2023年4月22日土曜日

ホトケノザなど野草の閉鎖花の役割と閉花性の農作物への利用

   春になり山野草を眺めるのが楽しみです。最近は牧野富太郎博士がモデルのNHK朝ドラ「らんまん」を欠かさず見ています。

 草花の芽生えが待ち遠しい1月末から2月頃の牛久沼散歩ではタンポポやオオイヌノフグリに加え、ホトケノザの花が良く目につきます。

 ホトケノザは同じシソ科オドリコソウ属のヒメオドリコソウとの競合が話題になっていますが、牧野博士は、このオドリコソウ属についても調査し、良く知られているオドリコソウやホトケノザ、ヒメオドリコソウの他に、マネキグサ(神奈川県以西)、ヤマジオウ(神奈川県以西)、ヒメキセワタ(九州以南)などについても整理し、それぞれを独立した属として記載していたとのことです。

広義オドリコソウ属のAPG体系への改変

 最近、植物の分類体系が形態的な仮説に基づくクロンキスト体系などから、ゲノム解析を重視するAPG体系に変わりつつあるようですが、牧野博士が行ったオドリコソウ属の分類はこのAPG分類体系に合致していた1)とのことなので驚きました。

 牧野博士が取り上げたマネキグサやヤマジオウ、ヒメキセワタの分布は神奈川県以西のようなので、茨城県では見られないようです。残念です。

 ホトケノザの開花期は2月~6月でヒメオドリコソウより一月ほど早いようです。しかも早春は受粉媒介昆虫が少ないことなどから、閉鎖花をつけ自家受粉により種子を形成するとのことです。一方、ヒメオドリコソウは閉鎖花をつけないようです。

ホトケノザ

ヒメオドリコソウ

 4月のヒメオドリコソウ群落内に生えるホトケノザは孤立し旗色が悪そうですが、2月~3月の畑地や田んぼ脇など比較的肥沃な場所ではホトケノザの群落が目立ちます。閉鎖花戦略が功を奏しているのでしょうか。


 閉鎖花をつける植物は世界的には56287種とされています2)。日本では牧野博士が1119種をリストアップし、ホトケノザの他に各種のスミレやツリフネソウ、カタバミなどが知られているようです。

 中でも、キツリフネは日差しの弱い56月は閉鎖花をつけ、日差しの強い7~8月は開放花をつけるとのことで、移植試験でも光強度が強いと開放花の比率が多くなるそうです3)

弱光下では閉鎖花が主体になるキツリフネ
(2022年9月筑波山麓で撮影)

 個人的には山野草の花は開放花であって欲しいと思ってしまいますが、それぞれの進化の過程で閉鎖花の道を選択した種類もかなりあり、何故そのように進化したのか、しなかったのかが研究されているようです。

一方、イネや小麦、大麦などの栽培穀類では収穫した種子の雑種化が進むと困るので自家受粉率の向上が期待され、遺伝子組換体では花粉の飛散の無い閉鎖花が望まれます。

閉花性に関連する遺伝子の解析は既にかなり進み、意外にも大麦では閉花性を付与すると赤カビ病が低減できることが分かったようです4)。面白いです。

園芸作物でも閉花性結実技術が可能なのでしょうか。関連情報を調べて見たいです。


参考)

1)三浦 憲人:日本産シソ科の細胞分類学的研究(2013年度植物地理・分類学会奨励賞受賞記念講演記録)、植物地理・分類研究、61(2)91-932014

2)Lord E.M. : Cleistogamy: A tool for the study of floral morphogenesis, function and evolution., The Botanical Review, 47, 421-449 (1981)

3)Michiko Masuda et al. : Reproductive ecology of a cleistogamous annual, Impatiens noli-tangere L., occurring under different environmental conditions., Ecological Research, 9, 67-75(1994)

4)Sudha K. et al. : Cleistogamous flowering in barley arises from the suppression of micro-RNA-guided HRP2 mRNA cleavage. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109, 490-495 (2010)

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