2023年11月23日木曜日

晩秋の山野に咲くアザミとその分類方法

   晩秋の山野をハイキングすると、アザミの花が目に止まります。

ノハラアザミ?(難台山 11月12日)

愛宕山付近のアザミ(11月12日)

専門家によるとアザミはスミレやスゲ、テンナンショウ、トリカブトなどと同様にその分類・同定が難しいとのことです1)

アザミについてネットで調べて見ると、国立科学博物館に「日本のアザミ」を網羅したサイト2)がありました。

 「日本列島には150種を超えるアザミたちが生きている」とのことで、今でも新種が追加され続けているそうです。

 このサイトには、それらアザミたちの写真や分布と形態的な特徴などが記載されていますが、花の写真だけでは種判定は無理のようです。

 アザミはキク科アザミ属の仲間で、属→節→亜節→列→種の順に分類されているようです。

最近は、被子植物の分類体系が形態観察に基づく「新エングラー体系」などからDNA解析による分子系統学に基づく「APGAngiosperm Phylogeny Group)体系」へと変わりつつあるとのことでしたので、両者を比較をしてみました。

APGⅢ体系(日本の野生植物(平凡社)2017年版)では、新エングラー体系で「キツネアザミ属」とされていたエゾノキツネアザミが、アザミ属のエゾノキツネアザミ節になり、フジアザミ節が消えてナンブアザミ節のフジアザミ亜節として分類されているようです。種数も159種から123種に減っていました。

アザミ属で最も多くの種が属するナンブアザミ亜節について新エングラー体系とAPGⅢ体系を比較すると亜節数が25から23に減少し、APGⅢ体系では、新エングラー体系に記載されていたアシノクラアザミ亜節、ツクシアザミ亜節、ミネアザミ亜節、ヤマアザミ亜節が消えて、フジアザミ亜節、キタカミアザミ亜節が新たに設けられているようです。

一方、国立科学博物館の化学成分標本データベースには、既に10,000点以上のフラボノイドが集められ、その中にはアザミ属のフラボノイドも多数あることから、ケモタキソノミーに活用されているようです4)

岩科らの報告5)によるとアザミ属の主要なフラボノイドの分布パターンはABCの3パターンからなり、さらに詳しくAA-1A-2A-3に分ける5種類のグループ分けが可能とのことです。

そこで、この論文に掲載されたアザミ32種のデータをAPGⅢ体系に従って節、亜節レベルで整理・作表して見ました。

  A、B、C、の各区分の主要なフラボノイドの化学構造も調べて見ました。



フラボノイドコレクションの解析が進み、さらに多くのアザミについてのデータが公開されるといいなと感じました。

テルペノイドなどフラボノイド以外の二次代謝成分のデータによる分類も可能なのでしょうか。

アザミ属の種子は飛散しにくいため各地に特有な種が分布する特徴を持っており、しかも自家受粉しないため雑種が多いとのことです。

種の同定のためには、その地域に分布する種類をあらかじめ良く勉強しておく必要があるようです。

岩手の八幡平には、ナンブアザミやノハラアザミ、ウゴアザミ、アオモリアザミ、ハチマンタイアザミなど14種類があるとのことですが、関東のアザミを網羅した報告はまだ見つけていません。

花の総苞片数や状態、腺体の状態や粘液なども種分類の観察点になっているようですので、花の写真だけを撮影する素人には、アザミの種の同定はかなりハードルが高いことが身に染みて良く分かりました。

でも各地に固有の種が見つかり、地名が品種名に反映されているので興味を持ちました。

参考)

1)アザミ学事始め:第1回 アザミはどのような植物群なのか? - 図鑑.jp (i-zukan.jp)

2)日本のアザミ:トップページ >> 標本・資料データベース :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo (kahaku.go.jp)

3)フラボノイドコレクション:国立科学博物館 植物研究部 (kahaku.go.jp)

4)Tsukasa Iwashina et al.: Further Identification of Flavonoids Deposited in the National Museum of Nature and Science in JapanFlavonoids Isolated from Cirsium Taxa and Carduus nutans Asteraceae, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., ser. B, 46(4), 195-214(2020)

5)Tsukasa Iwashina et al.: Foliar Flavonoid Composition in Japanese Cirsium Species(Compositae) and Their Chemotaxonomic Significance, J. Jpn. Bot. 70, 280-290 (1995)





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