2月中旬を迎え、猛威を振るったオミクロン株への感染がピークを越えたと報じられるようになりました。
でも、感染力が強く小学校、幼稚園・保育園等の児童にも感染が広がったことから、同居する高齢者や基礎疾患を持つ方々への家庭内感染が懸念されているようです。
高齢者施設等では部外者の入室禁止を始め、職員の抗原検査の徹底等を図ることで感染予防が可能になりますが、小さな子供が感染した家庭における在宅感染予防はかなり難しいものと思われます。
オミクロン株への感染による年代別死亡率に関するデータは見つけられませんでしたが、デルタ株感染による年代別死亡率のデータを見ると、ワクチン未接種者では70~79才が3.79%で、年齢が増すごとに急激に増加していることが良く分かります。
もちろん、この死亡率はワクチン接種によりかなり軽減されるようですが、でもやはり、高齢者の致死率が高いことには変わりがありません。
最近この老化(aging)に関する研究者として著名なハーバード大学のシンクレア博士のグループが、新型コロナウイルスへの感染と重篤化の予防にNAD+(ニコチンアデニンヌクレオチド)が有効である可能性が高いと言う報告を出しているようです1)。
NAD+は寿命遺伝子として有名になったサーチュイン(Sirtuin)の活性化やその誘導、あるいは染色体のテロメアの長さの維持等に関与しますが、抗ウイルス作用や抗炎症作用も併せ持つとのことです。
その詳しいメカニズムは複雑なようですが、身体を若く維持する生活を心がけることが新型コロナウイルスを始めとする病原性ウイルスへの抵抗力を高める方法でもあるようですので、大変興味を持ちました。
NAD+の前駆体となるNMN(ニコチンモノヌクレオチド)やNR(ニコチンリボシド)の投与によるCOVID-19予防や症状軽減に関する多くのヒト試験の計画や実施事例が彼らの論文に取りまとめられていました。
ヒト試験に用いられているNMNやNRは、ビタミンB群に属する「ナイアシン」から体内で合成されますので、食事由来のナイアシンも有効なようです。
生体内でのナイアシンからのNAD+生成経路の概要 |
日本では既に栄養機能食品としてナイアシンを含有する食品が市販されており、栄養機能食品のナイアシンの1日の接種目安量は3.9mg~60mgに設定されていますので安全に摂取することが可能です。また肉類やキノコ、玄米などの食品そのものにも多く含有されています。
一方、生体のNAD+を消費減少させる酵素(CD38:NADase)の阻害剤として知られているフラボノイドのルテオリンも血中の炎症惹起因子であるTNFやIL6等を低減させる2)とのことなので、ルテオリンを含有するピーマン、パプリカ、シシトウなどカプシカム属の果実や葉等も注目されます。
この他、緑茶のEGCGや紅茶のテアフラビン等のポリフェノール類についても、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のレセプター結合部位(RBD)への結合等による感染抑制の可能性等3~5)、多くの研究報告が行われているので今後勉強してみたいと思いました。
参考)
1)Minyan Zheng et
al.: NAD+ in COVID-19 Viral Infections., Trends in Immunology、https://doi.org/10.1016/j.it.2022.02.001h
2)I. Tsilioni et al. : Children with autisum spectrum disorders, who
improved with luteolin-containing dietary formulation, show reduced serum levels
of TNF and IL-6., Transl Phychiatry 5, e647(2015)
3)山田 嘉重ら:カテキンによるSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2受容体との結合抑制効果に対する基礎的検討, 日歯保存誌, 64(3), 237-247(2021)
4)Eriko
Ohgitani et al.: Significant
Inactivation of SARS-CoV-2 In Vitro by a Green Tea Catechin, a
Catechin-Derivative, and Black Tea Galloylated Theaflavins. Molecules, 2021,
26, 3572.
5)Jinbiao Liu et al.: Epigallocatechin gallate from green tea
effectivery blocks infection of SARS-CoV-2 and new variants by inhibiting spike binding
to ACE2 receptor., Cell & Bioscience, 2021, 11, 168.
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