2018年12月26日水曜日

地衣類とリトマス試験紙


イワタケを食べたことはありませんが、イワタケは地衣類に属し中国や韓国、日本で昔から食用や薬用として利用されてきたとのことです。またツンドラ地帯に分布するトナカイは冬には雪をかき分け地衣類のトナカイゴケを食べて命をつなぐとのことでが、一般的に地衣類には担子菌と異なり食用資源としてのイメージはないように思います。

 地衣類について調べて見たところ、紀元前2000年には既に染料素材として利用されていたとのことで、西洋では古くから染料として知られていたようです。

私にとって最も身近なものはリトマス試験紙でした。リトマス試験紙のリトマス色素は地衣類のリトマスゴケを用いて製造するとのことです。また、肝炎ウイルスによる感染の有無の判定や、細胞の染色体の染色にはリトマスゴケから作られた色素のオルセインが用いられているとのことで、全く知りませんでした。

オルセイン色素とリトマス色素の生成メカニズムは、ドイツのMusso博士によって解明され、1960年にPlanta Medicaに独語で発表されています1)。それによると、リトマスゴケに存在するレカノール酸が加水分解されオルセイン酸になり、それが酸素やアンモニアと反応して最終的にオルセイン色素とリトマス色素になるとのことです。


オルセイン酸は分子量が300程度のβ-ヒドロキシオルセインなど8種の類似構造を持つ主な物質の混合物でエタノールに溶解し、リトマス色素はオルセイン酸がさらに反応し分子量3300程度のエタノール不溶性、水可溶性の重合体になったものとされています。

リトマスゴケの酸化およびアンモニア反応液を乾燥させ、その乾燥物からエタノールで抽出した色素がオルセイン色素で、残りの水溶性色素がリトマス色素ということになります。この詳しい製造方法も公開されています2)

  日本には西洋でリトマス色素の製造に用いたリトマスゴケと同じものは生えていないとのことですが、オルセイン酸を含有する地衣類としてウメノキゴケとナミガタウメノキゴケは存在します。地衣類に含有される種特徴的な化学成分の識別はスポットテストで簡易に判別できるようなので、これを実施して確実にウメノキゴケとナミガタウメノキゴケを採集することができれば、リトマス試験紙の作製が可能になる訳です。リトマス色素の化学構造モデルも公表されていました。




孫の自由研究の題材として面白そうです。


参考)
1)Musso H. : Orcein and litmus pigments: constitutional elucidation and constitutional proof by synthesis., Planta Medica, 8, 431-446 (1960).
2) Richardson DHS: The vanishing lichens, 1975

笊川散歩と地衣類


1218日に笊川に出かけました。アオサギとシラサギが魚を狙い岸辺に立っていました。散歩コースの往復4km程度の所にいつも3羽陣取っていますので、魚が食い尽くされるのではないかと心配になります。鴨も年中泳いでいて時々雛にも遭遇します。セキレイはいませんでした。


日蔭の石垣には所々ですが苔も生えていました。写真を撮って調べて見たところウマスギゴケとギンゴケでした。


 地衣類について関心を持ったので、それらしく見えるものは手あたり次第に写真を撮りました。樹木にはウメノキゴケ、ハクテンゴケ、ローソクゴケ、オオマツゲゴケが付いていました。


河原におりる階段や生垣や歩道には橙色の地衣類がたくさん付いていました。

橙色が目立つ地衣類はコウロコダイダイゴケで、やや薄い橙色の地衣類はツブダイダイゴケのようです。


 今まで気に留めることはありませんでしたが、良く見ると地衣類は樹木や石、コンクリートなどあらゆるものに取り付いていることが分かりました。

地衣類の成長速度は1年に3mm-8mm程度と極めて遅く、かつ大気汚染にも弱いと言われています。でも、その生息範囲の広さに驚かされました。

 

桜の樹木の地衣類


太白山登山をした際、頂上付近の山道に木の葉や皮と色の異なる綺麗な薄緑色の葉片が落ちているのに気づきました。後で調べたところ地衣類のウメノキゴケの仲間の葉片であることが分かりました。葉片の付近には地衣類の付いた枯れ枝はありませんでしたので、なぜ登山道に落ちていたのか、その理由は分かりません。でも大変興味を持ちました。

良く散歩に出かける三神峯公園は桜で有名ですが、そのほとんどが古木なので、どれにもたくさんの白い地衣類が付いていることを思い出し、1214日に出かけて写真を撮りました。


 地衣類は本体ともいうべき菌類に藻類が共生したもので、藻類は光合成で得た糖類を菌類に提供し、菌類は偽根で吸収した水やミネラルなどを藻類に提供しているとのことです。アブラムシにはブフネラ菌が共生し、またほとんどの昆虫にも共生菌が存在することが分かっていますので、生物の多様性はかなり微妙な自然界のバランスによって維持されていることが伺えます。

 地衣類は、世界に約2万種ほどあり日本には1500種が存在するとのことですが、その形状から葉状地衣類と樹状地衣類、固着地衣類に分類できるとのことです。また地衣類には、それぞれ特徴的な二次代謝産物が含まれていて、アルカリ溶液や次亜塩素酸カルシウム溶液等を滴下すると色が変化するとのことです。外見のみでは同定が難しいので、スポットテストが開発されたのでしょう。

 スポットテストは行っていませんので確実ではないのですが、三神峯公園の桜の樹木には葉状地衣類がたくさん付いていて、それらはウメノキゴケやキウメノキゴケ、オオマツゲゴケ(葉片の裏が黒色)、ハクテンゴケ、ナミガタウメノキゴケと推定しました。


また、固着地衣類としてはクロイボゴケが確認できましたが、樹状地衣類は見つけることができませんでした。


いっぽう葉状地衣類や樹状地衣類、固着地衣類とやや異なり、粉状になる地衣類は不完全地衣類(レプラゴケ)に別途分類しているようです。桜の樹木には白色と黄色の粉状地衣類が付いていました。


地衣類は樹木を弱めるかどうかの議論も行われているようですが、担子菌のような悪影響を与えることはないのではないかとの意見が多いように思います。  
  

実際、威勢のいい欅の大木には固着地衣類が付いている場合が多いように思います。昆虫が姿を消す冬は地衣類観察がおすすめです。粘菌も気になります。


2018年12月18日火曜日

収穫した豆類と根粒菌との共生


岩手の畑で栽培・収穫した豆類をそれぞれの種類ごとにまとめました。今年のめだま品種は紅花豆と白花豆ですが、どちらの豆も軽くて充実度が足りない感じでした。特に白花豆は表面が汚れている上に小さいものが多く残念です。これらは煮豆にしてみたいと思っていますので出来栄えが今から心配です。


虎豆は花豆より少しばかりいい感じです。収量も多いようなので正月には家族一同にふるまうことができるのではないかと期待しています。蔓性の豆の中ではモロッコ豆の生育が最も悪かったので収量も少なかったです。


大豆系の豆の中ではくらかけ豆の収量が最も多く、まだ食べ方は分かりませんがクックパッドで調べて調理します。


この他、金時豆(蔓性)や小豆、青大豆、黒大豆も収穫できました。黄大豆は本数が少なかったことと、鳩の食害などがありほとんど収穫できませんでした。一粒も見当たらないのが少し不思議な感じです。来年もチャレンジしてみます。


いずれにしても、今回は様々な昆虫や病気等が発生することを覚悟の上、様々な失敗を経験するつもりで密植しましたので、小粒でかつ収量が少ないという当然の結果になりました。最近孫娘が「自業自得」という言葉を覚えてきて、意味もなく良く使っていますが、その自業自得になりました。

 事前の知識として豆類の根には根粒菌がつき窒素固定をすることは知っていましたので、他の作物ほどには肥料を与えなくても良いと思っていましたが、良く調べて見るとそれなりに肥料を与えた方が良いということのようです。この点でも失敗でした。

 豆と根粒菌の共生については1986年に報告されたアルファルファを用いた研究1)が有名で、根から分泌されるフラボノイドのルテオリンが根粒菌の瘤形成遺伝子を活性化することが明らかになっています。その後この結果に刺激され、たくさんの研究が行われました2)

 でも大豆と共生する根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)はアルファルファと共生する根粒菌(Sinorhizobium meliloti)とは異なるので、共生に必要な遺伝子を活性化する物質も異なるとのことです。根粒菌からして見れば、アルファルファと大豆を識別する必要がある訳ですから、あたりまえですね。でもアルファルファの話題があまりにも有名なので、マメ科と根粒菌の共生の仕組みは全て解決されたものと誤解していました。大豆の場合はまだ研究が続いておりイソフラボンのゲニステインが瘤形成遺伝子を活性化することはほぼ確実なようですが3)、そのほかにプルネチンやエスクレチン、イソリクイリチゲニンなども有効成分として取り上げられていました。


最近は、大豆の根からゲニステインやダイゼインのようなイソフラボンだけでなく、サポニンも土壌中に分泌されることも明らかになっています4)し、根圏に共存する他の菌類の影響も研究され始めているので進展が楽しみです。



参考)

1)Peters NK et al.: A plant flavone, luteolin, induces expression of 

Rhizobium meliloti nodulation genes., Science, 233, 977-980(1986).

2)Melicent C. Peck et al.: Diverse Flavonoids Stimulate NodD1 Binding

to nod Gene Promoters in Sinorhizobium meliloti.

3)Lang K., et al.: The genistein stimulon of Bradyrhizobium japonicum., Mol. Genet. Genomics, 279(3), 203-211(2008).

4)Tsuno Y., et al.: Soyasaponins: A New Class of Root Exudates in

Soybean (Glycine Max). Plant Cell Physiol, 59(2), 366-375(2018).


2018年12月16日日曜日

大内宿と鶴ヶ城


1116日に東北自動車道で牛久に行きました。途中大内宿と鶴ヶ城を見学しました。牛久には頻繁に通っていますが会津方面に立ち寄ったのは初めてでした。でも、平日だったので大内宿の観光客はまばらでした。


藁ぶき屋根の大きな家並みと舗装されていない広い道路が印象的でした。懐かしさを感じ来てよかったと思いました。せっかくだったので、名物の一本ネギ蕎麦を食べました。道路を歩いていたところ菊の花にヒメアカタテハが一羽止まっていました。また、そばにオオハナアブもいました。近寄っても逃げ回ることもなく、写真は撮りやすかったです。


磐越自動車道に戻る途中、鶴ヶ城も見学しました。鶴ヶ城にはたくさんの見学者がいました。江戸から明治へと変わる激動の時代を身近に感じることはこれまでほとんどありませんでしたが、会津の人々には歴史がしっかりと受け継がれていることが良く分かりました。歴史上の出来事の圧倒的な存在感・重みを感じました。


17日には孫娘とともに牛久自然観察の森に出かけました。自然観察の森の中には「カワセミの池」があり、運よく岸辺でカワセミに遭遇し写真を撮ることができました。数回足を運んでいますが初めての体験でした。


自然観察の森では「ネイチャーセンター」でしばらく遊んだ後、快晴でしたので森の中を散策し、最初にカワセミに遭遇しました。その後遊歩道を歩いているとプーンといい匂いがしたのであたりを見回したところヒイラギモクセイの花が道端に咲いていました。ムラサキシキブの木にはたくさんの紫色の実がついていました。カラスウリの実も赤く熟し、空を見上げるとジョロウグモが青空にポツンと浮いていました。のどかです。「観察舎」でおにぎりを食べました。


駐車場への帰り路「バッタの原」でツマグロヒョウモンが素早く飛び回っていました。ベニシジミも一緒です。もうすぐ寒くなる時期ですが、快晴で温度も高かったのでチョウは思いのほか元気でした。

太白山登山と紅葉観察そしてカワラタケ、地衣類


1111日に太白山に登りました。紅葉の時期で快晴の日、さらに日曜日でしたので親子連れや少人数のグループなどたくさんの方々がそれぞれのペースで頂上を目指していました。標高約320mなので登山とまでは言えないのかも知れません。麓の神社から30分程度で頂上に着きます。幼稚園児の登山コースでもあるので高齢者にも適したコースですが、結構な急斜面続きで補助用の鎖が設置されています。運動不足解消になりました。

珍しいことに仙台市自然観察の森の駐車場はほぼ満車でした。そこから太白山麓の神社まで約30分程度自然散策コースが続きます。樹木については詳しくないのですが見事な紅葉が目に留まりました。庭木などのモミジより葉が大きく切れ込んだ葉片の数も多いようなので、ハウチワカエデでしょうか。


遊歩道やその周りにはきれいな落ち葉が積み重なっています。朝早く着いたのでまだ踏み荒らされていませんでした。自然観察の森の木々のほとんどは広葉樹ですので、これから冬までのわずかな期間にそれぞれ赤やピンク、黄色、白色あるいは褐色に葉色が変わり、やがて全て落葉することになります。


神社に到着するまでの間、遊歩道でチゴユリやゼンマイなど、枯れ始めた多くの野草の写真を撮りました。また、ウラシマソウの赤い実が所々にあり少し不気味でした。



また、枯れた切り株にはキノコがたくさん生えていました。カワラタケのようです。カワラタケは多くのキノコ類と同様に倒木などを分解浄化する白色腐朽菌で、最近は東日本大震災の津波で海水を被ってしまった樹木でも塩の害を受けず生育分解できることが分かったようです1)。逞しいです。また、シイタケやスエヒロタケなどと共に免疫活性化作用を示すβ-グルカンを含有することも分かっています。でもカワラタケはとても苦く食用にはならないとのことです。

神社前広場に到着し参道の阿吽のあいだを通り山に登り始め、ほぼ8割程度登ったところにイカリソウの群落がありました。イカリソウは中途半端に枯れかけていました。春に通った際には気づかなかったので写真を撮りました。



頂上の多くの岩には苔と地衣類がへばりついていました。地衣類は主に子嚢菌類と藻類の共生体で大気汚染などに弱く、環境汚染の指標生物として利用できるそうです。

ちなみに、リトマス試験紙のリトマス色素は地衣類のリトマスゴケから抽出したもののようです。リトマスゴケにはジフラクタ酸とレカノール酸が含まれていることが明らかになっています。しかし、リトマス色素は16世紀にオランダで作られたとのことですが、現在でもその作り方は企業秘密で詳細は明らかになっていないとのことで、驚きです。ちなみに、リトマスゴケは日本には生えていないそうですが、レカノール酸を含有するウメノキゴケなら生育していて、古いサクラの幹などで良く見つかるそうです。ウメノキゴケからリトマス色素を作る自由研究がほうぼうで行われているようです。


なお、市販のリトマス試験紙の色素は化学合成物のようです。



参考)

1)Yamagata A. et al.: Seawater inflluence monitored by NaCl on the growth of Trametes versicolor., Environ. Sci. Pollut. Res., Int., 23(1), 932 (2016)