昨年の12月末から始まった新型コロナウイルスの感染者数が、ようやく世界全体で減少し始めたようです(1)。
WHOによる世界のCOVID-19感染者数の推移 |
世界的な活動自粛が功を奏しているものと思いますが、やはり1月8日から接種が始まったワクチンの効果に期待したいと思っています。
日本でも17日から医療従事者を対象としたワクチン接種が始まり、初日は8施設で125人がワクチン接種を受けたとのことです。ワクチンの確保が世界的な競争状態になっているようなので心配ですが、生産体制を整備し、予定を上回るスピードで接種を進めて欲しいと願っています。
コロナ禍の中で、これまではコロナウイルスのことばかりが気になっていましたが、実は良く聞き慣れていたインフルエンザについても殆ど知識が無いので、少し調べてみました。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があり、どれもあまり歓迎できないのですが、中でもA型はたびたびパンデミックを引き起こし恐れられているようです。
インフルエンザA型ウイルスの起源は水鳥(水禽)で、その中でも渡り鳥の鴨やガンがA型の流行の原因になっているようです。このA型ウイルスは鳥の腸や気管の細胞膜に発現している多糖の末端のシアル酸-α2,3-ガラクトース(SA-α2,3Gal)を受容体として認識して感染することが明らかになってるようです(2)。
人間の場合は、ウイルスの感染部位である気管上皮細胞の細胞膜に結合している多糖の末端にはシアル酸-α2,6-ガラクトース(SA-α2,3Gal)が多いので、鳥インフルエンザA型ウイルスは本来感染しにくいようですが、家畜として飼育している豚の気管には鳥の受容体のSA-α2,3Galとヒトの受容体のSA-α2,6Galが共に発現しているため、豚が中間宿主となり鳥と人の仲立ちをし、豚体内でヒト型のインフルエンザA型ウイルスが生じてしまうとのことです。
トリインフルエンザA型ウイルスからヒトインフルエンザA型ウイルスへの変異は、1918年のスペイン風邪のケースでは、ウイルスのヘマグルチニン(HA)タンパク質のアミノ酸2個が豚を経由して変化し、ヒトの受容体SA-α2,6Galに結合できるタイプになっていたということが分かっているようです(3)。
インフルエンザA型ウイルスによるパンデミックは、スペイン風邪の他にもアジア風邪や香港風邪、2009年の新型インフルエンザ等があるようですが、アジア風邪、香港風邪についてもヘマグルチニンタンパク質のアミノ酸変異が解明されていました。
また、まだヒト型のインフルエンザA型ウイルスに変異する前のウイルスによる感染事例もたくさん確認されているようです。
実は、人間の細気管支や肺胞の細胞には鳥型受容体のSA-α2,3Galも発現しているので、ヒト型に変異する前のトリインフルエンザA型ウイルスであっても濃厚接触によって感染が成立することがあるとのことです。
日本を始め、世界各国でインフルエンザに関する研究が活発に行われていますので、インフルエンザによる被害が次第に低減されていくものと期待しています(4)。
参考)
1)httpps://covid19.who.int
2)S.V.Kuchipudi et
al.: Sialic Acid Receptores: The Key to Solving Enigma of Zoonotic Virus
Spillover., Viruses, 13, 262(2021)
3)J. Stevens, et
al.: Glycan Microarray Analysis of the Hemagglutinins from Modern and Pandemic
Influenza Viruses Reveals Different Receptor Specificities., J. Mol. Biol.,
356, 1143-1155(2006)
4)高橋 忠伸:ウイルス感染における糖鎖の機能解明、薬学雑誌、134(8), 889-899(2014)
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