冬のアオキ(2月) |
筑波山や宝篋山、小町山、雪入山など筑波連山の山道にはアオキがたくさん生えていて赤い果実が目に止まり、ついつい写真を撮ってしまいます。
なぜアオキが山道にたくさん生えているのかを少し不思議に感じます。
アオキの学名はAucuba(アオキ葉) japonicaで日本在来の樹木のようです。海外では庭園などに好んで使われていて、特に斑入り葉が人気のようです。
アオキは雌雄異株(Dioecy)と言われていますが、冬の山道では果実の赤い色が強く印象に残ります。アオキの果実の色には、水溶性で赤い色素のアントシアニン(ぺラルゴニジン配糖体とシアニジン配糖体)と脂溶性で黄色い色素のカロテノイド(クロロキサンチン)が寄与しているようです(1,2)。
でも、何といってもアオキで有名な化合物はイリドイドに属するアウクビン(Aucubin)のようです。
イリドイドの基本骨格とアオキ葉のアウクビン |
一般的に、イリドイドは植物が害虫から身を守るために蓄積している化合物だと言われているようです。イリドイドは、通常は糖と結合した安定な配糖体として植物中に存在するのですが、害虫によって葉が傷つけられると、葉のグルコシダーゼの働きによって糖が離脱し、その結果イリドイドの1位の炭素と3位の炭素が開環しやすくなり、1位と3位の両炭素が反応性の高いアルデヒドになり、害虫の腸内で消化酵素と結合して不活性化するとのことです。
このイリドイドによる植物の防御とそれに対する昆虫の戦略については、イボタノキとイボタ蛾が取り上げられ詳細な研究が行われていました(3)。イボタ蛾は、イボタノキのイリドイド化合物であるオレウロペインから糖が外れて生じたアルデヒドへの対策として、腸内に高濃度のグリシンを分泌し、アルデヒドと結合させて毒性を緩和し消化酵素を守っているとのことです。
イボタ蛾(月山ブナ原生林で撮影) |
アオキの果実には、アオキミタマバエが寄生するとのことなので、アオキミタマバエもアルデヒドの解毒機能(グリシンあるいはβ-アラニン、GABA)を腸管に分泌しているものと推察されます。
アオキ成熟果実には、アウクビンよりアウクビンの前駆体と推定されるデアセチルアスペルロシド酸メチルエステルが存在するとの報告(4)があるものの、アオキミタマバエとの攻防については情報を見つけることが出来ません。
一方、種を運んでくれる鳥についての観察レポートもあるようですが、アオキの実は果肉が薄く、苦いイリドイドを含有しているので鳥にもあまり好かれないようです。でも、2月上下旬にはヒヨドリ、ムクドリが捕食するとのことなので、これらの鳥が里山にアオキの実をたくさん散布したものと推察されます。
イリドイドは、むしろ様々な薬理作用があることから医薬品のリード化合物や健康機能成分として注目されていますが、食品加工分野では、食用色素の開発素材としても注目されているようです(5)。
食品添加物として利用されているクチナシ赤色素とクチナシ青色素は、クチナシのイリドイドであるゲニポシド等から糖が離脱したアグリコンとタンパク質が反応して生じた色素のようです。
イリドイドは比較的に馴染みのない化合物ですが、テルペノイドの一つとして生物にとって、あるいは食品成分として重要な物質であることが分かりました。
参考)
1)Ishikura N.:
Pelargonidin glycosides in fruits., Experientia 27, 1006(1971)
2)青木 唯ら:アオキ果実の成熟に伴う果皮の色素および色素体微細構造の変化、Science Journal of Kanagawa University 22, 63-70(2011)
3)吉永直子ら:防御物質イリドイドをめぐる昆虫の多様な適応戦略、化学と生物、56(7)、454-456(2018)
4)駒井功一郎ら:イリドイド配糖体類の植物成長抑制作用、雑草研究35(1)、44-52(1990)
5)漏留信晴ら:アウクビンとアミノ酸を原料とした赤色素の生成と性質、日食科工誌、44(11)、760-767(1997)
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