シイタケやエノキタケなどスーパマーケットで購入する袋詰めのキノコと異なり、屋外に生えているキノコにはどれにも存在感と風格があり、見つける度になぜか見入ってしまいます。
地球上にまだキノコが無かった3億年前の樹木は分解されることなく石炭になったそうですが、キノコが誕生した今では自然環境の中でほぼ完全に分解され次世代の樹木へと命が受けつながれます。つまり今後、石炭は出来ることなく、キノコは木材腐朽菌の一つとして現在の地球環境を持続的に支える大事な役割を担っていくということになります。
キノコには様々な不思議があります。最も大きな不思議は宿主(樹木)をどのようにして見分けているのかです。これについては、明快な回答事例を見つけることはできませんでしたが、驚いたことに植物の腐朽とは異なり、植物と共生している例がありました。葉緑体を持たない白色の植物の中には、キノコの菌と共生し栄養を得ている種類があるようです。昆虫の場合は、アブラムシの消化管にブフネラ菌、マルカメムシの消化管にIshikawaella菌(石川統に因み名付けられた菌)、セミの消化管にホジキニア菌が生息するなど多くの事例が報告されていますが、キノコを活用している植物があることに驚きました。
キノコと共生している植物としてオニノヤガラとツチアケビが有名なようです。どちらもナラタケ(Armillaria mellea subsp. nipponica)の菌床を培地に混入することで生育が可能になることが分かっており、ナラタケ菌と共生することで光合成ができなくても十分な栄養が確保できる仕組みになっているようです。
オニノヤガラには気仙沼の徳仙丈山で出会いましたが、かなり立派な姿でした。オニノヤガラ(Gastrodia
elata)の塊茎は漢方薬として古くから活用されているようですが、その有効成分であるガストロジン(Gastrodin)が最近注目され始めており1)、中枢神経系(CNS)障害(癲癇、認知障害、統合失調症など)等の改善作用が動物実験によりたくさん報告されているようです。
この他、木材腐朽菌はキツツキの営巣場所決定に関与しているとのことです。キツツキは枯れ木に巣を造ることが多いようですが、生木に巣を造る場合は、枝の切断部位や幹の傷害部位から心材に木材腐朽菌が侵入している場所を探し当て、そこを営巣場所として穴を開け始めるようです2)。幹の表面(辺材)が硬くても心材に腐朽菌が侵入し柔らかくなっていれば、大きな巣穴を造ることができるからのようです。北海道のアカゲラの巣からは、タバコウロコタケ科とサルノコシカケ科の木材腐朽菌が確認されているようです。
以前に桜の木に生えたタバコウロコタケ科のカワウソタケの写真を撮っていることを思い出しました。
キノコ類の持つ生物間相互作用の一端に触れ、この分野に大変興味を持ちました。
参考)
1)Yuan Liu et al.:
Frontiers in Pharmacology, V9,February 2018
2)小高信孝:日本生態学会誌、63、349-360(2013)
0 件のコメント:
コメントを投稿