2017年7月25日火曜日

大雨でしたが、ジャガイモ畑にいってきました

 秋田では大雨の被害がひどいようです。岩手のジャガイモ畑もグチャグチャになっていましたが、雨は止んでいました。でもやっぱり、畑の方はニジュウヤホシテントウに完全に支配されてしまいました。無農薬で、月に1~2回程度畑に出かけて管理する方式でしたので、「テデトール」が間に合わず、テントウムシダマシの繁殖力・食欲にはとても太刀打ちできませんでした。この畑では、他の昆虫を見つけるのも無理でしたが、それなりにジャガイモの収穫はあるものと、実はまだまだ期待しています。

 畑での作業はほどほどにして、住居の近くで昆虫を探したところ、シジミチョウ(ベニシジミ)やセセリチョウ(チャバネセセリ)、アツバ蛾(ウスグロアツバ)を見つけました。これまで昆虫をじっと見ることはあまりありませんでしたので、いずれも初めて見たように思いました。相変わらず、なかなかカメラの焦点が合いませんでした。


ゴマダラカミキリとヨツスジハナカミキリにも出合いました。ヨツスジハナカミキリはアジサイの花に止まっていました。ゴマダラカミキリは、クワやリンゴ、ナシ、ヤナギ、ミカンなどに寄生し、穴をあけ卵を産み付け、やがて枯死させてしまうほどの被害をもたらすので、かわいそうですが捕殺しました。一方、ヨツスジハナカミキリは、成虫の間はウツギやクリ、ムラサキシキブ、アジサイなどの花の蜜を吸う生活をするようですが、スギやヒノキ、マツなどの樹木に産卵し、幼虫がそれらの樹木に被害を与えるそうなので、やっぱり害虫ということになります。


 カミキリムシの害として最も有名な例は「マツ枯れ」ですが、これはカミキリムシに寄生したマツノザイセンチュウがもたらす被害であることが分かっています。カミキリムシの中でもマツノマダラカミキリにこのマツノザイセンチュウが寄生し、マツノマダラカミキリがこの線虫をマツに運び感染が成立する訳です。2015年に「松枯れ」は岩手県北部まで達しているとのことですので、ジャガイモ畑周辺の松も危険にさらされ始めていることになります。昆虫と仲良くなりつつある状況でしたが、カミキリムシに出会い複雑な気分です。


 今回もブルーベリーを収穫し、ついでに親戚の家にも行ってみましたが、ユリとアジサイが奇麗に咲いていました。特に、ユリ1本に50個程度の花がついているのを見て驚きました。きちんと管理すると、作物も花もそれに応えてくれるようです。

2017年7月24日月曜日

イボタの葉とオリーブオイルの抗酸化物質

 イボタ蝋で有名なイボタの葉には、オリーブオイルの健康成分として有名なオレウロペインが3%含有されているそうです。乾燥葉あたりに換算すると約7%程度ですが、この値はオリーブ葉のオレウロペインの半分程度です。オリーブの乾燥葉にはオレウロペインが13%程度含有されており、この値はお茶のカテキン含量にほぼ匹敵します。乾燥した葉の重さの1割以上が、これらの抗酸化成分ということですので、驚かされます。

 カテキンは、お茶の抗酸化成分として日本では有名ですが、オレウロペインはオリーブオイルの抗酸化成分としてヨーロッパにおいて有名で、欧州食品安全機関(EFSA)は「オリーブオイルの抗酸化成分は、血液の脂質を酸化ストレスから防護する(protection of blood lipids from oxidative stress)」とのヘルスクレームを許可しています。オリーブオイルを販売する際に、ヨーロッパではこの文言を商品に表示できる訳です1)

 オレウロペインは、カテキンと同様ポリフェノールの一種ですが、もう一つの「イリドイド」という顔も持っています。イリドイドにポリフェノールが結合しています。その上、オレウロペインはイリドイド部位に糖(グルコース)が結合した「配糖体」になっています。すなわち、オレウロペインは、ポリフェノール + イリドイト + グルコースから成っているいる訳です。


 このイリドイト構造がイボタの葉を食べようとする昆虫に対する抵抗成分としての役割を果たしていることが明らかにされています2。昆虫が、イボタの葉をかじると細胞が破壊され、通常は液胞などに局在しているオレウロペインに細胞内の酵素がアタックできる状態になり、イリドイド部位に結合したグルコースが酵素によって遊離されるとのことです。

 グルコースが外れるとイリドイドの環構造が不安定になり開裂し、2個のアルデヒドが生じ、このアルデヒドが細胞内のタンパク質のリジンと結合して、リジンは栄養素としての機能を失うことになるということです。リジンは、動物にとって必須アミノ酸なので、昆虫はリジン不足に陥り成長不良になります。すなわち、昆虫はイボタの葉を餌として生育できないことになります。

 では、イボタ蛾のようにイボタの葉を食べる昆虫は、なぜ生育可能なのでしょうか。実は、イボタ蛾の唾液にはグリシンが存在し、そのグリシンがリシンの代わりにアルデヒドと結合し、イボタの狙いであるリジン不足を阻止するとのことです。当然イボタ蛾は、未反応のオレウロペインも食べこれを体中に保持することになります。イボタ蛾のあの奇妙な際立つ姿は、テントウムシと同様に「食べるとひどい目にあうぞ」という警告のようです。

参考)
1)EU Register on nutrition and health claims, “Olive oil” p42
2K. Konno, et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 9159(1999)

2017年7月21日金曜日

イボタ蛾カップルの写真

 昆虫の蝋物質としてはイボタ蝋(ワックス)が有名なようです。樹木のイボタの幹や枝を蝋物質が厚く覆い真っ白になっている状態を良く見かけるとのことです。たぶん、私も見たことがあるのだと思いますが記憶にありません。茶色のガム状物質(多糖類)が身近な樹木の傷口についているのは、よく見て覚えています。

 この蝋を生産する昆虫がイボタロウムシ(Ericerus pela)の雄で、ライラックも寄主になるとのことです。現在日本で販売されている「イボタ蝋:伊保田蝋」のほとんどは中国産のようですが、家具の艶出し効果などで高く評価され、高値(5,000/90g程度)で販売されていました。

 残念ながら、イボタロウムシとはまだ対面していませんが、616日月山のブナ林(山形県立自然博物園)でイボタ蛾に出合い写真を撮っていることに気づきました。ブナ林にはわずかに残雪もありましたが、地元の小学生も課外授業で来ており、にぎやかな散策でした。小学生のための散策ガイドが突然「踏まないで」と指さした先にイボタ蛾がいました。見たこともない不気味な四つの眼がにらんでいます。なんだこれは!とその時思い、とっさに写真を撮りました。ハゴロモの蝋に感心し、イボタ蝋にたどり着くまで気づきませんでした。イボタ蛾の交尾の写真は珍しいのかも知れません。お蔵入りするところでした。


 昆虫は体表に蝋物質が存在し、その組成は種によって異なると言われています。体表の蝋物質にまつわる話題としては、サムライ蟻が最もユニークのようです。サムライ蟻は本来蝋物質を持たず、他の種の蟻の卵を自分の巣に持ち帰り、これを働き蟻として一生働かせるのですが、その際にその働き蟻の蝋物質を自分の体に塗り一体化するのだそうです。

植物の葉の表面にもクチクラと呼ばれる蝋物質が存在します。昆虫はこの蝋物質を手掛かりにして寄主を確認するとのことで1)ので、単純な高級アルコールと高級脂肪酸のエステルである蝋物質ですが、昆虫と植物との相互作用に深く関わっていることが分かりました。

参考)
1)T. Adati et al.: Appl. Entmol. Zool., 28(3), 319(1993)

2017年7月20日木曜日

アオバハゴロモの幼虫とコシアキトンボ

 三神峯公園で昆虫の写真を撮ってきました。前回は、ベッコウハゴロモの幼虫の写真を撮り、蝋物質に興味を持ちましたので、今回は同様に蝋を分泌するアオバハゴロモの幼虫を探しました。白い毛に覆われた草木が結構見つかり、カメラを向けましたが、なかなか焦点があいません。難しいです。

アオバハゴロモ(green broad winged planthopper)の学名はGeisha distinctissima (Walker,1858)であり、属名がなぜGeisha(芸者)になっているのかについて、多くの方々が言及されているので面白いと思いました。


 ハゴロモの成虫も探しましたが、残念ながら見つけることはできませんでした。羽を広げて止まっている蛾のような昆虫に焦点を当て探したところ、青色の奇麗な蛾に出会いました。調べてみるとツバメシジミの雄に最も良く似ているようです。蛾ではなくて、蝶々だということです。


 さらに、小さな蛾が草原を飛んでいましたので写真をとりました。ヒメシャク蛾のようです。ヒメシャクには類似した種類がたくさんあり、区別ができませんでした。


 風があり涼しかったので、天沼公園に降りてみると沼にはカモが数羽いて、鯉も泳いでいました。ここでも草原を蛾が飛んでいたので写真を撮りましたが、後でこれがツバメシジミ蝶の雌らしいということが分かりました。また、見たことのない白黒のトンボを見つけ写真をとりました。これは、コシアキトンボの雄のようです。メスは、白黒の白の部分が黄色のようです。この沼にはいませんでしたが、ぜひ見たいと思いました。


 まだまだハッキリとした写真が撮れていませんが、これからもトライします。

昆虫について、普段は気にせず見過ごしている訳ですが、探すつもりで見ているとすこしずつ見えてくることに気づきました。

 自宅への帰り道、公園で見たヒメアカネが私と並んで飛んでいるのを3度も目撃したので、公園から私についてきたのかなと思いましたが、そんなことある訳がないと家内に言われてしまいました。


2017年7月19日水曜日

ベッコウハゴロモの幼虫と蝋の毛

 仙台の三神峯公園で不思議な虫を見つけました。身体はアブラムシのようですが、お尻付近に白くて細い毛がたくさん生えていました。調べてみたところ、ベッコウハゴロモ(Orosanga japonicus)というカメムシ目ハゴロモ科の昆虫の幼虫のようです。お尻の白い毛は蝋(ワックス)だということです。残念ながら成虫は見つけることができませんでしたが、成虫は蛾に近い外見をしているようです。


   幼虫の形態がこのベッコウハゴロモと良く似て区別しにくいアミガサハゴロモの蝋物質について、浜松日体高校の生徒が研究を行い、細い糸状の蝋物質は11本がそれぞれストロー状の中空構造になっていることを明らかにしています。尻付近にある蝋放出組織を電子顕微鏡で観察し、1本の蝋糸を放出する孔には14個の小さな放出細孔(5 x 2.5μm)がストローのような中空をつくるように、円状にきちんと並んだ構造になっているとのことです。素晴らしい研究だと思いました。

 体長6mm程度の小さな虫が、自分の体をすっぽり覆うほどの蝋物質を背負う訳ですから、もし中空構造でなかったらその重さに耐えられないのかも知れません。中空構造であるが故に、風に乗り遠くに移動できるメリットもあるのではないかと、発表者も考察しています。

 ケラチンタンパク質からなる毛髪や体毛は、毛母細胞で合成され順次成長して表皮に出る仕組みのようですが、ハゴロモ幼虫の蝋糸は、14個の細孔から分泌された後に結合して環構造を形成する仕組みのように思えます。だとすると、細孔を出た瞬間は液体なのだろうか。

 チョコレートは、歯でパリッと割れ、口の中ではとろけます。チョコレートは、室温より温度の高い口の中、約33℃で油脂の結晶構造が崩壊して液状になる仕組みになっています。ハゴロモの幼虫の場合は、逆に、蝋物質は体中では液状で存在し、放出されることによって個体に変化するものと想像されます。でも幼虫の体温はたぶん環境の温度とあまり変わらないように思われるので、蝋物質が固まるメカニズムがとても興味深いです。

体内ではアルコールのような蝋溶解物質と一緒になっているのでしょうか。もし、そうであれば糸状物質は2.5μmの薄膜による環構造ですので、揮発性物質は瞬時に蒸発して14本の微蝋糸が結合することになります。あるいは、14本の微蝋糸の結合には空中の酸素による酸化が関与しているのでしょうか。

 類縁のビワハゴロモ科の蝋物質の同定を行った論文によると、蝋糸の融点は106℃~112℃で、主成分の蝋物質以外に、微量のタンパク質と30%以上のミネラルが混ざっているとのことですので、ハゴロモの蝋糸形成メカニズムには未解明な仕組みが隠されているのかも知れません。

 高校生の発表論文を契機に、蝋物質を分泌する昆虫について興味を持つようになりました。


  今回は、米国では日本からの侵入害虫として有名なマメコガネについても写真を撮ることができました。これからも、昆虫の写真撮影を行おうと思っています。

 
参考)
1)藤田 誠(浜松日体高等学校):化学と生物、5311)、8022015
2)Robert T. et al. : Insect. Biochem., 198, 7371989

 

2017年7月17日月曜日

佐々治先生と養老先生

 ジャガイモ畑で見つけた昆虫はそれほど多くありませんでした。でもたぶん、もっといたのに、見つけられなかったのだと思います。小さい頃から昆虫に興味を持って昆虫採集をされている方々とは、昆虫を見つける能力に雲泥の差があるのだろうと思っています。

旧日本甲虫学会の200611月号和文誌「NEJIREBANE」に掲載されたテントウムシ研究の第一人者、佐々治先生のご逝去に際しての追悼文の中に、解剖学者でありかつ昆虫採集家としても有名な養老孟司先生の寄稿もありました。それには、長崎東高校で早くも昆虫少年として活躍し始めた佐々治先生(旧姓神谷少年)と鎌倉の栄光学園高校の学生だった養老先生が、高校生の頃から昆虫仲間として文通をされていたという内容が記されていました。


 佐々治先生は、昆虫を解剖するための技術の向上を目指して、小さな紙で鶴を折る訓練をし、利き手の左手と同じように動作ができるよう右手も鍛えていたとの逸話が紹介されています。また、養老先生の郷里である福井に佐々治先生が大学の教授としておられたことの因縁も記載されていました。両先生はもちろん雲の上の存在ですが、昆虫に魅了されている方々の昆虫に対する深い想いとともに、仲間意識を強く感じ、うらやましく思いました。

 不器用な私には、昆虫の解剖はとても無理ですが、何とか奇麗な写真を撮れるように頑張ろうと思っています。

2017年7月16日日曜日

無農薬栽培のジャガイモ畑の状況

 ジャガイモの葉は、オオニジュウニヤホシテントウの食害ですっかり茶色に変わっていました。今回は、ブルーベリー摘みが本来の目的なので、715日のみの日帰り訪問でした。

 雑草を取り除いて管理したジャガイモ畑では、オオニジュウニヤホシテントウを完全に除去しきれなかったので、1週間の間に被害が全域に拡大していました。これまで見たことのなかった黄色で毛の生えた幼虫と、毛が少し抜け蛹化し始めた幼虫が見つかりました。すごい食欲であることが分かりました。一方、雑草の中で生育しているジャガイモにもやはり、オオニジュウヤホシテントウの食害はありましたが、被害は少ないようです。でも、雑草に負けているので生育状況は良くりません。どちらもかなり収量は少ないのかも知れませんが、このまま生育させて8月には収穫する予定です。

 ジャガイモ畑で、オオニジュウヤホシテントウを結果的に飼育してしまったので、近隣に迷惑をかけているのかも知れません。小規模の家庭菜園なので大目に見て欲しいと思っています。


ジャガイモを植えたことを契機に、5月初めからブログを書き始め、ジャガイモ畑で良く見かけるテントウムシに焦点をあて、その餌となるアブラムシ等についても注目しながら、畑に出現する昆虫類を調べようと思っていましたが、残念ながらジャガイモ畑のテントウムシは、オオニジュウヤホシテントウのみでした。アブラムシが見つからなかったので、当然のことかもしれません。


ジャガイモを加害する、ワタアブラムシの受精卵はムクゲの枝やアカネの根本で越冬し、一方、ジャガイモヒゲナガアブラムシの場合は、ギシギシ類やクローバー類で受精卵が越冬するようですが、たまたまジャガイモ畑の周囲には水田が多いため、そうした雑草が少なく、アブラムシが少ない環境になっていたためだろうと思っています。

ジャガイモの収穫を8月に行いますので、とりあえずこのブログはそこまで継続することにします。これまで、昆虫はいたるところにいて、見つけるのは簡単だろうと思っていましたが、私の場合は、たぶんまだまだ見つける技術と熱意が足りないのかも知れません。これから修行を積みたいと思っています。



2017年7月15日土曜日

アブラムシはハーブの香が苦手

アブラムシにはスペシャリストとジェネラリストがあるようです。スペシャリストは、ネギアブラムシのように玉ねぎやニラなどネギ属の植物だけを餌として摂取するタイプで、ネギやニラなどの匂いに反応して集まる習性をもつようです。ジェネラリストは、モモアカアブラムシやワタアブラムシがその代表ですが広範囲の植物を餌として生活できます。

このうちスペシャリストのアブラムシは、香に反応するのでこれまで多くのことが分かっています。例えば、ハーブのローズマリーオイルはネギアブラムシに忌避効果を示し、その主成分は1,8-cineole(シネオール)という物質です。さらに、このシネオールに類似した香成分のα-ピネンやd,l-カンファーもネギアブラムシに対して忌避作用を持つことが明らかになりました。シネオールは、ヨモギやセージ、ローリエ、バジル等にも含まれているということなので、ネギのコンパニオンプラントとして、これらを植えるといいのかも知れません。


でも、ジェネラリストに対してはどのようにすれば良いのでしょうか。ジェネラリストも香りについては好き嫌いがあるようで、モモアカアブラムシの試験では、ハーブ類のロズマリーオイルやチモールオイル、ペパーミントオイル、ラベンダーオイル、オニオンオイルは、忌避効果を持つことが明らかになっています。特に、ショーガオイルの効果が強いようですが、ただ揮発性が弱いので圃場では揮発性の高いローズマリーオイルの方が高い効果を示しています。

一方、アブラムシの多くは冬の寒い時期に、樹木や永年性雑草などの一次寄主に越冬卵を生む必要があるため、秋にはそれらの植物への定着を目指し、ジェネラリストであっても、一次寄主のためのスペシャリストに変身するような仕組みも組み込まれているいるようです。あらゆる能力を駆使してそこにたどり着くのですが、さらに受精卵を生むため、雌は性フェロモンも放出するようになるとのことなので、あの小さな体に、実に多くの機能を持ち、それを全て発揮し世代を絶やさず生きているなだと実感します。すごいです。

2017年7月13日木曜日

アブラムシとの共存

アブラムシは、世界の作物生産量の2%に当たる被害をもたらしていると言われています。また、作物への昆虫によるウイルス媒介の50%以上がアブラムシによるものであるとされ、その被害は吸汁による直接的な被害よりも大きいとも言われています。例えば、ナス科やウリ科、アブラナ科、バラ科など100種あまりの植物を食害する広食性のモモアカアブラムシも多くの病原性ウイルスを伝搬するとのことです。

 このように、アブラムシは農業に大きな損失を与えることから、その防除は必須です。しかし、生態系における基幹産業者として、多くの野生動物の餌となり生物の多様性を支えているのも事実であり、生態系を維持する上で重要な位置を占めているともいえます。この相反する二面的な課題を、どのように解決すればよいのだろうか。

ミネソタ大学の研究によると、大豆の生産に対するアブラムシの食害は、大豆1本あたりアブラムシが250匹を超えると経済損失が大きくなるので、これを超えないレベルに維持するのが望ましいとされています1) 。これは、総合的病害虫管理(IPM)の視点も考慮した農業経営者のためのコストとベネフィット計算による数値だと思われますが、生産性向上と生態系保全の両立を目指す考え方でもあると思っています。

農地におけるアブラムシの密度を減らすためには、アブラムシの習性を良く知る必要があります。アブラムシは、①寄主を探し、②たどり着いた植物が寄主かどうかの判断を行い、③師管に口針を刺し、④師管液の味見をし、⑤適性であれば摂取行動を行い、子孫を増やします。従って、この5段階のどこかに不都合があれば、増殖できないことになります。

これまでの研究によると、寄主を探す手段がアブラムシの食性によって異なることが分かっているようです。すなわち、狭い範囲の植物のみを餌とする狭食性アブラムシは、寄主から放出される特異な香りを手掛かりにし、また色や形、サイズなども確認して定着すると言われています。一方、広い範囲の植物をアタックする広食性アブラムシのモモアカアブラムシやワタアブラムシなどは、寄主の香りに反応せず、むしろ色に強く反応するとの結果が得られているようで2)。広食性アブラムシは、寄主の色に惹かれ、形状やサイズなど視覚に頼った探索をするが、本来の寄主でない植物にたどり着いた場合でも、子孫を生み短い期間留まることもあるようです。


このことから、狭食性アブラムシの場合は香りによる撹乱が有効で、広食性アブラムシでは、光を反射するマルチやテープなどの視覚を攪乱する方法が有効のようで、こちらは既にグリーンハウスでの利用が進められています。また、広食性であってもローズマリーオイルに対する忌避作用が認められるなどの結果も得られていることから、各種アブラムシの寄主への定着メカニズムの解明が、さらに詳しく検討されることでしょう。

 化学農薬を極力減らしながら、経済的な打撃があまりない程度のアブラムシと共存することを模索して欲しいと思っていますが、ウイルス伝搬は脅威かも知れません。

参考
1) https://www.extension.umn.edu/agriculture/soybean/pest/soybean-aphid/
2) M. HoriAppl. Entomol. Zool. 34293 1999).

2017年7月11日火曜日

アブラムシの逆襲と色の不思議

 肉食性のカメムシであるサシガメ科の中には、死骸を体にまとうゾンビ虫がいることを知ってびっくりしました1)が、「一寸の虫にも五分の魂」という気概に溢れ、天敵に一撃を加える虫もいるようです。それは、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシで、ここでは名前が長すぎるのでアブラムシSSolidago)と呼びます。

アブラムシSの成虫は、ナナホシテントウの幼虫に攻撃されると、お尻の左右にはえている角のような器官である角状管から赤色の液体を分泌し、この液体が第4齢になる前のテントウムシの小さな幼虫頭部に付着すると、脱皮障害が生じ、約2/3が蛹になる前に死んでしまうそうです2)。もっとも4齢で成虫直前の幼虫は、このアブラムシを食べた後にすぐに吐き出し難を逃れとのことです。

アブラムシSは見事な赤色で、皆揃って頭を地面に向けがっしりとセイタカアワダチソウの茎にしがみついています。そこに、カメラを近づけると一斉に尻を振り威嚇します。差別するつもりはないのですが、大和撫子にはとても見えません。


アブラムシに存在する脂溶性色素類はアフィン(aphins)というグループ名で呼ばれており、キノンAを基本構造として持っています。その内、アブラムシSを彩る赤色色素は、キノンA2分子結合したタイプで、ウロ・ロイコナピンA1uroleuconaphin A1)と命名されています。この化合物はアブラムシ体内で合成され、体重の0.35%に達するとのことです3)。驚くことに、この赤色色素は昆虫病原菌に対する抗菌剤としての役割も果たしているようで、多様な生理活性が検討されています。

アブラムシの体色に興味を持っている科学者は、世界的に少なからずおられ、これまでに、体色を変える共生菌も発見されています4)。エンドウヒゲナガアブラムシでは、ある共生菌が体内に住むと、体色が赤色から緑色に代わるとのことです。緑色に変わると外敵に見つけられる確率が減り、例えばテントウムシによる捕食率が下がるとの報告があります。共生菌によって、アブラムシ体内のカロテノイド代謝が変わることが体色変化のメカニズムのようで、アブラムシの体色には、キノンA系のポリフェノールと、カロテノイドが関与しているようです。ちなみに、どちらも抗酸化性色素です。

テントウムシの幼虫に赤色の液体を吹きかけるアブラムシの角状管は、警報フェロモンを分泌する器官としても知られ、モモアカアブラムシの場合はテルペノイドに属する揮発性化合物のβ-ファルネセンが分泌されます。これにより、仲間に危険を知らせるわけです。アブラムシの世界を覗き、食べる側と食べられる側が互いに進化を続ける生態系の不思議な側面を、ほんの少しだけですが知ることができました。

参考)
1)http://www.dailymail.co.uk/news/article-2138325/Assassin-bug-
     carries-dead-ants-ward-enemies.html
2)Barry Adema, et al. : Entomological Science, 19(4), 410(2016)
3)Horikawa M. et al. : Tetrahedron, 62 (38), 9072(2006)
4)Tsuchida T. et al. : Science, 330, 1102(2010)

2017年7月10日月曜日

畑の「暗殺虫(Assassine bug)」と「うんこ背負い虫」

 78日に畑に行ってきました。ジャガイモは順調に育っています。624日に作業した時と比べて、草取りをした畝ではテントウムシダマシの食害が多くなっていました。目についたニジュウヤホシテントウは手で除去したつもりですが、たぶん除去できたのは20%程度です。一方、スギナやアカザ、ヒルガオなどの雑草と一体になって育っているジャガイモの茎葉は小ぶりですが、テントウムシダマシの食害はわずかでした。

 今回も、ジャガイモ畑で昆虫探しをしました。不思議なことに、テントウムシダマシ以外の昆虫がほとんど見つかりません。いろいろなものを見つけるのが下手なので、私の能力不足か知れません。雑草と一体になっている場所で、ようやく、これまでで初めて見る昆虫に出合いました。後で調べて分かったのですが、見つかったのは「アカヘリサシガメ」と「カメノコハムシ」でした。
 


 「アカヘリサシガメ」はジャガイモの葉に止まっていました。「カメノコハムシ」はアカザの葉でじっとしていました。アカヘリカメムシは、以前に見かけた「アオバネサルハムシ」などを狙ってやってきたのでしょうか。一方、「カメノコハムシ」は、食性が狭くシロザやアカザの葉上に良くいるようです。アカザ科のほうれん草やサトウダイコン(シュガービート)も餌として食べるようで、この地域はほうれん草が特産になっていますので、ほうれん草畑からやってきたのかも知れません。

 2種とも初めて出会う虫でしたので、少し調べてみたところ、サシガメ類は乱暴に扱うと人を刺すこともあるとのことで、子供は注意する必要があるようです。また、米国には、体液を吸った蟻の死骸を20匹も山のように盛り上げて背中に背負い、敵の攻撃を避ける種もいるようです。サシガメは英語では「Assassine bug:暗殺虫」と呼ばれていいますが、中にはゾンビ虫のような偽装をする種もいるわけです。

 カメノコハムシは、その幼虫に特徴があるようです。卵からふ化した後の糞が全て繋がり、また脱皮の度に生じた脱皮殻も糞と共に繋がり、それを背中に背負った異様な姿になるとのことです。カメノコハムシの敵も容易に近づけない状態になる訳です。そのため「うんこ背負い虫」の別名もつけられているようで、残念ながら幼虫は見つけることができませんでしたが、最近、(株)KADOKAWAから「うんこがへんないきもの」と題した本が出版され、その中に収録されているようです。

 今回、たまたま見つけた2種の昆虫の一つが暗殺虫で、もう一匹がうんこ背負い虫でした。ナミテントウなど、良く見かけると言われている昆虫に全く出会っていません。不思議です。これから、もっと珍しい昆虫に会えるのかも知れないと期待してしまいます。