2021年2月13日土曜日

新型コロナウイルスのイギリス変異株、南アフリカ変異株など

  昨日12日、ファイザー製のワクチンが日本に届いたとのニュースが流れました。日本でも医療従事者から順次ワクチン接種が開始される見込みのようです。

 欧米でも、日本でも、最近は新規感染者数が減少しているようなので、このまま終息し、競技大会組織委員会の森会長の昨日の辞任でドタバタしているオリンピック・パラリンピックも無事開催できることを期待しています。

 でも、少し不安に感じるのは変異株の動向です。ウイルスの変異について少し調べてみました。

新型コロナウイルスの変異速度は、インフルエンザの1/2HIV1/4程度で、一カ月にRNA鎖の塩基2個が変異する程度とのことです(Emma Hodcroft)が、それでもやはりかなり速いとのことです。

複製されるタンパク質別に変異の速さを計算した結果では、スパイクタンパク質とRNAポリメラーゼ(NSP12)の変異が最も速い(1)とのことで、重要な役割を担っているスパイクタンパク質の変異が注目を集めているようです。

ウイルスの変異は、最初に発見された武漢株と比較し判定するようですが、そのスパイクタンパク質は1,273個のアミノ酸が繋がっているとのことです。

その1,273個のアミノ酸の繋がりの中には、N末端ドメイン(NTD)やリセプター結合ドメイン(RBD)のようにアミノ酸がそれぞれ291個、222個集まった立体的な機能単位や、7個のアミノ酸が繰り返し結合することによって形成されるコイル状の構造を持つ集合体(Heptad Repeat)が2か所(HR1HR2)あり、これら大きな塊がコロナと呼ばれる突起物の基本骨格を形成しているようです。

さらに18個のアミノ酸からなる宿主細胞膜との融合ペプチド(Fusion peptideFP))や24個のアミノ酸からなるウイルスエンベロープ貫通部位(TM)などや、宿主のレセプターであるACE2の基質結合サイトに結合する最も重要な部位(レセプター結合モチーフ(RBM))なども明らかになっているようです(2)。

スパイクタンパク質の役割は、宿主細胞とウイルスを融合させ、ウイルスのRNAを宿主細胞に注入することですが、その過程でスパイクタンパク質は宿主のプロテアーゼによってS1S22分割されるとのことです。

 スパイクタンパク質は宿主側のリセプターに結合した後、宿主の細胞膜とドッキング(FP部位)し、不要になったリセプターとの結合に関与する部分(S1)を切り離し、残りの部分(S2HR1HR2)を折り曲げて収縮させ宿主細胞にウイルス本体を結合させるようです。

 かなり巧妙な仕組みのように思えますが、でも新型コロナウイルスのようなRNAウイルスは、変異により絶え間なくゲノムやタンパク質を変化させ形質を変える欠点あるいは利点を持っているため、感染力やその毒性(宿主細胞内での増殖力)が変わってしまうようです。

 新型コロナウイルスで、現在話題になっている変異株は、イギリス変異株と南アフリカ変異株、ブラジル変異株の三種類です。

 これら3種の変異株についてはスパイクタンパク質のどの部位が変異しているのかが明確になっていて、既に研究用ツールが市販されるまでになっているようです。




公表されているデータを見ると、変異の部位や数に違いが認められますが、米国のCDCもデータを公表していましたので、それを基にして比較して見ました。

その結果、3株とも話題になっているD614G変異614番目のアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンに変化)を含んでいるようです。さらに、南アフリカ変異株と日本/ブラジル変異株には基質結合モチーフ(RBM)にE484K変異があることから、抗体からのエスケープ率が高くなると予想されており(3、4)、注意が必要です。(3月5日追加)

 この他、スパイクタンパク質には糖が結合したアミノ酸がたくさんあるとのことで、糖化部位に関する研究も盛んに行われているようです(5)

 糖の離脱や付加が感染性や毒性に影響を与えるとのことなので、これら糖化情報もかなり重要になっているようです。

 新型コロナウイルスには、スパイクタンパク質の他にもヌクレオカプシドタンパク質等の構造タンパク質やプロテアーゼ等の酵素タンパク質などが存在し、それらの機能や変異等に関する研究も行われているようです。

 膨大な研究報告のほんの一部を見ただけですが、新型コロナが続く間は外出自粛なので、時々論文にアクセスしたいと思っています。

参考)

1)S. Vilar et al.: One Year SARS-CoV-2: How Much Has the Virus Chenged?, BioRxiv.(doi.org/10.1101/2020.12.16.423071)

2)S. Bangaru et al.: Structural analysis of full-length SARS-CoV-2 spike protein from an advanced vaccine candidate., Science, 370, 1089-1094(2020)

3) A. J. Greaney et al.: Complete Mapping of Mutations to the SARS-CoV-2 Spike Receptor-Binding Domain that Escape Antibody Recognition., Cell Host & Microbe 29, 44-57 (2021)

4)E. Andreano et al.: SARS-CoV-2 escape in vitro from a highly neutralizing COVID-19 convalescent plasm., bioRxiv, doi.org/10.1101/2020.12.28.424451.

5)Y. Watanabe et al.: Site-specific glycan analysis of the SARS-CoV-2 spike., Science, 369, 330-333(2020)

 

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