新型コロナウイルスへの感染者が1月27日に1億人を超えたと報道されました。世界の人口78億人の約1.3%に相当します。人口当たりの陽性率を国別に見ると、米国では約8%、チェコが9%、スペインが6%、イギリスが5.5%程度のようです。
1月8日には世界初の新型コロナウイルス用ワクチンの接種がイギリスで実施されました。その後、感染の激しい欧米諸国が次々にワクチン接種を始め、中でも、効率的に実施しているイスラエルではワクチンの接種に伴う感染者の減少が認められたと、最近報じられました。これを機に新型コロナウイルスへの感染が収束に向かうものと期待されています。
ワクチンの接種に伴い生じる新型コロナウイルスに対する抗体の持続期間がまだ不明のようですが、インフルエンザワクチンのように持続期間が5カ月程度だとすると、全世界が協力して集中的・計画的にワクチン接種を実施する必要があるように思います。
新型コロナウイルス感染は通年性のようなので、流行期間が冬季に集中するインフルエンザより、かなり手強い相手ということになり、ワクチン接種遅延国がある状況では国際交流に支障が生じることになります。
新型コロナウイルスのことがまだ良く分からないので、風邪の症状を引き起こすウイルスについて、門外漢ながら、最近の歴史等を少し調べることにしました。
当時の世界人口(18億~20億人)の25-30%(WHO)が罹患したとされるスペイン風邪は1918年から3年間続いたことは良く知られています。そして、その原因となったウイルスは15年後の1933年に発見され、現在はインフルエンザA型と呼ばれていることも周知の事実です。その後、通常の風邪症状をもたらすコロナウイルスは1966年に米国で発見され1)HCoV-229Eと命名され、翌年にはHCoV-OC43も発見されたようです。そして2002年にサーズ、2012年にマーズが発生しコロナウイルスへの関心が各段に高まりましたが、コロナウイルスに対する研究はインフルエンザに比べて遅れていたように思われます。サーズやマーズに対するワクチンが開発される前に新型コロナウイルスが発生してしまったということになります。
残念なことに細菌に対する抗生物質のような切れ味の良い医薬品は、ウイルスに対してはまだ開発されていないようです。そのため、ワクチンに対する期待が一層強くなり、初めての遺伝子ワクチンがワープスピードで実用化(許可)されました。この分野は、将来的には人工抗体をも含む新たな抗体医薬開発へと進むのではないかと予測されます。
実は、HCoV-OC43は今でこそ軽い風邪を引き起こすコロナ風邪の一つであると認識されていますが、スペイン風邪の前、1889年から1891年にかけて世界的な風邪の流行をもたらしたウイルス(日本ではお染風邪)だとする論文が数件報告され始めているようです2)。1889年当時は、HCoV-OC43への感染は現在の新型コロナウイルスのように4%~3%程度の致死率であり3)、さらに神経系に障害をもたらす風邪として恐れられたようです。
新型コロナウイルスはHCoV-OC43と同じβ-コロナウイルスに属しているので、今後はできるだけ早くHCoV-OC43のように軽い風邪を引き起こすウイルスへと変異することを期待してしまいます。イギリスの変異株VOC-202012/01は感染率も致死率も高くなったとされていますが、今後どうなるのでしょうか。
参考)
1)Dorothy Hamre et
al.: A New virus isolated from the human respiratory tract., Proc. Soc. Exptl.
Biol. Med., 121, 190-193 (1966)
2)Leen Vijgen et
al.: Complete Genomic Sequence of Human Coronavirus OC43: Molecular Clock
Analysis Suggests a Relatively Recent Zoonotic Coronavirus Transmission Event.,
J. Virol. 95(3), 1595-1604 (2005)
3)Charles
Savona-Ventura: Past Influenza Pandemics and their Effect in Malta., Malta
Medical J., 17(3), 16-19(2005)