から良く吸収される条件になると、紫の花が咲くということが分かったようです。普通のヤブツバキも酸性条件下でアルミニウムイオンが供与されると紫色になるのかどうか興味がわきました。

青色に咲くアジサイでもアルミニウム含有量が鍵になっており、アジサイの場合はシアニジンより水酸基が一つ多いデルフィニジン配糖体が主体のようですが、これにアルミニウムが結合しさらにキナ酸誘導体が関与して青色が形成されることが明らかになっていました2)
アジサイの青色色素 (参考2より引用)
この研究グループは紫つゆ草の青色色素コンメリンや矢車草、朝顔等の青色色素等の極めて複雑な構造の解明にも成功しているので、共同研究が行われれば、ヤブツバキの「千年藤紫」の紫色素の完全構造も近いうちに解明されることになると思っています。



参考)

1)Natsu Tanikawa et al.: Aluminum Ions are Involved in Purple Flower Coloration in Camellia japonica “Sennen-fujimurasaki”., The Hort. J. 85(4), 33339206

2)Ito T. et al.:Direct Observation of Hydrangea Blue-Complex Composed of 3-O-Glucosyldelphinidin, Al3+ and 5-O-Acylquinic acid by ESI-Mass Spectrometry. Molecules 23(6), 1424(2018)


2020年1月19日日曜日

牛久沼周辺でヤママユガ科のウスタビガの繭を見つけました


  1月11日に牛久沼周辺を散歩した際にヤママユガ科のウスタビガ(Rhodinia fugax)の繭を2個見つけました。緑色の綺麗な繭でした。確か小さい頃にも見た記憶があります。「ヤマビコ」と呼んでいたと思います。ヤマビコなので、大きな声で叫ぶとこの繭がコダマを返すのだと思っていた時期があったように思います。
ヤママユガ科のウスタビガの繭

 今回は、春になったらきっと繭の中の蛹が蛾になって飛び出すに違いないと期待し、少しためらいがありましたが2個とも家に持ち帰りました。

 でも調べてみたところ、この繭の中の蛹は秋には成虫になって繭から飛び出し、卵で越冬するようです。提灯のように釣り下がっている繭の上部を開いて中を覗いてみたところ、確かに抜け殻らしき残骸だけが残っていました。全く知りませんでした。
ウスタビガの繭の様子(空になっている)

 言われてみれば確かに軽く、繭を振ってみても蛹の感触がありません。思い込みだけはしたくないといつも思っているのですが、残念です。

 日本には、カイコ(家蚕)のように繭を造る野蚕が結構いるようで、ヤママユ(天蚕)については現在も飼育している生産者やグループがおられるようです1)。でも、繭が小さいのでウスタビガの利用はほとんど行われていないようです。ウスタビガの繭はヤママユ(天蚕)とともに綺麗な緑色をしていることから、その色素に関する研究が現在行われていました。


実は、カイコ(家蚕)も本来はそれぞれ黄色や緑色あるいは褐色等の色付き繭を造る特性を持っていたそうで、突然変異体である白色の繭が日本では好まれ定着し現在に至っているとのことでした2)
様々な色のついた本来のカイコの繭(白は突然変異体)

 ヤママユの繭の色素に関する最近の研究3)によると、鮮やかな緑色になるためには光が必要で、薄暗い場所で形成された繭は黄色になるとのことです。明所下で形成される色素はビリン系色素の青色色素ビルベルジンで、これが黄色のフラボノイド(餌由来)と共存することによって、鮮やかな緑色になるとのことです。

 青色のビルべルジンはヒト等では赤い血液色素であるヘムの分解によって生じ、最終的には黄色のビリルビンとなり排出されますが、ヤママユやウスタビガの繭では、詳しい生成経路は不明ですがビルベルジンがビリルビンに還元されていないようです。
血色素ヘムの酸化分解によって生じる青色色素ビルベリジン
 人の赤ちゃんでも、ビルベルジンがビリルビンに還元されず、緑色の便が出ることがあるそうです。同じように青い糞をする鳥もいるとのことです。



参考)
1)鈴木 幸一:蚕糸・昆虫バイオテック、82(2)、69-71(2013)
2)横山 岳:シルクレポート、2014.1118-20
3)Yamada H. et al.: J. Insect Physiol., 50(5), 393-401(2004)


2020年1月17日金曜日

牛久沼の散歩と老いらくの青春(朽春)


  1月11日に牛久沼まで散歩しました。12月にも勿論牛久沼まで散歩したり岩手に出かけたりしましたが、パソコンのトラブル(交換)や孫のトラブルなど様々な荷物が積み重なり、結局12月はブログを書く意欲が生まれず、今回久しぶりの書き込みになりました。

 音楽が好きなのでユーチューブを時々サーフィンしますが、そんな事情の中で尾崎豊の歌を初めて聞きました。若くして他界されたことは知っていましたが、世代が違うこともあり彼の歌を聴くことはこれまでありませんでした。パソコンから流れる「僕が僕であるために」の歌には、青春の痛みと優しさがあり「優しさを口にすれば、人は皆傷ついてゆく」という歌詞が心に響き、青春時代の息苦しさと歯がゆさが伝わってきました。

活動休止後のリバースを共に戦いアイソトープ社の設立に関わった幻冬舎の見城社長の、尾崎豊の死に接した際の素直な感情表現には驚きましたが。それはさておき、歌に共感した私の心は今、70歳の青春なのだろうかと思った程です。それなりに、どうしようもない歯がゆさで地団太を踏むしかない自分は、「このていたらく」としか言わざるを得ない年齢になってしまっている訳なのですが。青春はおこがましいので終春、ありは朽葉色から「朽春(きゅうしん)」とでも呼ぶことになるのだろうか。朽ちることへの漠然とした不安。身をまかせれば平安になることを分かりながらも。ふと考えてしまう。

 牛久沼への散歩の際には、いつも雲魚亭の庭の木々の隙間から牛久沼の写真を撮っています。今回は、初めてのことですが一人の漁師が乗った一艘の小舟が見えました。なんだか幻想的な風景でした。漁師は時々網を引き揚げていました。
雲魚亭から見た牛久沼(1月11日)

牛久沼の周囲に生えた椎の木からはドングリがたくさん落ちていて、寂しさを感じますが、結構ヤブツバキがたくさんあり花が見ごろになっていました。道端には日本水仙も咲いていました。
ドングリとヤブツバキ、日本水仙

不思議に思ったのは「ウラギンシジミ」のことです。

牛久沼から三日月橋を渡り「桜の小径コース」を歩いていたところ、林に面した道端に小さな白いものが見えたので、近づき良く見たところ羽を閉じた「ウラギンシジミ」の死骸でした。ウラギンシジミは羽を閉じて葉に止まることが多く、しかも素早く飛び去るので、飛び去る際にキラリキラリと見える赤い表の羽がとても印象的で、いつも気にかけていた蝶でした。これまでに数回写真を撮っています。
道端で拾ったウラギンシジミの死骸(1月11日)

 ウラギンシジミがカメラを持った私の手に一度止まったことがあります。思わず強く握ってしまい、動けなくなったことを後悔した経験があります。

今回は、ウラギンシジミの死骸をそっと拾い上げましたが、傷つけずに保管するための容器等は持ち合わせていませんでしたので、しばらく手のひらに乗せて歩いていたところ、なんとCDの薄いビニール袋が道路の真ん中に落ちていて、その中にスルーっと収めることができホットしました。偶然のことでした。300円の定価シールが貼ってありました。

自宅に戻り、ウラギンシジミをビニール袋から取り出し、閉じた翅を広げて見たところ表翅は赤色ではなくて黒色でした。雌のようです。
拾ったウラギンシジミ(雌)の死体
ウラギンシジミ(雄)

これまで出会ったウラギンシジミの表翅はみんな赤色でした。つまり雄だけを見ていた訳ですが、今回初めて黒色の雌に出会うことができました。死骸でしたが何となく親近感を感じ、机の引き出しの中にしまっています。

昆虫のコレクションは全くなかったのですが、ウラギンシジミの雌が最初の昆虫コレクションになりました。