2017年6月28日水曜日

オオイヌノフグリとジャガイモのアブラムシ


ジャガイモ畑でアブラムシを探すのを忘れていました。と言うより、ジャガイモの葉をくまなく見て昆虫を探しましたので、アブラムシによる被害があれば気づいたように思います。普通は、葉の裏などを注意深く見れば、ワタアブラムシやジャガイモヒゲナガアブラムシがすぐ見つかるようなので、注意力が足りなかったのかも知れません。

テントウムシは成虫が越冬することで有名ですが、アブラムシはどうでしょうか。調べてみると宇都宮周辺では受精卵での越冬と成虫での越冬が確認されているようです1)。岩手は宇都宮よりも寒いので、宇都宮周辺よりは受精卵での越冬が多いものと思います。

では、受精卵はどこで冬を越すのでしょうか。アブラムシの受精卵は、樹木や灌木の枝や多年生の雑草の葉、茎などで確認されていますが、受精卵が孵化して幼虫になった際には、餌となる師管液が必要になります。そこで、寄主の樹木や雑草の芽が出る時期に合わせて受精卵は孵化し、幼虫は新芽に移動するようです。もっとも、過酷な環境なので卵の孵化率は悪いようです。

ジャガイモを寄主とするワタアブラムシの場合は、ムクゲの枝や雑草のアカネの株本に受精卵があり、そこで孵化するようです。一方、雌成虫はイヌノフグリ類やオオバコ、ペンペン草など多年生雑草の古葉や基部に潜み冬を越し、3月新芽が出始めると増殖を開始し、4月には有翅虫が出現してヤブガラシやカラスノエンドウ、ボケ、ハキダメギクなどに移動し、畑では5月頃からジャガイモが植えられるので、そこに飛来し増殖することになります。

タバコ葉にもアブラムシによる被害があり、そのためタバコ畑へのアブラムシ飛来急増期の予測式が、2002年にJT葉タバコ研究所によって、岡山と盛岡を例として作成されています。実際は、アブラムシが運ぶキュウリモザイクウイルス病が恐れられていて、その多発の予防に向けた取り組みだったようです。盛岡では、厳寒期を過ぎたとき(31日)から日平均気温を足し、760℃に達する日がアブラムシの飛来急増期になるということです。でも2002年以降、気候変動が激しいので予測式は修正されているかも知れません。いずれにしても、平均気温と雨量が関係するそうです。

東北の春は、オオイヌノフグリの花とともに始まりますので、心待ちにしていましたが、イヌノフグリ類がワタアブラムシの寄主として利用され、そこを拠点としてワタアブラムシがジャガイモ畑などに広まっていくとは思ってもいませんでした。ヤブガラシは見かけるたびに除去したいと思い、オオバコやペンペン草は将に雑草そのものという意識で見ていましたが、それぞれが自然の中では様々な側面を持っているようで、驚かされます。 

アブラムシの害を防ぐには、春早くこれらの雑草を取り去ることが大事ということになります。でも、アブラムシや雑草は人間活動の妨げになることから、悪者扱いされているだけで、自然の中ではそれぞれ等しく尊い存在です。

 参考
1)稲泉 三丸:日本応動昆虫誌、14(1)、29(1970)

2017年6月27日火曜日

テントウムシの足跡物質とアブラムシ寄生蜂


テントウムシの足跡があると、アブラムシに卵を産み付ける寄生蜂が寄り付かなくなるそうです。足跡物質(footprint)が残るからです。

昆虫は重力に耐え、垂直に立った窓や天井の板などの平滑面を自由に歩くことができます。なぜなのだろうか。この疑問を解明する研究は1970年頃から始まっています。テントウムシについても、1988年にオオニジュウヤホシテントウを用いた研究が行われ、他の昆虫と同様、足の付節に密集する毛に分泌される黄色の液が重要な役割を果たしていることが明らかなっています。実際に、オオニジュウヤホシテントウがガラス面を歩くと、微細な油滴が千鳥格子状に並んで残されるそうです。

もっとも、昆虫が草の上で滑らずいられるそのメカニズムについては、足跡物質のみならず、強く付着できる足の構造に対する関心も高く、電子顕微鏡を用いた詳細な観察が行われ、米国に生息するあるカメノコハムシ(palmetto tortoise beetle )は、その特徴的な足の構造によって体重の60倍の重さにも耐えられることが分かっています。この領域では、壁を駆け登るスパイダーマンが有名ですが、既に壁をよじ登るロボットも試作されており、昆虫の機能を活用した実用機ももうすぐ登場するものと期待しています。

テントウムシの足跡物質については、ナナホシテントウ、ニジュウヤホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウなど3種のテントウムシについて、明らかになっています1)。面白いことに、テントウムシの足跡物質は炭素数が30前後の炭化水素が主要成分であり、テントウムシの種類ごとに含有する成分組成がかなり異なっているようです。さらに、肉食性であるナナホシテントウだけは他の2種と異なり、足跡物質に蝋(ワックス)が含まれていないとのことです。足跡物質を分析するとテントウムシの種類が分りそうです。でも、何故そこまで違う必要があるのだろうか。

30個の炭素が連なった炭化水素の融点は65.8です。その温度以下では個体状なので、それらはワセリンや潤滑油などとして用いられるそうです。テントウムシがガラス面を歩くと、ワセリン状の足跡物質がガラス面に付着し、テントウムシは落下を免れる訳です。足跡物質は、体表にも僅かに存在し、体表からの水の蒸発を防ぐ役割もしているものと考えられています。 

 最初に述べたとおり、この足跡物質をアブラムシの寄生蜂であるアブラバチの雌が認識し、アブラムシへの無駄な産卵を避ける訳です。賢いです。既に生物農薬として市販されているチャバラアブラコバチ(住友テクノサービス)、エルビアブラバチ(コパート社製)ともう一種を加えた3種のアブラバチ類と、ナナホシテントウ、フタホシテントウの2種のテントウムシを用いた実験では、チャバラアブラコバチとエルビアブラバチがナナホシテントウの足跡物質(C27C25の炭化水素)を強く避け、もう一種はナナホシテントウの足跡物質に加えて、フタホシテントウの足跡物質であるトリコサン(C23の炭化水素)にも反応したということです2)

テントウムシは、その種類によって足元に分泌する足跡物質が明瞭に異なります。またアブラムシ寄生蜂も、種によって足跡物質への反応が異なります。このようなきめ細かな違いが、自然の中で何故必要なのかが気になります。限りなく多様化が進むのでしょうか。

参考
1)尾崎 晶子:日本応動昆誌、40(1)47(1996)
2)Nakashima Y., et al. : J. Chem. Ecol., 32(2), 1989(2006)

2017年6月26日月曜日

ジャガイモ畑に青色の虫がいました

 ジャガイモ畑に行ってきました。定植してから40日目です。70個程度植えた畝では、雑草に負けずジャガイモが元気に育っていました。手で雑草をむしり、鍬で畝に土を寄せる作業をして終了。1時間程度で完了しました。昨年、掘り残したジャガイモも、別の場所で雑草とともに元気に育っています。ほとんど栄養のない土壌ですので、雑草のほとんどがスギナです。こちらは、そのまま雑草の中で逞しく育ってもらおうと思い、手をかけません。

ジャガイモ畑で昆虫を探しました。早速、ニジュウヤホシテントウが数匹見つかりましたので、手で駆除しようと近づくと、ポロリと葉から地面に落ち、逆さまになり目印の朱色を見失ってしまいます。続いて、スギナの中に育っているジャガイモの葉に、ニジュウヤホシテントウより小さい青いピカピカの甲虫が見つかりました。初めて見る虫でした。もしかして、青いテントウムシかなと思いましたが、やや雰囲気が違います。仙台に戻ってから調べて見たところ、「アオバネサルハムシ」であることが分かりました。よく見かける昆虫のようです。でもかなり綺麗な虫で、個人的には感激しそのままにしておきました。

 アオバネサルハムシの近くの葉に、ゴ  ミ  がついているのかなと思い、近づいてみたところ、これも奇麗な蛾のような虫が止まっていました。白地に黒の筋のある小さな蛾と、黄色地に同じような黒の筋の入った蛾でした。蛾はあまり好きではありませんが、この2匹は綺麗だなと感心しました。名前を調べてみましたところ、「キマダラコヤガ」のようです。白地の蛾もキマダラというのか疑問は残りましたが、後で調べてみます。
 その他にジャガイモの葉に蜘蛛が3種類いました。こちらはまだ調べていません。蜘蛛がジャガイモ畑にいる目的が良くわかりません。ニジュウヤホシテントウの幼虫が一匹もみあたらないので、もしかしたらクモの餌になっているのかも知れません。

ジャガイモ畑から離れ、あちこち昆虫を探してみましたが、残念ながらテントウムシは見つかりませんでした。でも、見たこともない金ぴかの昆虫がギボウシの葉上にいました。体の周りが丸い透明な傘で覆われています。もしかしたら、かなり珍しい昆虫なのではないかなと期待し、仙台に帰ってから調べて見ましたところ、「ジンガサハムシ」であることが分かりました。普通は、ヒルガオの葉などで良く見つかるとのことです。

これまでの人生で、あまり昆虫を観察することもなかったのですが、アオバネサルハムシや、ジンガサハムシ、それにキマダラコヤガに蜘蛛も、初めて見るものばかりでした。様々な色とユニークな形の虫たちを観察することができ、身の回りの自然の偉大さに改めて気付くことができました。収穫の多い畑仕事になりました。

2017年6月25日日曜日

テントウムシの種類によって異なるフィロキセラ(ネアブラムシ)捕食率

  アブラムシの種類は、テントウムシの5,000種よりやや少なく4,500種であると言われています。広義には、カサアブラムシ科とフォロキセラ科もアブラムシの仲間であるとされており、歴史的には、このフィロキセラ科の「ブドウネアブラムシ」によるフランスのブドウ被害が、アイルランドのジャガイモ疫病被害に次いで有名なようです。

フィロキセラは、北米土着の害虫でブドウの葉や根に瘤を形成して寄生し、耐性種以外のブドウを枯死させるとのことです。北米のブドウにはこの害虫に対して耐性を持つ種があったようですが、ヨーロッパには耐性種がなく、北米から持ち込まれたブドウ苗に付着したフィロキセラは、1863年に南イングランドで初めて確認されたのを皮切りにして各地に広がり、10年後にはフランスのワイン産業に壊滅的な打撃を与えたとのことです。その後、耐性種の台木に接ぎ木をすることで被害を防止できることが判明し、ヨーロッパのブドウ産業は壊滅の危機を免れたとのことですが、そのため、現在はほとんどがこの耐性種に接ぎ木されたブドウに置き換わっているとのことです。難を逃れたブドウ園は極めて少なく、貴重な品種が残存していることから、フランスではそれらの園を国家遺産に登録しているとのことです。

 日本でも、1882年に米国から輸入したブドウ苗にこのブドウネアブラムシ(フィロキセラ)が付着していたことが分かっており、その後、甲州ブドウへの被害が発生し大きな問題になりましたが、緑茶の害虫である「カンザワハダニ」の研究者として有名な山梨県農事試験場の神沢恒夫らの努力によって、最終的には1935年に「デラウエア」などに適する耐性台木が完成し現在に至っているということです1)


 このフィロキセラがヨーロッパで蔓延した原因の一つとして、ヨーロッパにおけるテントウムシ優占種のナナホシテントウが、フィロキセラを餌としてあまり食べないことが取り上げられています2)。実験室でフィロキセラの卵を食べさせるとライフサイクルを完結できずに死んでしまうとのことです。一方、アジア在来のナミテントウは、このフィロキセラが好きというほどではないにしても良く食べ、ライフサイクルを完結させ生存できるとのことです。具体的には、ナナホシテントウ成虫に10個のフィロキセラの卵を与えるとその捕食率は、10回の繰り返し試験で52±9%、一方ナミテントウの成虫では、フィロキセラの卵1000個の捕食率が94±15%になるということなので、その違いは明瞭です。

 ナミテントウは野外のブドウ園でもフィロキセラによる瘤が形成された葉に集まることが確認されているので、ブドウ園の益虫としてその役割が期待されています。でも、以前ブログに書いたとおり「ワインのテントウムシ汚染(Ladybird taint)」の問題もあることから、ブドウの収穫時期にブドウ園からテントウムシがいなくなるような対策の確立が期待されています。

 ブドウの収穫時期には、ナミテントウがフィロキセラよりはるかに好むアブラムシ類が、多くの植物で繁殖しているので、そちらに目を向けさせる方法も考えられるかも知れません。

参考
1)西尾 俊彦:農業共済新聞、200312週号(2003).
2)Susanne Kogel et al.: Eur. J. Entmol., 110(1), 123 (2013)

2017年6月22日木曜日

基幹産業者としてのアブラムシの秘密はブフネラ菌


  肉食性のテントウムシに加え、クサカゲロウ、オサムシ、アザミウマ、カマキリから鳥類のシジュウカラやキジまでアブラムシを餌としています。この他にも多くの動物の餌になることから、アブラムシは生態系における基幹産業者であると言われることもあります。基幹産業者とは、一次消費者すなわち植食性であって、特に大量に生息し、直接・間接に多くの動物の食料(餌)になり、生物群集の中で重要な位置を占めるものと認識されています。

すなわち、アブラムシは「生態系を支える重要な食料(餌)」であり、例えば1ヘクタールの小麦畑には約10億匹のアブラムシが生息でき、その重さは牛1頭に相当し、インゲン豆畑では約40億匹になり、象1頭に相当するそうです。アブラムシの増殖ポテンシャルはすさまじく、春早くからエンドウヒゲナガアブラムシ1匹の子孫が、もしも夏の終わりまですべて生き残ったと仮定すると、地球の表面50cmを覆うほどになると計算されるそうです。

アブラムシは、地球上のほとんどの植物に寄生し増殖する訳ですが、その栄養補給には秘密があるようです。アブラムシは、植物の葉や茎の師管液を餌として吸引します。ところが師管液には5-15%のスクロースと0.1-4.5%の限られた種類のアミノ酸があるだけで、生存のために必要な栄養素が足りないと言われています。不思議なことに、アブラムシの消化管と卵巣小管内には菌細胞があって、その中にブフネラ(Buchnera aphidicola)と呼ばれる共生菌が住み、その菌が必須アミノ酸などを合成し、アブラムシに提供しているとのことです。

ブフネラ菌が共生していないとアブラムシは生きていけないので、卵細胞にブフネラ菌を挿入するため卵巣にも菌細胞がある訳です。ブフネラ菌は15千万年~2億年前にアブラムシの体内に寄生し、今では独立して生きるために必要な多くの遺伝子を失ってしまっているとのことです。植物細胞の葉緑体や動物細胞のミトコンドリアなども、このような共生菌が宿主細胞と同化し、細胞顆粒へと進化を遂げたものであると言われています。


ブフネラ菌という名称は動物の共生に関する先駆的研究者であるドイツライプチッヒ大学のPaul Buchner教授に因んで名づけられたようです。ブフナー教授は1978年に92歳で他界されましたが、この分野の多くの若手研究者に影響を与えたことで知られ、動物の共生に関する彼の著書は今でもよく引用されています。天皇陛下もご臨席されて行われる国際生物学賞を2010年(第26回)を受章されたテキサス大学のナンシー・モラーン(Nancy Moran)教授 は、「昆虫の共生微生物」の研究者で、2017年のMolecular Ecology Prize (分子生態学賞)も受賞され、若いころにミシガン大学の図書館で、ブフナー教授の本に出合った思い出を国際生物学賞の受賞者講演で披露されています。

共生菌については、このアブラムシに関する研究成果を端緒として、アリやハエ、バッタ、コナカイガラムシなどで次々に見出されたようです。ブフナー教授の後を継いで、切磋琢磨に余念のない若手研究者にエールを送りたいと思いました。
 
参考

1)P. Buchner: "Endosymbiosis of Animals with Plant Microorganisms," Interscience, New York, 1965.
Munson, M.A., Baumann, P., and Kinsey M.G., Buchnera gen. nov. and Buchnera aphidicola sp. nov., a Taxon Consisting of the Mycetocyte-Associated, Primary Endosymbionts of Aphids. Int J Syst Bacteriol, 41(4): p. 566 (1991)

テントウムシが種を維持する仕組み「繁殖干渉」


テントウムシなどで、種間の交雑が頻繁に生じると種の消滅が起こるように思います。それを回避する要因として、先ず食性の違いがあります。その他に、素人的な視点ですが、物理的な隔離による生息域の違い、活動時期・時間の違い、生殖器の違いや交雑種のふ化率の違いなども考えられます。

かなり前に栃木県内のアルファルファ圃場で実施したテントウムシ調査1)によると、ナナホシテントウは4月初旬から中旬にかけて枯れ葉や石ころに産卵し、ナミテントウは5月初旬にアルファルファやその他雑草上に産卵をしていたと報告されています。両種の産卵時期と産卵場所が異なっていたようですので、このケースでは、雑種の誕生は活動時期の違いによって回避されていたのかも知れません。

ナナホシテントウの産卵はアブラムシの少ない時期だったので、その産卵数は、アブラムシの多い時期に産卵するナミテントウの産卵数よりはるかに多く、たぶん幼虫の餌であるアブラムシの不足に伴う卵の共食いが起こっていると予想されています2)。実際、テントウムシの卵の中には孵化せず、幼虫の栄養卵としての役割を果たすものも存在するそうで、餌が少ないと幼虫間での共食いも発生するとのことです。残酷な現象だと思いますが、必ず子孫を生き残す手段の一つととらえられています。

ナナホシテントウが枯れ葉や石に産卵するというのは驚きですが、一般的には、親は子が安全に生き延びることのできる植物を選びそれに産卵するものと思われます。多くの昆虫の産卵に関する調査結果によると、成虫の食性に比べ産卵する植物の範囲はかなり狭いようです。その理由は、幼虫が生き延びるために有利な植物を選ぶからだと思ってしまいますが、現実的にはそうでもないようです。


同じエリアに棲息する種同士の繁殖行動を2種のテントウムシ(ナミテントウとクリサキテントウ)に焦点をあて解析した結果では、同種との交尾が他種の存在によって強く阻害される種(クリサキテントウ)は、自分たちの種を維持するために、たとえ栄養的に不利な条件であっても、他種と異なる植物に付くアブラムシ(マツオオアバブラムシ)を餌として選択し、その植物に産卵することによって、生殖隔離を確保するようになるとのことです。この現象を「繁殖干渉」と呼ぶそうですが、この視点からの研究が盛んになっています3)

さらに最近は、食性を支配する遺伝子や産卵する植物の選択に関わる遺伝子の存在も推定されており、交雑による種の崩壊を防ぐメカニズム4など種分化や種の固定に関する仕組みの解明が遺伝子レベルで解析されているようです。

 地球上に存在する多様な種が、それぞれ独自に存続できる仕組みに興味が湧いてきました。

参考
1)高橋 敬一:日本応用動物昆虫学会誌31(3)2531987
2)高橋 敬一:日本応用動物昆虫学会誌31(3)2011987
3)鈴木紀之:すごい進化「一見すると不合理」の謎を解く、中公新書(2017
4)Ohsima I.Sci. Rep. 2012712日 オンライン発行

2017年6月21日水曜日

草食性ニジュウヤホシテントウの種分化

  良く見かけるナナホシテントウとナミテントウは、ライオンと虎ほどの違いなんでしょうか。ライオンと虎は共にネコ科ヒョウ属であるが、種はleotigrisで異なります。すなわち、実質的に交配はできず生殖隔離が存在します。一方ナナホシテントウとナミテントウでは、科名は当然テントウムシ科(Coccinellidae)で同一ですが、属はそれぞれCoccinella Harmoniaであり、異なります。ということは、両種はライオンと虎以上、ライオンと猫ほどの違いがあるということになり、鳥でいうとニワトリとウズラ、植物でいうと白菜とキャベツほどの隔たりなので、自然環境下では交配はできないということになります。

素人目には、ナナホシテントウとナミテントウは交雑してしまい、その中間型がたくさんできているのではないのかなと思うのですが、現実は異なり、種がきちんと隔離されているということになります。

このように外観が同じように見える生物個体が、別種として独立できる仕組みはどのようになっているのだろうか。交雑致死という用語があるように、環境にしっかりと適応した種から新たな種が生じて生き延びるチャンスは、かなり少ないものと思われますが、テントウムシでは、本州から北海道に移動したニジュウヤホシテントウの種分化が、北海道大学の研究によって解明されつつあります。

草食性のマダラテントウ亜科に属するニジュウヤホシテントウ類(Henosepilachna類)は、本州ではナスやジャガイモの葉を食べますが、北海道ではアザミの葉を食べる「ヤマトアザミテントウ」と「エゾアザミテントウ」、それに葉が牡丹に似ている野草のルイヨウボタンの葉を食べる「ルイヨウボタンテントウ」に種分化しているとのことです1)

興味深いことに、ヤマトアザミテントウはミネアザミの葉を食べ、エゾアザミテントウはチシマアザミの葉を食べるという互いに狭い食性を持ち、エゾアザミとチシマアザミの分布域が北海道内では交わっていないことが、これらの種の分化を決定づけた要因のようです。エゾアザミとチシマアザミの間には、マルバヒレアザミが分布しているものの、このアザミの葉は両者ともに餌にできないとのことで、明瞭な隔離が生じ、長い間に種が固定されたものと推定されています。

 種分化要因としてはこのような食性の違いが大きく関わっている場合が多いようで、沖縄には、ニガウリなどウリ科の葉を食べるジュウニマダラテントウが棲息しています。また、北海道南部から本州の林に分布し、カラスウリやスズメウリなどのウリ類の葉を食べる草食性テントウムシは、トホシテントウのようです。

日本に生息するテントウムシダマシは28星テントウだけではなく、12マダラや10星テントウもいるということが分かりました。

参考

1)小林 憲生:化学と生物、42(5)287 (2004)

2017年6月20日火曜日

テントウムシの防御物質


テントウムシの種類は、世界的に見ると500種、日本に180種程度とのことです。様々な本などで良く紹介される種類はヨーロッパに多いナナホシテントウですが、日本でよく見つかるのはナミテントウのようです。もっとも、チェリッシュが歌う「テントウムシのサンバ」では、テントウムシが赤、青、黄色の衣装を着けて現れることになっていますが、青はかなり珍しいのかも知れません。

テントウムシ分布調査は各地で行われています。例えば琵琶湖博物館が行った2009年の調査では、ナミテントウが65%、ナナホシテントウが16%、オオニジュウヤホシテントウが1%弱見つかっています。日本での最大集団であるナミテントウは斑紋の違いに基づき二紋型、紅型、四紋型、斑型、その他の五つに分類され、棲息率もこの順序になっているようです。但し、二紋型は南の地域に、紅型は北の地域に多く分布する傾向にあり、地球温暖化に伴い、どの地域でも二紋型が増加しているようです。

 二紋型はメラニン色素の黒色を基調とし、紅型はカロテノイドによる赤色を基調としているのですが、温度が高くなると黒型の方がなぜか活発になるとのことです。地球の温暖化は日射量の変化によるものではありませんが、黒型の方が暑い地域を起源とするタイプで、遺伝子的にも暑さに対して有利な素質を持っているのかも知れません。

 私が良く散歩をする笊川のほとりには雀がたくさん飛んでいます。アブラムシの付いたイタドリやノダイオウ、ギシギシの周辺からも良く飛び立ちます。雀はテントウムシを食べるのでしょうか。食べている現場を目撃したことはありませんが、どうも食べているようです。アブラムシも食べているとの報告があります。笊川でテントウムシがなかなか見つからないのは雀のせいなのかも知れません。

 でも一般的には、テントウムシは危機に直面するとアルカロイドを含む体液を足関節から体外に放出し、それらには毒性を示すものがあることから、鳥も嫌う虫ということになっています。鳥も食べないので、テントウムシの衣を借るテントウムシダマシ科がある程で、テントウムシはわざとその存在を強調するために、目立つ色彩になっているとも言われています。

こうしたテントウムシの防御物質に関する詳しい調査も既に行われていて、50種ほどのアルカロイドが報告されています1)。この中で最初に報告された物質は、ナナホシテントウ (Coccinella 7-punctata)のコクシネリン(Coccinelline2)で、次いでフタホシテントウ (Adalia 2-punctata)のアダリン(adaline)、ナミテントウ(Harmonia axyridis).のハルモニン(harmonine)などが報告されています。

 食物連鎖の一つ一つにそれぞれ複雑な仕組みがあり、その仕組みが地球上の生命の多様性を支える要因の一つなのだと思いました。

参考 
1)Michael Majerus: A Natural history of ladybird beetles, Cambridge University Press.
2Graham J. Holloway et al. : Chemoecology, 2, 7-14(1991)

2017年6月17日土曜日

テントウムシを探しました

 ジャガイモを植えた郷里の畑でテントウムシダマシを発見したことから、テントウムシのことを知りたいとの想いで、「タイトルの記載場所も分からない」(後でタイトルを記入しました)、ワードで書いた文章をペーストすると「文字の大きさが不揃いに表示される」など、適正なアップの仕方を学習することもなく、ブログの練習という甘い気持ちで少し書いてきました。まだまだ色々解決できない状況ですが、勉強しながらブログを続けたいと思っています。

 ジャガイモを介してテントウムシに出会い、ネットで検索したところ、その人気の凄さに驚きました。多くの方が様々なテントウムシの奇麗な写真を公開し解説していますので、私も今日は近くの笊川を散歩しながら、テントウムシを探しました。笊川の両岸は散歩道になっているので6㎞ほど歩いてテントウムシを探しましたが、見つかったのはナナホシテントウ1匹でした。アブラムシが密集した花穂の葉にポツンととまっていました。餌となるアブラムシはノダイオウの他に、イタドリ、ギシギシ、セイタカアワダチソウなどの若芽に密集っしており、かなりの確率で見つかりました。アブラムシを見つける度にテントウムシを探しましたが、見つかりません。いつもは、速足で歩くと1時間程度で終わる散歩が1時間半を超えてしまいました。

 テントウムシの季節はこれからなのでしょうか。でも30を超えると夏季休眠もするとのことなので、町の中を流れる川のほとりではテントウムシを発見するのは大変なのかなと思っています。土曜日の散歩はこれからも続けるので、テントウムシ探しも続けます。

でも、残念ながら私のデジカメは近距離のピントを合わせるのが難しいので、やや不鮮明ですが今日撮ったナナホシテントウとアブラムシの写真をアップします。

 

2017年6月16日金曜日

飛ばないテントウムシと飛べないテントウムシ

「飛ばないテントウムシ」がアブラムシやカイガラムシの生物農薬として日本で開発されていまし 1)。テントウムシ集団の中には飛ぶことの出来ない個体がわずかに存在し、その性質を持つ個体を30代から35代選抜し続け、飛翔不能な系統を選抜・育成できたということです。私は知りませんでしたが、このニュ-スは2012年の天世人後でも取り上げられているようです。

飛翔不能にした種類はハーレクインテントウすなわちナミテントウで、20139月に施設野菜類用の天敵製剤として登録されています。翌年6月から販売が始まり、効果的な利用法をまとめた技術マニュアルも公開されています。この飛ばないテントウムシは幼虫として販売されていますが、飛べないので成虫になった後も定着し、次世代以降も防除効果が期待できるとのことです。飛ばないテントウムシの開発は、世界初のことだと思います。世界的各地で農薬減に貢献するのではないかと期待しています。
 
一方「飛べないテントウムシ」は、名古屋大学で開発2)され、その後岡崎基礎生物学基礎研究所に引き継がれています。テントウムシの生殖細胞にある羽の形成に関わる遺伝子の働きをRNA干渉法という技術で妨げ、羽のないテントウムシになる卵(成功率87%)の産卵に成功したということです。遺伝子を組換えた訳ではないので、世代を超えた環境影響には問題がないのですが、量産化にはまだコスト面での課題があるものと予想されます。この「飛べない」という視点からの発想で、テントウムシの羽に後で剝がすことのできる接着剤を塗る方法を考案した千葉県の高校生の活動には感心しました。おもしろいです。

「飛ばない」と「飛べない」というほぼ同じ意味をもつ言葉の使い分けが気に入りました。「飛ばない」は、籠の中に棒を立てておいても飛んでいかないテントウムシのことで、「飛べない」は羽が無かったり、接着剤で羽を開けないようにしたテントウムシ達で、それぞれ奇麗に言葉が使い分けされていました。
納得!

参考
 1)瀬古 智一:化学と生物、53(8)5422015
 2)新美 輝幸:Insect Mol. Biol., 15(4), 507 (2007)



2017年6月15日木曜日

生物農薬としてのテントウムシ

ハーレクインテントウ(ナミテントウ)は越冬が可能で繁殖力が強く、世界各国で優占種になりそうだということで恐れられていますが、テントウムシの天敵農薬としての導入は、ヨーロッパでは1875年頃から行われていたようで、かなり長い歴史があります。当時はオーストラリアからコナカイガラムシに対する天敵として導入し、グリーンハウスで利用したのですが、導入した種類は16℃から33℃で活動し、寒さに弱く越冬できなかったため、問題にならなかったようです。このような穏やかな性質のため、このテントウムシはまだ販売が継続されています。

農薬の使用量低減は世界的な課題で、病害虫の総合的管理技術(IPMIntegrated Pest Management)の確立が期待されています。これを支える技術として生物農薬(天敵など)が注目されている訳ですが、ハーレクインテントウ(Harlequin ladybird)の導入は、生態系の攪乱をもたらす恐れのある事例として監視されることになりました。例えば、2004年にハーレクインテントウが確認されたイギリスでは「Ladybird Survey」を、またニュージ―ランドでは「Ladybird watch」の取り組みを行っており、住民の協力を得ることによって、国内のテントウムシの種類別分布やその増減に関するデータ収集が行われています。

  ニュージーランドに生息するテントウムシの写真を示しましたが、警戒されているテントウムシは赤枠で囲ったハーレクインテントウです。面白いことにニュージーランドにはテントウムシダマシ類として日本と同じ28ホシテントウがいるようで、イギリスやアイルランドの24ホシテントウではありませんでした。

2017年6月14日水曜日

テントウムシによるワイン汚染とその回避

米国ではいま、テントウムシによるワインの汚染(ladybug taint)が問題になっています。頭にMあるいはWの黒文字が見えるハーレクインテントウ(Harlequin Ladybug or Ladybird)が増え、これがワイン畑に集まりワイン汚染を引き起こすようです。このテントウムシはアジア在来種で、日本ではナミテントウと呼ばれており、以前は欧米には分布していなかったようです。ヨーロッパ在来種はナナホシテントウで、これも今は米国に渡っています。

米国は1916年にアブラムシの天敵としてナミテントウを日本と韓国から導入し、グリーンハウスのアブラムシ対策に使用したとされています。ヨーロッパでも1975年頃からこのテントウムシをグリーンハウスで使用し始めたようです。その後、米国では1960年から1990年にかけて、農務省がピーカンナッツやリンゴの生物農薬としてナミテントウの有用性を検討していたため、多くの地域での利用が行われようになったようです。これに伴い、現在ではナミテントウが米国全土で繁殖し、1990年頃からは民家室内への不快な侵入者として嫌われる存在になりました。ナミテントウの蔓延は農業利用が原因ではなく、日本からの貨物船に潜り込んだものが繁殖したという説を唱えている者もいるようですが、いずれにしても、最近はブドウ園への飛来によるワイン汚染が恐れられるようになっています。

不思議なことに、アジア在来種のナミテントウと欧州在来種のナナホシテントウの体液には4種の香り物質(メトキシピラジン類)が存在し、そのうちの3種はブドウの有用な香り物質でもあることが分かっています。それなら問題ないでしょうということになりますが、これらのテントウムシはブドウの収穫期に房に集まり、それが混入すると香りが強くなり過ぎて、異臭として感じるとのことです。このワインのテントウムシ汚染は、2001年に北部アメリカのワインメーカーから初めて報告され、ワイン畑にテントウムシが多くみられるようになった時期と重なっています。実際にテントウムシを添加して白ワインを製造すると、ピーナッツやアスパラガス、ピーマン様の香が感じられ、フルーツや花様の香りが薄くなるとのことです。

このLadybugs taintへの対策として、2015に異臭を除去できるプラスチックポリマーが見出されていますので、大きな被害が生じないことを願っています。

参考)

1)Pickering GJ, et al.: Am.J.Enol Vitic., 55(2), 153 (2004)

2)Pickering GJ, et al.: Int. J. Food Sci. Technol.41(1), 77 (2006)

 

2017年6月13日火曜日

テントウムシダマシは草食性テントウムシ

 ジャガイモ畑でテントウムシダマシを見つけました、オオニジュウヤホシテントウです。風が強かったのでジャガイモの茎に捕まっていました。ほかに昆虫は見当たりません。テントウムシダマシは、ナス科のナスやジャガイモ、トマト、ピーマン、シシトウの他にナス科以外のキュウリやハクサイ、エダマメ、ホウズキなども加害するようです。テントウムシは、成虫のまま越冬できるので、他の昆虫に先駆けて春早くから活動する特徴をもっています。施設園芸と異なり、この時期の岩手北部の路地畑で生育している野菜はジャガイモが主体で、それに合わせテントウムシダマシが大活動する訳です。

オオニジュウヤホシテントウは大きさが7mm、体重は5060mg程度で、10月上旬ころ落葉の下や草の根本、樹皮の割れ目に移動し越冬に備えます。オオニジュウヤホシテントウは、熊と同様に越冬前にエネルギー源を溜め込むようで、体重1gあたり35mg程度のグリコーゲンを蓄えると報告されています。もっともその約8割がイノシトールに変換され、それにより耐寒性が向上(-10℃)するとのことで1)。テントウムシにとっては、イノシトールが不凍液としての役割を担っているようです。イノシトールは人間にとってもビタミン様物質として重要であり、米国では乳児用ミルクにも添加されているとのことです。もちろんその役割は不凍液のようなものではなく、情報伝達経路などに関わるとても重要なものです。


一方、テントウムシダマシがジャガイモやトマト、ナスなどを選択的に食べる原因となる物質として、葉に含有される糖やアミノ酸などともに脂肪酸メチルエステルの存在が取り上げられています。ジャガイモの葉からは、その摂食の鍵物質としてリノレン酸メチルが見出されています。このリノレン酸メチルと果糖(フルクトース)が、オオニジュウヤホシテントウのジャガイモ葉への選択性に関与しているようです。

これらテントウムシダマシが嫌がる物質はまだわかっていないようです。ジャガイモの葉にはソラニンが存在しますが、もしかしたら食べ残した網状の筋にこのソラニンが多く、テントウムシダマシはソラニンの少ない柔らかな部分だけを食べているのかも知れません。ウリ類の葉を食べるニジュウヤホシテントウは、ウリの葉に丸い切り込みを入れて、苦味物質のククルビタシンが加害刺激で増加しないような手立てをしてから、切込みの内側の葉を食べるそうです。いつか、その現場を見てみたいです。テントウムシダマシは、ククルビタシンが苦手な物質のようです。でも、ほとんどのウリ科野菜が餌になるので、忌避物質としての利用は無理のようです。もし揮発性の忌避物質が明らかになれば、それを含有するコンパニオンプラントを植えることも可能になるのですが、残念です。


海外では、テントウムシダマシに対してどのような対策をとっているのだろうか。もっとも気になるアイルランドの情報を探したところ、日本にいるテントウムシダマシと同じ系統は28ホシテントウではなく、24ホシテントウで、ホシが4つ少ないものでした。興味深いです。海外のテントウムシ情報を調べてみたいと思っています。
参考
1)Watanabe M.: Eur. J. Entomol., 99, 5-92002