2021年12月27日月曜日

季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞と獲得抗体の働きの差異

   今年も残すところ5日になりました。年末・年始は岩手で過ごすことにしました。寒波襲来とのことで雪が気になっています。

 今年はオリンピックやパラリンピックが無事開催されて本当に良かったと思いました。特にパラリンピックの印象が強く残っています。

でもやはり、常に気になっていたのは新型コロナウイルスの件で、根拠もなく今年いっぱいで収束するものと思い込んでいました。しかし、残念ながら、11月からオミクロン変異株が欧米を席巻し、日本でも市中感染が確認され始めています。

新年を迎えてもオミクロン変異株が蔓延することなく、「低い波」程度で収束したら、本当にすごい集団感染予防力が「日本にはある」ということになると思います。

理化学研究所の清水研究員らは、新型コロナに感染した日本人に特に多く形成されるタイプの記憶免疫キラーT細胞に着目して解析し、そのキラーT細胞が認識するスパイクタンパク質の抗原部位(エピトープ)を探索・解明し、そのエピトープが季節性コロナウイルス(コロナ風邪ウイルス)に対する交差反応性を持つことを明らかにしています1)


キラーT細胞の受容体が認識するスパイクタンパク質のエピトーブは膜通過部位(TM)に存在しているようです。

季節性コロナ風邪の内、特にβ-コロナウイルスに属するOC43HKU1への感染によって形成された記憶免疫キラーT細胞が、日本人では新型コロナウイルスの防御に役立っている可能性が高いということになるようです。

一方、T細胞を介した新型コロナと季節性コロナの交差免疫の存在に関する多くの報告があることから、ジェンナーの種痘ワクチンの例にならって、季節性コロナを新型コロナの弱毒性ワクチン候補として取り上げている論文も出ているようです2)

既に優れたm-RNAワクチンが開発され利用されているので、この提案に沿った試験が実施されているのかどうか不明ですが、過去の季節性コロナウイルスへの感染経験の違いが、新型コロナウイルスへの感染や重症化に関与している可能性を示しているものと思われます。

しかし事態はさらに複雑になってきており、季節性コロナに対する抗体を持っている人は、新型コロナに感染し易く重症化リスクも高いとの研究報告が、最近2報出ています4,5)

キラーT細胞と抗体が異なる反応を示すことはあるのでしょうか。また、それぞれの働きを制御することは可能なのでしょうか。

抗原原罪(Original Antigenic Sin)がもしあるとすれば、新型コロナウイルスの場合、最初に免疫を形成させたコロナウイルス(先祖)は何だったのでしょうか。

さまざまな問が頭をかすめますが、最終的に良いとこ取りができる方法があることを願っています。

参考)

1)Kanako Shimizu et al.: Identification of TCR repertoires in functionally competent cytotoxic T cells cross-reactive to SARS-Co-2., Communications Biology, (2021)4:1365.

2)Federica Sotgia et al.: Using common cold virus as a naturally occurring vaccine to prevent COVID-19:Lessons from Edward Jenner., Aging 2020, Vol.12, No.19, 18797-18803

3)Structural Analysis of Neutralizing Epitopes of the SARS-CoV-2 Spike to Guide Therapy and Vaccine Design Strategies., Viruses, 20212, 13, 134.

4Paul R Wratil et al.: Evidence for increased SARS-CoV-2 susceptibility and COVID-19 severity related to pre-existing immunity to seasonal coronaviruses., Cell Reports (2022), doi.org/10.1016/j.celrep.2021.110169

5Chun-Yang Lin et al.: Pre-existing humoral immunity to human common cold coronaviruses negatively impacts the protective SARS-CoV-2 antibody response., Cell Host and Microbe (2022), doi.org/10.1016/j.chom.2021.12.005

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