2021年5月31日月曜日

新型コロナウイルスの抗体の特性解明が進んでいます(ADEやOAS解明への期待)

    5月17日からワクチン接種の予約が始まりました。今日(5月31日)も9時からトライしましたが、9時05分過ぎに当日分が決定したとの掲示が出ました。残念。

新型コロナウイルスについてはアジアでの感染増加が懸念されているようです。5月29日にはベトナムでイギリス型(B.1.1.7(69del, 70del, 144del, N501Y, A570D, D614G, P681H, T716I, S982A, D1118H ))とインド型(B.1.617.1 (G142D, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H)1)の混合変異株が確認されたとのニュースが報道され、変異株への警戒感がさらに高まっています。

最近、新型コロナウイルスの抗体依存性免疫増強(Antibody-Dependent Enhancement: ADE)作用に関する大阪大学の研究論文がCell誌に発表2)され、これも大きな話題になっているようです。

ADEは、抗体を獲得しているのに、かえってそれが原因になり感染増強や重症化が生じる現象とのことで、デングウイルスやエボラウイルス、さらにSARSMERSで確認されていたとのことです。

私たちが病原性ウイルスに感染すると、実は、たくさんの種類の抗体が体内に形成されるようですが、生じた全ての抗体が病原性ウイルスの撲滅に役立っているということではないようです。

大阪大学の荒瀬 尚先生のグループは新型コロナウイルスへの感染によって患者に生じたスパイクタンパク質に由来する74種類の抗体に着目し、アミノ基末端ドメイン(NTD)由来やレセプター結合ドメイン(RBD)由来、S2部位由来の3群に分類し、74の抗体それぞれが、宿主(ヒト)細胞のレセプターであるACE2Rとの結合性を弱める(感染力低減)のか、高めるのか(感染力増加)を精査しています。

その結果、RBD由来の抗体は感染力を弱め、NTD由来の抗体は逆に感染力を高め、一方S2由来の抗体は影響を与えないことが明らかになったとのことです。

 なお、NTDに由来する抗体4A83は、変異が比較的多いRBDに由来する抗体ではないことから、あらたな安定な中和抗体としての可能性を持つものとして注目されていますが、今回の論文のデータによるとACE2との結合力を弱める作用はないようです。

 ADEを誘発する抗体は、抗体FabFragment antigen binding)領域の病原ウイルスへの結合力が不十分であるため、食細胞のウイルス貪食作用(オプソニン作用)がうまく進まず、むしろ食細胞にウイルスを呼び込み、食細胞内でウイルスの増殖を招くとされていたようです。

 今回の発見では、ウイルスNTD由来の抗体がNTDに結合することにより、スパイクタンパク質の立体構造が影響を受け、リセプター結合部位の露出が増え、感染力が高まるものと推定しているようです。

この現象は、変異株のD614Gでも観察されています。

生じた抗体の網羅的な解析は、大変な労力を要することになりますが、新たな発見につながるように思います。

新型コロナウイルスについて、OASOriginal Antigenic Sin)の視点から従来のコロ風ウイルスの抗体と比較する研究も行われている4)ので、網羅的な解析による今後の発展が楽しみです。

従来のコロナ風邪ウイルスの抗体をかなりの方が保有しているとの報告もあるので、新型コロナウイルスと同類のβ-コロナウイルスに属するHCoV-OC43やHCoV-HKU1への感染経歴や、ACE2がレセプターになっているα-コロナウイルスのHCoV-NL63への感染経歴と、さらにそれぞれの抗体の特性などに対する関心が増しました。

Worldometorの新型コロナウイルスによる死亡者数データを見ると、ハンガリー(0.30%)やチェコ(0.28%)、スロバキヤ(0.23%)、ブルガリア(0.26%)、北マケドニア(0.26%)など近隣諸国の死亡率が他国(米国(0.18%)、日本(0.01%))より高いようなので、地域性が気になります。

参考)

1)     国立感染研究所:SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統について(第2報)2021512

2)Yafei Liu et al.: An Infectivity-enhancing site on the SARS-CoV-2 spike protein targeted by antibodies., Cell(2021), doi:https://doi.org/1016/j.cell. 2021. 05.032.

3)Chi X et al.: A neutralizing human antibody binds to the N-terminal domain of the Spike protein of SARS-CoV-2., Science 2020-06-22

4)Aydillo T., et al.: Antibody Immunological Imprinting on COVID-19 Patients.,  medRxiv preprint. Doi. https://doi.org/10.110/2020.10.14.20212662.

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