2021年5月13日木曜日

筑波山渓流のニホンカワトンボのハート形成とその色について

    コロナ禍の中、街中に出かけにくいので筑波山を始め宝篋山や小町山、剣ヶ峰、雪入山、浅間山など千代田アルプスの登山ハイキングコースに良く出かけるようになりました。

以前、宝篋山からの下山の際に、東城寺を経由して小町の館駐車場に向かう沢沿いの山道で、緑色の綺麗なカワトンボに遭遇したので、その後、沢沿いの山道を歩く際には注意を払うようにしていました。

その甲斐があって、最近5月10日に筑波山キャンプ場付近の渓流でたくさんのカワトンボと出会うことが出来ました。

偶然にも、カワトンボの雌雄によるハート形成(交尾)も目撃しました。


実は、イトトンボとカワトンボの区別が出来ないほどの素人なのですが、翅の色が茶色のカワトンボを見つけた時は、しばらく追いかけてしまいました。でも、結局近づくことが出来ずピンボケの写真しか撮れませんでした。

緑色の成熟雄はなかなか綺麗です。


カワトンボ体表の鮮やかな緑色に興味を持ったので、その色を形成する色素について調べて見ました。

 良く見かける多くの甲虫類やクロアゲハの体表の黒色は ①メラニン色素のようです。人間の髪の毛の黒色物質と同じで、アミノ酸のチロシンが出発物質になっているようです。

 一方、蝶々などの色は、アミノ酸のトリプトファンを出発物質とする②オモクローム(Ommocrome)系色素と、RNAの構成物質でもあるグアノシン三リン酸(GTP)を出発物質とする③プテリン(Pterin)あるいはプテリジン(Pteridine)系色素によって形成されているようです。

  昆虫の体表色に関与する色素のプテリン(Pterin)の語源は、ギリシャ語のPteros(翅)に由来するとのことです。当時(1800年代)は蝶々の翅の色に関する研究が盛んに行われていたようです(1)。

 プテリンあるいはプテリジンに関して、現在はビタミンB2(リボフラビン)や葉酸などビタミンの基本骨格としても注目されているので、トンボの色素も、もしかしてヒトに対する生理的な機能性等があるのではないかと期待してしまいます。

 一方、オモクローム系色素の名称の由来は蛾(スジコマダラメイガ)の眼の色素とのことで、「複眼の色素(Ommochrome)」と名付けたそうです(2)。

 赤とんぼの雄が成熟すると黄色から赤に体表が変わるそうですが、この変化はオモクローム系色素が還元されることによって生じるとのことで、日本の研究者によってその詳細が最近解明されていました(3)。トンボは海外ではあまり興味を持たれることがないとのことなので、意外です。

筑波山周辺で見つけたカワトンボの雄はメタリックな緑色をしていましたが、論文を見ると、緑色の色素が存在するためではなく、体表のクチクラ層の影響や、その下の表皮に存在するプテリジン系色素やオモクローム系色素、メラニン色素などがそれぞれ固有の波長の光を吸収し、結果として体表から出る反射光が緑色になるようです(4,5)。

プテリジン色素やオモクローム系色素の中に、強力な緑色色素が存在するのかなと思っていましたが、違いました。表皮に存在する色素等の複合的な効果によって緑色が形成されるとのことです。

 蝶々やトンボ、甲虫など昆虫の体表の色には目を見張るような綺麗なものが多いのですが、まだ未解明の部分もあるとのことで、研究の今後の発展・トピックが楽しみです。

 

参考)

1)秋野 美樹:プテリンとその生理作用、化学と生物、16(12)762-768(1978)

2)二橋 美瑞子:昆虫のオモクローム系色素に関する知見―ショウジョウバエのパラダイムを超えて

3)Futahashi R. et al.: Redox alters yellow dragonflies into red. PNAS, 109(31), 12626-12631(2012)

4)G. Okude et al.: Pigmentation and color pattern diversity in Odonate., Current Opinion in Genetics and Development. 2021, 69:14-20.

5)MJ Henze et al.: Pterin-pigmented nanospheres create the colours of the polymorphic damselfly Ischnura elegans. J.R. Soc. Interface, 16:20180785

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