2017年5月22日月曜日

ジャガイモのコンパニオンプラント

  ジャガイモと相性のいい植物、コンパニオンプラントはマリーゴールドのようです。雑草をあまり管理せずに育て収穫しようとする「ずぼら栽培」をせざるを得ない状況なので、利用したいと思うのですが、マリーゴールドは雑草に負けてしまうのとのことで残念です。

ジャガイモの強力な敵はシスト線虫のようです。線虫・ネマトーダと言われても正体がわかりません。線虫の汚染は深刻で、一度汚染されると20年以上も生息するそうです。線虫抵抗性品種はすでに開発されているようですが、抵抗性を持たない品種の「男爵」や「メークイン」を消費者が、あいかわらず購入するので生産地では抵抗性品種に変えたいと思いつつも、それらの固定品種を植えながら線虫とたたかう日々が続いているとのことです。北あかりやトウヤなどが抵抗性品種ということなので、次はそれらにもトライしたいと思います。

線虫の増加を防ぐにはマリーゴールドが有効なようで、主要な薬効物質も解明されています。硫黄1個と4個の炭素が5角形を形成した骨格が3個つながった規則的な構造を持つターチオフェン1)いう化合物で目に焼き付きました。三浦大根の里ではマリーゴールドを畑地にすきこんで、大根の表面にでこぼこを作る線虫の密度を減らしているそうです。


 今回マリーゴールを利用することは無理ですが、ついでに、マリーゴールドについて調べて見たところ、その抽出物は医薬品や食品添加物として使用されているようです。医薬品としては「網膜色素変性症における一時的な視野・暗順応の改善」とされ、バイエル薬品株式会社が「アダプチノール」として第二次大戦時の1946年頃から製造・提供しているとのことです。花びらの黄色い色素であるルテインの脂肪酸エステルを主成分とする錠剤で、日本では1956年に販売が開始されていま2)。一方、食品添加物もやはり同様に花びらの黄色色素のルテイン脂肪酸エステルを主成分とするもので、「着色料」として「既存添加物名簿収載品目リスト」に掲載されていました。

コンパニオンプランツなどと呼び、ジャガイモを守ってくれる護衛のような扱いをしましたが、マリーゴールドもなかなか存在感のある植物であることが分かりました。

参考
1)畑田 清隆ら:日本線虫研究会誌、15, 111985
2)平沢 美瑠子:関西医大誌、10(3)3101958

2017年5月21日日曜日

ジャガイモのソラニンとトマトのトマチン

  ジャガイモと同じように毒成分を含有する野菜としてはトマトが有名です。トマトはジャガイモと同じナス科に属しアンデスが原産地です。ナス科だけに“やっぱり故郷は「ナスカ」か”とダジャレが思い浮かびます。マチュピチュやナスカは世界的に有名ですが、私は敦煌に惹かれます。

ジャガイモの毒成分は花に最も多く0.2%0.5%にもなると前回書きました。葉には花ほどではないにしても、芋の約20倍含有されているようですので、間違ってほうれん草のように調理して食べると危険です。サツマイモの茎葉は美味しく食べることができることから、サツマイモの葉とジャガイモの葉が「芋の葉」として混同されている様子がネット上でうかがえます。サツマイモには、茎葉を食べるために開発した品種「すいおう(翠王)」があり、販売されているようです。体に良いと言われているルテインやポリフェノールをたくさん含んでいるようなので、私も栽培にチャレンジしようと思っています。

トマトの毒成分は「トマチン」と呼ばれるグリコアルカロイドで、名前がとても分かりやすいです。トマチンもトマトの花に最も多く約0.1%含有されているとのことなので、ジャガイモのばあいと同じで、種子の形成を守っているのでしょう。茎葉のトマチン含有量は花よりやや少なめですが、トマト果実では熟すにつれて急激に減少し、花や茎葉の2000分の1程度になるようで1)。しかも毒性はソラニンやチャコニンより低いようなので、トマトによる食中毒などの事件は世界的に見ても報告されていないようです。ただし、茎葉の安全性については良く分かっていません。茎葉の半量程度のトマチンを含有する未熟トマトを、フライやピックルスとして長い間食べている米国では、トマチンの毒性を心配する人は少ないようです。また、葉はトマトの匂いが強いので、ヨーロッパではサラダやスープに香りづけとして利用しているようで、ジャガイモとは違って茎葉に対する警戒感が薄いようです
 また最近、トマチンは腸管からの吸収が少ないことや、コレステロールの低減作用を持つことが報告されていましたが、さらに筋肉を増強しサルコペニアを予防する作用)や線虫を用いた実験による健康寿命の延伸作用3)があるかもしれないという朗報が注目を集めています筋肉を増強しサルコペニア予防作用があるかもしれないということなどが報告され、注目を集めています。先ずは、未熟果実の利用が活発になるようですが、茎葉の安全性が確立されれば、トマト栽培が大きく変わるかもしれません

でも、現時点でトマトハウスの芽かき葉を天ぷらにして、子供にも食べさせることには賛成できません。グリコアルカロイドに対する子供の感受性は高いようです。

参考
1)Friedman M. et al.: J. Agric. Food Chem., 50, 5751 (2002)
2)Michael C. Dyle et al. : JBC, 289(21), 14913 (2014)
3)Svandro F. Fang et al. : Scientific Reports 7, 46208 (2017)



2017年5月19日金曜日

ジャガイモのソラニンは花に多い

 ゴッホが描いた「ジャガイモを食べる人たち」をまだ見ていません。農地を耕しジャガイモを植え、土にまみれながら収穫する人々への思いが良く出ている絵だと言われています。アンデスからヨーロッパに導入され、当初は忌み嫌われたり、さほど注目されることもなかったものの、戦争が続き荒れた土地で良く育ち、庶民の飢えを満たしたジャガイモとそれを栽培・収穫する人々の素直な生き方にゴッホは共感したのだと思う。ゴッホはオランダで育ち「ジャガイモを植える農民」や「ジャガイモのある静物」も描いているので、当時のジャガイモの地位はかなり高まっていたのでしょう。実際に19世紀末のドイツでは、一人当たりのジャガイモ消費量は年間300kgにもなっていたとの記録があるので、主食に近い位置まで上り詰めていたのだと思います。

そのジャガイモを草まみれの中で栽培するのは少し後ろめたいのですが、ジャガイモはジャガイモなりに体中にソラニンやチャコニンなどグリコアルカロイドと呼ばれる毒成分を蓄え外敵に対抗するようです。グリコアルカロイド類は花の部位に最も多く1)0.20.5%程度含まれ、次いで発芽した芽の部分そして葉、塊茎(ジャガイモ)と続くようです。花に多い理由は、次世代の種を生産する部位である花を守ろうとするためだと思います。ジャガイモの花をそのままにしておくと小さな果実が実るのですが、不思議なことにソラニンはジャガイモより多いものの葉よりも少ないとのことです。動物に食べてもらい、あちらこちらに落とされる糞から種が発芽して子孫を増やす戦略かも知れません。アルパカの先祖のような姿のビクーニャはジャガイモの葉や茎を避けて、果実だけを食べるそうです。
でもやっぱりソラニンやチャコニンの安全性が気になったので、少し調べてみました。すると海外では、ジャガイモのグリコアルカロイドの含有量が100gあたり20mg以下のものを食用として用い、その基準を守って互いに輸出入していることが分かりました。ジャガイモは収穫後長い期間食べますので、貯蔵温度の影響や光の影響なども気になりますが、種類によって違いがあるので注意は必要ですが、育種を経て出回っている品種では、光をあてなければほぼソラニンの増加は気にしなくていいようです。
日本では、グリコアルカロイドのないジャガイモ育の育種も行われ始めています2)
 最近はソラニンなどグリコアルカロイドの良い面にも光が当てられているので、少し調べてみたいと思っています。


1)Mohammad B. Hossain et al. : Molecules, 2016, 21, 403
2)梅基直行:化学と生物、53(12)8432015



2017年5月16日火曜日

ジャガイモとアイルランド


  芽が出て柔らかくなったジャガイモをまだ食べています。芽をえぐり取り皮を剥くのですが、全体がグニグニするので厚く剥いてしまい、剥き終わるころには食べる部分が小さくなり歩留まりが悪いです。食感は獲りたてよりネットリとして、近所のスーパーで買ったものよりはるかにおいしいです。実は、獲りたてもおいしく一人自慢の逸品です。草の中でたぶんのびのびと育ち、茎葉が枯れ、どこに芋があるか分からないほど遅い時期に収穫しているからだろうか。

若いころはジャガイモが苦手で、味噌汁中に発見すると避けていたのですが、いまはウエルカムです。南米からスペインを経てドイツやフランス、アイルランドなどヨーロッパ全土で栽培され始めたジャガイモは、戦争が絶えなかった1819世紀初頭のヨーロッパにおいて、荒れ地に育ち収穫量が多いことなどから主要な食料として庶民の命を支えたとのことで、とても好感を持つようになりました。

でも、1845年から始まったジャガイモ軟腐病の蔓延は、ヨーロッパの中でも特にアイルランドに大きな被害をもたらしたことは良く知られています。その際、疾病や移民により減少した人口370万人は、現在でもまだ回復していないとのことで悲しい気持ちになります。私たちも東日本大震災を経験しましたが、中学校や小学校の校庭に炊き出しを待つ行列ができ、自分もその中の一人になるとは、この平和な日本にあって想像だにしていませんでした。

アイルランドのジャガイモ飢饉は単一種ランバーズのモノカルチャーが原因であったと言われています。ジャガイモの故郷アンデスでは一つの耕地に多種類のジャガイモを栽培し冷害病の蔓延を防いでるそうです。

今回私が植え付けたジャガイモは、ソラニンがやや多いと言われる「メークイン」、目の網膜の色素として注目されるルテインを含有する「北あかり」と定番の「男爵」です。その上多様な雑草が加わりますので病気は防げるように思います。これから、ジャガイモ畑コミュニティーを形成する植物や昆虫など各メンバーの消息について、記録したいと思っています。

2017年5月15日月曜日

ジャガイモと食中毒


今日も雨、昨日から時折降っています。しばらくぶりの雨なので、田植えを終えた農家の方々は喜んでいるように思います。ジャガイモの植え付けは、昨年より1週間ほど遅れましたが、この雨は恵の雨になりました。いつもどおり、8月には孫と一緒に収穫することができるものと期待しています。

多くても月に1度程度しか通うことのできない畑は、無農薬かつ粗放栽培となり、近所の皆さんにとってはお笑い種ですが、それにめげずジャガイモは雑草や害虫とのコミュニケーションを交わしながら、ほどほどの収穫をもたらすはずです。少し虫のいい話ですが、今年で3年目になります。収穫までの間、ジャガイモとの共同生活をするはずの雑草と昆虫達については、写真に収め、このブログにアップしたいと思っています。

  ジャガイモの故郷は南米のアンデスだといわれています。今でも、アンデス地方のジャガイモは先祖の風格をもった多様な姿や特質を持っているようで、中にはジャガイモ特有の毒成分である「ソラニン、チャコニン」を多く含むものがあるようです。でも、それらは冬の間凍らせ、数回の融解・凍結によるドリップ流出を経て、可食となるレベルまで毒性が低減された「チューニョ」と呼ばれる特産の乾燥ジャガイモになるそうです。いつか食べてみたいです。岩手も寒いので、類似品を作れるかもしれません。もっとも、自然凍結乾燥ジャガイモは岩手にも既にあるようです。

 食にまつわる伝統や知恵を維持し続けることは素晴らしいことだと思います。でも、残念ながら日本ではジャガイモによる食中毒が発生し、厚労省によると平成18年~27年の10年間で21件、411人が被害にあっているようです。そのほとんど9割が学校で起こっているとのことで、「皮が緑になったジャガイモは食べないこと」、「芽はえぐり取ること」など、昔は常識であったことが忘れ去られているようで残念です。