2020年11月28日土曜日

ワクチンのアジュバントとその可能性に注目

   北半球が冬を迎える候となり、新型コロナウイルスへの感染が再び急激に拡大し、米国では全国民の4%1,300万人)が検査陽性者になり、スペインとフランスではそれぞれ3.5%、3.4%に達しています。日本国民の検査陽性者率は幸いにもまだ0.1%程度ですが、それでも昨日(1127日)は1日に2,529人増加する事態になっており、病床不足が懸念されることもあり再び不要不急の外出自粛が求められるようなりました。

新型コロナウイルス感染を終息させるため、ワクチンの早急な開発・提供が望まれていますが、ファイザー(m-RNA)やモデルナ(m-RNA)、アストラゼネカ(ウイルスベクター)のワクチンが年度内に供給可能になりつつあるとのことで、世界的に期待が高まっています。

 m-RNAをワクチンとして使用するのは今回が初めてとのことで、このパンデミックによる伝染病対策関連技術や科学の進展は、今後の危機管理に大きく貢献することになると感じています。

 これまでワクチンについて全く無知のまま過ごしてきましたが、これを機会にワクチンに対する理解を深める目的で、特に馴染みのなかったアジュバントについて調べて見ました。

現在日本で使用するワクチンに添加されているアジュバントのほとんどはアルミニウム塩(アラム)のようです。但し、毎年新規に設計製造される最新のインフルエンザワクチンにはスクアレンのエマルジョンがアジュバントとして利用されているとのことです。



アラムアジュバントは1920年代から使用されていたとのことですが、その作用メカニズムは、自然免疫(2011年のノーベル医学生理学賞)の発見とその仕組みの解明により、2,000年代に入ってから明らかになったとのことです1)

その作用メカニズムの一例として、アラムの接種部位への好中球の集積、アラムの毒性による好中球の細胞死とそれに伴うDNAの放出、そして放出されたDNAによる自然免疫系の活性化という流れが明らかになったとのことです2)

生ワクチンにはアジュバントの添加は不要とのことですが、これは生ワクチンの病原菌が宿主(ヒトなど)細胞にダメージを与え、自然免疫系の受容体のリガンドとなるダメージ関連分子(Damage-associated molecular patterns: DAMPs(細胞壁糖脂質やタンパク質、RNADNAなど))を放出させ、それらが言わばアジュバントになることによるようです。

私達の皮膚や臓器(大腸など)に存在する常在菌は、組織・細胞にダメージを与えることは殆ど無いので、アジュバントの生成に関わることなく共存しているということでしょうか。多少は関わる種類もあるのかな?

医学、薬学、獣医学などの分野では、アジュバントが注目されているようです。現在のパンデミックによって、この分野が大きく進展することでしょう。新たな発見もあるのかも知れません。

個人的には安全性の高いアジュバントとして植物や食品関連物質に注目してしまいます。毒性(細胞死誘導効果)の強い物質の方が、当然アジュバント効果が高いということになる訳ですが、今後開発が予想される経口ワクチンでは易分解性の安全な化合物(アジュバンド)が求められるように感じます。

食品ではおなじみのシクロデキストリンや、ポリフェノールに属するキサントン3)、あるいは発泡性・溶血性で有名なサポニンをアジュバントとして利用する研究も行われているとのことで、学術的に遠い存在であったワクチンが身近に感じられるようになりました。

特に、ほぼ毎日食べている大豆サポニンのアジュバント効果について、かなり前から研究4)が行われていたことを知り大変興味を持ちました。

 

参考)

1)石井 健ら:ワクチン関連トピックス「誘導性アジュバント」、日本ワクチン学会ニュースレター、33巻(2018

2)Marrichal. T. et al.: DNA released from dying host cells mediates aluminum adjuvant activity. Nature Med. 17(8), 996-1002 (2011)

3)Verena K. et al.: Plant-derived vascular disrupting agents: compounds, actions, and clinical trials. Phytochm. Rev. 13, 191-206(2014)

4)K. Oda et al.: Adjuvant and haemolytic activities of 47 saponins derived from medicinal and food plants., Biol. Chem., 381(1), 67-74(2000)

 

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