2018年7月24日火曜日

大豆の害虫カメムシの臭気成分



豆畑にはカメムシもいました。背中に白い斑点が見えたので、もしかしたら以前に写真を撮ったハート形の斑点を持つエサキモンキツノカメムシかも知れないと期待しましたが、残念ながら中途半端な白い斑点があるのみで、後で調べたところブチヒゲカメムシであることが分りました。

ブチヒゲカメムシの幼虫は、豆科やキク科の葉を食草にしているとのことですので、たぶん豆畑のあちこちにいたものと思われます。ブチヒゲカメムシは大豆の子実を吸汁し、その際に子実に細菌を感染させ「ダイズ子実汚斑病」を引き起こすらしいので、今後見つけたらかわいそうですが退治することにします。

 カメムシは臭いことで有名ですが、最近その臭い物質に関する研究が進んだようです。豆畑にいたブチヒゲカメムシ(Dolycoris baccarum)の幼虫が生産する臭気物質には、殺虫作用を持つ4-オキソ-(E)-2-ヘキサナール(4-OHA)が多く含まれ、次いで忌避作用を持つ(E)-2-オクテナールが多いことが解明されていました1,2。成虫になると幼虫にはない忌避作用の強い(E)-2-ヘキセナール(青葉臭:青葉アルデヒド)の濃度が高くなるとのことで、それぞれの天敵に対抗できるような臭気組成に変わるということです。

なお、殺虫作用は臭気物質を塗布したコオロギをカマキリに食べさせ、また忌避作用はカマキリに臭気物質を吹きかけて、それぞれ判定しています。4-オキソ(E)-2-ヘキセナール(4-OHA)には抗菌作用もあるとのことで、幼虫は臭気物質で細菌に対する防護も行っているもの推定されています。



 カメムシをあやまって潰した際に感じるあの嫌な臭いの主成分が、新茶の爽やかな香りに関与する青葉アルデヒドと同一物質であることに少し違和感を感じます。カメムシの臭いを薄くしたらいい匂いになるのだろうか。でも、チャレンジする気になれません。
 良く見ると、カメムシのアルデヒド類の二重結合は全て炭素の2位に存在し、かつトランス(E)型の配置のみになっていてかなり単純です。一方、緑茶の香気成分にはアルデヒド類の他にアルコール類も存在し、さらに二重結合は炭素の2位のものと3位のもの、立体配置もトランス(E)型だけでなくシス(Z)型も存在するなど相当複雑な組成になっています。その他テルペン類のゲラニオールなどの香りも存在するので、やはり緑茶の匂いのほうが奥深いようです。なお、ブチヒゲカメムシが吸汁する大豆の青臭はn-ヘキサナールで、カメムシ臭とはやや異なるようですが、緑茶の香気成分の一つになっています。


 最近は、虫に加害された植物から生じる青葉アルコールが他の植物に危険を知らせる情報伝達物質として働ていることが明らかになる3)など、この香りの分野もどんどん進化して面白くなってきました。

参考)
1)K.Noge, et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76(10), 1975(2012)
2)野下浩二:カメムシ臭気成分の科学生態学的研究、日本農薬学会誌
(学会賞)、40(2)152-156(2015)
3)K.Sugimoto, et al.: PNAS, 111(19), 7144(2014)

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