9月24日(月)に茨城から仙台に戻りました。自宅玄関のドアに近づいたところ、鍵穴と反対側の隅に大きな蛾が止まっていることに気づきました。写真を撮った後、鍵で触ったところそのままズルズルと下に落ちました。かなり弱っている様子なので、さらに鍵で触ったところ突然バタバタ羽ばたきをし始め、ベランダの柵を超えてヒラヒラと舞い上がり夕闇の空に消えてしまいました。
後で調べたところ、クスサン(Caligula japonica)でした。クスサンの幼虫はクリやクヌギ、サクラ、ウメ、ギンナンなどに大発生することのある害虫で、かなり大きくてしかも白い毛が生えているのでシラガタロウと呼ばれているそうです。でも、大きな蛾がどうやって6階の部屋まで飛んできたのだろうか。不思議です。実は岩手の家でも8月に大きな蛾に出会いました。クスサンよりきれいな蛾でヤママユでした。
クスサンもヤママユも共に繭を造る蛾で、ヤママユは天蚕として絹の生産に活用される程有名ですが、一方クスサンの繭は穴の開いた小さな籠状のもので糸は短いものの強く、酢酸に浸すと魚釣りのテグスとして利用できる程だそうです。昆虫が造る糸として、最近は「蜘蛛の糸」がとても強いということで有名になり、織物など産業への利活用が話題になっていますので、クスサンとの比較に興味を持ちました。
カイコやクスサンなどの野蚕の糸と蜘蛛の糸の強さを比較したデータがHandbook of Natural Fibers1)に記載されていました。それによると、クスサンは強いものの「蜘蛛の糸」より千切れやすいようです。中国産のサクサンと呼ばれる野蚕の糸の中には蜘蛛の糸に勝るものもあるようです。
糸の強さには糸を形成しているアミノ酸の組成が大きく影響する訳ですが、カイコや野蚕、蜘蛛の糸のアミノ酸組成についておおざっぱに整理すると、カイコの絹より野蚕の糸のほうがアラニンが多くなっており2)、また蜘蛛の糸にはプロリンとグルタミン酸が多いことが分かっているようです。蜘蛛の糸のプロリンはタンパク質の糸を折り曲げて束ねる特性を持つので、強度の向上に寄与しているといわれています。
糸の強さについては、合成繊維の分野も日進月歩のようです。絹の構造をまねて1935年にカローザスによって造られたペプチド結合を持つナイロンは画期的なものですが、同様の反応でさらに炭素密度の高い「ケブラー」の生産が可能になり、防弾チョッキにも採用されるまでになっています。さらにナイロン(Nylon)のNをZ(最後の文字)に変えた「ザイロン(Zylon)」は紫外線耐性が問題視されているものの、ケブラーより高強度かつ高温耐性であるとされ、最近では人工衛星等の大気圏突入の際の速度低減用のエアロシェルとしての活用が期待されています。
日本が行った小型衛星(EGG)による試験では良い成績が得られたようです3)。
参考)
1)Handbook of
Natural Fibers, Ed by Ryszard M. Kozlowski (2012)2) http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/silkwave/hiroba//Library
/SeisiKD/57SKD2004/3komatsu.pdf
3)www.isas.jaxa.jp/topics/001003.html
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