2021年2月26日金曜日

ウイルスへの新しい風、常在ウイルスと巨大ウイルス

   新型コロナウイルスの流行によって、飛沫やエアロゾルが注目の的になっています。空気中に病原菌が漂っているとは誰も想像したくないものと思います。

でも、空気中に微生物が浮遊していていることは良く知られていて、そのことは有名なパスツールコルベン(白鳥フラスコ:フラスコの口が細長くて下向きになったもの)によって証明されています。ウイルスも空気中にたくさん浮遊しているものと想像されます。

空気中の微生物やウイルスの数を計測した例があるかどうか調べたところ、地表に降り注ぐ微生物、ウイルスの量を計測した研究が見つかりました(1)。スペインのシエラネバダ山脈の標高約3,000m付近で計測したようですが、細菌の個数は1平方メートル当たり0.3107/日~8x107/日、ウイルスの個数は0.26109/日~7x109/日だったとのことです。ウイルスが細菌より桁違いに多いということになります。


 微生物やウイルスはホコリに付着して飛び回ることから、サハラ砂漠から来る風の土壌ダストと海風由来の有機物性エアロゾルに付着して飛んでくる量をそれぞれ計測したところ、量的な違いはあまり認められないものの、海風にも砂漠風にもウイルスの方が多かったと報告していました。

 なかでも、海由来の有機物性エアロゾルの方がウイルスは安定して生存できるようです。

 沿岸域の海水には最大1x10/ml、海全体では3x106/mlのウイルスがいるとのことです(2)。ウイルスは海水中のバイオマスの5%を占めているとのことなので驚いてしまいます(3)。

海風は、海の表面から海水をエアロゾルとして吹上げ3,000mを超える山まで運んでいるということになります。

ウイルスによる病気ばかりが気になりますが、ウイルスは地球上のいたるところに分布し、さらに細菌や動植物を問わずあらゆる生物に内在し、生物の多様性の向上や生態環境を支える一員になっているそうです。

 最近、海にはこれまで推定されていた数より2桁も多い20万種類のウイルスが存在することが報告されました(4)。海洋の二酸化炭素や気候変動を研究している「タラオーシャン(Tara Ocean)」と「マラスピナ(Malaspina)」の両プロジェクトチームがこの発見を行ったとのことです。

 ウイルスに関する最近のトピックスとして巨大ウイルスが良く取り上げられているようです。実は海には、陸上よりも巨大ウイルスがたくさん存在し「海洋巨大ウイルス」と呼ばれ注目され始めたとのことです。


巨大ウイルスは、細菌とウイルスを分離するために使用する0.2μmのフィルターを通過しないため、その発見が遅れたようで、最初の確認が2003年のミミウイルスだったとのことです。ミミウイルスは自分に感染するファージに対する免疫様の防御系(クリスパー)に関する遺伝子も持っているとのことなので驚きです。


 1956年に刊行された岩波新書の「生物と無生物の間」が印象に残っているので、本当にどんどんウイルスの科学が進歩しているな~と感じます。


  日本は微生物を使った発酵技術に優れていますが、今後はウイルスも活用できればいいなと期待しています。

 赤潮の原因になっている藻類はウイルスによって消滅するそうなので(5)、賢い使い方を開発して欲しいと願っています。

 

参考)

1)I. Reche et al.: Deposition rates of viruses and bacteria above the atmospheric boundary layer., The ISME J., 12, 1154-

2)C. A. Suttle: Viruses in sea, Nature, 437, 3356-361(2005)

3)三原 知子ら:海洋巨大ウイルス、遺伝:生物の科学69(4)318-325(2015)

4)A. C. Gregory et al.: Marine DNA viral Macro-and Microdiversity from Pole to Pole., Cell, 177, 1109-1123 (2019)

5)長崎慶三ら:プランクトンに感染するウイルスに関する分子生態、ウイルス、55(1)127-1322005

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